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ガクテン   なぜ記号だらけの楽譜を見て、音にできるのか?  作者: 不定音高ふたつ
第8話 どっちがどっちだ?

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08B_01_03 アドリブは引き出しを増やす。「付点8分音符と16分音符」はシャッフルに似ていて、混同と区別がある。2等分と3等分はトントコトン。装飾音符の演奏は2種類。装飾音符の書き方は曖昧。

【前書き】


ガクテン       …… R15。人間ドラマ。楽典。

ガクテン♪ソフト版  …… 人間ドラマ。楽典。

ガクテン♪要するに版 …… 楽典。


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■ 登場人物


♪ ハル:早坂春弥(( )はやさか・はるや)。中学1年生。男。主人公。ミッツの従弟。手品と謎解きが好き。声変わり前。


♪ ミッツ:蜜霧多岐(( )みつきり・たき)。中学2年生。女。ハルの従姉。活動的。幼少の頃からピアノを習う。口の表情が豊かで、口が顔の輪郭からはみ出すことが多い。


♪ ステラ:星山空見(( )ほしやま・くみ)。中学1年生。女。不気味なメルヘンが好き。転入して吹奏楽部に入部し、トロンボーン担当になる。老若男女の誰からも、一見して好かれる、無邪気な可愛らしさ。


♪ ショージ:東海林翔児(( )しょうじ・しょうじ)。中学2年生。男。吹奏楽部でクラリネット担当。恰幅は良いが、デブではない。会話の始まりは紳士っぽいが、話しているうちに、下品な饒舌になる。


この4人の背の高さは、高い方からショージ、ミッツ、ステラ、ハルの順。小学生の高学年から、中学1年生までは、女子の方が平均身長が高いため。


♪ ヤッ子:鍵宮靖子(( )かぎみや・やすこ)。理科教師(( )専門は化学)。年齢は30代前半。女。白衣で、すらりとした黒のパンツ姿。プライベートではジャズピアニスト。姉のことが大きく影響。


♪ 学校の音楽の先生:小柄な爺さん。物静かで、とても紳士。ヤッ子にとっては、教師の大先輩。


♪ トロンボーン先輩:中学3年生。男。吹奏楽部で、ステラと同じトロンボーン担当。


♪ ムギ:大吠麦穂(( )おおぼえ・むぎほ)。中学1年生。ハルとステラの同級生。ステラとは、仲が良い。トロンボーン先輩の彼女ということは、隠している。


♪ トロール将軍:美術教師。男。40歳。身長2メートルの大柄。とても恥ずかしがり屋。小声なのに言葉がはっきり聞こえる。顔は戦っている将軍のような険しい表情。


♪ トロール将軍の妻:舞台となる中学校とは無関係。小学校の体育教師。結婚後も、仕事は継続している。幸せを見付けるのが上手。


♪ 先生ちゃん:説明コラムでの解説者。2頭身、または、顔だけ。主に、ベートーベンなど歴史上の人物。


♪ 妖精ちゃん、妖精くん:アニメ特有の表現のための、黒子の役目。妖精ちゃんが黒板に図を、とても素早く書くなど。サイズは、主に手のひらサイズ。登場人物が思い描いたものを、背景に表示する。




「百合じゃれ」「海老逃げ」は、当作品の造語です。


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▼ Bパート。   ▼──   ──▼


Aパートの続き。


音楽室、放課後。


ハル、ミッツ、ステラ、ショージ、ヤッ子。『月の光』(( )ドビュッシー)の、レガートとフレーズの区別。


ヤッ子「付点と連符の話では、「跳ねる感じ」の、紛らわしいのがあるな」


ミッツ。ちょっと意地悪な気持ちで「ねえ、ショージ。さっき『ユーモレスク』を弾いたよね。もう一回、ステラちゃんにも聞かせてあげて。サンプルで、2小節だけ」


ショージ「よーっし。しっかり拝聴してくれよ」弾く。


ミッツ「さーっすがー。じゃあさ、次は、何かアドリブでブルースを」


ショージ「俺は、ピアノが弾けないのっ! アドリブなんて無理」


ハル「ヤッ子先生は、どうしてアドリブができるんですか?」


ヤッ子「早坂君には、音階スライドなどで、「よく使う鍵盤」の話をしたな」


ハル「はい。ペンタトニックなど」


ヤッ子「「よく使う」というのは、音階だけでなく、リズムやメロディも、ジャンルによって「よく使う」というのがある」


ハル「はい」


ヤッ子「様々な「よく使う」があって、それを覚えていることを「引き出しが多い」なんて言い方をする。「引き出しを増やす」は「音楽理論を学ぶ」ということだ」


ハル「ここで言う「音楽理論」は、書籍に載っていないものも含めて、「効果的な工夫」ですね」


ヤッ子「そうだ。演奏中に、今ここで相応しい手法を用いるのがアドリブだが、大切なのは、演奏のテンポを乱さず、手法を選択して演奏することだ」


ハル「「よく使う」という手法ですか……」


ヤッ子「もちろん、効果的なら、使用例が少ない手法も覚えておく。しかし、今みたいに、ちょっと弾いてみてという時なら、雰囲気を楽しみたいのだから、「よく使う」手法が適しているな」


ショージ「でも、ブルースをアドリブだなんて」


ヤッ子「蜜霧君は、何か企みがあるんだろう。芝居じみたやり取りに乗ってみないか。コードのC7を、「ジャン、ジャン、ジャン、……」と弾いてみてくれ。メロディには、ソ、ラ、シ♭をデタラメに「タントラント」と鳴らしてくれ」


ショージ「ううーんと、こんな感じかな?」弾く。


ミッツ「ステラちゃん、わかった?」


ステラ「え? 何がですか?」


ミッツ「ショージの演奏サンプルで、2曲弾いたでしょ。2種類の跳ねる感じには、ちょっとした違いがあるんだよ」


ステラ「えっ?」


ハル「えっ?」


ショージ「えっ?」


ミッツ「なんであんた(( )ショージをツンと指す)まで驚くのよ、弾いた本人なのに。……って、やっぱり、意識していなかったか」


ヤッ子「まあ、雰囲気が似ているし、実際、3連符の意味で付点の記譜をしているものもあるからな」情報過多に感じなければ、背景に「記譜」と、フリガナの「きふ」と、説明「楽譜の表記、書き方」を表示しても良い。


ハル「シャッフルの記号の話ですか?」


ミッツ。ハルはヤッ子に返答したが、話を横取りするように。「そう。楽譜の始まりに、シャッフルのこれが書いてある代わりに、こう書いているものもある」


ミッツ。黒板に、2種類のシャッフル記号の表現を書く。「8分音符が2つ=4分音符と8分音符のシャッフル」と、「付点8分音符と16分音符=4分音符と8分音符のシャッフル」


ステラ「イコールで繋げていますが、おかしいですよね」


ハル「これは、算数のイコールの意味ではなくって、「こう書いてあれば」「イコール」「このように演奏して」の意味なんだ」


ミッツ。黒板に書いた「付点8分音符と16分音符=4分音符と8分音符のシャッフル」を指しながら話す。


ミッツ「ショージは、これとこれの、区別をしないで演奏したけど、この記号が書いていなければ、普通の演奏、つまり、区別して演奏するのが正しい。別な楽譜だもんね」


ステラ「そうですよね、それって、違いますよね」


ミッツ。黒板に、4種類のセットを書く。


セット(( )1)、4分音符。その下に、4分音符の音価を表す横長の長方形。長方形の左右の両端から、下に点線を伸ばす。この点線は、4分音符の全体の音価を表し、この下に書く例と比較するため。


ミッツ「この下にも、別な音符を書くけど、どれも、これ、4分音符と同じ時間だからね。いつものように、この横幅が、鳴らし続ける時間の意味だよ」


セット(( )2)、棒が上向きの、付点8分音符と16分音符のセット。その下に、音価の長方形。長方形は音価を4等分する線を書くが、付点8分音符は点線で区切る。音価の長方形の下には、棒が下向きの、16分音符を4つ、符桁で繋げる。


セット(( )3)、棒が上向きの、4分音符と8分音符の3連符。その下に、音価の長方形。長方形は3等分する線を書くが、3等分した左側2つの区切りは点線。音価の長方形の下には、棒が下向きの、8分音符の3連符、符桁で繋げる。


ヤッ子。ミッツが黒板に書いている間に、ミッツから演奏を頼まれることを予測し、ピアノの椅子に座る。


ミッツ「(( )3)の下の音符は、有名な『禁じられた遊び』だね。『ロマンス』っていうタイトルもあるよ」


ヤッ子。ピアノで、5小節くらい弾く。後でシャッフルと比較するので、少しテンポが速い。


ミッツ「ありがとうございます」


ステラ「ありがとうございます」


ミッツ「本当は、クラシックギターのソロ曲だけど、ヤッ子先生なら、ピアノで弾けると思いましたので」


ヤッ子。微笑みで応える。


ヤッ子。(( )2)の演奏を4回(( )4拍分)、(( )3)の演奏を4回(( )4拍分)。両方を何度か交互に弾く。左手がアルペジオで、右手は拍の頭だけ。


ステラ「これを、跳ねる感じにすると、紛らわしい」


ヤッ子。さっきと似た、(( )2)の演奏を4回(( )4拍分)、(( )3)の演奏を4回(( )4拍分)。両方を何度か交互に弾く。さっきと異なるのは、右手は拍の頭だけでなく、(( )2)は「タンタ」、(( )3)は「タンンタ」を、跳ねる感じにする。


ミッツ「どう、ステラちゃん。わかった?」


ステラ「はい、違いがわかりました」


ハル「3等分と、4等分の違いだから……12等分か!」背景に「3×4=12等分」が、輝いて表示。


ミッツ「素晴らしい! ハル、エクセレント、ハクビシン!」


ヤッ子「3等分と4等分は、どっちも「跳ねる感じ」で似ているから、ごっちゃになっていることもある」


ミッツ「跳ねる感じじゃない曲で、こだわって区別していることもあるんだよね」


ハル「例えば?」


ミッツ「よくぞ、聞いてくれた」歯をむき出しにした笑顔。


ヤッ子。ミッツにピアノを譲る。


ミッツ「しっかり拝聴しなさい」『月光』(( )ベートーベン)を弾き始める。1小節目の次は、すぐに5小節目に繋げる。


ミッツ「わかった? さっきハルが、タイトルを間違えた曲で、『月光』だよ、『月の光』じゃないよ」


ステラ「うーん、もうちょっと」


ハル「具体的に、楽譜が見たい」


ヤッ子「先に、説明用の黒板を見るのが、良いだろう。右手のメロディは(( )2)で、左手の伴奏は(( )4)だ」


ハル「あっそうか」


ミッツ。『月光』の5小節目の、3拍目と4拍目を、何度も繰り返す。


ヤッ子。黒板に改めて音符を書く。付点8分音符と16分音符のセットを、棒を上向きに。その下に、音価を表す長方形を4等分する図を書く。付点8分音符の音価は、16分音符3つ分に、点線で区切る。


ヤッ子。その下に、3連符の音価を表す長方形。その下に、3連符を、棒を下向きで。


ハル「やっぱり、12等分ですね?」


ヤッ子「早坂君は、理屈の理解が素早いな。1拍の短い時間を、12等分するのが、数学的だな」


ステラ「そんなの、不可能です」


ヤッ子「安心しろ。こんな無茶苦茶なことを、一般人には求めないから。蜜霧君は、幼少の頃からクラシック音楽に縁がある、特殊な人だからな」


ミッツ「それ、褒め言葉ですよね」


ヤッ子「もちろんだ。蜜霧君は、『幻想即興曲』が弾けるだろう? きっと、「なぜか弾けた」という経験ではないか?」


ミッツ「その通りです。どうしてわかるんですか?」


ヤッ子「早坂君は、練習してきちんと弾けるようになるだろう。12等分を忠実に」


ハル「ピアノは、勘弁してください」


ヤッ子「あはは、まあ、生徒それぞれを、推測してみただけだ。そっと紹介はするが、無理強いはしない。所詮、他人の心なんて、正確に把握するなんて無理だとは、自覚している」


▽ 場面変更 ● ── ●


下校中の生徒2人。


偶然にも、同じ時間(( )音符での音価)を、異なった等分をする話をしている。


生徒A「手拍子で、左手が2等分、右手が3等分を、同時にできる?」


生徒B「どういうこと?」


生徒A「まず、両手で普通に叩くと、こうだよね」自分の腹か胸を、両手で同時に、ゆっくり(( )80BPM程度)叩く。


生徒B「うん」


生徒A「右手だけ3等分すると……」左手はさっきのまま。右手だけ3等分になる。「……こうでしょ」


生徒B「うん、わかる」


生徒A「じゃあ、今度は、左手を2等分にすると……」同じテンポで、右手は3等分しないで、左手だけ2等分する。「……こうでしょ」


生徒B「うん」


生徒A「これを、左右で同時にする」


生徒B「えー、無理だよ。ちょっと、やってみるね……」やってみるが、混乱している。「……やっぱり無理」


生徒A「実はこれって、「トントコトン」で簡単なんだよ」


生徒B「トントコトン?」


生徒A。両手で同時にやってみる。


生徒B「本当にトントコトンだ」生徒Aに合わせてやってみる。ちょっと混乱するが、できる。


生徒A「できたじゃない!」2人で喜ぶ。


生徒A「でもね、叩きながら、突然、片手だけにすると、混乱するよ」


生徒B「叩きながらっと……」両手でトントコトンをして、急に片手だけになると、できない。「……本当だ、なんでぇ?」


2人で笑い合う。


▽ 場面変更 ● ── ●


さっきの続き。


音楽室、放課後。


ハル、ミッツ、ステラ、ショージ、ヤッ子。『月光』(( )ベートーベン)の、12等分。


ヤッ子「ところで、音価の誤りと言えば、早坂君、この曲は、どう思う?」さっき出した楽譜集から、『春の歌』(( )メンデルスゾーン)のページを開く。「これだ」


このページにも、手書きメモが、たくさんある。主にコードネームが手書きされている。


ハル「えーっと、これは「2/4拍子」だから……」背景に手拍子の楽譜。拍子記号から「4分音符」「2つ」の差し棒。その下に、8分音符2つを符桁で繋いだものを、2セット。


ヤッ子。2小節目の上段を指して「ここ、8分音符が4つで正解だが、右手でAさんとBさんの、2人分があるからな」楽譜が、AさんとBさんを色分けされる。


ここでは、1小節目のAさんに16分音符があるので、2小節目から確認するように指示したが、1小節目からの確認でも良い。


ハル「はい……。Aさんは正しい」背景に、大きく2小節目。「これは下向きの棒があるけど、玉を共有しているから、足し算しないのかな。足し算すると、溢れるし」


ヤッ子「ふふーん。いいねえ、様々な可能性を思い付くのは、早坂君が謎解きをたくさん練習したからだろうな」


ヤッ子「そして、どの可能性が当たりなのか、答えは1つだろうが、確認するまでは、全部の可能性は未確認状態だと認識している」


ヤッ子「だったら、次の小節はどうだ?」


ハル「えーっと。やっぱり、これも溢れる。ヤッ子先生、やっぱりAさんはぴったりなのに、Bさんは溢れます。これも、市販の楽譜なのに、誤りですか?」


ヤッ子「これは正しい。玉が小さい音符があるだろう、それを無視したら、どうだ?」


ハル「えっと、もう一度計算します」


ヤッ子「まだ慣れていないから、ゆっくり計算したまえ」


楽譜の、装飾音符が赤く点滅し、ゆっくり消えて行く。または、薄い水色になる。


ハル。「小さい音符を無視したら、ぴったりです」


ここまで、画面の一部に、楽譜を表示したまま。ハルが迷っている間、視聴者も確認するため。ずっと楽譜だけの画面なら退屈なので、ハル達の顔も表示する。


とはいえ、画面に表示された楽譜で確認視聴者もいるので、楽譜の表示を邪魔しない程度に、ハル達の顔を表示する方法が良さそう。


ヤッ子「そうなんだ。その、小さな音符は、「装飾音符」だ。音符の玉が小さいから「小玉」とも呼ぶ」背景に「装飾音符」と、そのフリガナ。「装飾」の部分を、ぼんやり色分けし、「飾りの意味」と指し棒。


近くに「俗称は「小玉」」と、フリガナも表示する。


ショージ。ステラに小声で。「普通の音符は、肉食音符」


ヤッ子。ショージに注意。「学んでいる最中の者に、嘘は言わないの」ショージの背景の「肉食音符」に×を付ける。


ショージ「棒が短く、玉も小さいと、ものの数ではないってことですね」


ミッツ。ショージに向かって。「冗談は面白いけど、いつでも喜ばれるとは限らないよ。今は真面目に学びたい気持ちが強い時だから、冗談はダメ。特に、下ネタや、下ネタもどきは、喜ばれるどころか、邪魔なだけ」


ヤッ子。無反応な普通の口調で「つまり飾りの音符ってことだ。歌でいえば、コブシが回るようなもんだ」


ハル「民謡や演歌の?」


ヤッ子「そう。蜜霧君、ちょうど、ピアノの前に座っているから、いいように扱って悪いのだか、これを、最初の部分だけでいいから、装飾音符無しで弾けるかい?」


ミッツ「あ、やってみます。そんな弾き方やったことないんで……」弾いてみるが、うまく弾けない。「……ああーん、やっぱり駄目です」


ヤッ子「済まなかった。みんな、蜜霧君の名誉のために言っておくが、いきなり、いつもと違う演奏は難しいもんだ」


ヤッ子。ミッツに代わって、ピアノの椅子に座る。


ヤッ子「私も挑戦してみるが、私が失敗しても、温かい目で見てくれ」テンポの乱れなく、弾ける。


ヤッ子「これが、装飾音符を無視した場合だ。早坂君、次は装飾音符も含めて演奏するから、今のテンポで、手拍子しながら、各小節の音価が正しいか、確認してくれないか。要するに、拍子が乱れないかってことだ」


ハル「はい」手拍子しながら、ヤッ子の演奏を聞く。


ヤッ子「どうだ? ぴったりだろう」


ハル「はい。綺麗ですし、なんだか誤魔化されているようです」


ヤッ子「ははは。メンデルスゾーンは、喜ぶだろうな」


ヤッ子「装飾音符は、しっかり鳴らすが、音価の足し算には含めない。ということは、どこかの隙間に、そっと潜り込ませるのが、装飾音符だ」


ハル「そっと潜り込ませるって、雰囲気はわかるけど、釈然としない」


ヤッ子。ピアノをミッツに譲り、黒板に大譜表。右手の段は、16分音符2個を符桁で繋げた装飾音符で「ドレ」の次に、4分音符の「ミ」。左手の段は、4分音符の「ド」だけ。


ヤッ子「これを弾いてみるが、弾き方には2種類ある」


ヤッ子「これとこれが同時の場合と」両手の4分音符同士を点線で繋ぎ「a」を添える。


ヤッ子「これとこれが同時の場合だ」右手の装飾音符の先頭から、左手の4分音符を繋ぐ、曲がった点線に「b」を添える。


ヤッ子。「a」を指して「これの場合は、装飾音符は、本当の手拍子よりも、少し早いうちに鳴らす」


ヤッ子。「b」を指して「これの場合は、普通の音符は、本当の手拍子よりも、少し遅く鳴らす」


ヤッ子「左手は、装飾音符が無いから、正しく手拍子のタイミングだ」


ヤッ子「右手は、装飾音符があるから、4分音符を左手と同時にするか、装飾音符を左手と同時にするかだ」


ヤッ子「説明するより、実際に演奏した方が納得できるだろう」手拍子を始める。


ヤッ子。手拍子を続けながら「蜜霧君、捲土重来だ。aを何回か連続して演奏してくれないか」


ミッツ「はい」演奏する。


ヤッ子。手拍子を続けながら「素晴らしい。今度はbを頼む」


ミッツ「はい」演奏する。


ヤッ子「バッチリだ」


ミッツ。aとbを、2回ずつ交互に演奏。「a」演奏。「b」演奏。「a」演奏。「b」演奏。


どちらの演奏をしているのかわかるように、画面の楽譜の白い部分を、aとbを交互に、ぼんやりピンクにする。


または、以下の工夫をする。


工夫の案1:楽譜を移動する縦の赤い線。赤い線が左から出現し、右に移動する。


工夫の案2:打鍵した瞬間、音符が赤くなる。


工夫の案3:太鼓の達人のように、打鍵タイミングが上から鍵盤に向かって来る(( )振り降りる)。打鍵タイミングが向かって来る時、指し棒も一緒に動いて「同時」「少し早い」「少し遅い」の図示。


工夫の案4:ピアノロールの長方形を用いる。手拍子の時刻の線も添える。


ミッツが、4回ずつ、交互に演奏する。ハルの顔が、どんどん晴れやかになる。


ハル「わかりました!」


ハル「本当なら、同時に鳴る音符は、縦を揃えるんですが、今は説明のために、「b」はずれた位置にしているんですね」


ヤッ子「ああ、そうか。そういった解釈もあるのか」


ハル「はい」


ヤッ子「早坂君は、「b」の楽譜は、こう書くのが正しいと考えているのだろう?」改めて、似た楽譜を書く。右手の装飾音符の「ド」と、左手の音符の、縦が揃っている。


ハル「そうです」


ヤッ子「確かに、このように書けば、「a」と「b」の、どちらの演奏をすべきか、明示できるな。しかし、小玉は楽譜上でも、そっと忍び込ませるんだ」


ショージ「つまり、棒が短く、玉が小さいのは、ものの数に入らないってことだ」


ヤッ子「こんな、ほんのちょっとの装飾音符でも、あるか無いかで、随分と雰囲気が違うもんだ。例えば、この曲はどうだ?」スマホを出して、曲を鳴らす。


鳴らす曲は、当アニメのBGM。装飾音符の多い曲。


ヤッ子「聞いたことがあるだろう?」


ショージ「どこで聞いたか覚えていませんが、凄く馴染みがあります」背景に「当アニメのBGMです」を表示する。


ヤッ子「これの装飾音符を無視したら、こうなる」スマホで鳴らす。背景に楽譜。差し棒で「この装飾音符を無視すると、こうなる」と示す。


ハル「聞き比べて、初めて気付きます。装飾音符が、いい感じですね」


ステラ「ファッションでも、小さなアクセサリーが、あるのと無いのとでは、随分と違います」


ヤッ子「ついでに言うと、装飾音符には、棒をカットするような線が、あったり無かったりする」


ショージ。慌てて股間を両手で護る。


ヤッ子「カットするような線があると、短前打音で「とにかく素早く」の意味。線が無ければ、長前打音で、装飾音符なのに「この音符の音価を使え」の意味」背景に「短前打音」と「長前打音」と、そのフリガナ。


ハル「なんでー?」


ヤッ子「などとなっているが、どっちの書き方でも短前打音を意味することもある」


ハル「これも、曖昧なんですか」


ヤッ子「言葉と似ているかな。時の流れと共に、言葉の使われ方が変わって、それが通用するようになると、辞書にも新しい意味と、元々の意味の、両方が載るようになったり。同じ辞書でも、版によって内容が変わることは、珍しくない」


ステラ「それで、さっきは、カットするような線が無くても、短前打音にしたんですね」


ヤッ子「そうだ。しかし、元々の意味も一緒に教えたから、私がデタラメを教えたとは思うなよ」


ステラ「ところで、aとbの、どっちが正しいんですか?」


ハル「そう、教えてください。演奏の違いがわかって、嬉しいんですから」


ハルとステラが、揃って晴れやかな笑顔。


ヤッ子。同じく、晴れやかな笑顔で応える。「どっちでもいい」


ハル。晴れやかな笑顔が、残念そうに固まる。「どっちでもいいって、ちゃんと教えてください」


ヤッ子「だから、決まっていないんだ。『春の歌』ではaで弾く。ショパンの曲は研究結果としてbだという話があるが、プロの演奏を聞くと、ショパンの曲でも、aの演奏もある」


ヤッ子「要するに、決まっていない。芸術であるから「正しい」「誤り」ではなく、どっちが面白いかだ」


ハル「じゃあ、『月の光』の2連符も、誤りではないんですか?」背景に、『月の光』の2連符の部分。


ヤッ子「ああ、あれか。はっきりした答えを知りたいか?」


ハル「はい! 知りたいです」


ヤッ子「よし、はっきり言おう。「わからない」だ」


ハル「そりゃ、逃げっていうことでしょう」


ヤッ子「責任逃れと思うこともあろうが、私が連符を決めたのではない。誰かが決めたのだ。だから、いくつかの資料を比較することと、それを紹介する以上に、できることはない」


ヤッ子「そもそも、専門家でも意見が分かれているんだ。私が決着を付けられるわけがない」



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