15.王女殿下の秘密
「で、なんで、王女殿下はあんな能力があって、自分を罠にしているんですか?」
きっと事情を知っていそうで、なんでも話してくれそうな人ランキング一位の先輩侍女ユーリンの肩を叩いて問う。
「……あなたは本当に空気を読まないわね」
「恐縮です」
「褒めてないわ」
叱られながら、お茶を淹れる。お茶会も終わり、王女殿下が私室に戻って、休憩時間に侍女たちに出すためのお茶を淹れているところだ。
「……わたくしもまだ知らないわ」
「え!? 知らないんですか!?」
わたくしが驚くと、ユーリンも同様に驚いた様子で言った。
「逆になんで知っていると思うのよ!? ……王女殿下の能力の秘密を知っているのなら、それこそ王女殿下ご自身と侍女長、国王陛下に王妃殿下くらいじゃないかしら? 知りたいけれどね」
ユーリンの返答に、わたくしはふぅむと考える。
「じゃあ、探りを入れるなら、侍女長か王女殿下ご自身が狙い目か」
「あなた諦める気ないの!?」
驚いてお茶を少しこぼしたユーリンに、わたくしは拭くのを手伝いながら返答する。
「……だって、知りたくないですか?」
「……知りたいわよ。じゃあ、わかったら教えてちょうだい。わたくしも知っていることは共有するわ」
「王女殿下の秘密が教えてよさそうな内容でしたら、対価によって応じます」
「対価!? あなた、先輩からお金を取るつもり!?」
のんびりしすぎたようで、わたくしとユーリンは揃って侍女長にひどく注意された。
「わたくしの知っていることなら、教えてあげられるわ」
怒られたから、話の続きは夕食の場でと言われ、王女宮使用人控室でユーリンに話を聞かせてもらう。
「そもそものきっかけは王女殿下がまだ言葉を話し始めたばかりの頃と聞いたわ。一番最初は、フュリュシアン王子のお菓子を欲しがって、それを王子付きの侍女にあげたんですって」
「そらまたなんでそんな」
「……あなた、その言葉遣いで王女付きの侍女としての自覚はあるのかしら?」
ユーリンはわたくしを注意しながらも続けてくれた。
「で、翌日その侍女が死亡。結果、そのお菓子が原因。そのときは偶然で片付けられたわ」
「いったい王女殿下が何歳の時の話ですか?」
「確か三つか四つと聞いたわ」
「それは普通偶然だと思いますよね」
頷きながら、今日のチキンソテーを齧る。王女宮の料理はさすが王宮。美味しい。
「王宮と言っても、普通使用人に与えられる料理なんてもっと簡単なものよ? ここは王女殿下が使用人にまで心を砕いてくださっているから、しっかりとした食事をとれるのよ?」
軽くわたくしを睨んだユーリンが続きを話した。
「次は王妃殿下に献上された宝飾品。欲しがる王女殿下がおかしかったから、仕方なく王女殿下のものにしたのよ。結果、王妃殿下に呼ばれたと主張する王宮魔術師長が魔術具化しているのを発見。呼んだ侍女は王女殿下の現侍女長。王妃殿下が呼んでいると聞いたから王宮魔術師長を呼んだと主張。王妃殿下はもちろん呼んでいない、と。その魔術具がきっかけで、今や我が国は魔術具の名産国になりましたね」
「おのれ魔術師長と思っていたけれど、魔石特需は王女殿下が犯人だったのね」
「ザシュリア? あなた、主人にどんな言葉使っているの?」
ユーリンに注意され、続きが語られた。
「次がフュリュシアン王子殿下に贈られた服。これは、王妃殿下が母親の直感かしら? それで王女殿下の欲しがりをお認めになられたそうよ」
「それって今もお部屋に飾られている?」
わたくしの言葉に、ユーリンが首肯した。
「解毒されたとしても、自分宛に贈られた毒のついた服、フュリュシアン王子殿下もいらないわよね」
それは確かにと思いながら、スープをすくう。野菜がゴロゴロと入ったスープはとても美味しい。
「その後もいくつか物を欲しがったらしいけれど、王女殿下の功績といえば、これは欠かせないわ」
うっとりと語るユーリンの様子に少し薄ら怖い物を感じながら、わたくしは大人しく続きを聞く。
「前宰相の件ね」
「あのほしがりを断ったと噂される?」
わたくしの返答は失敗だった様だ。まるで森の奥で出会うとされる魔獣の様なおそろしげな表情で、ユーリンがわたくしに食ってかかった。
「あんな低俗な噂を信じているの? あなた。王女付きでしょう? それに、王女殿下に救われておきながら、よくもそんなこと言えるわね!?」
とってもこわいユーリンの形相に誰か助けをと思ってあたりを見渡して気がついた。一テーブルずつ開けられている。他は満席なのに、誰も座りに来ない。ユーリンの王女殿下信仰は、もしかして王女宮の常識……? 小刻みに震えながら、わたくしは説教を味わった。
「で、要するに、王女殿下は前宰相の試みを全て見抜いて国を救ったついでに、エリシアン様のお命も救って部下になさったのよ。あぁ、羨ましいわ。エリシアン様。わたくしも救われたい」
うっとりとなさったユーリンに問いかけた。
「ユーリン先輩って、すごく詳しいですね」
「それは当然よ。わたくし、王女殿下付きになりたくてなりたくて、初めて王女殿下をお見かけしたあの日から、」
止まらないユーリンの話を聞いて悟った。これは王女殿下しかユーリンを御せないと判断して、王女宮に回されたな。王女殿下のご命運をお祈りします。
「でも、嬉しいわ。一緒に王女殿下の秘密を探ってくれるのでしょう? 仲間が欲しかったのよ」
うん、人選間違えた。“なんでも話してくれそうな人ランキング一位”とか思ったわたくしに言ってやりたい。完全に人選ミスですよって。




