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【長編版】欲しがり王女の侍女はつらい  作者: 碧井 汐桜香


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8.お礼の提案

「ザシュリア。あなたの商会をわたくしが欲しがった補填について、相談したいのですけれど」


 王女殿下がお呼びだと言われ、今回は侍女ではなく貴族令嬢としてと言われたので、侍女服から着替え、私室に案内される。


「い、いえ。王女殿下が商会を欲しがってくださったおかげで、商会も従業員たちも、わたくしも父も健康を取り戻しました」


 前に侍女長に呼ばれた日、王女殿下と自分を比べてしまわぬように優しく忠告された。侍女長も比べて落ち込んだことがある、と。それも王女殿下が御年四歳の頃。叱られると思ったあの日は、侍女長が特別に淹れてくれた紅茶を飲みながら、そんな話をされた。あの侍女長が幼児の王女殿下とご自身を比べて落ち込んだ。そう思うと、紅茶の温かさと一緒にわたくしの心が包み込まれたような気がした。


「ダメよ。ザシュリア。あの商会は、ジャリジュールと唯一の取引ができる貴重な商会だわ。きちんと正当な価値を払いましょう。と言うことで、わたくしの案を聞いてくれるかしら? これは非公式の場の提案だから、もちろん断っていただいても結構よ。ウェルティン子爵はザシュリアが了承するのならきっとご了承なさると思って、まずはザシュリアにご提案をするわ」


 そんな言葉から始まった王女殿下の提案は、以下のものだった。


・一部王女領————侍女長から聞くところによると、王女殿下の欲しがりを断った前宰相が治めていた領地の一部————をウェルティン子爵領とする

・王女の個人資産から五百万アイシャンデルク貨幣を渡す

・現子爵を領地の管理者に指定し、領地の管理を命ずる

・子爵を伯爵に叙爵する

・現子爵が管理者になるため、ザシュリアを新伯爵にする


「そ、そんな。過剰です!」


 商会の引き継ぎに関わっているため、知っているのだ。あの気難しいジャリジュール家が、我が家の取引の時よりも活発に連絡をしてくるし、王女殿下ご指名のお手紙もかなり多い。どうやってあのジャリジュールの心を掴んだのかわからないが————きっと侍女長が関わっていると思うが————王女の管理下となってからの方が、商会ははるかに発展している。それなのに、個人個人の業務は楽になっているはずだ。功績はわたくしよりも王女殿下や侍女長の方が遥かに大きい。


「そんなに遠慮するのなら、はっきり言うわ。ウェルティン子爵の夢は、農業をして暮らすことでしょう? 王女領(あそこ)は肥沃な領地なの。管理者としての仕事はかなり少なく、実際は領民と共に農業をしている程度でいいのよ。そして、わたくしの侍女として、子爵令嬢という地位ではかなり不安定だったでしょう? だからと言って伯爵令嬢になると、ウェルティン子爵が困ってしまうと思ったから、ザシュリア本人に爵位を与えたかったのよ。……ふふふ、女性が当主になるなんて歴史的快挙よ。まだ数例しかないもの。領地経営しながらでも週に三日のお休みと鐘が鳴ると同時の業務終了の勤務で大丈夫なくらい、王宮には余力を残させているの。だって、非常時に誰も動けないと困るでしょう? だから、領地経営と侍女のお仕事くらい、ザシュリアなら余裕だわ。あとね、あなたがどなたかと結婚したいと思ったとき、爵位はないよりもあった方がいいわ」


 笑う王女殿下は、我が家の実情にかなり詳しいご様子だ。それならば、受け入れてしまおうかと思いながら、わたくしは答える。


「格別のご配慮賜り、ありがとうございます。しかし、わたくし、王女殿下付きの侍女として骨を埋める予定ですよ?」


「ふふふふ」


 曖昧に笑った王女殿下は、いつの間にか準備していた書類を取り出し、先に述べた条件とその手続きのための書類をわたくしに渡した。まるで王女殿下が王宮の労働管理をしているような言葉(じょうだん)にくすりと笑いながら、わたくしは書類に目を落とす。


「今の説明通りのことが書いてあるわ。ウェルティン子爵にお渡しお願いできるかしら? その書類が準備できたら、次の定例の夜会で叙勲等、行う予定よ。お父様ももちろん了承済みよ。そうそう、ザシュリアはまだ未成年なのですから、伯爵と言っても実際の領地経営を主に行う補助をきちんと選定なさってね? わたくしが数人リストアップしてあるわ。ザシュリアのご実家ウェルティン子爵家との関係も良好で本人の能力的にも問題なく、領地経営が増えても業務に耐えうる人材を選んでおいたわ。もちろん、ザシュリアがすでに決めた方がいらすのなら、その方がいいと思うけど、参考にお使いになって?」


「ありがとうございます」


 自分で全てしようと思っていたわたくしは、目を丸くしながら書類に目を落とす。エリシアン様の名前を見つけて驚いて顔を上げると、王女殿下はにっこりと微笑んだ。


「エリシアンはその領地が王女領だった時に管理してくれていたのよ? すでに慣れているし、今まで通りの仕事をするだけだから、ザシュリアが心配することはないわ。……管理者があまりコロコロと変わらない方が好ましいと思って。それに、ウェルティン子爵家は領地なしの家だったでしょう? 補助は領地経営の経験がある方がいいと思うわ」


 王女殿下の言葉に、エリシアン様の業務が無茶振りじゃないことに胸を撫で下ろし、書類に目を落とし直す。どの方も優秀と噂されるような方々だ。さすが……侍女長とエリシアン様。各家のことをよくお調べだ。素晴らしい布陣に感嘆の息を落としながら、わたくしは帰宅するのだった。





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