01_B__01_04 第1話 Bパート 分割 1 / 4
第1話 Bパート 分割 1 / 4
【 第1話 概要 】
サブタイトル:僕は余談が好きなんだ。/余談から始めてみないか。/(この中から1つだけ採用する)
OP曲前:初回なので、幾何学的なデザインから、混沌とした騒音。すっとOP曲に繋がる。
Aパート。初回なので、謎解きは少なめ、主に定義の議論。ハルが学校備品のクラシックギターで、ハワイアンギターっぽく遊ぶ。弦の中央で音色が変わるのはピタゴラスの倍音。2倍の2倍の……は同名。楽典は2次元、コードなど便利な道具を先にが面倒。
CM明け:転入したステラの、吹奏楽部の初日。トロンボーンの朝顔と、サックスのウツボカズラ。
Bパート:初回なので、謎解きは少なめ、主に音楽理論の利用方法。ハルに、倍音から音階の説明。ステラはトロンボーン担当、先輩から教わる、演奏のスライドのポジションはギターと同じ。謎解き気分の楽典を勧める。ステラはトロンボーン先輩に片想い。
Cパート:倍音を基準にした「純正律」と、ピアノの「12平均律」。トランペットはギターの倍音と同じ、ピストンで迂回は、ギターの1フレット。登場人物の簡単な紹介。
予告:玉がなぜだか傾いて、カレンダーは2か月間も足りなくて、ステラは自宅じゃこんなことをしてるんだ。ブイブイ鳴らすぜー。
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▼ Bパート。 ▼── ──▼
Aパートの音楽室の続き。
ヤッ子。第6弦で、2倍音から8倍音まで鳴らす。「この弦は、ミに調律してあるから、ミの倍音だな」
ヤッ子。ミッツに向かって。「蜜霧君、私と一緒に、ミの倍音を鳴らしてくれないか」
ミッツ。ヤッ子の「2倍音」「3倍音」……「8倍音」の、言葉と演奏に合わせて、ピアノを鳴らす。
ハル「9倍音は?」
ヤッ子「理屈では倍音は無限だが、物理的な限界はある」
ハル「あ、それ、わかります。工作をしていたら、理屈では上手くいくはずなのに、作ってみたら、思ってもいない理由で、上手くいかない」
ミッツ「要するに、下手だってことね」
ハル「違うよ。机上の空論は、経験不足ってことだ。自動車が、制限速度が時速40キロメートルの道を走っても、1時間で40キロメートルを進めない。実際は、カーブでの減速もあるし、信号待ちもあるから」
ミッツ「そんなの、当たり前でしょ」
ハル「新聞紙を、10回、折り畳むことはできない」背景に、2頭身のハルが、新聞紙を折り畳む姿。「1回目」「2回目」「3回目」と、いくつかの姿。
ミッツ「そうなの?」
ハル「ミッツは、今は、「できるはず」って思っているだろ。でも、やってみたら、できないのが当たり前だと気付く。気付いたら、なぜなのかがわかって、説明できる」
ミッツ「わかんないけど」
ハル「じゃあ、簡単に説明すると」黒板に、新聞紙の大きさの長方形を書く。
ハル「新聞紙の広さは、1回、折る度に、半分の面積になる。1回、2回、3回……」言いながら、長方形を半分に、片方の長方形を半分にという、線を書き足す。
ハル「この面積まで小さくなる」
ハル「では、厚さは何倍になるか」黒板に、上から「1回」「2回」「3回」……を書く。「1回」の右に「2倍」、「2回」の右に「4倍」、「3回」の右に「8倍」……を書き足す。
ハル「見ての通り、10回も折ったら、厚さは千倍を超過する。ということは、この小さな面積で、折り目の外側は、この厚さの分だけ迂回する。それは、不可能だ」
ハル。黒板に、折り目の外側が迂回する図を書く。トイレットペーパーを円形に見て、ぺちゃんこに潰したような図。
ハル「折り紙で鶴を折ったら、綺麗に折ったはずなのに、変な広がりができるのは、こんな感じに、外側が迂回するからだ」
ミッツ「でも、新聞紙って、薄いよ」
ハル「コピー用紙の、500枚パックが、あの厚さだから、それよりも新聞紙の方が厚いだろう」ここで、コピー用紙よりも馴染みのある紙があれば、それで説明する。雑誌のページ数、書道の半紙のパックなど。
ハル「ミッツも、実験したら、納得できるだろうな」
ヤッ子「わかりやすい例を出したな。経験した人なら当たり前でも、未経験なら思い付かないことも多いってこと」
ミッツ「そりゃ、そうだけどさ」
少しの沈黙。
ヤッ子。仁王立ちする。「さてと。倍音が音の幾何学で、謎解きができたところで、この先、もっと楽譜の謎解きができたら面白いと思わないか?」
ヤッ子。腰を90度曲げて、ハルに顔を近づける。白衣と、その下から伸びた脚が美しい。全身を横から見ると、カタカナの「ス」のような形。この時、後ろ側の脚の膝を、曲げるか曲げないかは未定。
仁王立ちの際に、手を腰に当てるが、その際に、両手で白衣を広げると、より美しい。
ハルから見ると、ヤッ子の顔は、美しい大人の女性。
ヤッ子「どう? 楽譜の謎解き、楽典。楽譜は謎が多いだろう。その謎を解く鍵が、楽典という鍵だ」
ハル「音楽をするつもりはないよ」
ヤッ子「音楽のための「学問」じゃない、「楽典」だ」黒板に「学問」「楽典」「字典」「辞典」と、そのフリガナ。
ヤッ子「こう並べたらわかるだろう。音楽の豆知識だ」
ヤッ子「無理強いされるものでもないが、謎解きゲームの標的が、楽譜だと思えば、早坂君も楽しめるだろう。好みじゃなければ、そのうちに疎遠になり、放っておくだろうし」
ハル「確かに」
ヤッ子「だから、私から楽典の進み具合を聞くことは無い。質問があれば、答えられる範囲なら、協力しよう。素朴な疑問や余談から、楽典の話になることもあるだろう。早坂君は、余談は嫌いじゃないだろう?」
ハル「大好きですね」
ヤッ子「楽譜の読み方を教わりたいが、知らない音楽用語の説明に、知らない音楽用語を使われたら、困るだろう」
ハル「困ります」
ヤッ子「ここは、コードが「C7からFmに進む」の意味が分からず、「C7って何ですか?」と質問すると、「長和音に、短7度音を付加する」となり、「長和音って、何ですか?」という状態になる」
ミッツ「ああ、そうなんですよね。ひとつのことを教えたいのに、前提知識が必要になる」
ヤッ子「そこでだ、ピアノの鍵盤の手前を隠して縞模様のように見えたり、振動数が2倍の2倍のという関係は同じ名前だとか、そういった余談から始まると、早坂君の興味に沿うだろう」
ヤッ子「演奏が目的なら、いきなり難しい曲は演奏できない。簡単な曲を上手に演奏できるまで練習する期間で飽きてしまう。楽譜の謎解きだから、簡単なことを理解したら、それを資料とした次の話に進める」
ハル「僕に、ぴったりですね」
ミッツ「演奏できる楽しみもあるし」
ヤッ子「そうなんだが、早坂君の誤解があるといけないので、今のうちに話しておくが、「楽譜の通りに演奏」とはいっても、必ずしも同じものにはならないぞ」
ハル「え? じゃあ、何のために楽譜があるんですか? 同じ演奏をするために、楽譜があるんでしょ?」
ヤッ子「音楽は音の芸術だが、それを頑張って、紙に書いたのが楽譜だ。別な形にしたのだから、完全再現は無理なのは、承知しておいてくれ」
ヤッ子「朗読劇というのがあるな。それは声による演技だが、それを頑張って台本にしても、完全再現はできない」
ミッツ「え? 演技を台本にではなく、台本を読むんでしょ?」
ヤッ子「そうだが、読み物としての台本と、声による演技とは、別なものという意味だったんだ。わかりにくくて申し訳ない。蜜霧君のイメージに沿うと、作者が頭の中で空想した演技を、台本を経由して、役者が読んでも、完全表現はできない」
ミッツ「あ、はい」
ヤッ子「台本には、セリフだけではなく、どんな言い方なのか、早口なのか、怒鳴るのか、あれこれ文字で書かれているが、同じ台本を使っても、違う演技になることはあるな」
ヤッ子「演技まで行かず、小説のように、読むまででも、人によって感想が違う。同じ人でも1回目と2回目で、読んだ感想が違う。小説の作者の頭の中の風景や味や香りを、小説で完全再現はできない」
ハル「それはそうでしょ」
ヤッ子「そこで、楽譜だ。台本なら文字を勉強して演技に変換する。楽譜は記号を勉強して音に変換する。なぜ、この記号だらけの楽譜を見て、演奏者が音にできるのか、その謎解きだ」
ハル「確かに、謎解きです。手旗信号やモールス信号、点字もそうですね」
ヤッ子「音は時間に伴っているから、完全再現は無理とか、無意味とかもあるが、再現したいから記録することもある。時間と共に瞬時に消えてしまう音を、頑張って記録する方法を工夫したもののひとつが、楽譜というわけだ」
ハル「なるほど。作曲者が、頭の中の音を、頑張って楽譜にしても、完全再現は無理。演奏者が、楽譜の記号を忠実に演奏しようにも、演奏者によって違う演奏になる」
ヤッ子「蜜霧君なら、経験があると思うが、演奏依頼に楽譜を渡す場面は多いな。無論、楽譜に限らず、録音物を渡したり、音楽以外の何かを渡すこともあるがな」
ヤッ子「西洋音楽だけでなく、他の民族音楽でも、西洋音楽の楽譜を便利に使う例はある。その逆があるのかは、私は知らないが、あってもおかしくないな」
ヤッ子「意外と思うかも知れないが、点字の楽譜も、あるんだ」
ハル「本当ですか!」
ヤッ子「音楽活動をしていると、ダンサーとの交流もある。「ダンス・ノテーション」や「舞踊譜」と呼ばれる、ダンスの動きを、紙に書く方法がある」
ミッツ「盆踊りの振付の絵のことですか?」
ヤッ子「そうだ。少し教わったが、舞踊譜だけでは、私にはよくわからない。やはり、慣れているダンサーと比べると、私は慣れていない」
ヤッ子「早坂君にとっては、楽譜は「高い音と低い音」くらいはわかるけど、正直な話、よくわからないだろう。なぜ、そんな楽譜を読んで、蜜霧君がピアノを弾けるのか、謎解きだ」
ミッツ「でも、楽器の演奏もしないのに、楽典を押し付けても、困るんじゃないかな」
ヤッ子「いや、これは楽器演奏のためじゃない。さっきも言っただろう、謎解きだ。必要があって学ぶのではなく、「楽典そのもの」を楽しむ」
背景に「楽典そのもの」を表示し、強調する。
ヤッ子「有名な「ドミソ」の和音は、なぜ有名なのかは、よく使われるからだが、なぜ、よく使われるのか。それは、いくつもの理由があるが、そのひとつは、倍音から作られたからだ」ピタゴラスが書いた、倍音と音階の黒板の前に立つ。
ヤッ子「振動数の比が、近過ぎたら響きが良過ぎて味気ない。遠ければ響きが悪いことは、さっき話したな」
ヤッ子「そこで、この4倍、5倍、6倍は、振動数の比が、4:5:6ってことだが、ドミソの和音だ。響きの濁り具合がちょうどいい」その部分だけを、四角く囲む。
ミッツ。ピアノで「ド、ミ、ソ」を鳴らす。
ハル「あ、ほんとだ」
ヤッ子「ついでに、さっきのギターでは、一番太い6弦を基音とすると……」ミからの倍音を、違う色のチョークで黒板に書く。「……こうなる。蜜霧、この音をピアノで弾いてみてくれないか」
ミッツ。ド、ミ、ソをポンポンポンと弾く。ミ、ソ♯、シをポンポンポンと弾く。
ハル「あ、似てる……のかな? よくわからない」
ミッツ。コード「C」から、半音階で「E」まで上がる。
ハル「あ、同じ感じのまま、上がった」
ヤッ子「どうだ、これが和音の謎解きのひとつだ。楽典を、謎解きとしてみないか?」
ハル「約束はしないけど、面白そう」
ヤッ子「ただし、その辺で売られている楽典の書籍は、読んでも面白くないぞ」
ミッツ「どうして? ちゃんと書いてあるのに」
ヤッ子「ああ、誤解させて申し訳ない。蜜霧君のように、しっかり学びたい読者向けだということだ。早坂君の好みとは、違うのでな」
ヤッ子「決して、楽典の書籍を否定する意味ではない。あれは、学問として「覚えるべきもの」だから、謎解きでは楽しめない。早坂君なら、どうせ本文より、欄外の余談が面白いんだろうが、余談ばかりの楽典は無いだろうしな」
ハル「あはは……」
ミッツ「余談だけが好きな人もいるけど」ショージを思い浮かべる。
ハル「ショージさんは、旅行先の案内パンフレットの、余談ばかり読んでる」
▽ 場面変更 ● ── ●
回想。
ショージ家族と、ハル家族が、旅行先の観光地にいる。
ショージ。ハルに向かって。「このお寺は、小説の舞台になっているのは有名だけど、小説家が取材に来る度に、同伴者が違ったそうだ。お寺が何年に建てられたのかは知らないが」
ショージ。ハルに向かって。「あの五重塔は、湖に映るように建てたかったから、湖をわざわざ大きくしたんだ。本来の湖の大きさは、現在の半分だったって。五重塔が何年に建てられたのかは知らないが」
ショージは、話しながら、鼻に花が咲く。ここまで、ショージの登場が少ないので、印象付けるため。お調子者で、偉ぶって話したがる性格で、鼻が特徴的というキャラ設定だと、視聴者に思わせるため。
▽ 場面変更 ● ── ●
回想が終わり、さっきの続き。
ヤッ子「楽典の書籍などは、早坂君にとっては、謎解きに行き詰まった時や、確認しておきたい気持ちになった時に、役立つだろう」
ヤッ子「音楽に限らず、様々な分野であることだが、よく似た用語があって、紛らわしいこともある。そんな時には、いわゆる「正式な資料」として、楽典の書籍や、インターネットの情報も、役立つだろう」
ミッツ「そのうち、スコアも読めるようになるかも」オーケストラを前にした、指揮者の楽譜。『青少年のための管弦楽入門』(ブリテン)の演奏。
著作権の制限があるなら、『ボレロ』(ラベル)、『シェエラザード』(コルサコフ)なども可。
スコアには、「トランペット」「ハープ」を囲み、指し棒。その楽譜の通り、印象的なトランペット、ハープ、鈴などの打楽器の演奏。
ミッツ「オーケストラを聞きながらスコアを見ると、あ、読めなくても、何となくスコアを見ていたら、書いてある通りにトランペットが鳴ってる、ハープが鳴ってるって、面白いから」
ヤッ子「そうだな。ただし、それを目標とされるのは、早坂君には荷が重いだろうから、面白がる道具がスコアだと思いたまえ」
ハル「さすが、ヤッ子先生は、よくわかっていらっしゃる。なんとなく、面白そうってだけ」
ミッツ。教科書をメガホンのように丸めて、ナレーションのような口調で。「こうして、音楽活動とは無関係に、ハルの「ガクテン」が始まるのであった」背景に「楽典」と、フリガナの「ガクテン」が光る。
ハル「何だ? そのナレーションは」
ヤッ子「今日は、さっきから定義の話をしたな」
ハル「はい、「生徒」の定義や「晴れ」の定義とか」
ヤッ子「はっきり決まる定義もあれば、場合によって変わる定義もあったな。楽典もそうなんだ」
ミッツ。驚く。「え? 決まっていなければ、演奏できません」
ヤッ子「はっきり決まっているものと、どちらでも良いからと選択を決めるものがある」
ミッツ「あっ、そうですね。確かに、どっちでもいいって、少なくないです」
ハル「じゃあ、何のための楽譜ですか?」
ヤッ子「楽譜に「公共交通機関で」と書いてあるとする。徒歩でもない、自転車でもない、自家用車でもないのは、わかるな。じゃあ、どれだと思う?」
ハル「えーっと、電車かな?」
ヤッ子「それも正解だ。乗合馬車でも正解だ」
ハル「いまどき、馬車は無いでしょ」
ヤッ子「そういうことだ。現代の日本なら、電車、バス。電車でも、駅で乗降する電車と、停留所で乗降する電車があるな」
ハル「なるほど。そのような曖昧さが、楽譜にはあるんですね」
ヤッ子「蜜霧君はわかっていると思うが、音楽教育を受けた君にとって当たり前の知識でも、早坂君は迷いながらだから、丁寧に頼むぞ」
ミッツ「はい、わかってます」
ヤッ子「それから、早坂君。学校とは違って、順番に整ったカリキュラムは無い。たまたま縁があって、君が早いうちに知っていたからって、常識じゃないこともあるぞ」
ハル「はい。え? そうですよね。何の注意です?」
ヤッ子「君が知った楽典の知識のうち、蜜霧君が知らないこともあることを、気にしておいてくれよ」
ハル「ははは、大丈夫です。でも、改めて、これからも気を付けたいと思います」
ヤッ子「じゃあ、何か謎解きしたかったら、聞きにおいで。さあ、そろそろ帰るぞ。片付けなさい」音楽室を出ようとする。
ミッツ「あ、待ってください、あたしも帰ります」
ヤッ子。振り返り、二人に向かって「セックスするなよ」この「セ……」の部分には、[ピー]が入る。
ハル。ギターを片付けながら「いつもそれを言う! 僕達、従姉弟ですよ」
ミッツ「いつも言われてるの?」
▽ 場面変更 ● ── ●
吹奏楽部の練習。
トロンボーンでは、「管」は「かん」と読む。
吹奏楽の先生「はーい、休憩は終わりです。席に着いて。ここからは、少しの時間、個人練習をしてください」
席に向かう別な女子部員が、ステラに「あせらないでね」の声かけをする。
ステラ「ありがとうございます。あ、糸くず」つまんで取り、ゴミ箱に捨てる。この動作は、ささやかな伏線。
トロンボーン担当になったステラに、同じくトロンボーン先輩が教える。
トロンボーン先輩「新しいことを始めた頃は、あれこれ教わって、その全部を覚えているって、難しいよね。だから、同じことを何度も言うけど、できてないことを責めてるんじゃないよ。早く、自然にできるように、応援する気持ちだからね」
ステラ「はい、ありがとうございます」
トロンボーン先輩「できるだけ、専門用語の説明には、専門用語を使わないように、気を付けるから」
ステラ「はい?」
トロンボーン先輩「例えば、「長調と短調」の説明として、「長音階が使われているか、短音階が使われているかの違いだ」と言っても、わからないだろう?」
ステラ「全然わかりません」
トロンボーン先輩「既に教えた専門用語だとしても、まだ定着していないうちに、その専門用語を多用して説明すると、理解が追い付かないよね」
ステラ「そうですね。「今の専門用語の意味は、何だっけ」って、思い出しながら、新しい説明を理解するのは、頭が破裂します」
トロンボーン先輩「説明して、「わかりましたか?」「はい、わかりました」となっても、まだ理解が定着していない、一時記憶のような状態だよね。しかも、よく似た用語があると、分類を誤りやすいし、混乱するよね」
トロンボーン先輩「もしも、何かの一覧表を受け取って、軽く目を通しただけの状態なのに、もう熟知しているように次々を話を進められたら、困るよね」
ステラ「困ります、困ります。だって、軽く目を通しただけなら、覚えられませんし、単語の記憶の定着もしていませんから」
トロンボーン先輩「カタカナ語ばかりで困るという話があるけど、よく使う単語が、コミュニティによって違うから、お互いに気を付けたいね」
ステラ「よく使う単語ですか」
トロンボーン先輩「例えば「スケール」って、どういう意味で使う?」
ステラ「スケールが大きいとかです」
トロンボーン先輩「ところが、音楽では「音階」のことを「スケール」と言って、同じ意味なんだ」
ステラ「そうなんですか?! 「音階」なら、意味はわからなくても、音楽の話だと思います。「スケール」なら、音楽の話だと、思い付きません」
トロンボーン先輩「衣服でも、上と下は、体の上半身と下半身の意味で使ったり、「上着と下着」という、外側と内側の意味で使ったり」
ステラ「そこで、「肌着」という言い方を使ったり」
トロンボーン先輩「そうそう、そんな感じ」
トロンボーン先輩「自動車の運転をする人なら、国道何号線とか、何々街道とか、それで話が通じるけど、違う地方から来た人なら、1つの道路に「国道何号線」と「何々街道」の、2つの名前があると、迷うよね」
ステラ「「国道何号線」と「何々街道」は、同じ道の別名のはずなのに、途中から分かれることも、あるそうですね」
背景に、簡単な路線図。
トロンボーン先輩「おっ、詳しいね」
ステラ「親戚が、引っ越しの打ち合わせで話していました」背景に「吹奏楽部の新人のステラは、引っ越して、転校して来たばかり」を表示する。
トロンボーン先輩「「鎌倉街道」なんて、あちこちに、あるらしい」
ステラ「そうなんですか?! だったら、説明に使えないじゃないですか」
トロンボーン先輩「そう。僕が頭の中に地図を思い描いて言葉で説明して、君が言葉から地図を作ろうとしても難しいだろう」
トロンボーン先輩「方向も距離も地名も、たった今、教わったばかりだし、「温泉」「坂道」は知っている単語でも、地名と合わさると、わけがわからないだろう」
ステラ「コミュニケーション実験のゲームみたいですね」
トロンボーン先輩「ここが地元の僕達、吹奏楽部員は、音楽の専門用語や、地元の地名の話を、日常会話として話すけど、近くで聞いている君にとっては、何の話をしているのか、わからないだろう?」
ステラ「全然わかりません」
トロンボーン先輩「演奏技術なら、「教えたから、できるだろう」は無茶だよね。練習して上達するんだからね。長期記憶とか、短期記憶とかは、よく知らないけど、説明を受けても、情報の定着だって、すぐにはできない」
トロンボーン先輩「演奏技術の定着に、期間が必要なのと同じで、情報の整頓と定着にも、期間が必要だよ。だから、「既に教えたはずだ」とは言わずに、思い出しやすい糸口も添えながら、話すから」
トロンボーン先輩「それでも、まあ、教わる方は難しいんだろうけど」
ステラとトロンボーン先輩。笑い合う。
ステラ。心の声。「(長期記憶とか、短期記憶の話をしたい)」ステラに指し棒で、「生物学や解剖学が好き」と表示する。
ショージ。後ろから聞こえた笑い声が気になる。
トロンボーン先輩「マウスピースは、口に押し付けない。唇の振動を邪魔せずに、空気が漏れないように、触る程度でいいから」
ステラ「はい」
トロンボーン先輩「唇を硬くしたり、柔らかくすると、出る音が変わる」下からド、ソ、ド、ミ、ソを鳴らす。
トロンボーン先輩「これは、ギターで「ハーモニクス」という演奏方法で、「倍音」なんだ」背景に、音楽室でハルが教わった、弦が8の字に振動する倍音列を表示する。
ステラ「ばい……おん……ですか」
トロンボーン先輩「そう。音は、空気がブルブルするよね。ブルブルが速いと高い音だよね。ブルブルのスピードが「2倍」「3倍」「4倍」など、どの倍音を鳴らすのか、唇の具合で選べるんだ」
ステラ「それが、さっきの、プ、プ、プ、プ、プ、なんですね」
トロンボーン先輩「そう。スライドの位置は同じで、唇の具合を変えるだけで、いくつかの音が出る。けれど、倍音は飛び飛びだ。その、飛び飛びの隙間を埋めるために、スライドを使う」
トロンボーン先輩。ファンファーレ、または、進軍ラッパのようなサンプルを吹く。第1から第4ポジションの順に、下がって行く。
ステラ「わっ、素敵」
トロンボーン先輩「吹いてごらん」
ステラ「はい」吹いてみる。それなりに、音が出る。
トロンボーン先輩「そうそう、上手い。今のは、スライドを伸ばさない第1ポジション。スライドを、この間隔……」トロンボーンの骨格を示す。「……だけ伸ばすと第2ポジション、更に伸ばすと第3ポジションとなる」ポジションを半音ずつ伸ばしながら吹く。
トロンボーン先輩「この、ポジションが第1、第2、第3とすると、管が伸びる。これは、ギターでは1フレットずつ下がって弦が長くなるのと同じ」また、半音ずつ伸ばしながら吹く。画面半分では、ギターで1フレットずつ下がりながら弾く。
トロンボーンとギターで、長くなる方向が同じになるようにする。トロンボーンとギターのどちらも、長くなる具合を、ストロボアクションのように表示する。
ステラ。吹いてみる。それなりに、音が出る。
トロンボーン先輩「ギターなら、弦の長さを、段々と短くするよね。トロンボーンは、管を伸ばすけど、ギターに合わせた説明にするなら、ここから段々と短くなる」
トロンボーン先輩。スライドを最も伸ばした所から、半音刻みで短くしながら鳴らす。
トロンボーン先輩「さっきは「この間隔」と言ったけど、伸ばして行くと、間隔は少しずつ広くなる」
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