11_A__03_04 第11話 Aパート 分割 3 / 4
第11話 Aパート 分割 3 / 4
【 第11話 概要 】
サブタイトル:それ以上でも、それ以下でもない。
OP曲前:ショージの自宅。ドアがゆるりと開かないように、ハルの案で磁石で工夫。
Aパート:幹音の3種類。ダイアトニックコード、主要三和音。導音。転調、一時転調。短音階。アナリゼの解釈は多く、楽譜を変える人もいる。楽典の説明のわかりやすさは、人による。富士山の高さ。仕事には人柄も大切。
CM明け:ヤッ子。砂糖壷の中で固まった砂糖を、踵で崩す。別な日(別な服装)マグカップに砂糖どっさり。
Bパート:分数和音。転回形和音、ギターではベース音や、ベースのメロディも。ジャンルの特徴と定義は、国境線の無い文化。シメジ婆さんから聞いた、イソップの話と、三人菩薩の話。ミッツが姓の理由。
Cパート:吹奏楽の先生の自宅、子供の頃に書いた絵の前に黒リボンのタロットカード、回想でその理由。
予告:ハルがヤッ子にギターの弾き語りをして、存在しない模様が浮かび上がり、手拍子の数がおかしくなるぞ。ショージ、その手に持っているのは、何だ!
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▽ 場面変更 ● ── ●
音楽室。さっきの続き。
ハルとヤッ子が、転調の話をしていた。
そこに、ミッツが音楽の先生を、強引に連れて来る。『月の光』(ドビュッシー)の話題。
ミッツ「『月の光』の下行部分は、フォルテからデミヌエンドか、ピアニシモからクレシェンドか、どっちが正しいか、実際に聞いて、感想をお聞きしたいんです」
背景に楽語と記号の一覧。不等号記号を横に伸ばしたような、クレシェンドとデミヌエンドの楽譜を、上下に並べる。それぞれ「クレシェンド 段々強くする」などの説明。
文字で書く場合もあるとして、「cresc.」「dim.」など、略記と略さない書き方も併記。デミヌエンドはデクレシェンドとも書く。
音楽の先生「ですから、それはご自由にと」
ミッツ「アナリゼをしたんですが、どうしてもわからなくて」
ハルとヤッ子。大声で入って来るミッツに驚く。
ミッツ。ピアノの椅子に座る。音楽の先生に、開いた楽譜集を強引に渡し、「弾きますよ」嬰ハ短調の終わりの、F♯m7の2小節と、続く変ニ長調の始まりまで演奏。F♯m7の部分の強弱の変化を変えて、2回演奏。
ミッツ「どうですか?」
音楽の先生。返答に困る。「どちらも、それぞれの良さがあります」
ハル「それより、アナリゼって何だよ」
ミッツ「解析」
ハル「解析? 解析とは?」
ミッツ「解析は解析。それ以上でも、それ以下でもない」
ヤッ子「まあまあ、早坂君。蜜霧君は今、いつもの落ち着きではないから、私が代わりに答えよう」ハルの頭を、軽く鷲掴みする。
ミッツが、放置されている不安感の表情。音楽の先生が楽譜を指でなぞることで、ミッツの表情が落ち着く。
ハル。ミッツの視線が、こっちから離れたのを確認し、ヤッ子を見上げて優しい笑顔を見せる。ミッツが月経中であることを納得したと、目で伝える。
ヤッ子「アナリゼ、解析とは、作曲者がどんな気持ちで作曲したのか、この曲はどんな構造なのか、調べたり考えたりすることだ」
ヤッ子「さっきの転調の話でも、転調したか、していないか、あれこれ解釈はあるだろう」
ハル「それが、どんな役に立つんですか?」
ステラが入って来る。
ステラ「お邪魔しまーす」
ミッツ「あれ? 吹奏楽部は?」
ステラ「今日は、もう終わりました。『木星』のアナリゼの話だけだったので」
ハル「アナリゼだって? 今、アナリゼの話をしていたんだ。知ってるか?」
ステラ「はい、研究するんでしょ。作曲者が、曲にどんな演奏を求めているか、作曲者の人生や、当時の暮らしを勉強して」
ハル「そう、それが、何の役に立つのかって」ヤッ子を見る。
ヤッ子「より、楽しくなる。例えば、蜜霧君、ピアノを貸してくれないか」
ミッツ「え?」
ヤッ子「アナリゼの話をしてから、『月の光』を聞いてもらおうじゃないか」
ミッツ「あ、はい」
ヤッ子「ベートーベンの、有名な『エリーゼのために』で、こんな箇所があるだろう」左手がラを連打する部分を、サンプルとして数小節。
ヤッ子「これを、どんな曲想にするか。1つは、望みが叶わぬ切なさと、その理由に対する怒りだとすると、それだけでも2通りの演奏ができる。簡単に言えば、右手だけが強いか、左手だけが強いか」
左手連打の部分を、2種類の演奏で、それぞれ途中まで。左手が弱い演奏では、右手は各小節の先頭だけにアクセント。
ヤッ子「別な解釈。『白雪姫』のようなメルヘンで……」ステラの表情が反応する。「……魔物が忍び寄って来る不気味さだとすると、左手は連打の3番目だけ強くする」
左手連打の部分を全部演奏。左手は、各小節3番目の8分音符にアクセント。右手は弱めだが、連続している箇所はクレシェンド。
ハル「おおー」
ヤッ子「同じ楽譜でも、アナリゼによって表現が変わるだろう。どちらが正しいかというより、どちらが好きかだな。正しさだったら「諸説あります」ってことだからな」
ハル「正しさを求めたら駄目なんですか?」
ヤッ子「唯一の正しさは無いと自覚した上なら、議論を楽しめそうだな」
ヤッ子「ついでに言えば、私の姉は、連打の3番目を、1オクターブ低くした。魔物のおそろしさが強くなるとして」数小節、弾く。
ヤッ子「こうすると、ベートーベンの楽譜を書き変えることになるから、冒涜だと非難されることもある」背景に「冒涜」と、そのフリガナ。解説で「神を尊敬しない、けしからん行い」を添える。
ヤッ子「アナリゼは、作曲者の研究だけでなく、曲の構成で「転調したか、していないか」の判断、曲をどのように解釈するかなど、広い意味もある。『エリーゼのために』では、途中で長調に転調している」
ハル「構成の解釈?」
ヤッ子「ショパンの『英雄ポロネーズ』を、姉は蒸気機関車と解釈した。機械が連携して作動するとか、乗っている人と、沿道にいる人が、手を振り合っているとか」
ヤッ子「『英雄ポロネーズ』で、こんな部分があるだろう」少し弾く。ホ長調の左手連打の箇所。前半の途中まで。
ハル。ヤッ子の手元を凝視。
ヤッ子「ここ、「前半の前半」と呼んで伝わればいいのだが、左手の呼応が、右手にある。これを、「コール・アンド・レスポンス」と考えてもいいな」その部分だけを弾く。
ヤッ子「演奏の時、ここに気を付けて弾くか、ただ弾くかには、違いがある。ここがかっこいいと思ったら、自分で作曲する時、この手法の真似をするのも、広い意味での音楽理論だ」
ハル「うん、ちょっと、かっこいいですね」
ヤッ子「この後には、変イ長調なのに、変イ長調では使わない和音がたくさん使われている。隠し絵のように、着目の方法では別な形が見えるような音の隠し絵で、どの調の和音を借りてきているのか」
ハル「どの調からって、知らなきゃダメなんですか?」
ヤッ子「そんなことはない。料理の隠し味を言い当てられなくても、食べて美味しいなら、それでいいだろう」
ショージが入って来る。
ショージ「うん、賑やかですね」
ミッツ。ステラを庇うように、先に声を掛ける。「『エリーゼのために』のアナリゼをしていたの」
ショージ「『エリーゼのために』?」
ハル「左手が連打するところ、3種類の演奏を、ヤッ子先生がしてくれたけど、どれが正しいかというより、どれも面白い」
ショージ「ベートーベンに聞けばいいだろう。恐山に行けば、話くらいは聞けるだろ」
ミッツ「じゃあ、『月の光』はどう?」ちょっと意地悪に聞いてみる。「恐山に行ってくれるかな」
ショージ「やだよ、めんどくさい」
ハル「『英雄ポロネーズ』ってタイトルは、ショパンじゃない、別な人が付けたって、本当ですか?」
ヤッ子「よく知っているな。ショパンは、曲は曲だけでと思っていたらしい。だから、タイトルという言葉を用いなかったという話がある」
ハル「だったら」
ショージ。ハルの言葉に割り込む。「恐山には、行かないぞ」
ハル「どんな解釈が正しいのかは、わからない。現に、ヤッ子先生のお姉さんだって、『英雄ポロネーズ』を蒸気機関車と解釈したり、『エリーゼのために』を白雪姫と解釈したり」
ショージ「かの有名なノストラダムスも、ある研究者は「この予言は、あのことを言い当てていた、すごい」と解釈して、別な研究者は、同じ予言のことを、別な事件を予言していたって」
ハル「え? 1つの予言を、ある人は「これを当てた」と言って、別な人は「あれを当てた」って?」
ショージ「そうなんだ。研究者なのに」
ハル「研究者でも意見が違うんだから、もしかしたら、ヤッ子先生のお姉さんの解釈が正解だとしても、おかしくないですよね」
ヤッ子「もしかすると、作曲者は、楽譜を書いたところで役目を終えて、「後はご自由に」の気持ちだったかもな」
作者の意図とは異なった楽しさの例:おもちゃの「黒ひげ危機一発」の当初のルールは、海賊はロープで縛られて、樽に入れられている。ナイフでロープを切れば救出成功。しかし、海賊が飛び出したら負けのルールが「楽しい」として広まった。
音楽の先生。ミッツに提案。「蜜霧さん。こうして人数が増えましたので、もう一度弾いていただけますか?」
音楽の先生。ミッツに耳打ち。「解説せずに、先にあなたの解釈の演奏、次に一般的な演奏の順で」
ミッツ「はい」
ハル。ステラに小声で教える。「ノストラダムスって、大昔の予言者だよ。詳しくは覚えていないけど、ある研究者は、ノストラダムスは1999年に地球が滅亡すると予言したとか、別な研究者は、滅亡ではなく、惑星直列を予言したとか」
ステラ。ハルの言葉の内容よりも、ハルが教えてくれたことに感動する顔。
ハルの言葉に合わせ、字幕。「ハルは、オカルトも好きですが、曖昧な記憶で話しています」
ミッツ。該当の箇所の、数小節前から演奏する。
ミッツ「まずはこれ」ピアニシモからクレシェンドで演奏する。
ミッツ「次はこれ」フォルテからデミヌエンドで演奏する。
ミッツ「どっちがいい?」ステラを見る。
ステラ「1回目の方が好き。迫って来るような」
ショージ「荘厳な月の光が?」
ステラ「そう、神々しいエネルギーが降って来て、何て言うのかなあ、命がふりそそいで、地球の生命が始まるような」
ハル「俺は、2回目の方がしっくりする。爆音が静まって、月の表面のように石だらけの荒野って感じ」
ショージ「そこの前は、静かなんだから、最高音だけ、いきなり強くってのは、おかしくないか?」
ショージ「まあ、俺は、どっちもいい、というか、どっちでもいいや、って感じだ。俺はアイドル音楽が好きで、クラシック音楽は専門外だし、細かな感情表現は、よくわからない」
ミッツ「デタラメだなあ」
ショージ「デタラメって」少し不機嫌になる。
ヤッ子「さっきも言ったように、料理の隠し味を言い当てられなくても、食べて美味しいなら、それでいいだろう。それから、『月の光』というタイトルはあるが、作曲者であれば、「その感じ方は誤りだ」とは言わないだろう」
音楽の先生「こだわり無く聞くのも楽しいものです。演奏者や評論家などの細かな気遣いに、興味が薄いこともあります」
ミッツ。音楽の先生を見て「先生はどうですか? どっちの演奏が良いですか?」
音楽の先生「三者三様の好みがありましたね。僕はどちらも素敵だと思いますが、「本木に優る末木(うらき)無し」という言葉を思い出しました」
ミッツ「どういう意味です?」
音楽の先生「元々の意味は、「不満があって交換したが、最初のものが良かった」というのだそうです。僕は、最初に慣れ親しんだ方に愛着があるという意味で用いています」
ショージ「シメジ婆さんが言ってたな。「懐かしさは、幸せによく似たニセモノ」だって」
ミッツ「そうだっけ? 「懐かしい頃には戻れないが、幸せな気持ちは味わえる」じゃなかったっけ?」
ステラ「先生の仰ったのは、どのような意味だったのですか?」
音楽の先生。申し訳なさそうに、ヤッ子を見る。
ヤッ子「ああ……」言い淀む。「……人それぞれの好みなのに、自分と同じ意見の人を集めようとする気持ちはわかる」
ヤッ子「同じ意見の人が多くても、それは正しさの証明にはならない。趣味ならば、正しさではなく、楽しさで演奏方法を選ぶのも自由だ」
ヤッ子「もし、プロとして生活するのなら、お客様の期待に応えなければならない。そうでなければ、お客様を喜ばせる驚きか」
音楽の先生。ヤッ子に向かって「申し訳ありませんでした。どうしても、僕には……」
ヤッ子「いえいえ。先生は、姉のことをご存知ですから」
ヤッ子「蜜霧君。偶然だが、私の姉も、よく似た解釈だった。解析もしたが、自分なりの解釈や、自分の好みも大きいな」
ヤッ子「きっかけは、『牢獄のバイオリン職人』という絵だった」
絵の名は、正しくは『牢獄でヴァイオリンを作る職人』らしい。映画『耳をすませば』(スタジオジブリ)。
ヤッ子「ある時、『月の光』を弾いていて、その絵を思い出したそうだ」
ヤッ子「深夜、山に囲まれた広い湖があり、まるで鏡のようにまっ平らな湖面に、屋根を開けたグランドピアノが置かれている。凍っていない水の上に、ピアノが置かれているなんておかしいが、そんな印象だと」
ヤッ子「空は、凛とした静けさで、星は全く無い。ただ、満月だけが、真夜中の天空にある」
ヤッ子「『牢獄のバイオリン職人』のように、月から一条の光が、ピアノを照らしている。月の光がスポットライトのように、一条の光とはおかしいがな」背景に「一条の光」と、その意味「1本の筋のような光」を添える。
ここ部分は、背景の解説文を読みながら、セリフを聞くので、セリフは単語で少し間を空けながら。
ヤッ子「月の優しい眼差しなのか、空気も無い宇宙空間を、約束を守るように届けられた光……」
ヤッ子「それは、マグリットの絵画にも似た、曇天の大海原を、たった一羽で飛ぶ、シルエットだけが見える小さな鳥のように、約束を守ろうとする想い、孤独な、遠い……」
ヤッ子「姉は自分の中から湧き出る想いを、物語や、絵や、詩作で表現するのが好きだった。しかし残念ながら、自分の想いを表現することを、周囲の大人達から否定され続けた」
ヤッ子。『月の光』の楽譜を手に取る。「この曲だけでなく、様々な曲に物語を見出し、自分の信じた演奏を頑なに続けたため、デビューはできなかったんだ」
背景に、第6話の美音の場面をいくつか。コンクールで悪魔の妄想シーン、ポピュラー音楽のバックバンドのコンサートで失敗するシーン、投身自殺で光る粒子になるシーン。
ヤッ子「みんなが知っている表現、みんなが「正しい」と思い、「こうあるべき」に応える、安心して聞ける表現をしなかったから」
背景に、頑固オヤジが「納豆は、こうあるべき!」と言っている絵を表示。
ミッツ「安心して?」
ヤッ子「お客様にとって、知っている曲を期待と違う演奏にされたら、奇異に感じるだろうな」
ミッツ「確かに。『月の光』が、タンタンタン……」F♯m7の下行を、フォルテからデミヌエンドで歌う。「……を期待している人にとっては、タンタンタン……」今度はクレシェンドで歌う。「……となると、期待外れかも」
ここで、ミッツの歌声は、歌うというより、しゃべる表現。または、歌わずに、「強い音から、弱くして行く」の言葉でも良い。手振りをする。
ハル「良い意味での期待外れ、うーん、心の準備とは違うものでも、期待以上の楽しみがあれば、それはそれで、喜ばれるけど。手品って、そうだし」
ヤッ子。気分を変えるように「まあ、姉がデビューできなかったのは……」
ヤッ子。心の声。「(絵を描くことと比較して、興味の薄いピアノを強要され、ピアノと「厭なこと」がセットになり……)」眉を顰め、頸を横に振る。
ヤッ子「姉はそもそも、プロのピアニストになる気持ちが無かったことと、ピアノに限ったことだが、人付き合いが苦手だったってのが、大きな要因だがな」表情は、清々しくはないが、もう、どうにもならない、受け入れた表情。
この時のヤッ子の表情は、映画『大病人』(伊丹十三、三國連太郎)で、主人公が逝去した後の、医者(津川雅彦)の帰路の表情を参考にする。
ハル「人付き合い?」
ヤッ子「そりゃそうだ。誰だって、一緒にいて楽しい相手と、仕事をしたがるからな。あの人となら、もう一度、仕事がしたいと思ってもらえる」
ヤッ子「人付き合いが上手だったら、みんなの馴染みの無い演奏をしても、そんなキャラとして受け入れられる可能性も、無いではなかったのだがな」
ヤッ子「姉は、自分の好きなようにピアノを弾くことを好んだが、自分勝手ではない。頼まれてピアノを弾く場合は、誠実に期待に応えようとしていた。しかし、内気であり、次の仕事の紹介には二の足を踏まれる」
ヤッ子「内気を大きくする理由は、もうひとつある。姉は、クラシック音楽だけを専門にしていたので、リズムが複雑なポピュラー音楽は、技術に含まれていない、沁みついていなかった」
ヤッ子「完成された楽譜を受け取って、練習して、上手に弾ける技術は持っていた。しかし、本番前に向けて、合同演奏しながら完成に向けて楽譜を書き換えることは、大きな文化の違いとして、対応できなかった」
ヤッ子は、この場の主題に範囲内で、姉の生涯を知らないハルとミッツにもわかるような言い方をした。
ショージは、第6話で詳しく聞いたが、重い話なので、ここでは口を出さない。
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