1.召喚状
続きを読みたいというご感想、嬉しすぎて飛び跳ねております!
ミステリアスな王女を短編で書き切って満足しておりました。
短編として満足してしまっていたので長編化に少し不安もありますが、
皆様に楽しんでいただけるように精一杯頑張ります!
(途中、手直しを入れるかもしれません)!
「はぁ?! 召喚状!?」
淑女らしからぬ奇声に、気弱な父ダニエルの顔色は真っ青を超えて土色に染まった。“淑女らしくない”。これは、わたくしザシュリア・ウェルティンに対する、家族とわたくしの数少ない友人の総意だ。そりゃそうでしょ。家業が商会だもん。平民に混じって書類仕事やらなんやらしてたら、口調も乱れてもしょうがない!
「こ、こら! そんな不敬なこと、口にしてはならないよ」
父ダニエルの忠告を無視して、わたくしは手紙を奪い取る。
召喚状改め、招待状だ。
王女からの招待状を断ることのできる子爵家なんて存在するだろうか? しかし、我がウェルティン子爵家は特殊だ。もしかしたら。
「……一回断ってみる?」
「ゆ、許されるわけないだろう!? いつもいつもザシュリアには迷惑ばかりかけて済まないけど、一回行ってきてくれよぉ」
グラグラと身体を揺すられて、若干吐き気を催しながら父ダニエルに問う。
「あの欲しがり王女様でしょ!? どうするの? うちの商会がほしいなんて言ったら?」
わたくしの言葉に、父ダニエルは嬉しそうな顔を必死に隠そうとしながら、返答した。
「うちの商会が王家主導になるなら、いや、仕方なくだけど、いいと思うよ。いやー……本当に欲しがってくれたら光栄だよねぇ」
「いや! あの欲しがり王女にうちの商会なんて渡したら、家どころか国が終わるでしょ!?」
わたくしのお祖母様が若かりし頃、遠い異国メルディアンヌ帝国に留学に行ったことがあるらしい。そこで出会ったお祖母様の初恋の相手。それが世界で唯一の魔石産出国メルディアンヌ帝国で、唯一魔石を産出しているジャリジュール領当主の嫡男だった。実家が商会だからと理由をつけてお祖母様は、そのジャリジュールの嫡男に魔石の交易を願った。ただキラキラしてて綺麗だけど宝石には劣る。当時の評価はそんなものだった魔石の交易は、結果として現在の我が家の主力柱となっている。
「魔石なぁ……王宮魔術師長が魔術具なんて開発しなかったらなぁ。魔石の使い道なんてせいぜい観賞用くらいで、僕ものんびり副業として商会運営を程々にできたのに……」
「お父様!? 我が国の唯一の魔石窓口の我が家がそんなことを言っちゃダメでしょう!? それに、お父様は本業で農業をするおつもりでしょう?! 貴族がそんなことできるとお思いで!?」
そう。我が家は我が国……いや、我が近隣国で唯一の魔石交易が許可された商会なのだ。魔石の特需が起こってから、魔石産出のジャリジュール家はこう決定したのだ。
「今まで交易があった商会以外、今後一切交易することはない」と。
「はぁぁぁ。引退したい」
ため息を落とす父ダニエルの頭をどつきながら、わたくしは返答する。
「わたくしが書類仕事の大半を担っているし、お父様がしていることなんて最終決済の承認と必要最低限の社交程度でしょう?!」
「社交も書類仕事も僕には向いてないんだよぉ。いつも本当にすまないと思っているけど、ザシュリアがいないと我が家は本当に回らないよ。はははは」
「はははは、じゃねーわ! ぶっ飛ばすぞ!?」
わたくしの言葉に、父ダニエルは困ったように眉を寄せた。
「ザシュリア……そんな言葉遣いじゃお嫁に行けないよ?」
「我が家に行く余裕がある思う!? わたくしが商会から抜けたら、国が終わるわ!」
「そうなんだよねぇ。本当に申し訳ない」
しょぼんと肩を落とす父ダニエルに、わたくしは肩を叩いて励ました。
「我が家の目標は、“娘が結婚できず、家を継ぐものがいないので商会ごと王家がご査収ください”でしょう!? それなら、結婚なんてクソ喰らえだわ!」
わたくしの言葉を聞いて、悲しそうにわたくしを見た父ダニエルが言った。
「本当に僕がダメだから娘に迷惑をかけてごめんねぇ……。ザシュリアが素敵な人と出会って結婚したくなったら、僕が国王に嘆願するから……」
「いやもうすでに、“ウェルティン家と強引な婚約を結んだり、家を乗っ取ろうとしたら王家はそれを許さない”って釘も刺してくれているんだから、これ以上の願い事は無理でしょう。こちとら元潰れかけの子爵家なんだから!」
魔石の取引の唯一の窓口が子爵家程度の爵位だ。そんな家を飲み込める高位貴族はたくさんいる。それを、娘の幸せを願って国王に頼んで止めてもらう父ダニエルは、本当に商人に向いていない。
だからと言って、我が家で相手方の事情までしっかりと調査して、問題ない相手を見繕う余裕なんて存在しない。わたくしが下手な相手と結婚したら家どころか国ごと終わる。だが、子爵家程度がしっかりと高位貴族を調査するのは大変だ。
それなのに、我が家はギリギリというかすでにキャパオーバーしているのだ。だからこそ、人とのつながりが大切な商会という家業なのに社交もほとんど行っていないし、持てる力を全て商会の維持のみに回している。
我が家から王家に爵位返上と商会献上をすればいいだけだが、生まれ育ってみて、わたくしは平民には向いていないとはっきりしている。畑仕事もできないし、家事も一切できないし、力仕事も苦手だ。この事務処理能力を活かして王宮侍女くらいしか使い道はないだろう。しかし、下級メイドでなく侍女なら、貴族令嬢という立場は必須だ。
そして、力を全部商会につぎ込んでいる我が家が商会のみを献上したらどうなるのか。もちろん終わりだ。貴族としての体裁なんて整えられるはずがない。ただある財を食い潰すことになるだけだ。それこそ財産目当ての結婚相手に食い潰されて終わる。お父様もそれをわかっているからこそ、わたくしを貴族で居させるために無理してくれているのだ。




