18.婚約破棄騒動の裏側
「ユリンスを捕まえてきなさい。“王女殿下がお呼びで”とか言えば、簡単についてくるでしょう。ああいう自意識過剰系は、王女に呼ばれた=王女の婚約者になれると思い込むはずだわ」
メイシアを散々傷つけてきたクズ男だが、本当に婚約者になれると思い込んでくれるだろうか……。不安に思いながら、王女殿下の指示通りにユリンスに声をかけにいく侍女長を見送った。この場に残されたのは消去法だろうか、わたくしのみだ。ユーリンはなにやら大量の業務を押し付けられているっぽい。確かに、ユリンスが王女殿下の婚約者ヅラなんてしようものなら……ユーリンに仕事を押し付けた英断に感動しながら、王女殿下に問う。
「あんなのと言っても、伯爵令息ですよ……。そんな身の程知らずなこと、考えますかね?」
わたくしの問いに笑みを返した王女殿下は、意気揚々と歩いてくるユリンスを見て、にやりと笑みを深めた。
「ユリンス・ダビメット。あなたの顔は美しいわね」
王女殿下のそんな言葉に、跪いていたユリンスは嬉しそうに顔を上げた。
「……恐れ入ります。王女殿下。この顔をお気に召したでしょうか?」
あー……うん、あれは婚約者に選ばれたと思い込んでいるわ、絶対。なんとも言えない気持ちになりながら、ユリンスが王女殿下に触れようとするのは侍女長やわたくしが制する。管理のなっていない、闇娼館で花を買って病気をうつされていることは、すでにはっきりとしている。ユリンスからうつされている女性たちも、今日のことが終われば隔離措置で北の治療院送りの措置をとられる予定だ。なお、女性たちから感染が広まらない様に、王女殿下が動かれたし、闇娼館は閉鎖済み。責任者も娼婦たちも治療院送りが済んでいるそうだ。仕事が早すぎて怖い。
「えぇ。ユリンス。あなたの顔は美しいわ。そうね、あなたの婚約者っているのかしら?」
「王女殿下と比べて冴えない女ですが、一応おります。この美しい私を独り占めできることを栄誉と思わない様な女なんです」
ユリンスの言葉に、わたくしは怒りで震えた。そんなわたくしの手をまるで何かと間違えたとでもいうような所作で撫でて、王女殿下は落ち着かせてくれた。わたくしは、呼吸を整えていると、王女殿下が扇を開いて言った。
「他の女のことばかり、興醒めだわ」
慌てた様に、婚約者の話をやめたユリンスは、王女殿下の機嫌を取ろうと次から次へと噂話を口にだす。つまらない噂話に辟易していると、王女殿下はユリンスに問うた。
「フレンダー子爵令嬢とあなたの婚約、わたくしが壊してしまってもいいかしら?」
「え、えぇ。身に余る光栄でございます」
“婚約者にする”なんて一言も言っていないのに、勝手に婚約者気分になったユリンスは嬉しそうに笑う。王女殿下が、手袋を着け直して、ユリンスの腕を取ると、メイシアを探しに行った。
「ねぇ! フレンダー子爵令嬢はどこにいるの?」
あえて無計画な王女に見える様に計算し尽くされたそのお姿は、美しい。メイシアを守るため、メチウス姫を守るため、身体を張る王女殿下に感銘を受けていると、侍女長に耳打ちされた。
「あなたは、フレンダー子爵令嬢を安心させるために、王女殿下のおそばにいなさい。そして、タイミングが来たら、指示を出すから、あの細菌兵器と関係を持っていた恥知らずな女たちを即座に回収なさい」
「承知いたしました」
侍女長に頭を下げ、わたくしは王女殿下の跡を追うために、急いだ。




