09_A__04_04 第9話 Aパート 分割 4 / 4
第9話 Aパート 分割 4 / 4
【注意事項:楽典以外の余談に、児童には不適切な生々しい描写や、心的負担の箇所があります】
【 第9話 概要 】
サブタイトル:×って何だ(バツってなんだ)。
OP曲前:翌日。ステラが、ショージを追い出したことを思い出す。
Aパート:ショージは昨夜、母親から説教されたので、昼休みにステラに謝罪。最大の発明は消しゴム、消したい過去。楽器の練習はゆっくり。家業を継ぐので不要な教科。オーパーツ。恋って何かのついで。あたし、キスしていません。
CM明け:ハル。「ミ♯」は低い黒鍵だっけ? この「×」は何だ? あーわけがわからん。「×」は2種類。フェルマータは何倍延ばすか。
Bパート:ミッツとヤッ子が、昭和の男の話。ミ♯、ダブルシャープとダブルフラット。臨時記号の範囲。不定音高。フェルマータは延ばすじゃない。音符の玉の形は、特に打楽器では様々。コードのsus。半音は2種類。
Cパート:音符の部品の名も、資料によって、異なる記述もある。
予告:ミッツのプロレス技が決まり、今度はハルがステラを泣かせ、誰も弾いていないのにピアノが鳴り始める。先輩、隠していたんですね。
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▽ 場面変更 ● ── ●
理科準備室。
この場面は、用いるべきか未定。そもそも、この場面が、ステラにとって心のケアになるのか、ヤッ子自身もわからないため、ヤッ子は迂闊な行動は慎むだろう。心のケアは、このような「奇跡的にうまくいった」は、推奨されない。
どのタイミングにするか、吹奏楽部の練習の前か、後か、ヤッ子がステラを待ち伏せするか。
ヤッ子。理科準備室で、新しい白衣に着替える。白衣は、不足しない枚数が、いつも用意されている。
ロッカーの新しい白衣は、クリーニングがら戻って来たシートが掛かっているか、自宅で洗濯したか。脱いだものは、簡易的な畳み方で、ロッカーの下部の手提げ袋に入れる、毎週、洗濯に持ち帰る。
ヤッ子。香水、または、消毒用アルコールを、膝の裏側に、控え目に付ける。ステラが安心感を持てるように配慮する目的。
ヤッ子。事務椅子(机の前の椅子)の高さを調整し、いつもより低くする。
ヤッ子。ステラを、廊下から理科準備室に連れて来る。これが、どのタイミングで、どのような方法で行うのか、未定。
ヤッ子。入室する時に、ドアの前に札を提げる。「入室禁止」または「現在、入室禁止」など。
ヤッ子。入室して、引き戸に施錠。「邪魔が入らないようにな」ただし、施錠は、ステラを不安にさせる懸念もある。
ヤッ子。理科準備室をステラと共に、事務椅子に歩き進みながら。「私は、君に何があったのか知らない。しかし」
ヤッ子。事務椅子に座り、ステラの手を取り、膝の上に横向きに座らせる。ヤッ子の左手は、ステラの背中側。
ヤッ子「君が辛い気持ちなら、わずかでも、痛みがやわらげば良いのだが」
ヤッ子。横座りのステラを、転ばないように支える。軽く抱く形になる。
ステラ。無言で、ヤッ子の顔を見ようとするが、見上げることができない。
ステラ。ヤッ子の香水(またはアルコール)の匂いが、ほんのり感じられ、「ヤッ子の腕の中は、安心できる別な空間、校内であり、昨日の自室と同じ空で繋がっているが、庇護されている」と思う。
ステラ。目を閉じて、頬をそっとヤッ子に付ける。そして、体重をヤッ子に預ける。
ヤッ子「居心地が良ければ、座っていなさい。眠ってもいいぞ」
ステラ。目を閉じたまま。「あたし、キス……」
ステラ。自分の口から出た「キス」に反応し、口角がどうしようもなく下がる。ステラの目は、画面の外にある。涙が流れ落ちる。
ステラ「……していません。キスしていません」
ヤッ子。ステラの言葉に、いくつかの可能性が考えられるので、迂闊な返答はしない。「キスをしたと疑われている」「ベタなハプニングで唇がぶつかった」
ヤッ子。ステラの意に反しない言葉を選ぶ。「キスは、大切だな」
ステラ「そうです。大切なんです。初めてのキスなんです」
ヤッ子「キスは……。好きな人と、お互いに近付いてするのが、キスだな」
ここでは、ヤッ子は饒舌でない方が良い。「お互いが味方同士であることを、態度で示す」など、いつもの楽典で言うような解説は、ここでは省く。
ヤッ子。ステラの背中越しに、腕をさする。
ヤッ子「好きな人が、いるんだな」
ヤッ子。机上のティッシュを持ち、ステラに差し出す。床のゴミ箱を、足で引き寄せる。
ステラ。ティッシュを受け取り、鼻をかむ。
ヤッ子「私は、何かを解決する力を持っていない。ここは、誠実な君が、泣ける場所だ」
▽ 場面変更 ● ── ●
体育館。放課後で、部活動が始まっている。
女子生徒が2人、ステージに腰掛けて話している。ガールズトーク。
1人は、ステラと一緒に、ストローオーボエで遊んだムギ(大吠麦穂、おおぼえ・むぎほ)。
もう1人は吹奏楽部の部員。マスクをして、時々、鼻水をすする。
ムギは、ステラがトロンボーン先輩に片想いしていることも、ショージから望まぬキスをされたことも、知りません。
ムギ「あーあ、人生、中々うまくいかないなー」
部員「彼氏とのこと?」
ムギ「最初からだったけど、思った通りにならないんだなあ」トロンボーン先輩を思い描く。トロンボーン先輩の顔は画面に表示させず、楽器ケースの特徴的なアクセサリーを表示する。
部員「やっぱり、自分じゃない人は、自分の思った通りに行かないこともあるよね」
ムギ「そうなの。あたしは一緒に、あの映画を見たいとかー、一緒に何を食べに行きたいとかー、って言ってるのに」
部員「言ってるのに?」
ムギ「なんか、何時までならデキるとか、そればっかり。やっぱり、一度許しちゃうと、駄目なのかなあ」背景に、回想の「彼の髪の毛を鷲掴みにしちゃった」を表示する。
ムギ。自分の髪の毛を、クシャクシャしながら。「ああーっもう! あの日のあたし、バカバカ! あー、できるなら、消しゴムで消したいぃぃー!」脚もバタバタさせ、踵をステージの下の壁にぶつける。
部員「あるよねー。過去の自分を俯瞰したら、ああすれば良かったなんて」
ムギ「「あるよねー」って、あんた彼氏いないでしょ」
部員「今は彼氏より、クラリネットかな? 自分で頑張れば楽しめるから」
ムギ「吹奏楽部だもんね。あれ? でも、今日の練習は?」
部員「風邪。吹奏楽では、呼吸器の病気には、敏感なの」
ムギ「そうなんだ。まあ、あたしにもうつさないように、気を付けてよぉ」
部員「わかってるって。でさあ、クラリネットの個人練習では、誰も練習の邪魔をしないから、こういう音を鳴らしたいって思った通りにできるのが嬉しい。楽器の調子が悪いのも、自分の責任だし」
ムギ「でもステラは、思い通りにならないって、悩んでいたよ」
部員「きっと、練習方法だよ」
ムギ「練習時間を、どれだけ増やせばいいのかって」
部員「あの子って、本当は地道なこともできるのに、音楽になると違うよね」
ムギ「違うって?」
部員「メルヘンの小物だけじゃなく、衣装も自分で作ってるでしょ。そっちの方は、少しずつ形ができている途中でも、完成がわかるよね」
ムギ「うん」
部員「でも、トロンボーンをゆっくり演奏したら、完成を思い描けていないのかな、ゆっくり練習しないの。もしかすると、音楽は時間の芸術だからって、テンポを崩さないようにって、気遣いしているのかな?」
ムギ「どういうこと?」
部員「部活の初日に、あんたの彼氏が教えたんだけど、「初めてだから、音の高さは気にしないでいい。みんなの演奏を聞きながら、体を、こう、テンポに合わせて動かしながら、タイミングを合わせて、音を出せばいい」って」
ムギ「プンプン、ちょっと嫉妬」
部員「それは、初めて楽器を使って、どんな特徴のある楽器なのかを知る段階のこと。息を出すタイミングとか、唇の感触とか、トロンボーンの特徴を知る段階のこと」
部員「「慣れるため」と「みんなへの気遣い」を両立させるために、タイミングを合わせるってこと。もう今は、その段階ではないんだよなぁ」
ムギ「気遣いかぁ」
部員「楽器の練習を知らない人は、「ゆっくりだったら、誰でもできる」って言って、ゆっくり練習を否定する人がいるよ」
ムギ「うん」
部員「でも、トロンボーンをゆっくり演奏したら、完成を思い描けていないのかな、ゆっくり練習しないの。もしかすると、音楽は時間の芸術だからって、テンポを崩さないようにって、気遣いしているのかな?」
ムギ「どういうこと?」
部員「楽器の練習を知らない人は、「ゆっくりだったら、誰でもできる」って言って、ゆっくり練習を否定する人がいるよ」
ムギ「そりゃそうでしょ。ゆっくりだったら、あたしだってできるのに」
部員「それが、実際に練習して、初めて勘違いだったって気付くもの。できなかったら、できるまで何回も練習するっていうけど、うまくいかないまま何回も吹いても、意味がないのに」
ムギ「できるまでって、当たり前でしょ」
部員「4回の失敗の後、5回目で成功して、できたから、曲の続きに行く。そしたら、成功率が20パーセントだけ。そんな難しい箇所が、1曲の中で10箇所あれば、全部が成功するのは無理」
部員「失敗しないように、そこだけ急にゆっくりにしたり、失敗して止まったら、「そんな演奏」の体験が増える」
ムギ「なるほど。「そこで止まる練習をする」ってことに、なっちゃうんだ」
部員「そうなのよ! 大切なのは「スムースにできる」の練習だよ」
部員「コンクール向けの話では、「練習でできないことは、本番でもできない」って言うけど、自宅でスムースにできないなら、合同練習でもスムースにできない」
部員「合同練習が難しいのは、合奏だから、自分の都合で「ここだけ、ゆっくり」とか、「ここだけ、やり直し」ができないこと」
ムギ「そうか。合同練習では、それぞれの人の都合の「ここだけ、ゆっくり」ができないから、一定のテンポで……、あ! だったら、メトロノームを使ったら?」
部員「それも役立つよ。っていうのは、「メトロノームと合奏する」の練習になるから」
ムギ「へえ。メトロノームと合奏かぁ」
部員「演奏の表現方法として、「テンポの揺らぎ」があって、指揮者に合わせるってのはあるけど、今は、そっちの話じゃない。メトロノームを使うのが苦手ってのは、合奏も苦手なんだよ」
ムギ「じゃあ、「できるまで何回も」ってのは、運動会の障害物競走のようなものなんだ。ゴールに行くのが目的で、難しい箇所を上手に演奏できないままなんだ」
部員「速いスピードで練習していたら、一回も成功しないうちに、失敗の経験ばかり増えて、時間が過ぎて行く。それより、ゆっくりで成功したら、成功体験の回数が増える」
ムギ「でも、ゆっくりなら、成功とは言わないでしょ?」
部員「それも勘違いなのよ。ゆっくりでもできなかったら、速くでもできないのは当たり前。自転車じゃないんだから」
ムギ「あたしは、自転車は止まった状態でバランスをとって練習したよ。お父さんに教わった」
部員「あっ、そうなんだ。止まっていてもバランスがとれるから、走っても大丈夫なんだ」
ムギ「ステラは、ゆっくり練習しないの?」
部員「気持ちが焦っているせいか、ゆっくりしない。大切なのは、テンポじゃなくて、拍なのに」
ムギ「拍って?」
部員。手拍子で「タラララタラララ」の「タ」で手を叩く。速いテンポ。「この演奏があったとして、失敗しながらなら、こうなる」
部員。手拍子しながらだが、「タラララ……タラ……ララタ……ララ……ラ」となる。
ムギ「ああ、拍って、手拍子の間隔ってことか」
部員「そう。できないなら、全体をゆっくりする」ゆっくりのテンポで手拍子しながら「タラララタラララタラララ」。
部員「できるところは速く、できないところはゆっくりなら、拍が崩れる。それよりも、できるところも、できないところも、同じテンポで練習。失敗しないテンポで成功する。成功がしっかり定着したら、ほんの少し速く」
ムギ「焦っちゃ、駄目なんだ」
部員「焦ったら、きちんと、できていないのに、次に進んでしまう」
ムギ「できていないのにかぁ」
部員「てきたからって、すぐに次に進むのも、良くない」
ムギ「できたら、いいんじゃない?」
部員「9回目までできなくて、10回目でできても、次に進んだら、成功確率は10%だよね」
ムギ「なるほど。確率が低いのか」
部員「プロじゃないんだから、できないことを責めないのは当然だけど、いつでも100%の確率で成功するのは、目指してほしい」
ムギ「高い確率で成功するように、ゆっくりで成功体験を増やすのか」
部員「そう。成功体験を増やして、成功確率を上げる」
ムギ「夏目漱石の、何ていう小説かは知らないけど、読書をすると、知らないことを調べないで、次々と読み進む、悪い癖が付くんだって。それに似ているのかな?」
部員「夏目漱石なんて、読んでるの?」
ムギ「違う違う。お父さんが、読書が好きで、教えてくれた」
背景に、「『門』夏目漱石」「若い僧「書物を読むのは極悪う御座います」」を表示する。
部員「ステラは、「ゆっくりと、確実な成功を定着させる」って方法をしないから、2種類の失敗をする」
ムギ「2種類って?」
部員「うーん……、本当は「ド」なのに、「レ」だと勘違いして、「レ」を吹くこと。それから、「ド」だって知っていたけど、なぜか「レ」を吹くこと。ギターだったら、隣の弦を弾いちゃうような?」
指を1本、2本と出しながら、背景に、失敗した時の状況のステラを、2種類表示。
ムギ「聞いている方は、単に「間違えたな」って思うだけ」
部員「ステラは、みんなと同じテンポになることを練習しているの。息遣いとか、スライドの位置の正確性とか、身に付くような練習じゃないの」トロンボーンのスライドを、素早く動かす仕草。
ムギ「そうだよね。ちゃんとゆっくり練習しないと」トロンボーンのスライドを、ゆっくり動かす。
部員「あ、違うよ。ゆっくりって、スローモーションじゃないの。スライドは素早く。順番で言うと、「1.音を出している、ブー」「2.音を止める、ピタッ」「3.スライドを適した位置に合わせる、シュイン」「4.音を出す、ブー」なの」
ムギ「だから、ゆっくりでしょ?」
部員「次の音を出すのは、スライドがちゃんと移動してからっていう順番。速かったら、その順番が狂ったり、位置の確認がきちんとしていなかったり。大切なのは、「慌てないで順番に」なの」
ムギ「でも、そんなに、たくさんの手順があるなら、ゲシュタルト崩壊が起きそう」
部員「なに? それ」
ムギ「同じことを、何度も何度もやっていたら、簡単な漢字、例えば「近い」っていう字も、わけがわからなくなるって、夏目漱石が書いていた」
部員「まあ、単純なことが組み合わさって、複雑になったことを、何度も何度もやっていたら、混乱するよね」
ムギ「混乱するのに、慌てないでって、難しそう。それなのに、演奏の表現を工夫するって、無理でしょ」
部員「慌てないで、できなければ、表現のためのバリエーションも無理。もちろん、表現を意識しながら、「慌てないで、できる」ってのを練習するのも、いいと思うよ」
部員「だって、感性を磨いて、感情を込めた演奏をしたくても、まずは、ちゃんと演奏できないと無理。「素晴らしい演奏」って、「ちゃんとした演奏」を拡張したものだから」
部員「もちろん、「行く行くは拡張する」を、意識するのは良いこと。それを踏まえた上で、「ちゃんとした演奏」の練習をする」
ムギ「でも、スライドを合わせるのと、息を吹くのは、同時でしょ?」
部員「ギターは、わかる? コードを、一瞬でぱっと変えるの」
ムギ「あれも超能力だよね」
部員「左手の、4本の指の全部を、適した位置に合わせるのは難しいから、最初に出す音だけ、指を合わせる。その他の指は、一瞬だけ遅れてもいいってこと」
ムギ「あっ、そうなんだ」
部員「いくつものことが「同時に」というより「素早く順番に」は、頭で理屈はわかっていても、実際にするのは難しいもん」
ムギ「そうそう、そうだよね」
部員「そうやって、成功が定着するまで何度も練習して、定着したら、ほんの少しだけスピードアップ。失敗したら、元のゆっくりに戻して、失敗の経験が増えないようにする。成功の経験が多いようにする」
ムギ「まあ、理屈はそうだけど、理屈通りにいかないこともあるよね」
部員「まずは、理屈通りにしてほしい」
ムギ「もしかすると、ステラは「プレイヤー」ではなく「コンポーザー」のタイプかも」
部員「「プレイヤー」と「コンポーザー」って?」
ムギ「楽器演奏とか、スポーツとか、演劇とか、動きをするのが「プレイヤー」」
ムギ「メルヘンの小物や衣装を作ったり、作曲したり、建築とかもそうかもしれない。じっくりと作ったものを渡すのが「コンポーザー」」
第6話で、ヤッ子の姉、鍵宮美音(かぎみや・みね)が、「あたし、人前で演奏なんてできません。あたしがしたいのは、絵を描くことです」と言う場面を表示する。
部員「そうかなあ。とんでもない曲芸のような楽器でもないから、普及しているんでしょ。丁寧に練習したら、誰にでもできると思うけど」
ムギ「工場で働いていて、機械ばかりを相手にしていた人が、いきなり営業職をするのは、難しいよね。もちろん、その逆も」
部員「あ、聞いたことがある」
ムギ「俗に「文系と理系」って分け方があるよね。「どちらかが完全にできて、どちらかが完全にできない」って、明確には分かれていないし、先天性か後天性かも決められないかもしれないけど」
部員「努力して、どっちも、それなりにできるようになることや、それなりにできるようになる人がいるよね」
ムギ「トランプの対戦でも、駆け引きのあるもの、パズル的なもの、速さが重要なもの。得手不得手があるよね。戦略の説明を、されても、理解できないとか」
部員「うちの、お母さんは、料理をしながら、洗濯機が終わったら対応して、テレビ番組を見て笑って、電話にも対応して。それを見たお父さんが、超能力だって言ってる」
ムギ「でも、どうしても苦手なことがあるから。まあ、ステラは自分で「演奏したい」って思っているから、いいけど」
部員「先生も、「普通は、これくらい、練習すれば、できるはずだ」っていうようなことは、言わないようにって、指導しているよ」
ムギ「物理的に自分の限界が決まるのでもないし、本人だって限界はわからない。限界がわかっているなら、仕方ないけど、限界を勝手に決めるのは、勿体無い」
部員「ステラは、メルヘンの小物や衣装を、丁寧に作るよね。たまたま、トロンボーンの練習が、丁寧じゃないからって、「この子は、きちんとしていない」って、人格否定も勿体無い」
ムギ「両方ができる人もいるけど、だからって、全員が両方をできるとは限らないし。もちろん、「下手の横好き」で、好きだからするってのは、いいと思うよ。学校の部活だし、下手だから辞めろって、誰も言わないよ」
ここで、第6話のいくつかの場面を表示する。
▽ 場面変更 ● ── ●
吹奏楽部の練習中。
吹奏楽の先生。黒板に書きながら。「「下行進行」を、「下降進行」と、書き誤ることが見受けられます」黒板に、「こちらが正しい」を示す。先生の字はきれい。
生徒「先生って、達筆ですね」
吹奏楽の先生「お褒め下さり、ありがとうございます。本音を言いますと、達筆ですとか、美しい字を書くのは、自信がありません。そのため、丁寧に書くことは心掛けています」
生徒「謙遜ですね」
吹奏楽の先生「謙遜と思われたのですか。ポスターや看板では、文字をレタリングというデザインをして書くことはあります。今、黒板に書いたのは、読み誤りをしないこと、読んで気分が悪くならないように留意しました」
吹奏楽の先生「文字の正誤は、線の数や、点の数に気を付けます。きれいな文字は、バランスに気を付けます」
吹奏楽の先生「例えばこれ、「あ」の文字をきれいに書く手引きは、小学生の頃に教わったと思います」
吹奏楽の先生。黒板に、1文字分のマス目(正方形)を書き、縦横「2×2」に分割する点線を書く。そこに、大きく「あ」と書き、小学校で習う補助線(点線の赤マルなど)を、赤色で加える。
吹奏楽の先生「このように、教材にはバランスを示していますが、何となく、「当たり前のことが示されている」と思いながら、きれいな字が書けないでいます」
空中の壁の、80cm四方のマス目に、「あ」と書く仕草。直立した姿勢で、腕だけ大きく動かして書く。
吹奏楽の先生「いざ、書く時は、「丁寧に」というアドバイスを勘違いして、ペン先に集中してしまいます」
再度、空中の壁に「あ」と書く仕草を、途中まで。手の動きに合わせて、顔が追随する。これにより、ペン先を凝視することを表現する。
吹奏楽の先生「こうすると、線の長さや、円み(まるみ)の大きさの、バランスを良くできません」黒板の「あ」の補助線を指す。
吹奏楽の先生「バランスの取得には、いくつかの案があると思います。僕は、こんな方法をしています」
黒板の、「あ」を書いたマス目の、縦横「2×2」を更に分割し、「4×4」にする。
「あ」は3画なので、3本の線の、始点と終点に、赤で「●」を付ける。
「あ」には、大きな円みがあるので、円の上端と下端に水平線、円の左端と右端に鉛直線を書く。
吹奏楽の先生「1文字分は、「4×4」に分けました。この線は、どこから始まって、どこに行くのか、どの分割の箇所なのかを、確認してから、書き始めます」
吹奏楽の先生「この、大きな円みは、どのくらいの大きさなのか、どの分割の範囲なのかを、確認してから、書き始めます」
吹奏楽の先生「僕は、さっき、ペン先に集中すると、バランスが悪いと言いました」再度、空中の壁に書く仕草で、手に顔が追随する動きをする。
吹奏楽の先生「このように、「どこから、どこまで」「どの範囲の大きさ」を意識すると、バランスが良くなります」再度、空中の壁に書く仕草で、直立の姿勢で、腕だけ動かす。
書き始めの位置で、まだ腕は動かさない。直立の姿勢のまま、首だけキョロキョロし、行き先を確認する。にっこりして、腕を動かす。
吹奏楽の先生「この方法で、バランスが良くなります」
吹奏楽の先生「次に、細かなところに気を付けます」
黒板の「あ」の隣に、「下行進行」の「行」を書く。
吹奏楽の先生「この、左上の2本の線は、「少しだけ曲がる」と教わったと思います。その「少しだけ」が、どの程度なのか。お手本をよく見て真似します」
吹奏楽の先生「それでも、うまくいかなければ、自分の書いたものと、お手本を、重ねて透かして、見てみましょう」
吹奏楽の先生「僕は、このように練習しましたが、今も、文字を書く前に、「この範囲に、文字を書こう」を空想します」
黒板に、4文字が書ける横長の長方形を書く。それを、4文字分に分割すると、正方形が横に4つ並んだようになる。
吹奏楽の先生「文字を書く前に、このようにマス目を空想します」
4つのマス目のうち、1番目、2番目、4番目を、「2×2」の点線で分割する。3番目を、「4×4」の点線で分割する。4つのマス目に「下行進行」と書く。1文字ずつ、書く前にちょっと考える。
吹奏楽の先生「今は、少し大袈裟に、時間を設けて書きましたが、こんな感じに、丁寧に書きます」
吹奏楽の先生「字を書くのが得意ではないので、音楽のようにテンポを保ったまま、素早く字を書くと、実は下手だというのが露見してしまいます」
生徒「テンポ良く、書いてみて!」
吹奏楽の先生。微笑みながら。「無理ですって」
吹奏楽の先生。気分を変えるように。「さあ、雑談は終わりにして、続きをしましょう」
▽ 場面変更 ● ── ●
さっきの、体育館での話の続き。
1人は、ステラと一緒に、ストローオーボエで遊んだムギ(大吠麦穂、おおぼえ・むぎほ)。
もう1人は吹奏楽部の部員。
女子生徒が2人、ステージに腰掛けて話している。ガールズトーク。
ムギ「自分だけだったら、スピードも自分次第。恋愛もそうだったらいいのになぁ。理屈はわかっているのに」
部員「男って気分次第で、全然動かなかったり、焦ったりするよね」
部員「恋愛は、わからないけど、楽器の練習って、譬えれば、家の建築。見た目では、柱がドーンと立ち、棟上げが、派手で喜ばれる。しかし、その前に、土台などの地味な作業が必要。土台が疎かなら、いつまでも「うだつが上がらない」になる」
ムギ「近所で、家を建てるのを見たことがあるけど、土台が鉄筋コンクリートで、コンクリートの中の鉄筋を、チマチマと組み立てていた」
部員「鉄筋って、組み立てるの? コンクリートの中にあれば、いいんじゃないの?」
ムギ「何が正しいのかは知らないけど、あたしが見たのは、1cmくらいの太さで、長い鉄筋があって、それを、碁盤の目のように、タテヨコに並べるの」
ムギ「並べて終わりじゃなく、それぞれの交差する場所を、細い針金で、全部を結ぶの」背景に、鉄筋をタテヨコに並べて、交差の箇所を、番線(鈍し鉄線、細くて柔らかい針金)で縛って固定する様子。
ムギ「それを見て、あたし、「見えないところで、こんな地道な努力が」って思ったの」
部員「音楽は時間の芸術だからと、演奏用のテンポで練習したい。しかし、その前に、正しい順番ができるように、地道な練習が必要」
ムギ「うまくいくまで、ゆっくり、何度でもって、できないかなあ。でも、恋愛って、消しゴムで消えないもんね」
男子生徒。ケースに入れたエレキギターを背負っている。ステージに座っている2人の後ろから、2人の間に、ライブハウスのチケットを差し出す。
部員。振り返って、男子生徒の顔を見て、少し怪訝な表情。「これ、どういう意味?」
男子生徒「俺のバンドが、ライブハウスに出るから、来てほしいんだ。タダ券だよ、あげる」
ムギ「タダ券? でもこれ、本当は、売り物のチケットじゃないの?」
男子生徒「いいのいいの、ノルマ券だから」
ムギ「ん? ノルマ券?」
部員「「俺のバンド」って言うけど、「俺のいるバンド」でしょ」
男子生徒「いや、俺のバンドだ。俺の練習量は、半端じゃないからな。夜は眠いのにギターを弾いていて、弾きながらいつの間にか眠って、朝、目覚めたらギターを抱えていたから、続きを練習する」背景に、その場面を描く。
部員「自分の練習は自慢するけど、他人がどんな練習をしているかは、知ることもないし、褒めないんだ」
男子生徒「でも、俺の親も、俺のことを褒めないんだ。練習しないで上手になったらすごいけど、練習して上手になるのは普通のことだって。だから、仕方なく自分で褒める。ナルシストは、こうして出来上がった」
ムギ。話を変えるように、男子生徒の手元のチケットを見る。「へえ、ライブって、コンサートのこと?」
男子生徒「そう。中学生で、この店のオーディションに合格するってのは、珍しいんだぜ」ギターをケースから出さずに、演奏する真似。「俺はギターだから、一番かっこいい」
ムギ「オーディションって?」
男子生徒「ああーんと……。まあ、簡単に言えば、演奏ステージのある喫茶店だと思ってくれ」
ムギ「喫茶店?」
男子生徒「そう。夜は酒も出すけど、昼間は酒の無い軽食喫茶。そこで演奏するんだ」
ムギ「で、オーディションがあるの?」
男子生徒「そう。同じように、ライブハウスは、あちこちにあるけど、この店なら良い演奏が聞ける、あの店なら、下手なバンドばかり。だったら、良い演奏を聞きたいよなってなる。だから、バンドの腕前が、店の繁盛に直結する」
ムギ。まだ、よくわかっていない。
男子生徒「だから、上手いバンドだけを出演させるために、オーディションをするんだ」
ムギ「ということは、演奏が上手いっていう証明ってことだ」
男子生徒。ちょっと得意な顔。
背景に、ライブハウスの店内の様子。カウンター席、ボックス席。2つの店を比較し、演奏の音を、オノマトペで「キラーン」「ボロボロ」で表現。客の表情も違う。
部員。ムギに向かって。「この店って、結構ハードルが高い、老舗だよ」
ムギ「そうなんだ、すっごーい」
部員「で、そうしてあたし達にくれるの? そんなに親しくないでしょ」
男子生徒「女子限定! 俺だって、女にもてたいんだ。そのために、こうしてチケットを配っているんだ。ねえねえ、女友達を呼んでくれるなら、2枚ずつあげようか?」
部員「純粋に音楽が好きなのか、もてたいから音楽をしているのか」
ムギ「そんな言い方……も、あるかな。目的の手段として、音楽を使うのも、あっていいと思うよ」
男子生徒「そうだよ。しかも俺は、純粋に音楽が好きで、練習したんだ。ついでに、女も手に入れたい」
部員「まあ、出逢いってのは、恋愛の始まりとして重要だから、そのきっかけを作るのも大切だよね。確かに、この店で演奏できるのはすごいから、物見遊山で人は寄って来るだろうね」
部員。男子生徒を見ながら、チケットを、団扇のようにヒラヒラさせる。
男子生徒「そうだろう」喜んで、ちょっと自慢げに、ギターを弾く真似。
部員「でも、性格が悪かったら、落差が大きい分だけ、嫌われる」
この話は、第12話の、キャンプ場で、トロール将軍の魅力の話に通じる。
男子生徒「俺の性格が悪いっていうのか!」
部員「ギター以外にも、人を評価する基準は多いよ」
ムギ「確かに」
ムギ「食べ物なら、味、見た目、栄養、お腹が空いたから。目的や、評価の基準はいくつかあるよね。でも、それは、恋と同じだとするのは、違うと思う」
部員「真剣に音楽をやっていて、副産物で恋愛ができるのは、幸せだとは思うよ。でも、恋って、何かのついでにするもんじゃないでしょ」
男子生徒「俺は、恋愛も真剣だ!」
部員「自分がその人を好きになって、恋愛が始まるのではなく、群がって来た中から選ぼうとしているんだよね。代わりはいくらでもいるって考えているんだから、相手を大切にするとは思えないな」
ムギ「そういう考えもあるけど、何かを一所懸命やった人って、自分に厳しいから、他人には優しくできるんじゃない?」
男子生徒「その通り」鼻から強い息を出す。
部員「ひとつの目標を達成できたのはすごいけど、喜びのお裾分けじゃなくって、さっきの言い方だったら、自慢でしょ。相手を喜ばせるよりも、自分がいい気分になりたいだけ」
ムギ「それもそうか……」顎に手をあて、思案する。
男子生徒。少し怒ったように、すねたように。「俺は、他人にも優しいのっ!」
部員「じゃあ、他人に優しいんなら、あと2枚、タダ券くれる?」
男子生徒。少し考えてから。「まさか……、二人とも、彼氏と?」
部員「彼氏じゃないよ。安心していいよ、女の人だから」
男子生徒。安心した顔。
部員「年の離れた従姉だよ。スタジオミュージシャンだから、感想を聞けると思うよ。歯に衣着せぬ感想が。嬉しいでショ」
▼ CM明け。 ▼── ──▼
CM明けの定型。他の登場人物は知らない、自宅などの場面。
ハル。自宅。外は、夜の雨。
楽譜を見ながら、ギターを弾いている。クラシックギター曲の楽譜集。
ハル「この「ミ♯」って? ♯はピアノなら黒鍵なのに、ミの半音上のファは白鍵だし、じゃあ半音低い?」
ハル。弾いていて「やっぱり、半音高いのかなあ」また、弾いてみる。
ハル「この「×」マークは何だ? 弾いちゃいけないのか? ここにも、形は違うが「×」がある」
楽譜には、音符の玉が「×」の不定音高と、ダブルシャープがある。
ハル「フェルマータだ。これは、音価が2倍になるんだ」楽譜を表示する。
クラシックギターでは、1段の五線に、2声以上が書かれることがある。Aさんは、4分音符にフェルマータ、続く4分休符には無い。Bさんは、2分休符にフェルマータ。
ハル「あれ? 4分音符の2倍と、2分休符の2倍なら、比率が違うな。あー、わけがわからん」
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