40.速報ベースの情報です
「ザシュリアさん、どこまで終わっている!?」
「食事の準備の手配、会談でのこちらの要望のリストはすでに完成済みです!」
想定よりも忙しかった。これを平然とした顔でこなしていたエリシアンに敬意を払いたくなる。もう男性寮に足を向けて眠れない。ジュガルドの了承の言葉を受けて、隣に座っていたデスラントがなにやら書類を手渡してきた。
「ザシュリア様、余計なお世話かもしれませんが、書類記入しておきました」
デスラントの差し出す書類に目を落として、頭を抱えてしゃがみ込みたくなった。なんて優秀!
「ありがとう! 助かる!」
相手方の神殿関係者の好き嫌いや食べられないものを見やすくリスト化して、厨房に出す用の書類だ。期限は明日だが、手をつける余裕がなくて困っていたのを、デスラントが気づいて記入してくれたらしい。デスラントを一家に一人配置して欲しい……。こんな有能な人が抜けてエスラニアって本当に大丈夫なのだろうかと思っていると、執務室がばたばたと騒がしくなった。
「速報です! エスラニア女王ご逝去! 並びに領地は周辺国に割譲されることになりました!」
「そろそろかと思っていたけれど、早かったな」
「事前に周辺国と交渉してあったから、領地の割譲もすんなり決まっているだろう」
「元々各国の領地を奪って強大化したのだから、各国が元自領を回収する形だろう?」
執務室内でそんな会話が飛び交う。
ところでユリンスはどうなったんだろう? と、周りを見渡すも、動向を知っている者は誰もいなさそうだ。あとでジュガルドあたりに聞けばちょうどいいだろう。
「想定より少し早いですね」
デスラントがチラリとこちらを見てそう言って、書類に視線を戻した。さすがに元主人の訃報はきついのかも、と気遣おうか悩んでいると、ため息を落としたデスラントが付け加えた。
「言っておきますが、なんの感情もありません。……元主人といえども、私の扱いなど奴隷のようなもの……。どれほど鞭打たれたことでしょう。訃報を聞いて心が穏やかになったくらいです」
うん。想定以上にハードなご生活だったんですね!? わたくしはそんなデスラントにかける言葉が見当たらず、思わず書類に目を落とす。そんな空気の悪い中、突然現れたジュガルドが声をかけてきた。助かったー!
「ん? エスラニアが滅びる情報、もうこっちにも回ってる?」
いつも通りの気配のなさに少し慣れてきた自分の順応力に震えながら、返事をする。
「はい、先ほど速報が……って、え? ジュガルド様、事前に情報お持ちだったのですか!?」
驚いたわたくしに、困ったように微笑んでジュガルドが言う。
「うーん。ま、一応元といえども、影だし? 情報には詳しいつもりだよ?」
ニコニコとそんなことを言うジュガルドを見ていると、わたくしの秘密すらなんでも知っているのでは? と思ってしまう。
「さすがですね」
わたくしの返答に、ジュガルドが思い出したように付け加えた。
「あ、そういえば、次の会合できっと王女殿下がアイデンシャルティーネ教を欲しがることになると思うから、少し軌道修正かけようか?」
気軽にお茶でも飲む? とでも言うかのように、爆弾発言を落とすジュガルドに、わたくしは立ち上がって反論した。
「ど、どういうことですか!? 宗教なんて……さすがに王女殿下が欲しがっても、無理なものは無理ですって!」
むきぃぃぃと言わんばかりにわたくしが騒ぐせいで、ジュガルドはツボに入ったように笑い続け、デスラントには迷惑そうに顔を歪められた。いやだって、無理でしょ! 絶対!




