44.エスラニアの崩壊とユリンスの死
「王女殿下がアイデンシャルティーネ神の使い、もしくは神自身という方向で公表します」
ジュガルドにそう宣言すると、いつも飄々と笑っている印象の強いジュガルドが目を丸くした。
「本気で? 許可が出たの?」
「侍女長に話しました」
わたくしの言葉に、ジュガルドは納得したように息を吐き、頷いた。
「侍女長が言うなら、間違いなく王女殿下の許可は降りる。よし。じゃあ、準備しよう」
次々と書類が出される。こうなることをわかっていたように準備された書類を見て、さっきのジュガルドの驚きの表情はなんだったんだろうと思う。そして、書類に目を通す。
「……事前に信者と関係者をできる限り丸め込んで、アイデンシャルティーネ教及び神殿を王女殿下の管轄下に置くための合意を会談で行う……ということですね」
わたくしがそう言っていると、慌てた様子の職員が駆け込んできて言った。
「エスラニア崩壊しました! なお、その騒動に際してユリンス氏も死去とのことです」
エスラニア崩壊の知らせを受け、皆がざわざわと騒ぎ始めた。……ユリンスの死はあっけなかった。女王の方が先に逝くとは想定外だったが。……もしかしたら、王女殿下の処方した薬が効いたのかもしれない。そう思いながら、女王が死んだエスラニアでユリンスが病を広めていないか心配になった。
「……ユリンスのあれは、エスラニアの他の人にはうつっていませんか?」
わたくしの問いに、ジュガルドは微笑んで答えた。
「大丈夫。女王が崩御したあたりからユリンスも体調が悪かったらしく、女王と同じ病と判断されて隔離されていたらしいから」
ジュガルドの答えに、ほっと息を吐いた。そして、思わずジュガルドに言った。
「……やっと、終わりましたね」
わたくしの言葉に首を傾げたジュガルドが、書類の束を重ねて答えた。
「まだ終わっていない、かな? エスラニアの残した置き土産の処理が待っているからね? ザシュリアさんには」
おおぅ、と思わずわたくしは声をあげ、頭を抱えた。そしてすぐに書類に目を落とす。神殿関係者の中で王女殿下の派閥に引きこめる者は……。わたくしが書類と睨み合いながら考え込んでいると、デスラントが遠慮がちに声をかけてきた。
「……あの、アイデンシャルティーネ教の神殿関係者は上層部はほとんどエスラニアの息がかかっていると思っていいですよ? ……ただ、逆にいうと、今彼らの後ろ盾は何もいません、よ?」
デスラントの言葉を受けて、気が付く。そうか。もう後ろ盾はない。そこで、こちらが全て知っていたら……。
「デスラント。アイデンシャルティーネ教の神殿関係者に顔を見せたことはありますか?」
「えぇ、まぁ」
「では、今からアイデンシャルティーネ教の神殿に参ります。共についてきてください」
わたくしの言葉に、目を丸くしたデスラントの机上をチラリとみる。急ぎのものはなさそうだ。そのまま、デスラントの腕を引き、エリシアンに声をかける。ジュガルドは影モードでついてきてくれるらしい。
「気をつけて〜」
ジュガルドがついているからだろうか。とても気軽に送り出されたわたくしたちは、アイデンシャルティーネ教の神殿を目指して歩き始めた。……といっても、馬車を準備し、それに乗っていくことにしたが。先触れはしない。動揺しているところを突きたい。意味があるかわからないが、昨夜侍女長に渡されたよくわからない袋は持ってきている。中身でも確認しておくか……そう思って中を見た。侍女長の達筆な字で書かれた王女殿下の奇跡の所業を記した紙の束と、王女殿下からいただいたというよくわからない花の押し花のようなものだ。押し花なのに生き生きしている仕様が恐ろしい。わたくしがそれをみて首を傾げていると、覗き込んできたデスラントが「ひゅっ」と息を呑んだ。
「それ……どこで手に入れたものですか?!」
いつも落ち着いている……どちらかというと暗い印象のデスラントが大きな声をあげたのは久しぶりに聞いた気がする。袋に入れたままデスラントに近づければ、デスラントがおもわずと言った様子で身体を引いた。
「……侍女長から預かったんだけど」
わたくしの言葉に、デスラントが中の紙の束を見たいと言ってきた。花に触れないように気をつけながら、紙を出すと、貪るように読み始めた。特に変なことが書いてあったわけではないと思うんだけど……。
「ザシュリア様。この花を出すのは絶対に最後にしましょう。たとえ、最初に向こうが何をしてきたとしても、最初には出さないでください。絶対」
念を押されたけど、ジュガルドもついてきてくれているし、そんな変なことなんて起こらないよね……?




