13.引きこもり王女
「え!? まだ引きこもっているんですか!?」
弟王子がブチ切れた後二日間、わたくしはお休みだった。二日お休みをして出勤したところ、王女殿下はまだ引きこもっているらしい。
「まさか……シャンディアン王子に嫌いって言われたから、なんてわけないですよね?」
わたくしの言葉に、先輩侍女が困ったように頬に手を当てて返答した。
「そうなのよ。初めて言われたのですから、とてもショックでいらっしゃるようで」
初めて……? 平民と王族を比べちゃいけないかもしれないが、うちの商会の従業員のジョニーの子供たちだって、兄弟喧嘩で嫌いやら大嫌い、日常だって聞いた……。王族ってそんな上品な喧嘩しかしたことないのか……そう思って、先輩侍女の顔を見る。最近よく話すようになったユーリン先輩は、わたくしの顔を見て、げぇっとでも言いそうな表情を浮かべた。いや、王宮侍女がそんなお下品なことを言わないのはわかっている。
「……王族の皆様って、兄弟喧嘩なんてなさらないのですか?」
わたくしの言葉に、はぁっとため息を落としたユーリン先輩は、怖い顔をして返答した。
「それ、外で言わないでもらっていい? 下手すると、国を分かつ質問ってわかっている?」
まだ幼少だから問題ないが、王子王女が不仲となると、勢力が第一王子派第二王子派王女派と勝手に分かれて権力闘争が始まる恐れがある、とくどくどと注意された。何それ怖い。王家怖い。貴族怖い。いやわたくしも貴族なんだけど。みんな仲良しでいこうよぉ。
「殿下方もわかっているから、表ではそんな様子を見せずに、居住区域に戻ってから第二王子殿下も王女殿下におっしゃったでしょう?」
第二王子殿下って、思っていたより優秀? わたくしがあれくらいの年齢だったとき、そんなことできたか? いや、できなかったと思う。良くも悪くも平民に混じって生き生きとしていたからね……。とりあえず、項垂れていたら反省の意を示すことができたらしい。
「ザシュリアがわかってくれたならいいわ。これからは、気をつけなさい」
先輩侍女がそう言ったところで、わたくしは顔を上げて問うた。
「王女殿下とシャンディアン王子は早く仲直りしちゃえばいいだけじゃないんですか?」
この発言で先輩侍女からのわたくしへの説教が伸びたのは言うまでもないこと……じゃないよね? 普通、わからないよね?
結局、せっせせっせと王女殿下の面倒を見ていたらしい侍女長が、王女殿下を引きずって出てきた。宝石の解毒が済んだから、返しに行きますよ、と言われながら。
「無理です。無理です。わたくしなんかが会いに行ったら、シャンディアンも嫌がりますわ!」
年相応というか年よりも幼く嫌々と拒絶する王女殿下に、侍女長が宝石の入った小箱を押し付けて言う。
「この宝石箱だって、シャンディアン王子のために姫様がお選びになったのでしょう!? ほら、もう面会予約はとってあるんだから、さっさといつもの王女殿下にお戻りくださいませ!」
……侍女長の言葉もかなり乱れている様な? 首を傾げていると、先輩侍女ユーリンがわたくしの背中を押した。思ったことを言っちゃってもいいっぽい。
「……シャンディアン王子殿下がこんな王女殿下を見たら失望なさるでしょうね。せっかく毒から王子殿下を守った素敵なお姉様でしたのに」
わたくしの言葉で動きが止まった王女殿下が、ハッとした様に嫌々と首を振って言う。
「違うわ。わたくしのせいでシャンディアンに毒を盛られるという嫌な思いをさせてしまったのだもの」
王女殿下の言葉に首を傾げる。
「現状、シャンディアン王子殿下から見た図だと、王女殿下が毒から守ってくれたことなんて知らず、いつも欲しがりを許される姉王女殿下に贈り物を奪われただけですよね? ……それよりも共通の敵を作って、その敵から守ってくれた格好いいお姉様の方がいいんじゃないですか?」
わたくしの言葉に、王女殿下は完全に動きを止めた。侍女長が、煽りすぎというハンドサインを必死に送っているが、もう遅い。言っちゃった後だ。頬に手を当ててしばらく何かを考えた王女殿下が、侍女長に指示を出す。
「着替えの準備を。軽食と、湯浴みもしたいわ。……せっかくだから、メルディアンヌ帝国に丁重にお礼をいたしましょう。もう少しの間、国として残しておいてあげる予定だったけれど、気が変わったわ」
笑顔になった王女殿下にホッと胸を撫で下ろしていると、先輩侍女ユーリンにあたまを小突かれた。えぇ!? なんで!? そう思っていると、顔面蒼白な侍女長が王女殿下の前に跪いて言った。
「承知いたしました。王女殿下のお心のままに」
え、どういうこと!? ついていけていないのはわたくしだけ!?




