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絶対に気づいてはいけないラブコメ~~ハッピーエンドで必ず死亡する鬱ギャルゲーに転生した俺は死にたくないからボッチを貫く~~  作者: 杜宮みやび


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最終章 絶対に……

 創太はみのりの手をしっかりと握りしめ立ち上がる。まだくらくらするが、だいぶ体の自由も戻ってきている。傷の痛みはあるが、動けないほどではない。


 二人は静かに病室を抜け出し、病院の廊下を駆け抜ける。


 夜勤の看護師に見つからないよう、足音を殺して移動する。廊下の向こうから足音が聞こえると、二人は身を寄せ合って影に隠れた。


 非常階段を下り、病院の外へ。夜の街を二人で走り続ける。


 冷たい夜風が頬を叩く。街灯の明かりが二人の影を長く伸ばした。創太の包帯から少し血がにじんでいるが、彼は気にしていない。


 息を切らせながら走り続ける中、創太はみのりの横顔を見つめた。月明かりに照らされた彼女の顔は、決意に満ちて美しかった。もはや、か弱いモブキャラクターの面影はない。


「どこへ行くんだ?」


「学校よ」


 みのりが振り返る。その瞳には、強い意志の光が宿っている。


「あそこでなら、きっと本当のエンディングを迎えられる」


 二人は住宅街を抜け、学校へ向かった。深夜の街は静まり返り、時々通り過ぎる車のヘッドライトだけが闇を照らしている。コンビニや自動販売機の明かりが、二人の逃走を見守っているようだった。


 やがて、見慣れた学校の門が見えてきた。


 フェンスを乗り越え、校舎の間を抜けて中庭へ。


 気がつけば、二人は学校の中庭にいた。


 目の前にそびえるのは──


「伝説の木……」


 手をつないだまま、二人はその木を見上げる。


 樹齢百年を超えるという古い桜の木。春には美しい花を咲かせるが、今は葉桜となっている。月明かりに照らされた枝葉が、青白く幻想的に光っていた。風が吹くたび、葉がさやさやと音を立てる。


 この木の下でキスをした恋人たちは、永遠に結ばれるという伝説がある。ゲームの中では、真のエンディングを迎える神聖な場所とされていた。


「綺麗……」


 みのりがつぶやく。その声には、安堵と感動が混じっていた。


 その美しさに見惚れていたそのとき。


「モブの女子高生でしかないお前が、こんなところで何をする気なんだ」


 低い声とともに校舎の影から現れたのは、ヨシオだった。


 いつものニヤニヤした表情は消え、明らかに怒りを露わにしている。その顔は青ざめ、汗が浮かんでいた。まるで悪夢から抜け出してきたような、禍々しい雰囲気を纏っている。


「まったく、詩織と言い、お前と言い……どこまで俺のシナリオを壊せば気が済むんだ」


 怒りを隠すこともなく、ヨシオは二人を睨みつけた。


「せっかく完璧なシナリオを用意したのに、なんでお前らはそれに従わない?」


 ヨシオの声は普段の軽薄さを失い、怒りに満ちていた。


「俺が何年もかけて作り上げたゲームを、めちゃくちゃにしやがって」


「君が作ったって?」


 創太が驚く。


「そうさ。このゲーム『トキメキめめんともり♡』は俺の作品だ。可愛い女にすぐにデレデレする馬鹿な男どもを、まとめて処分するためのな」


 そう言ったヨシオの姿が変わっていく。


 赤い髪が伸びて肩まで達し、体つきもしなやかな曲線を描く女性の体に変わる。顔立ちもそばかすの目立つ女性のものになっていく。


 そこには見覚えのある姿があった。このトキメキめめんともり♡の主任プログラマー・熊代紫苑が立っていた。


「男は皆クズだ。美少女ゲームに夢中になって現実の女を見ようとしない。だから私が願いをかなえてやったのさ。そんなに美少女が好きなら、自分がその理想の姿になればいい。永遠にその可愛い姿でいられる場所を用意してやったのさ」


 紫苑の声は美しいが、その内容は恐ろしかった。


「そんな……」


「これまで99人目。お前が記念すべき100人目になるはずだったのに」


 紫苑の目が狂気に光る。月明かりがその瞳を不気味に照らしていた。


「創太、その女とお前がハッピーエンドを迎えることはできないぞ。お前は知っているのか? そいつの正体は──お前の友人、五十嵐隼人だ。元・男だ。そんな相手と心を通わせることが、本当にできるのか?」


 創太は驚愕の表情で、みのりの顔を見る。


 みのりは黙って目を伏せた。長い黒髪が月明かりに揺れている。


「ホントは……もっと早く言いたかった。協力してこのゲームを抜け出したかった……」


 そう言って、俯いたまま震えていた。


 そうだ、あの時、みのりの部屋に行った時も、彼女の様子はおかしかった。システムに制限を受けながらも、なんとか僕に自分の正体を伝えようとしてくれていたんだ。


「でもいつからか、だんだん私の心がおかしくなってしまった。私は創太、ううん、翔の親友だったはずなのに、いつからかみのりとして見てもらいたくなっていたの」


 みのりの告白は続く。


「私が元男の隼人であることを伝えることが怖くなってしまっていたの。真実を知ったら、あなたが私を嫌いになってしまうかもしれないって」


 みのりの声は涙に震えている。


「私は、本当は男だった。あなたの親友の隼人だった。それを知っても、私を愛してくれる?」


 そのとき、病院を抜け出したヒロインたちも、次々に伝説の木の下に現れた。


「見つけたわ!」


 詩織が校舎の陰から現れる。髪は乱れ、ワンピースもところどころ破けてひどい状態になっていた。その目には狂気の光が宿っている。


「離れなさいよ、みのり!」


 小鞠も血相を変えて駆けつける。金属バットを引きずりながら歩く姿は、まるで復讐の鬼のようだった。


「創太は私のものよ!」


 みのりに殴り倒された舞美も頭に包帯を巻いて現れた。包丁を手にしており、その刃が月明かりに不気味に光っている。


「よくも私から創太を奪ってくれたわね!」


 詩織、小鞠、舞美──三人のヒロインがみのりと創太に対峙する。


 絶体絶命の状況。三人の殺意が、夜の空気を重くしていた。


 しかし、ここは伝説の木の下。ゲームの中で唯一、真の愛が試される場所だった。


「どいて!その女は私が始末する!」


 詩織がみのりに飛びかかろうとする。


「待って」


 創太が立ち上がった。傷の痛みを堪えながら、みのりの前に立ちはだかる。


「君たちの相手は僕だ」


「創太……」


 みのりが小さく呟く。


「僕は、この人を、みのりを愛している」


 創太の言葉に、三人のヒロインたちが凍りつく。紫苑も苦々しくにらむ。


「あり得ない!」


 詩織が叫ぶ。


「そいつは男よ!」


 小鞠も続く。


「そんなの間違ってる!」


 舞美も抗議する。


 しかし、創太の決意は揺るがない。


 みのりは震える唇を噛みしめ、意を決して創太の手を握り直す。


「……私の本当の気持ちを伝えます。創太──ううん、翔」


 初めて、彼の本当の名前を呼んだ。その声は震えているが、確固たる決意に満ちている。


「男でも女でも、体がどんな姿でも、私はあなたが好き。私もあなたを愛しています」


 みのりの瞳に涙が浮かんでいる。月明かりがその涙を銀色に光らせていた。


「最初は、ただの友達だった。でも、この世界で過ごすうちに、気づいたの。私の気持ちは、ただの友情じゃなかった」


 みのりの告白は続く。


「あなたが私を助けてくれるたび、優しくしてくれるたび、私の心は温かくなった。性別なんて関係ない。私は、翔として、あなたを愛してる」


 創太は静かに答えた。


「ぼくも大好きだ。君がどんな姿でも、君は君だ。大切な友達で、そして……愛する人だ」


 創太の言葉に、みのりの顔がパッと明るくなる。


「本当に?」


「本当だよ。男だった頃も、今の君も、どちらもぼくの大切な人だ」


 二人の気持ちがひとつになった瞬間、伝説の木が淡く光りはじめた。


 幹から枝へ、葉の一枚一枚まで、神秘的な光が広がっていく。まるで無数の蛍が木全体を包んでいるような、幻想的な光景だった。


 光は次第に強くなり、中庭全体を包み込んでいく。


「勝手にシナリオを書き換えるなあああああ!!」


 紫苑が叫ぶが、もう遅い。


 伝説の木は二人の愛を受け入れ、佐伯みのりを真のヒロインとして認めた。


 三人のヒロインたちも、その光に押し返されて後ずさりしていく。


「そんな……」


 詩織が呆然とする。


「あり得ない……」


 小鞠も信じられない表情を見せる。


「嘘でしょ……」


 舞美も立ち尽くす。


 しかし、伝説の木の光は嘘をつかない。


 創太とみのりは抱きしめ合い、唇を重ねた。


 真の愛のキス。


 その瞬間、木の光はさらに強くなり、中庭全体を包み込んだ。温かい光が二人を包み、全てが祝福されているかのようだった。


 世界がまばゆい光に包まれていく。紫苑も、三人のヒロインたちも、全てが白い光の中に消えていった。


 そして──


──*──*──*──


 現実世界。


 翔はゆっくりと目を開けた。


 そこは、白い天井の病院のベッドの上だった。蛍光灯の光が目に眩しい。消毒薬の匂いが鼻につく。


 隣には泣きながら微笑む母の姿がある。父もいて、安堵の表情を浮かべている。


「翔……良かった、本当に……!」


 母は息子の手を握りしめて涙を流している。その手は温かく、現実のものだった。


「母さん……」


 翔の声はかすれていた。長い間話していなかったせいだろう。


「どのくらい……」


「半年よ。半年も眠っていたの」


 父が説明する。


「ゲームを始めた直後に意識を失って倒れたんだ。幸い配信中だったから、視聴者の方々が通報してくれて、救急隊がすぐに駆けつけてくれた」


 そうだった。あの日、隼人と一緒に『トキメキめめんともり♡』を始めたのだ。


「……帰ってこられたんだ。呪いのゲームの中から、トゥルーエンドを作って」


 そう呟いた翔は、ふと隼人のことを思い出した。


「ねぇ、僕と一緒にゲームしてた友達はどうしてる?ほら、小学校から一緒だった隼人だよ。一緒の部屋にいただろ?」


 その問いに、母は困惑した表情を見せる。


「誰のことを言ってるの? あなたと一緒にゲームをしていたのは、みのりちゃんでしょう? 彼女はまだ眠ったままよ」


 母は残念そうな表情でそう言った。一体どういうことだ?


 母親が動けない僕に代わってカーテンを引く。すると、そこにはゲームと全く同じ、美しい長い黒髪の少女──佐伯みのりが静かに眠っていた。


 整った顔立ち、長いまつげ、柔らかそうな髪。間違いなく女の子だった。人工呼吸器が規則正しく動いており、彼女の命を支えている。


「……うそだろ……」


 翔は自分につながっていた検査機器のコードを引きはがし、無理やりにきしむ体を起こして隣のベッドに近づいた。そこに眠る少女は、確かにゲームの中で愛した佐伯みのりだった。


 しかし、翔の記憶では、彼女は五十嵐隼人という男の親友だったはずだ。


「大丈夫よ、あなたも目覚めることができたんですもの、みのりちゃんもすぐに意識を取り戻すわ……」


 母が慰めるように言う。

 なぜ、現実世界でも隼人の姿がみのりになってしまっているんだ? 隼人の存在がみのりに置き換わってしまっている。

 まるで隼人という存在が最初からなかったかのように──。


「ねぇ、倒れたときに僕がやってたあのゲーム……今どこ?」


 翔は震え声で尋ねた。

 母はベッド脇の紙袋を探り、ゲームを取り出した。


『トキメキめめんともり♡』


 しかし、それは翔が知っているものとは違っていた。


 そこには、ヒロインが四人に増えた新たなジャケットイラストが描かれていた。


 詩織、小鞠、舞美、そして──佐伯みのり。


 四人目のヒロインとして、みのりが追加されているのだ。まるで最初からそういうゲームだったかのように。


 翔は震える手でパッケージを見つめた。


 ゲームの世界で起こったことは現実にも影響を与えていた。隼人は佐伯みのりとして、この世界に存在していた。


 しかし、なぜ彼女だけが目覚めないのか?




 ゲームはまだ終わっていないのか?


 みのりは、まだあの世界にいるのかもしれない。


 翔は決意した。


 必要なら、もう一度あの世界に戻る。


 みのりを迎えに行くために──絶対に、だ。


──おわり──









あとがき


最終話までお読みいただき、ありがとうございました。


『絶対に気づいてはいないラブコメ』は、今回で一応終了となります。

続編の構想もあることはあるのですが、続きを書くかどうかは皆様の応援次第。


 もしも、もっと読みたいと思っていただけたなら『☆☆☆』で応援いただき、ぜひ感想もいただけたらと思います。


人生初のラブコメ作品で、本当にこれラブコメか?という内容になってしまいましたが、楽しんでいただけたならこれ以上の喜びはありません。


 私の作品に少しでも興味を持ってもらえたならば、過去の作品も呼んでみてください。


 



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