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【長編版】欲しがり王女の侍女はつらい  作者: 碧井 汐桜香


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46.本物の刺客はあなただよね

「……すごくとんとん拍子に進みましたね」


「……花が光るのは想定外でした」


 花が光ったのは全員にとって想定外だったが、花が光ったおかげで信者たちは興奮したまま王女殿下をアイデンシャルティーネ様の代替者などと騒ぎ立ててくれた。納得してもらえたなら問題ない。最後まで争おうとしていた神殿の管理主は、神官の総意で管理者の立場を追われることになった。トップが一瞬で堕ちていく様は他人事ながら、劇でも見ているようで、楽しめてしまった。


「……ひとまず王宮に戻りましょうか」


 神殿を出たところで、そう言ったデスラントの言葉に小さく頷いた。その瞬間、頭上から何かが落ちてきて、わたくしとデスラントの肩を叩いた。


「お疲れ様。思ったよりも呆気なかったね。数人くらい殺さないといけないかと思っていたよ」


「殺!?」


 にこにこと笑いながら、気軽に人を殺す発言をするジュガルドは、やはり影らしい。侍女程度ではそういう物騒なものと関わりがなかったし、商会で依頼をすることはあっても、実際に関わることは部下に任せていたから、その手のことは素人のわたくしにとっては少し怖い。


「ははは、冗談ですよ。ザシュリアさん」


 ……絶対に冗談じゃない。そう思いながら、馬車に乗ろうとする。すっとエスコートの手を出してくれるジュガルドをみて、人当たりが良くていつも笑顔で物腰も柔らかで紳士だけど、殺人兵器なんだよな。と思ってしまう。もったいない。


 とりあえず、神殿側は王女殿下信者に成り代わっているから、一部権力者はここから追放されていくだろう。その経過できっと上層部の総入れ替えが終わった頃、王女殿下との会談になる。では、わたくしたちが今からやるべきことは? 王女殿下の丸め込みだ。説得できる気がしない。侍女長に任せておけば大丈夫なのだろうが……え、大丈夫なのかな?







「ザシュリア? わたくしに何か隠し事はないかしら?」


 王宮に戻った瞬間、仁王立ちで腰に手を当てたユーリンが待ち構えていた。ユーリンのこの様子から察するに、王女殿下に関わることだろう。隠し事しかない。思わず助けを求めて左右を見ると、ジュガルドもデスラントも目線を逸らした。二人ともユーリンには関わりたくないらしい。


「……な、なんのことでしょうか? ユーリン先輩」


 とりあえずとぼけてみた。


「……ふざけないでもらえる?」


 怖かった。さすがにこの状態のユーリンに一人で対応することに同情を抱いたのか、デスラントが間に入ってくれた。


「……業務上、話せないこともあるんじゃないですか?」


「うるさいわね。あなたには関係ないでしょう? 王女殿下に引き抜かれたからって調子に乗らないでちょうだい! メガネ!」


 デスラント惨敗。メガネと言われて落ち込んでいる。え、似合っているし知的に見えて素敵だと思うよ?


「ユーリンさん。ザシュリアさんにも業務上、守秘義務というものが生じることがあるんですよ。その様子だと、王女殿下がアイデンシャルティーネ様の神の使いというか代替者のようなものだとお聞きになったのでしょう? それが事前に神殿側にバレていたらどうなったと思います? 彼らは国を滅ぼしてでも、王女殿下を簒奪に来たかもしれませんよ?」


「そ、そんなこと……」


「我々はアイシャンデルク王国民である前に、王女殿下の従者でなければなりません。ならば、業務上口外にできないことがあっても、仕方ありませんよね?」


 ジュガルドの言葉に、ユーリンは言葉に詰まった。


「そ、そうだけど。ザシュリアが他にも何か隠しているんじゃないかって……」


 鋭い! さすが王女殿下に関わることについてのユーリンの嗅覚は異常だ。動揺を表に出さないように気をつけていると、わたくしのそんな様子に気がついたのか、ジュガルドがわたくしを背に隠しながら言った。


「我々も知らされていることはそれだけです。ザシュリアさんも同様です。ね、ザシュリアさん」


 ジュガルドの言葉に大きく頷き続ける。壊れた魔術具のようだと思われていそうだが、わたくしにはそれしかない。


「ほら、こんなにも怯えて……。ほら、ユーリンさん。ザシュリアさんにごめんなさいしてお仕事に戻ってください。抜けてきているのでしょう? 侍女長にバレたらまた、王女殿下のおそばに上がる仕事から外されますよ?」


「……! ご、ごめんなさい。ザシュリア」


「い、いえ」


 わたくしの了承を得て、早くいくようにジュガルドが言い、ユーリンは急いで仕事に戻って行った。助かったぁ。


「……全く、ユーリンさんには困りますね。で、ザシュリアさんは何か隠してますけど、それはユーリンさんにバレないように気をつけてください」


「は、はい。ありがとうございます」


 お礼を申し上げて、わたくしたちは連れ立って執務室に戻るのだった。








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