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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

作者の自己満足

ミステリー×パイ

作者: 八重花
掲載日:2026/10/10

 その日俺は、ホームベーカリーでついた餅を丸めて、大福をつくっていた。苺大福に出来ればなお良いんだけど、苺って高いんだよな。

 出来立ての餅は熱いしべたつくので、手に水をつけてなんとか形をつくっていく。ここで水が多いとべちゃべちゃになるので、程よく粉を併用しなければならない。

 まあ、俺にそんな技術はないので、大抵は

見た目が悲惨なことになるけど。味は美味い。はず。

 そこに、姉がやってきた。

 姉は皿に盛られた大福を指して、

「これ、食って良い?」

「良いよ」

 さすがに一人で十個も食う気はない。日を置くと固くなるし。

 姉は大福をもっちゃもっちゃとつまみながら、

「ショピングモール行こうぜ」

 唐突だな。

 さてはガチャコーナーとホビーショップでピンクの悪魔のグッズを手にいれる気だな。

「えー、どーしよっかな。

 今、大福作ってるし···」

「チョコレートフェアやってるって」

「行く」






 二時間後、ショピングモールにて、俺たちは手にお互いの戦利品を抱えていた。

 といっても、かなり厳選したから俺は二袋だけなんだけど。

「まだどこか寄る?」

 姉が聞いてくるので、

「本屋」

 俺は即答する。






 本屋の入り口で一度姉と別れてそれぞれ物色を始める。

 来てはみたものの、特に欲しい本があるわけではない。

 でも、もしかしたら、未だ見逃している運命の一冊に巡り合えるかもしれないという期待はあった。

 なので、あえてジャンルを決めず、端から順に、本棚を見ていく。さすがに一冊一冊丁寧に見る時間はないから、ざっとだけど。

 歩いていくと、文庫本の棚で足が止まった。

 その中の一冊の、シンプルなタイトルが逆に目についたのだ。

 気になって、手にとってみる。

 タイトルからホラーかとも思ったが、帯によるとミステリーらしい。

 とりあえずぱらぱらと、最後から読んでみる。

 オチから読むな!と怒られそうだが、最後あたりを読んだ方が、なんとなく自分の好きそうな本かがわかるような気がするのだ。

 そして、数ページの立ち読みの結果─連れて帰ることにした。勿論、ちゃんとお代は払って。






 帰宅後、改めて最初からちゃんと読んでみる。

 主人公はシリアルキラー。

 ···いきなり設定が尖ってんな。

 とにかく読み進める。

 食事シーンとか、普段の真面目な仕事ぶりとか、主人公の丁寧な暮らしの描写には好感がもてる。その正体が女子高生をストーカー&絞殺するヤバい奴だとしても。

 主人公は物語開始時点ですでに女子高生を二人殺害してるらしい。

 そして今は三人目の犠牲者として狙っている女の子を尾行する日々を送っている。

 しかし、その女の子があるとき主人公ではない何者かに殺害されてしまう。しかも、主人公の前の殺人と全く同じ手口で。

 所謂模倣犯の出現に、主人公は否応なしにこの事件に巻き込まれていくのだが─。

 これ以上はネタバレなので、ここから感想ダイジェストで。


 事件が起きたから、ここからは警察側の視点もあるんだな。


 ここは両方の視点から同じ場面を見るのか。


 うーん、真相に近づいてるような、まだのような。


 主人公が死にそうで死なないな。


 急展開来た!


 なるほど、最後から数ページ立ち読みしたから逆にわからんかったけど、そういう仕掛けだったんだな。


 犯人お前かよ!


 え、ここで終わり?


 というわけで、なんやかんや読破。

 読後の感想は、


 ミートパイ食いたい。


 いやいやいや、ふざけてるわけじゃなくて。

 この主人公、やけに食べ物に関してはこだわりがあって、作中何度も食事シーンが出てくるのだが、その中でも作中に三度出てくる喫茶店のミートパイがやけにうまそうなのだ。特にトマトソースが絶品だとか。(ガーリックトーストも美味いらしい。但し、ボルシチは普通。)

 俺、今までミートパイ食べたことあったっけ?ないよな?そもそもあんまりパイ食べないし。

 なので、味の想像が出来てるかよくわからないが、とても食べてみたい。

 そう思った。






 それは所用により、地元よりも少しだけ都会に行ったときのこと(地元が都会という意味ではない)。

 俺はとある店の前で足を止めた。

 その店のお持ち帰りメニューには、こう書かれていた。


『出来立てミートパイとアップルパイ』


 ミートパイとアップルパイ。


 ミートパイ。


 即購入。お持ち帰り。

 家に帰って一口かじると、中身はトマトソースじゃないけど、うまかった。

 良い店見つけた。また行こう。






 そしてまた後日。

 その日も俺は用があって例のミートパイの店のそばを通りかかった。

 ミートパイを求め、その店の前までやってくると、貼り紙があった。


『閉店しました』


 ワア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッーーー!!





 とまあ、しばらく落ち込んだが、嘆いていても店は復活しないし、代わりに出来たエスニックの店にはなんの罪もない。

 でもミートパイは食べたい。

 というわけで、自力で作ることにした。

 でも、作り方がわからない。

 あの本の主人公がもう少し喫茶店に居座ってれば、店主が作り方まで教えてくれたかもしれないのに。

 なのでここはパンのときと同様、ネットの知恵を借りよう。

 検索してみると、材料はなんとかなりそう。

 パイ部分は、市販のパイシートを使っても良いんだけど、ここまできたら手作りしよう。






 まずは生地作り。

 材料は、


 ○強力粉


 ○薄力粉


 ○有塩バター


 ○冷水


 今回は粉が二種類なんだ。

 分量や詳しい作り方が知りたい人は各自で調べてほしい。

 細かい工程は除くが、とにかくこの材料を、バターが小豆くらいの大きさになるまでひたすら混ぜる。練りすぎず、バターの粒は残しておくのがポイントだとか。

 その生地を冷蔵庫で一時間以上冷やす。

 冷やした生地を、打ち粉をした台に載せて麺棒で伸ばし、三つ折りにする。

 で、また伸ばす。折る。伸ばす。折る。これを計六回ほど繰り返す。めんどくさい。けど、この工程がないと層が出来ない。つまり、パイにならない。

 とりあえず生地は出来た。

 パンと違ってパイ生地は一日寝かせる必要はないようだが、今日は詰め物作りや焼く時間がないので、後日回しにすることにした。






 んで、後日。

 早速詰め物を作る。

 秘伝のトマトソースレシピはわからないので、秘伝でもトマトでもないソースで作る。

 ざっくり言うと、合挽き肉、みじん切りにした人参とたまねぎをケチャップやウスターソースで炒めたやつ。

 パイ生地を持ってきて四つに分ける。

 さらにその一つを二つに分けてそれぞれ手で伸ばし、一枚に具を載せるともう一枚を上からかぶせる。

 フォークで周りをぐっぐっと押してパイ生地同士をくっつけたら、卵と水を混ぜた卵液を表面に塗りたくる。刷毛はないからスプーンで良いや!

 あとはオーブンに入れて焼く。






 完成!焼き色も綺麗で、見た目はなかなか良いんじゃないかと思う。

 早速実食。

 サクッ もぐもぐもぐもぐ

 ············。

 店より美味いなんて、そんなおこがましいことは言わないけれど。

 美味い。

 作りたてというのが大きいんだろうけど、焼き立てサクサク生地に熱々の中身。

 あっという間にひとつ食べ切ってしまう。

 皿にあるのはあと三つ。

 一度に作れるのは四つだけ···か。

 俺は悩む。

 家族分とっておくか。全て自分の腹に収めてしまうか。

「······」

 一度に作れるのは四つ。また食べたいと思ったら、またあの畳んで伸ばしての工程をやらなければいけない。

 しばらく悩んで、俺はパイにラップをかけて冷蔵庫にしまう。

 嗚呼、家族想い。






 次の日、パイは見事に消えていた。

「美味かった?」

 俺はその辺を歩いてきた父に尋ねる。

 父は一言。

「量が少ない」

 ················二日かけて作ったんだぞ。それ。







 次作るときは、絶対に独り占めしよう。

参考文献: 殊能将之 著「ハサミ男」

※読むときは、結構エグい表現多いので、注意。

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