29.女王と王女と姫の歓談
「これで名実共にユリンスは女王陛下の物ね」
微笑みを携えたまま、こっそりと口にだす王女殿下。では、手筈の通りに、と王女殿下が囁き、侍女長が頷いて即座に動く。各国から祝福の言葉を贈られるメチウス姫とエスラニアの女王陛下。
それぞれが嬉しそうに歓談している。人の波が落ち着いた頃、王女殿下がメチウス姫と一緒に女王陛下に声をかける。
「女王陛下。この度は本当にありがとうございます」
「うむ」
女王陛下に幾度となく差し出したスイーツに含まれる木の実をふんだんに使ったケーキを見せる。
「わたくしとメチウス姫から贈り物ですわ。フィネニルス王国産の実がふんだんに使われた特別なケーキですの。この実は、美容にもいいと言われていて、普段はこんなにもたくさん使うことができないのですが……特別に準備いたしました」
飾りをふんだんに使ったケーキに、エスラニアの女王も満足げに見つめている。毒味役が少量食した後、女王とユリンスで好きなだけ食べるであろう。……わたくし的には、何もしなくても女王とユリンスが夜を共にする気がするが、念には念を入れて、と言うことだろう。この木の実が媚薬のような効果を持っていることは、少量しか食さない者たちの間で一般的ではない。
「おぉ! 何度かこの夜会で見かけたが、そんな効果のあるものだったのか」
嬉しそうに受け取る女王陛下。妖精のように美しいメチウス姫と女神のように美しい王女殿下が“美容に効果がある”と言えば、食べたくなるのが人情だろう。
「たまにメチウス姫から少し分けていただくのですわ」
「えぇ。我が国でも、少量しか取れないから滅多に食べられないものなのですわ」
ふふふ、と笑い合う二人のことなどもうどうでもよさそうに、女王陛下はケーキに目が釘付けだ。
「あ、そうですわ。女王陛下。ユリンスはあの外見でしょう? 女性にかなりモテるようですから、しっかりと見張っておくことをおすすめしますわ。我が国でも、何人の令嬢が彼をじっとりとした視線で見つめていたことやら……」
ため息を落とす王女殿下に、そんなユリンスに選ばれたと自身ありげな女王陛下が、大きく頷いた。
「あやつも妾に夢中であろうが、若い女は面倒だからな」
これでユリンスが病気を他に移す可能性を少しでも下げられたのだろう。王女殿下の手腕はこのようにしていくつもの線を張るような作業でなっているのか、とわたくしは首を傾げる。
「あ、そういえば、エスラニア王国の元外交官のデスラントとかいう名のお方が、我が国で働きたいと申しておりますが、問題ありませんか?」
大したことでないように口を挟んだ王女殿下に、女王陛下が大口を開けて笑った。
「はっはっは。あの無能を引き取らせてしまったか。なに、昨日クビにしたところでな。国に戻る金もないのだろうよ。あんな無能でよかったら、使ってやってくれ」
機嫌の良さそうな女王陛下に、王女殿下も満面の笑みを浮かべて礼を言ってみせた。
「まぁ! ありがとうございます。もしも、エスラニア王国の重要なお方だったらと思って念のために許可をと思ったのですが、替えの効くお方だったのですね。安心致しましたわ」
メチウス姫もニコニコと笑みを浮かべて、祝いの言葉を述べた。
「では、ジュリアンヌ王女殿下は新しい使用人が増え、わたくしは婚約者が戻り、女王陛下は愛する人を手に入れ、皆が皆幸せになりましたのですね」
メチウス姫の言葉に女王陛下が笑った。
「今出た男の中でユリンスが最も美しいから、妾が一番得をしている気がするな」
確かに、一番目を引く美形はユリンスだろう。大好きなメイシアを苦しめたあのクソ男だが、彼が美形なのは否定できない。しかし、メチウス姫の婚約者も穏やかな顔立ちながら整った顔をしていたし、デスラントは前髪を上げたらかなり雰囲気が変わる気がした。しかし、王女殿下は笑みを深めて肯定した。
「そう言われてしまうと、ユリンスは惜しくなってしまうくらい美しいですものね」
「あら。ジュリアンヌ王女殿下が殿方をお褒めになるなんて珍しいこともあるのですわね。でも、確かにユリンス様はお美しいと思いますわ」
にこにこと二人にそう言われた女王陛下は、話を終えるとひどく満足げにユリンスの元に戻って行った。その間にユリンスはエリシアンの手によって我が国の貴族籍を抜ける手続きが取られていたのだ。……エリシアンの巧妙な説明によって、ユリンスは納得してサインしているのだろうが。




