11.王女殿下の偶然
「王女殿下、先日の剣です」
あれから、わたくしのマナー面を心配したのか、王女殿下の私室での侍女としての業務が増やされた。
「あぁ、お兄様の剣ね。……そうね、柄の部分はきちんと直っているわ。全く、お兄様ったら乱暴に剣を振るいすぎよ。これで柄が外れることもなくなったし、宝石を魔石に変えたから丈夫さが付与されたし、壊れることもなくなったわ。……せっかくだから、お兄様の身を守れるように防御の魔術具でもつけた方が良かったかしら?」
首を傾げる王女殿下の言葉に、わたくしは思わず振り返って目を剥いた。そんなわたくしの様子など知らず、侍女長が答える。
「姫様は相変わらず、フュリュシアン様に甘すぎます。一度、怪我でもさせて痛い思いをさせた方がいいのでは? そうしたら、物を大切に扱うことを学ぶと思いますよ」
「……でも、そうすると、お兄様付きの従者たちが可哀想じゃない」
「……あんな者たちのことくらい、捨て置けばいいのに」
「何か言った? エミリアッテ?」
「いいえ、姫様。空耳でしょう。お疲れでは?」
うふふ、ふふふと笑い合う王女殿下と侍女長に巻き込まれないように、小さく挨拶をして抜け出した。午後からは商会の仕事だ。もしかして、王女殿下は兄王子を守るために、剣を奪った……? いや、そんな、まさかね。
そんなことを考えていると、エリシアンに声をかけられた。
「なにか、考え事でも?」
「あ、すみません。エリシアン様。いえ、王女殿下が先日、第一王子殿下の剣を欲しがっておいでで……」
わたくしの言葉に、エリシアンは自慢げに頷く。
「うん。で?」
「たまたまその剣が壊れていたようで、直ったものが戻ってきたのですが、偶然ってすごいなって思いまして」
「う……うぅん?」
首を傾げるエリシアンに、わたくしは説明する。
「実は、わたくしと実家の商会も王女殿下に欲しがられたんですけど、父も含めて関係者全員救われていて、いやこんな偶然って重なるものなんだなって」
「……重なったら、偶然じゃないんじゃないかな?」
困ったように首を傾げるエリシアン様に、わたくしは首を振る。
「いいえ。偶然です。これが偶然じゃなかったら、王女殿下といえどもわずか十四歳の少女がそんなことをしたってことでしょう? あり得ると思います? たとえ王女殿下が神の愛子だったとしても、あり得ないでしょう?」
「うーん、そう、かな? ははは」
なぜか困っているエリシアンの様子に、わたくしはハッとした。
「あ、ごめんなさい! 今まだ今日終える書類の一枚も終わっていないのに、こんな話ばかりしていて、すぐに終えますね!」
「あ、うーん、そういうことじゃないんだけど」
まぁいっか、とエリシアンが書類に戻るのを見て、わたくしも両頬を軽く叩いて、やる気を入れ直した。せっかく王女殿下に拾ってもらったんだから、早く戦力になれるように頑張らなくちゃ。
「うーん。侍女長が話したって言ってたけど、どうせ過剰に王女殿下の自慢ばかりして、盛りに盛ったものだと思われているんじゃ……ま、いっか。それもそれで面白そうだし。この子が真実を知った時の驚きようが楽しみだよね」
隣でエリシアンがなにかブツクサと言っていたが、書類に集中していたわたくしの耳には何も入ってこなかった。




