28.断罪劇
「エスラニアの女王のご趣味が観劇とは存じませんでした」
王女殿下があれやこれやと丸め込み、ユリンスも女王陛下も作戦に対してノリノリになった。裏切るわけがないと敵国の女王陛下に思い込ませた王女殿下のスキルが末恐ろしい。部屋を出て指示を飛ばす王女殿下の耳元でわたくしが囁いた。わたくしの言葉に、王女殿下がにっこりと微笑む。
「ええ。公にしていない情報のはずよ。わたくしが独自の伝手で入手した情報だもの。それに、どちらかというと観劇がご趣味というよりも、劇団ロマネスコの美麗な劇団員を追いかけておいでね」
えええ。一体どこでそんな情報を。そう思いながら、王女殿下の指示を受ける。今回は、ユリンスを王女殿下が捨てるらしい。それを女王陛下が救い、真実の愛に目覚めた二人はという寸劇をすることになっている。……まぁ、物事がきちんと見えている人には、すでに距離感が狂っている女王陛下とユリンスに、王女殿下が忖度したように見えるだろう。
「ザシュリア。せっかくの婚約破棄の断罪劇……まだ婚約者ではないのだけれどね。多くの人が集まる時間帯に始められるように仕向けてくれるかしら?」
「承知いたしました」
「ユリンス・ダビメット! こちらに来なさい!」
突然始まった王女の断罪劇に周囲は騒がしくなる。
「はい。王女殿下」
さすがに女王陛下は近くにいないが、そんな堂々とした態度では……。
「お前はわたくしの婚約者に相応しくないと判断しました。今すぐこの国を出て行きなさい」
王女殿下の狼藉に気が狂ったかと言う声も聞こえる。
王女殿下の独断で貴族を国外に追放しようとするのだ。チラチラと国王陛下に視線が集まる。事前に何も聞いてなかったのだろう。国王陛下は平然を装っているが、やけに汗をかいているように見える。
「そんな! ご慈悲を!」
やりすぎだ。わたくしの思いを汲んだように、周囲が静まり返る。一部の者には完全に劇だとばれただろう。
「待たれよ! ユリンスを国外追放にするというのなら、ユリンスは妾がもらい受けよう!」
「女王陛下!」
あー……二人とも役になりきりすぎてる。演技がかりすぎて、演技だと丸わかりだ。……そう思うと素人なのに演技くささの全くなかった王女殿下は天才なのかもしれない。
「……ユリンスと女王陛下の真実の愛に心打たれました。ユリンス、幸せになるのですよ」
女神のように優しく微笑んだ王女殿下は信仰したくなるほどの美しさだ。ユリンスも一瞬演技を忘れて惚けている。そんなんで真実の愛とか言って大丈夫か?
「……、ありがたき幸せでございます」
ユリンスが王女殿下に頭を下げ、女王陛下が胸を張って宣言する。
「今ここに宣言する! 妾はユリンスとの真実の愛に目覚めた! よって、己の行動に反省の意を示すため、フィネニルス王国のメチウス姫に婚約者を返却する!」
おぉぉ、と歓声が上がり拍手が起こる。大変満足そうな女王陛下だ。女王陛下に……視線は完全に王女殿下に向いていたが、メチウス姫が礼を述べて、婚約者と手を取り合う。幸せそうで何よりだ。そう思っていると、王女殿下も嬉しそうに微笑んでいた。
と、ここまで美しい劇を見ていて周囲の者たちは気がついたのだろうか? ユリンスを貰い受けた女王陛下が、彼を「婚約者」と言わなかったことを。
そうだ。女王陛下は美麗な派手な顔立ちの男を集めるのが趣味なのだ。一部では有名な話だが、真実の愛とか盛り上がっているから誰も突っ込まない。そして、ユリンスはそれを知らない。真実の愛ってそんな安っぽくていいのだろうかと思ってしまう。ふぅ、と息を吐きながら、わたくしは満足げな女王陛下とユリンスを見る。……強制的に集められた男たち。彼らにユリンスの病がうつることは多分ないのだろう。だって、我らが王女殿下の指揮の下で行われる作戦なのだから。本当末恐ろしい。




