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1 ー壱ー

青い空。清らかな小川。涼しくも爽やかなそよ風。風雨にさらされても丈夫な石工作りーよく見れば細やかな模様の彫ってあるーのテーブルの上には香ばしい匂いをさせているできたての手作りのケーキとティーセットが並べてある。

そんなテーブルの前に座っている人物がいた。


その者の名はグィルスカイ・ヴィドガー


「・・ふわああぁぁ〜、ねっむ・・。」


誰も見てないのをいいことに、盛大に大口を開けてあくびをかましている人物である。

赤銅色の腰まである長い髪を前髪以外一つにまとめ背中に流し、顔には少々レンズの厚い赤いフレームの眼鏡をかけている。瞳の色は夜空を切り取ったかのような深い藍色をしているが残念ながら今は眠そうに半分しか覗かせていない。

それでも眼鏡の下の顔をよく見るとグィルスカイは端正な顔立ちをしているのがうかがえた。例え、眠そうにしていても。



グィルスカイは魔具師であった。魔力を使い作られた魔道具を作りだす職人である。・・はずなのだが何故か真っ昼間、普通の労働者ならば汗水たらして働いている時間帯にどう見てもー・・いや、どう見ようがお茶をしようとしてる様にしか見えない。



「おっそいなぁ、ガウってば。まーた道に迷ってんのかな・・。この場所を見つけたのガウなのに・・・。」

まぁ、道に迷って見つけたんだからある意味しょーがないか・・?いや、なんか違う気がする・・。


う〜ん、と頭がまだ起きていないのか空を見つめながらどうでもいい事を真面目に考えだした。


グィルスカイは小さいが魔道具を売るために店を持っている。一人で営んでいるため店番から商品である魔道具の製作、その材料の仕入れ等々といった仕事は山とある。お茶をする余裕などはない・・・はずなのだが余裕が有り余ってるようにしか見えない。


ふ、とグィルスカイの視線がお茶請けとして用意したケーキに移った。


「・・せっかく焼いてきた渾身の力作が冷めてしまう・・。」


ぎゅるるるるうぅ・・


一人でいるためか随分大きく聞こえた。音源はもちろんグィルスカイの腹部からだ。

「・・・・・・・・。いただきます・・。」


腹が空いては戦もできぬというしな。うん。しないけど。


お茶の相手を待つという選択肢はたった今消えたらしい。用意してあったケーキはフィナンシェだ。ほどよく焼けたバターのしっとり感がほどよくでて、アーモンドパウダーの香ばしさが鼻腔をくすぐる。本当はブランデーをもっと入れたかったのだが7歳のお子様が食べることを考慮して甘さを重視しあまり入れなかった。


(・・まあまあってことかな。)

こうして用意してあった二人分のフィナンシェは黙々とパクパクと食べられていった。


ずずっ・・、ふぅ・・・。


紅茶もお茶請けであったケーキ同様無くなっていった。


(・・・。ガウ・・・遅いのが悪いのだからな。)

心の中で自分に非がない、と言い訳してみた。・・・そもそもこのお茶会は言ってみれば自分が主催者だ。悪くない。うん。


お茶に誘っておいてお茶もお菓子もないのは嫌がらせもいいとこだろう。しかしグィルスカイは気にしなかった。というか気にしたら負けだろう、と正論から目をそらすだけだった。



(それにしても遅いな・・?今日はここでお茶をすると張り切っていたのに・・。)


グィルスカイがいるのは森の中だった。近くに住むものすら滅多に近づかない名すらない森のど真ん中といっていいような場所でお茶をすすっている。

その森は昔から何かがいる、と言われていた。森に入っていった者が戻ってこない訳ではない。戻っては来るのだがいつも頭部に怪我を負い、森の入り口付近で倒れているのだ。しかも森にいた間の記憶が曖昧になって。人々はその森を気味悪がった。何者かが己たち、人間を拒んでいるのは明らかだったからだ。

幸いにもその地は自然豊かで他の森で人々は森の恵みを受け取った。そのため名の無いこの森は長い事、人の足を受け入れていなかった。・・・表向きは。



グィルスカイがこの森にいるのは何も今日が初めてでは無い。魔道具のなかには薬のたぐいもあり、材料となる薬草・毒草・魔草を摘み取りに行かなくてはならない。グィルスカイの住む地は田舎のため材料の注文配達には時間と金がかかる。なのでグィルスカイは近くで入手できる材料はできるだけ自分で用意していた。この森にもその一環で来ていたのだった。森にいる”何か”を知っていたグィルスカイはあっさりと”何か”の許しを得て他の人々に見つからない事を約束し今では自由に森に行き来している。ガウもよくグィルの手伝いといい森に入る許しを得ていた。そのため一人でよく森に遊びに来ているらしくこの場所もその時見つけたのだと興奮気味に語っていたのを思い出す。


だからグィルはある程度森の地理を知っている。まぁ、この場所に来たのは初めてではあるが。ガウに教えられた地図でここに来て、お茶の準備を済ませておいた。地図が間違ってたとしてもガウの言っていた場所には目印とするものを多数教えてもらっている。此処であっていると確信できる。なのに本人が来ないというのはどうなんだ?・・もしかして来ないのではなく来れないのではー・・


(・・・・遅すぎ。もしかしてー)

探すべき?などと考えて椅子を立った矢先ー・・



「うわああああぁぁぁぁああぁあぁああん!!!!」

大音量の悲鳴が聞こえてきた。



「グィル〜〜〜〜〜!!!助けてよーーーー〜〜〜〜!!!!」



お茶の相手であるガウの悲痛な叫び声が森に響き渡った。



主人公、お昼ご飯食べ忘れて夢中でケーキ焼いてました。腹ぺこだったのです。

「だからべつに大食いという訳ではない。」


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