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ガクテン  作者: 不定音高ふたつ


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09_A__02_04  第9話 Aパート 分割 2 / 4

第9話 Aパート 分割 2 / 4


【注意事項:楽典以外の余談に、児童には不適切な生々しい描写や、心的負担の箇所があります】


【 第9話 概要 】

サブタイトル:×って何だ( )バツってなんだ)。

OP曲前:翌日。ステラが、ショージを追い出したことを思い出す。

Aパート:ショージは昨夜、母親から説教されたので、昼休みにステラに謝罪。最大の発明は消しゴム、消したい過去。楽器の練習はゆっくり。家業を継ぐので不要な教科。オーパーツ。恋って何かのついで。あたし、キスしていません。

CM明け:ハル。「ミ♯」は低い黒鍵だっけ? この「×」は何だ? あーわけがわからん。「×」は2種類。フェルマータは何倍延ばすか。

Bパート:ミッツとヤッ子が、昭和の男の話。ミ♯、ダブルシャープとダブルフラット。臨時記号の範囲。不定音高。フェルマータは延ばすじゃない。音符の玉の形は、特に打楽器では様々。コードのsus。半音は2種類。

Cパート:音符の部品の名も、資料によって、異なる記述もある。

予告:ミッツのプロレス技が決まり、今度はハルがステラを泣かせ、誰も弾いていないのにピアノが鳴り始める。先輩、隠していたんですね。


 ○ --- ○ --- ○


ここから本文です。

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▽ 場面変更 ● ── ●


ショージの回想。


ショージの母親の顔は、目と口を、同時に画面内に入れない。目が画面内なら、口は画面の外、というようにする。


ショージ。母親から殴り飛ばされる。殴ることがアニメとして不適切なら、母親の、怒りと悲しみを制御できない、上唇の震え。母親のその顔を見て、ショージは立っている状態から、脱力したように正座する。


ショージ「俺だって、悪かったと思ってるよ」


母親。ショージの胸倉をつかみ、静かにいう。「悪かった理由まで理解していないなら、反省しても許されないんだよ」


ショージ「何もしてねぇよ。拒否されたんだ」


母親「じゃあ、その子が拒否しなかったら、やってたんだな」


ショージ「そりゃ、まあ」


母親「困ったねえ、わかっちゃいない」ショージの胸倉から手をはなす。壁の、アイドルのポスターを眺める。


ここでは、ステラが拒否したことになっているが、拒否しなかった場合なら、以下のセリフになる。


母親。ショージの胸倉をつかみ、静かにいう。「悪かった理由まで理解していないなら、反省しても許されないんだよ」


ショージ。ぶつぶつと小声で「でも、あの子は、拒否しなかった」


母親「じゃあ、その子から、近寄って来たのか!」


ステラのことを、ショージは「あの子」と表現し、ショージの母親は「その子」と表現している。


ショージが「あの子」とするのは、ここにはいない「外部の子」となる。母親が「その子」とするのは、ショージと共に、ここにいる「内部の子」となる。


ショージ「いや、寄って来てもいないけど」


母親「返事が無いことを、拒否されなかった、肯定されたと解釈するのは、都合のいい理屈だな」ショージの胸倉から手をはなす。


母親「返事を強要するのは、意に反した肯定を言わせる強要にもなる」


母親「混雑した電車の中、たくさんの人がいて、すぐにでも助けを呼べる状況だとしても、痴漢されたら、声を出す方法も思い出せない。それほどに心を崩す一撃だ」


母親「喜びの笑顔ではない、愛想笑いではなく、困り笑いでもなく、くすぐって無理に笑わせて、無理に肯定だと決めつけるのは、もってのほかだ」


母親「殴られてもいない、恫喝されてもいない、それでも、恐怖だ」


ショージ「恐怖? いつも一緒にいる間柄なのに」


母親「お前、あの子の体に触ったか? 肩でも、背中でも。直接ではなくても、服の上からでも。まさか直接……」


ショージ。顔がこわばる。「うん、髪の毛を、いつものように」


ショージ。心の声。「( )嘘を言った)」。回想する。ステラのワイシャツの内側で、ショージの指が、ステラの肌に触れる。


母親。ステラの胸のボタンが外れているのを見ているので、息子が嘘を言ったことを見抜いている。


母親「それが、どれだけ恐ろしい攻撃なのか……わからないんだろうな」


ショージ「攻撃?」


母親「これまで、日常的に遊んで、肩が触れる( )ふれる)ことがあっても、それは近くにいるというだけだ」


母親「学校で、図工や美術の授業で、みんなは普通にハサミを使っている。隣の席の子から、急にハサミを向けられた恐怖。「日常」が「攻撃」に変わる恐怖」


ショージ。息をのむ。


母親「しかし、これまでは無かった、能動的に手で触る( )さわる)、それが性的な意味となると、恐怖だ。しかも、触ることで、いよいよ攻撃が現実的になる」


母親は、ショージの嘘を見抜いているので、ステラの胸のボタンを外して、素肌に触れたとして話している。


母親「想像してみろ。その恐怖は、映像と無関係な音声で満たされている」


母親「雨風から身を守る乗用車の中にいて、それが普通の時。そこに、水害で足元から汚れた水が浸入、サファリパークで猛獣が体当たりする、心霊スポットで幽霊が車体をべたべた触る、得体の知れない虫が侵入する」


背景に、いくつかの場面を表示。


母親「雨風をしのげる、安全な場所から、逃げ出すこともできない。玄関チャイムを鳴らし続けるストーカー被害にも似ている、「侵入される」という恐怖だ」


母親「どんなに、どんなに抵抗しても、あり得ない正当性を、ぐいぐいと押し付けながら、脅しながら入って来る。悍ましい( )おぞましい)男が、半笑いで、入って来る、しかも、次元の違う究極のプライベートゾーンにだっ!」


母親の語尾が、段々と強くなり、最後は怒鳴ったので、ショージはビクンとする。


母親「心身ともに崩壊し、身動ぎ( )みじろぎ)もできず、まともに息もできなくなる」ここは、「身動ぎ( )みじろぎ)」よりも「身動き( )みうごき)」が良いかも。


母親「心身の崩壊は絶望。望みは全く拭い去られ、自分から何かをすることはできない。死への怖れを厭う( )いとう)ことすらできない」


母親「されるがまま。抵抗もできないから、お前は勝手に、望んだ解釈をするんだろうな。拒否されたら、やめるつもりだった。拒否されなかったから、肯定されたと」


ショージ。顔の部品が薄れ、のっぺらぼうになり始める。


拒否されなかった場合のセリフは、ここまで。ここからは、どちらの場合にも適用する。


母親「セックスは楽しい。しかし、それは、自分とセックスすることを、相手が許可したからこそなんだ」


母親「相手の気持ちを蔑ろにして、自分だけ気持ちいいのは、何も楽しくない。自分のオナニーの道具に、勝手に相手の体を使っている」


母親「ついでに言っておくが、男女どちらでも、初体験の早さや、相手の人数を競うことがあるが、性欲対象として悪くないとか、フェアではないのなら、結局は自慢にはならないだろうな」


母親「愛と性欲は混同できないが、全く別でもない。この人だから特別にと、「相手に選ばれる」のが、自慢以上に幸せだろう」


母親「男ってのはな、ヤルのが目的だ。ゴールの続きなんて思いもしない。だがな、女は妊娠したら、後々まで続くんだよぉ」


母親「妊娠しなくても、その時には考え付かなかった理由から、後悔に遭遇するのも、男より女の方が、多くて大きいもんだ」


母親「後悔の理由は、自分ではなく、相手にある。女が男に対する期待象、男が女に対する期待象。その期待象を相手に強要する強さだ」


母親「小さな子供は、目的達成する方法を見付けたら、すぐに実行する」背景に、転がって遠ざかるボールを追う子供と、セリフ「走れば、ボールに追い付く」を表示。


または、混雑した場所で自転車に乗る人( )年齢は大人でも良い)。「今なら、あの隙間から進める」と思い、事故になることは多い。信号のある交差点で、自転車が交通ルールを無視して、縦横無尽に進む。


母親「できない理由より、できる理由を先に思い付くのは、生きる上で大切だ。しかし、それを行ったことによる影響に思い至り、行動を制御するのは、子供には無理だ」背景に、ボールを追った子供が、道路に飛び出す様子。


母親「あの子は、泣いた、叫んだ。もしも、それを大袈裟だと思うのなら、それが被害者と加害者の、意識の落差だ」


母親「状況によっては、指一本で人が死ぬ。加害者にとっては「指で軽く押す」、被害者にとっては「押されたら死ぬ」だ。意識の落差を、加害者は自分の基準を採用するな」


母親。怒鳴る。「ガキのくせに、大人ぶってセックスなんか、するんじゃねえ!」


母親。静かな口調に戻る。「ガキのくせにってのは、生意気で不愉快だという意味もあるが、影響に思い至ることもできないのに、大人の真似をするのは危険だって意味もある」


母親「同意の上のセックスは、その時だけなら誰にも迷惑ではないが、妊娠したら、赤ちゃんは歓迎の準備が無いところに生まれるんだ。お前は、わがままで、1人を被害者に変え、生まれながらの被害者を作ろうとした」


母親「「濡れぬさきこそ露をもいとえ」ということわざがある。濡れるという一線を越えてしまえば、気持ちのコントロールがゆるむ。会う度にルーチンワークのようにセックスするから、妊娠することだってある」


母親「効果が100%の避妊でもないのに、粋がって危険なことをしたがる年頃だし……」


母親。ポスターから目を離し、ショージを見る。「お前の妄想の中では、女はいつでも都合よく、脚を開いて待ってたんじゃないか?」


ショージ「だから、無理強いはしなかったんだ」


母親「立派な女じゃねえか。半端な拒否ならごり押しされるから、ああやって外に逃げたんだな。セックスは大人ぶっているし、命に関わる遊びは背徳で魅力だ」


母親「生物として、自分が生き続けることと、自分の子孫を作ることを、ひたすらに行うから、それに抗うのは難しいのはわかる。しかし、自分がこの国の文化の中で生きていることも忘れるな」


母親「思春期は、大人の事情の息苦しさに、「そんなの、知らねえよ」と言い放つことがあるが、盗みが犯罪だと知らなくても罪になる。そういう文化の中で、文明を享受して、生きている。大人の事情とは、この国の文化の一部なんだ」


母親「文化や文明が正しいのかは別な議論だが、自分が住んでいる文化や、自分か接している個人に対して、自分の希望に沿えば享受し、自分の希望に沿わなければ「そんな都合は知らねえよ」ってのは、自己都合に過ぎるのではないか」


母親「心も体も、驚く程に急成長し、周囲の大人が馬鹿に思えて、自分が本気になれば、指一本で世界を変えられると思う。もうすぐ自分は「魔法使いになれる」とまで思う。社会に出る前に、自信を持つのは、大切だ」


母親「しかし、そんな頭が良くて、崇高な思想なのに、自分の希望に沿うことだけを基準にしていたら、平和ではいられない。安穏と生活できない」


母親「お前のしたことは、相手の意思に任せて金を受け取る乞食より、もっと悪い、相手の意思に反して金を取る強盗だ」


この話は、第3話の、東海林商事の社員である兄役と、旧友の弟役の会話に通じる。


母親。ショージの勉強机の椅子に座り、文具をもてあそぶ。「できちゃった婚、授かり婚。他人の人生を批評するつもりは無いが、あたしは、生まれて来た子供に、生まれながらにして、親の結婚の責任を持たせるのはしたくないな」


母親「子供ができたことで、愛がより深まることもあるだろうし、逆に、愛が偽りだとわかることもあるだろう。「子はかすがい」で子供に感謝することはあっても、辛い生活の理由のひとつに、子供を含めることはしたくないな」


母親「子供は親を選べないよりも前に、子供は自分の意志とは無関係に作られるからな」


母親「親になったら単に、夜泣きの赤ちゃんをあやしたり、機嫌のいい時に遊ぶだけじゃない。安全に生活できる環境を保ち続けるんだ。赤ちゃんを迎える準備もできていないお前に、親になる資格は無い」


ショージ。うなだれている。顔は描かないか、真剣な無表情。


母親「妊娠を「失敗した」って言い方もある。失敗で産まれたって、赤ちゃんに言えるか?」


母親「もし、あたしがお前を産んだだけで、育てなかったらどうだ? どんな人生の始まりだったか」


母親「日常生活の中で、誰かとの諍いはある。目の前にいる相手に無理強いしたことだけを反省して、目の前にいる人だけに謝罪すれば済むと思うのなら、そんな育て方をしたあたしも、母親失格だな」


母親「愛し合うのは良いことだ。大人から見ると、子供の愛はたどたどしい。愛し合っていれば、セックスを許し合える間柄だ。しかも、自分で制御が難しいのが、性欲だ」


母親「あたしだって完全ではないが、生きて行くための教育や、能力が高くなるに従って生じる危険は教えても、生殖能力が身に付く前に子育てを教えなかったのは、母親失格と自覚した。申し訳ない」


母親の「申し訳ない」の声の時、ショージの肩が、ピクッと動く。


母親「性欲は否定することではない。しかし、生殖は、妊娠という個別の人生を作るということは、お前だって知っているはずだ」


母親「親は子供を幸せに育てるべきだと思って、あたしはお前を産んだ。しかし、今のお前が考えている子育ては、食べさせておけば死なないだろう、死ななければ勝手に育って行くだろう。その程度のことしか、今は実感していないんじゃないか?」


母親「死なないように食わせておけば、子供は勝手に、親に全幅の信頼を寄せ、良い子に育つ。言うことを聞かなければ叱ればいい。悪い子になれば「子供が勝手に悪い子になった」と言えばいい。いや、そこまで考えてもいないか」


母親「親になる覚悟が無いのに、親にはなれない。生まれて来る子供は人間だからな。最初から責任逃れするとは、それ程までに、性ホルモンは、怖ろしいもんだな」


母親「性ホルモン、性欲。抗えない欲求のために、古今東西、ビジネスもあれば、人生を崩した人も多い」


母親「これまでの経験から、「高い場所には、手が届かない」「とても怖いから動けない」といったことがあり、自分で制御できるかできないか、学びながら把握できた」


母親「思春期になって、初めて、自分で制御できない衝動に驚く。もうすぐ「魔法使いになれる」とまで高まった能力でも、性欲は制御できない」


母親「性欲を制御できないのを、侮蔑するのではない。それ程までに、性ホルモンは、怖ろしいんだ」


母親「お前が生まれる時、お父さんは仕事が終わって疲れているのに、ずーっと、あたしの腰を撫でてくれたな。ずーっと撫でていて、腕だって疲れているはずなのに、「痛いのも、苦しいのも、全部こっちに来い」って、言ってくれてた」


母親「お前が生まれた時、嬉しかったな。初めての明るい場所で、眩しそうにして、おっぱい飲みながら、小さな手で、ああ……、こんなに小さな手なのに、ちゃんと爪があるって」


母親の、「ああ……」の箇所から、涙声。


母親「赤ちゃんを「小さな命」と呼ぶのは、命を軽んじているのではない。「初めての体は小さくて、慣れる前で不器用ながらも、生きている、生き続けようとしている。「大きさ」とは違う次元が見える」って、そんな気持ちだったんだな」


母親「ちゃんと爪がある指で、おっぱいを飲むお前を見たていたら、この子は今、生きている、生きようとしている……」涙。


母親「今はまだ、自分だけでは生きて行けないのに、安心している。お前は、お前は……。外の世界に出て、安心したんだ」


母親「お父さんは、あたしの耳を摘まんで、そっと揉んで、優しい顔を見せてくれた。そして、お前の背中に、そっと手を当てて、お前に最初に言ったのは、優しく、ゆっくりと、「あーんーしーんー」だったんだ」


ショージ。もう、座っていることもできない。


母親。ここで初めて、母親の顔の全体が、画面に表示される。ショージに近付く。手の平をそっと、ショージの背中に当てる。


▽ 場面変更 ● ── ●


回想が終わり、さっきの続き。


音楽室の中。ショージが土下座している。


ショージ「俺、ステラのことが好きだが、俺の妄想の中では、いつでもお前が都合よく笑っていた、同意していた」


ショージ「お袋が言っていた。愛し合うのは良いことだ。命の危険が悪いんだって」ショージは、母親からの説教の一部を、都合良く変更して記憶している。


母親の言葉は、正しくは「お前の妄想の中では、女はいつでも都合よく、脚を開いて待ってたんじゃないか?」である。


ステラ「もういいよ! ……もういい」


ステラ。心の声。「( )片想いされているだけで、愛し合ってはいないのに、この人にはわからないんだな)」


突然の強風で、窓に雨の音。


▽ 場面変更 ● ── ●


ステラの回想。


ショージの母親の表現方法によっては、ショージの回想の前に、このステラの回想を設けるのが良いかも。


自宅の門にもたれて泣いているステラの横を、ショージが俯きがちに家を出る。その後、ステラが頽れ( )くずおれ)、しばらく立ち上がれなかった。


大人の女性が近寄り、肩を抱いて家の中に。歩きながら、大人の女性は、ステラの胸のボタンの1つが、開いていることに気付き、ステラの肩を抱く力を強くする。


ステラは、この大人の女性が、ショージの母親だとは知らない。ステラにとっては見知らぬ人であることを表すために、顔を画面の外にするのも良い。ショージを殴り飛ばした時と同じ服装。


大人の女性。買い物袋を持った手で、ステラの胸のボタンを締めようとするが、片手では無理なので、指で摘まむだけ。


大人の女性。ステラのボタンを指で摘まみながら。「これで、ちゃんと服を着られたね」


大人の女性は買い物帰りで、買ったばかりの食材で、ステラと一緒に料理。


大人の女性。日常の、どうでもいい話をする。「最近のあたしの研究では、あのスーパーは、コーラの安売りはしないけど……」


大人の女性「次のバスまで、時間があったら、缶コーヒーはスーパーで買う。自動販売機は高いからね。そして、コンビニの前で一服」


大人の女性「ちょっと、お手洗い借りますね」


ステラ「あ、はい、どうぞ」


大人の女性「これ、焦げないようにお願い」


ステラ。台所で料理を続ける。大人の女性がトイレから出て来たところで、入れ替わりにトイレに入る。


ステラ。スリッパを履いた瞬間に、心の声。「( )スリッパが温かい。ああ、独りじゃないんだ)」


ステラ。便座に座り、両腕を交差し、自分の肩や腕を抱く。


ステラの母親が帰宅したところで、大人の女性は引き継ぎをして、去って行った。


ステラの母親の帰宅を、ステラが玄関で迎える。大人の女性がステラの後に続き、ステラとの簡単な会話から、不審者ではないことを表現し、手早く靴を履き、ステラに努めて明るく別れの言葉。


この部分の、言葉の遣り取りは明示せず、BGMにする。動きは、数枚の静止画が適している。


大人の女性が、泣きながら土下座する静止画があっても良い。土下座する両肘は、体に隠れるように、体の前で寄せられている。


▽ 場面変更 ● ── ●


回想が終わり、さっきの続き。


音楽室の中。ショージが土下座している。


ステラ。雨粒が滴る窓を見ている。


ステラ「窓の雨粒って、自分の重さに耐えられなくなって、落ちて行く」


ショージ。床でうなだれたまま。心の声。「( )急いだ俺が悪いのは仕方ない。まあ、仕方ない。堪えろ、俺)」


ステラ。心の声。「( )あれは、トロンボーン先輩のためにとっておいた、初キスじゃない。事故。もう変えられない過去。あたしはキスしていない。事件の被害者なんだ。あたしはキスしていない。被害者……なんだ)」


ステラの俯く顔の、下半分だけ、画面に表示する。ぼろぼろと、ぼろぼろと涙。まるで「ちくしょう」( )または、誤りだが「ちきしょう」)の声が聞こえそうな口は、唇が怒りに慄く( )おののく)ように震え、剥き出しの歯は上下が少し離れている。


ここでは、目は描かない。どのように目を描けば良いか、納得できる表現が思い付かない。


▽ 場面変更 ● ── ●


廊下を、音楽の先生が歩いている。ヤッ子が向かって来る。


音楽の先生「鍵宮先生。今日も音楽室ですか?」


ヤッ子「はい。いつものように、少しピアノをお借りします」


音楽の先生「その前に……」音楽室の方に目をやる。ヤッ子も促されるように見る。


窓越しに、ステラが涙を拭いているのが見える。窓の下、見えないが、誰かと話しているようだ。


ヤッ子。心の声。「( )床に、誰かがいるのか?)」


音楽の先生「少し散歩しませんか?」


ヤッ子「はい」


▽ 場面変更 ● ── ●


校内のどこかで、雑談。偶然にも、「sus」の伏線となる話をしている。


生徒同士の話。2人か3人。


ギターを弾いている。


生徒「ナポレオンは、なぜ、赤いサスペンダーをしていたか」


生徒「それ知ってる。サスペンダーをしないと、ズボンが落ちるから」


生徒「そういえば、コードの「sus4」は、サスペンダーの「サス」だって知ってたか?」


生徒「知らなかった。確かに、3度音を、4度に吊り上げるもんな」


生徒「それが、「吊り上げ」じゃなく、「維持する」だって」


生徒「じゃあ、サスペンダーも、「落ちないで維持する」なのか?」


生徒「そう。「サステナブル」も同じ」その他、自動車の「サスペンション」維持を意味する「SUS」を含む単語があれば、背景に表示する。


生徒「でも、コードの維持って、何だ?」


生徒「コードの全体じゃなくて、コードが変わっても、変わる前の音の1つを維持したままだって」


生徒「直前のコードの音か」


生徒「維持は短い時間で終わって、今のコードの音になることを「解決」という」


生徒「だったら、「Csus4」に変わる前は、「G7」ならいいけど、「G」だったら駄目だってことか?」背景に楽譜。「変わる前の和音に、「ファ」が無い」の解説。


生徒「今は「sus4」は名前だけで、変わる前がどんな和音でもいいんだって」


生徒「つまり、今となっては、名前と実態が乖離したってことか」背景に、文字で「乖離」と、そのフリガナ。


生徒「おおっ? カイリってか」


生徒「そんな言葉って、色々ありそうだな」


生徒「何があったっけ?」


生徒「何が、あったかなあ」


生徒「たくさん、あると思うのだが……」


生徒「うーむ……」


▽ 場面変更 ● ── ●


音楽の先生とヤッ子。中庭を歩く。


中庭は、土ではなく、靴を履き替える必要のない床の設備。


音楽の先生「通り雨だったのでしょうか、雨も風も、ほんの一時( )いっとき)。ほんの少し、地面が湿っている程度ですね」


ヤッ子「はい」


音楽の先生「話は変わりますが、以前、20世紀最大の、いえ、人類最大のでしたか、文明のでしたか、とにかく「最大の発明」は何か、という話題がありまして、どれかに決めるというのではなく、様々なものが紹介されていました」


ヤッ子「最大の発明ですか」


音楽の先生「その中で、僕が面白いと思ったのは、消しゴムです」


ヤッ子「そうですか。私は、テレビやコンピュータといった、電気製品だと思いました。そうでなければ、鉄道、蒸気機関など」


音楽の先生「無論、それらも紹介されていました。僕にとっては、五線ノートで試行錯誤しながら、何度でも消しては書き直せる消しゴム。なるほどなあと思いました」


ヤッ子「確かに。それまではインクでしたものね」


音楽の先生「消しても、時が戻ることはありません。それでも、書き直すことができて、消す前の「失敗した音符」のことは、誰にも知られません。誰にも知られず、ただ、僕の記憶にだけ残ります」


音楽の先生「記憶は維持されます。やがては、記憶が朽ちて、僕自身も忘れるのでしょうか、それとも、記憶は解決されずに留まり続けるのでしょうか。それとも、事実と乖離した記憶に変わるのでしょうか」


音楽の先生「被害者は、ご自身の幸せのために、消しゴムで消して「無かったこと」にするのかも知れませんし、バツマークで「忌まわしい過去」にするのかも知れません」


音楽の先生「しかし、加害者は、泣いて訴えられた被害は「無かったこと」にしてはいけません。僕が書いた音符は「無かったこと」にできます。何度も試行して成長して行きます」


ヤッ子「あの子達は……」音楽室での、ステラと誰か( )ショージは、窓よりも低い場所なので、見えなかった)の姿を思い出す。


ヤッ子「星山君は、誰と何があったのかは、わかりません。しかし、消しゴムを使えなくて、バツマークで、解決を試みて、成長してくれれば嬉しいです」


音楽の先生。苦しさを持ちながら、静かに微笑むという表情。


▽ 場面変更 ● ── ●


校内のどこかで、偶然にも、「消しゴム」に関連する話をしている。


教室。


生徒2人の会話。2人の性別は、どちらでも良い。ここでは「俺」としているが、「あたし」としても良い。


生徒A「タイムマシンはできないが、過去に繋がることはできる」


生徒B「過去に繋がるって、どういうことだ? それは、タイムマシンじゃないのか? もし、過去に戻れるんなら、「あの日の失敗」を、無かったことにできるかも。ああっ、俺の馬鹿っ、なぜ、あんなことをしたんだ! 無かったことにしたい!」


生徒A「消したい過去が、あるのか?」


生徒B「あるんだよ! 俺の記憶は消せなくても、せめて、みんなの記憶を消したい、消しゴムが欲しい! タイムマシンで過去に行けば、俺にとっては2度目でも、みんなにとっては1度目の時間だよな」


生徒A「だから、タイムマシンじゃないから、過去や未来に、自由に行き来はできないが、時の流れに従っていれば、過去に行くことも、あり得る」


生徒B「タイムマシンは、科学的に不可能だって、証明されたはず」


生徒A「証明はされていない。「摂理に反する」というだけだ。そもそも、「時」の正体が解かれていないのだから、証明できたというのが、あり得ない」


生徒B「ところで、どうやって過去に戻るんだ」


生徒A「時は川の流れに譬えられる。流れの傾きが、所々、違うことはあっても、水が坂をのぼることは無い」


生徒B「それが摂理だな」


生徒A「ところが、相対性理論によれば、場所により、時の流れるスピードが違う」


生徒B「あっ、知ってる。ウラシマ効果だろう。場所による速さの違いが合流したら、先行していた方が逆戻りするっていうんだろ」


生徒A「その話は知らないが、相対性理論で考えて、「エネルギー急流」があり、摂理に従って、急流の反作用がある」


生徒B「意味がわからん」


生徒A「川は、本来はこのくらいの傾斜だとする。ところが、エネルギーの関係で、絶壁になった」


生徒B「その、エネルギーって、何だ? 漠然としている。ファンタジーか?」


生徒A「相対性理論でのエネルギーは、質量。質量はそのまま重力となる。ブラックホールのようなものだ。エネルギーが強すぎて、光さえも出られない」


生徒B「そうか、重力が強いから、川が急流になり、絶壁になるのか」


生徒A「ある場所で、本来とは違う傾斜があり、反動で傾斜を戻す傾斜、上向きの傾斜があると、こうなる」川の傾斜は、左上から右下に向かう。ひらがなの「し」のような絶壁があり、反動で、川の流れが、ジェットコースターのループの形。


生徒A「もしも、このループの途中の時代になって発見された科学があり、発明があったとする。それが、ループで遡ると、まだ発見される前の発明品が存在する」


生徒B「オーパーツだ」


背景に、オーパーツの説明。「時代的にあり得ない人工物。千年前に作られたオートバイなど」。


生徒A「その通り。オーパーツは、このように、時の流れが絶壁を落ちた反動によるものだ」


生徒B「それは、物理に反していないか? そもそも、反発って、何だ?」


生徒A「エネルギー保存の法則だ」


生徒B「エネルギーは、無からは生まれない」


生徒A「だから、質量による傾斜の違い。本来はこの角度なのだから、質量が大きい、重力が大きい、エネルギーは強ければ、傾斜が急になり、本来の傾斜に戻るだけなんだ」


生徒B「戻るだけだから、エネルギーは保存されたままということか」


生徒A「しかし、物理の法則に反することなど、日常的にある。エネルギーが生まれるんだ」


生徒B「まさか、日常的になんて」


生徒A。スーパーボール( )ゴムの塊のボール)を出す。「これを、この高さから落として、床に跳ね返ると、どこまで跳ね上がるか?」


生徒B「最高でも、手を離した高さまでだ」


生徒B。気付いたように、口調を強める。「床に叩き付けるのは、無しだろう」


生徒A「無論、そのような反則はしない。ところが、このように落とすと、位置エネルギーが、運動エネルギーに、等価交換せずに、より強い運動エネルギーを作る。エネルギーが増幅、つまり、新たなエネルギーが生まれる」


生徒Aが持っているのは、大きさの違う、2つのスーパーボール。大きい方には、ロリポップ( )棒付き飴。チュッパチャップスなど)の棒のように、棒の代わりにタコ糸がついている。小さい方には、中央を貫くまっすぐな穴。


タコ糸を、小さいボールの中を通す。タコ糸の端を持ってぶら下げる。雪だるまの頭からタコ糸が生えているように見える。


生徒A「よく見ていろよ」糸の端を持って、2つのスーパーボールをぶら下げ、机の高さで手を離す。2つのボールは、共に床に落ち、小さいボールが天井まで跳ねる。


生徒B。驚く。


生徒A「これが、エネルギー保存の法則に逆らう現象だ。現代の物理は、ここまで進んでいるってことだ」


字幕を表示する。「この生徒の話の、どこに誤りあったでしょうか?」



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