30.監視
「ユリンス。お前のことを皆が羨んでおった。妾も鼻が高い」
「女王陛下と共にエスラニア王国に行ける栄誉、嬉しく思います」
いつの間に設置したのだろう。エスラニアの女王の宿泊している部屋に設置された魔術具が、そんな二人の映像を映し出す。すでにべたべたと身体を触れ合っているように見えるが、ここからさらにケーキを食すのか? 王女殿下の教育にも、貴族子女としてわたくしも見ていい内容なのか不安に思いつつも、若干の興味を覚えてそわそわとしてしまう。
「見ものだったな。お前のように美しい男を手放し、あの無能を手に入れて喜ぶ、無能なアイシャンデルクの王女と、地味な婚約者を取り戻して感謝して、貴重な実を使ったケーキを寄越すフィネニルスの姫は」
「お褒めいただき光栄です。女王陛下の横にあんな芋男、似合いませんからね」
「はっはっは、芋男か。上手いこと言う」
ご機嫌で話し続ける女王陛下とユリンスの口から、次々と侮蔑的な表現や下品な話が出てきた。聞くに絶えず、思わず顔を歪めた。ふと横を見ると、大量殺戮でも起こしそうな顔をしたユーリンと、どこからか取り出したよくわからない箱を構えている侍女長がいる。……エリシアンは意外と平常心そうだ。
ばきっ。
「あ……お目汚し失礼いたしました、王女殿下」
うん、冷静じゃなかったみたい。エリシアンも手に持っていた文箱を破壊した。筋力があり余っているのかな?
デスラントは顔色を悪くしながら動揺した様子を見せている。私室に監視の魔術具が置いてある。前代未聞だ。デスラントの様子を見たエリシアンが微笑みを浮かべて、デスラントの肩に手を置き口を開いた。
「安心しろ。あの魔術具を設置したのは今夜のことだ」
動揺したデスラントの顔には、全て書いてあった。“一体、いつ? どうやって?”と。いやはや、わたくしも疑問だ。エスラニアの兵士の守る女王の私室にバレないようにどうやって魔術具を設置したのか……ね。いやもう、王女殿下に仕えて早数ヶ月。こんなことでいちいち驚いていたら、身が持たないと思えるようになったわたくしは成長したと思う。最初は非現実的すぎて信じられなかったけれど。
「ほお、美味いな」
「甘すぎず、ちょうどいい味わいですね」
「気に入ったな。大量注文を入れて、フィネニルスを困らせてやろうか?」
毒味役が下がった後、ケーキをバクバクと食べる女王とユリンス。笑いながら趣味の悪い会話を継続する。徐々に二人の頬が紅潮し、視線が絡まり合った。
「あのいけすかない王女の国の城内で、王女から奪ったお前に抱かれる、というのも一興だな」
「女王陛下が魅力的すぎて、あなたのことしか考えられません」
そんなこんなで二人が背徳感に酔いしれながら、その夜のうちに関係を持つ……のを見ることなく、わたくし含む貴族子女と王女殿下は教育に悪いと部屋から追い出された。は、はしたないからちょっと見てみたかったなんて好奇心、ないもの……! 王女殿下は達観した様子で、嫌そうに二人の睦み合いをみていたので、侍女長に退室が指示されてすっきりした様子でお部屋をお出になった……。え、王女殿下は興味ない? 結婚したらって考えると怖いもの見たさ、ないのかな……。
ちなみにユーリンは興味深そうな様子を見せていたが、侍女長に押し出されていた。え、あれと同類はちょっと嫌……。
翌朝、疲れた様子のエリシアンが王女殿下に計画は成功と伝えていた。よくわからないが、寝る時間がなかったらしい。お疲れ様です。
「シーツ交換等を行う際は、配布した高濃度の酒で消毒の上、直接触れることなく遂行、即廃棄すること」
指示がそのように飛ばされ、王女宮のメイドが投入された。今夜の夜会を終えたら、女王たちは帰国の途につくことになるだろう。
「昼食後、デスラントを呼んでちょうだい」
王女殿下が指示を飛ばす。デスラントが国を抜けて戻ることまでわたくしは想定しているが、王女殿下は“絶対にないわ”と笑っている。なぜそんなに確信を持てるのか疑問だが、デスラントに次々と機密を打ち明けようとする王女殿下の行動には、わたくしがヒヤヒヤとしてしまう。おいそれと信用していいものなのか……王女殿下が言うからには心配がいらないのか……。




