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ガクテン  作者: 不定音高ふたつ


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06_A__04_04  第6話 Aパート 分割 4 / 4

第6話 Aパート 分割 4 / 4


【 第6話 概要 】

サブタイトル:音楽を自由に楽しんで、何が悪い!

OP曲前:ヤッ子の姉、鍵宮美音( )かぎみや・みね)が、ポップスのバックバンドのコンサートに急遽の出演依頼を受け、失敗。クラシック音楽の基礎はあるが、ポピュラー音楽は経験が無いため。

Aパート:ジャズを簡単に書き直す。シャッフル記号とスウィング。フォルテシモでショージが抱き着く。sfz。長調と短調のジェンダーを宇宙人に教える。「シ、ド」でツナ缶効果。ロックは揺れる。教会旋法。ステラの海老逃げ。

CM明け:左手がテンポ、右手がメロディを叩くのができない。

Bパート:ステラがヤッ子に、吹奏楽の相談。ヤッ子が、姉である鍵宮美音( )かぎみや・みね)の話をする。ピアノは好きではないが、継続を強制され、できない仕事を強制され、投身自殺。

Cパート:将来の夢は世界征服。若いなら何でも。シメジ婆さんが言ってた。夢がたったひとつなら、叶わなかったら悲しいね。夢がたくさんあれば、どれかひとつでも叶えば嬉しいって。

予告:猫の肉球がプニプニで、ハルは突然すごくギターが上手になり、ヤッ子がモーツァルトに一喝。酔っぱらっちゃったぜい、ぐでんぐでんだー。


 ○ --- ○ --- ○


ここから本文です。

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ヤッ子。黒板に、長調と短調の説明を書く。


黒板の上段に「長」、下段に「短」と書き、それぞれの文字を横長の楕円で囲む。


黒板の上段の、楕円の右側には、上段と下段のそれぞれに、全音符を3つ重ねて、和音を表す。これは後に、「長3度」などの文字を追加する。


黒板の上段の、和音の右側には、上段に「ド」、下段に「ラ」と書く。


黒板の中段に、上下の楕円の横幅の範囲内に、「○調」「○和音」「○3度」を横並びに書く。


その右側( )上下段の全音符の位置)に、「主和音-主音」と書く。


ヤッ子「この○の中には、上の楕円の「長」か、下の楕円の「短」が入る」


ヤッ子「長調、長和音、長3度、ド。……短調、短和音、短3度、ラ」ヤッ子の言葉に合わせて、文字を強調するように、色が付く。


ヤッ子「長と短の、どっちが主和音に使われているか、これが、長調と短調の区別。理屈はこのように単純だが、単語の意味が漠然としているのが、もやもやするだろう」


ショージ。手で「もやもやぁ」とする。


ヤッ子「歌が「ああ、終わった」という感じで、しっかり終わった時、メロディは主音を歌い、和音は主和音を鳴らしている」黒板の「主和音-主音」を指す。


ヤッ子「鍵盤モノサシで、音階スライドをどの鍵盤に合わせていても、メロディは「ド」と「ラ」の、どちらか」


ステラ「それ以外は無いんですか?」


ヤッ子「それ以外は、ややこしいから、今の説明では割愛する」


ショージ。ハルの股間を触る。ハルに耳打ち「割礼する」


ヤッ子「宇宙人に男女の違いを説明するような状態だから、「必ずしも、そうとは限らない」に、話を広げることはしない」


ヤッ子「和音の種類は、大雑把に4つ「増和音、長和音、短和音、減和音」があり、完全終止の時は、長和音か短和音のどちらかで終わっている」


ハル「それも、コードネームのスロットマシンですか?」


当話の、ロックンロールのスリーコードの話で表示したスロットマシンを再表示する。根音に指し棒で「ロックンロールの主要三和音で利用」と表示し、次に、和音の種類に指し棒で「ここで長調と短調の説明をする」と表示する。


ヤッ子「そうだ。和音の種類の、4つのうち、ここでは「長和音」と「短和音」だけを使う」


ヤッ子「完全終止の時、長調は、長和音が鳴って、ドで終わっている。短調は、短和音が鳴って、ラで終わっている」ピアノで、長調の終わり方と、短調の終わり方の例を演奏。


ヤッ子「早坂君。長和音と短和音は、覚えているな」


ハル「はい。英語では「メジャーコード」「マイナーコード」ですね」


上段( )長調)の全音符の、根音と3度音を示して「ド」「ミ」と書き加え、「長3度」とする。下段( )短調)にも、同様に「ラ」「ド」「短3度」と書き加える。


ヤッ子。音符を指して「長調は、メロディがドで、長和音で、長3度。短調は、メロディがラで、短和音で、短3度」


ヤッ子「長調も短調も、その時に鳴っている和音は「主和音」で、鳴っているメロディは「主音」という」


ヤッ子「このように、長調は長だらけ、短調は短だらけ。謎はいっぺんに解けて、清々しいだろう」


ハル「はいっ!」


ステラ「「3度」っていうのは、聞いたことがありますけど。音符の玉が、くっ付いているんですよね」


ショージ「指折り数えるんだよ。「ド、レ、ミ」とか「レ、ミ、ファ」とか、順番に」


ステラ「♯と♭は、どう数えるんですか?」


ショージ「まずは、数えてから。その後で、♯と♭を考える」


ステラ「先輩達が、長3度とか短3度とか言っていて、3度はわかるんですが、長とか短が、よくわからなくて」


ショージ「ドからミまでは、トロンボーンのポジションは、いくつ離れている?」


ステラ「えーっと、1、2、3、4。4つです」


ショージ「では、レからファまでは?」


ステラ「……3つです」


ショージ「4つ離れていたら長3度。3つ離れていたら短3度」


ステラ。弱気な声で。「はい……」


ショージ「ドからミ♭までなら、3つ離れているから短3度」


ステラ「?」


ショージ「だから、ド、レ、ミって数えて3度で、ピアノの鍵盤なら、その間に黒鍵が2つあって長3度。でも、レ、ミ、ファの3度なら、黒鍵が1つだけだから、短3度」


ステラ。不安そうに、ヤッ子を見る。


ヤッ子。微笑んでハルに言う。「早坂君なら、説明できるか? 「他人に説明できて、初めて自分で理解できる」といわれるしな」


ハル「はい」


ハル。他人に説明するのが初めてなので、少し緊張。「トロンボーンのポジションの刻みは、ギターのフレットの刻みと、意味は同じ。今は説明のために、刻みの幅は考えない、刻みの数だけで、えーっと、説明するよ」


ステラ「はい」


ハル「刻みのどこから始まっても、この幅……」両手で、4つ分の幅を表現。「……この幅が長3度だとすると、どこから始めても……」両手を移動させる。「……長3度。」


ハル「さっきより、少し狭いと短3度で、どこから始めても短3度」両手の幅を少し狭くし、同じように両手を移動させる。


ステラ「あ、距離ですね」


ハル「そう、距離。普通は、音痴だと「音程が悪い」って言うけど、ここでは「どれくらいの距離か」ってのが、音程」


ハル「今は、「長い、短い」で、曖昧に腕の幅で表現したけど、刻みの数を数える」


ステラ「じゃあ、必ず、刻みが3つ離れていたら、短3度なんですね」


ハル「そう! その通り! と、言いたいけど、ショージさんのド、レ、ミと指折り数えることとセットにする」


ステラ「セット?」


ハル「そう、セットにするってのを教わっていなかったから、バラバラに考えるから、よくわからない」


ハル「ド、レ、ミ♭なら3度。でも、ドからレ♯なら2度」


ステラ「2度ですか?」


ハル「そう、レ♯とミ♭は、ピアノでは同じ鍵盤だから、刻みの距離も同じ。でも、その前に指折り数えたから、同じ距離でも、2度と3度の、呼び名が違う」


ステラ「なるほど。よくわかりました。でも、すぐに忘れそう」


ハル。困ったように、頭を掻きながら、上体を起こす。「そうなんだよ。半音を、つまり、刻みを数えるのと、指折り数えるのを、両方を数えると、ややこしいんだよな」


ヤッ子「早坂君。音楽の先生からもらった、鍵盤モノサシを持っているかい?」


ハル「はい、あります」取り出す。そこには、左側の鍵盤には低いドから上に向かった音程が書かれてある。右側の鍵盤には、高いドから下に向かった音程が書かれてある。


ハル「あっ、そうだ、これだよ。ステラ、これを見てごらん」


ショージ「こらっ、ステラ様を、呼び捨てにするなっ!」


ハル「ああ、済みません。星川さん、これを見て」背景に「星川」の文字が表示される。


ステラ「星山です。呼び捨てでステラと呼んでください」背景の、ハルが誤った「星川」の文字が、ブルブルと振動して「星山」に変わる。「星川」の文字にバツ印を付ける手法はしない。


ハル「低いドから上に向かうと、必ず「長」か「完全」のどちらか。逆に、高いドから下に向かうと、必ず「短」か「完全」のどちらか」


ハル「必ず「長」か「完全」というのは、何らかの理由かは知らないけど、偶然にこうなっているから、暗記に大いに役立つ、利用できる」


ハル「だから、3度があったら、「この3度は、「ドからミ」と「ラからド」のどっちと同じか」で判断すればいい」


ハル「2度と3度以外の、4度とかもっと長い距離なら、トロンボーンのポジションで半音を数えるのが大変だから、この鍵盤モノサシが便利だね」


ハル「先に「何度かな?」と指折り数えて、どっちと同じかなで、長と短のどちらかを確認する」


ステラ「じゃあ、6度だったら、えっと、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ。ドからラまでの距離と同じなら長6度、ですね」


ハル「そう! ドから上に向かうのと同じなら長6度、短ければ短6度」


これまでの説明の背景では、ショージが嫉妬した顔で、何度か画面内に登場。ハルの説明を邪魔しないように、二人の向こう側から画面内に入る。ハル達の後ろから、画面の横から、画面の上から入って来る。


ヤッ子「ところで、早坂君。ここ、長和音なら、根音から長3度だから、3度音から5度音までは短3度だな」黒板の、全音符を3つ積み重ねた箇所を指す。


ハル「はい」


ヤッ子「だったら、説明をしっかりと、詳しくするためには、「3度音から5度音までは短3度」ということを書くべきだと思わないか?」


ハル「え? あっ……、ああ、そうかも、です」


ミッツ「決まっているんだから、書かない方がいいかも……ですか?」


ヤッ子「その通り」


ステラ「どういうことです?」


ミッツ「今は、できるだけシンプルな説明をしてるでしょ。長調のところに「短3度」って書くと、紛らわしい。「長」の話に「短」が混ざるから。どうせ決まっているんだから、紛らわしいのは、書かなかったの」


ステラ「決まっているんですか……」


ミッツ「そう。「犬が西向きゃ、尾は東」ってこと」


ショージ「犬が首を横に向けたり、寝転がったら、どうなんだ?」


ミッツ。きつくショージを睨む。「だから、今はシンプルに説明している時だから、余計なことは、言わないのっ」


ハル。ステラに補足説明をする。「今は、3度の長短の疑問から、鍵盤モノサシで確認する方法を知ったよね」


ハル「ここで、一旦は区切りとして、次は、音程の足し算の話にしたいんだ」


ステラ「はい」


ハル「それを、今にするか、何かの機会の時にするかだけど、せっかく長和音と短和音の話があるから、今にしようってこと」


ステラ「はい」


ハル「そこで、ヤッ子先生は「教えるべきか、どうするか」の問い掛けをして、ミッツは、「情報過多」を心配したってこと」


ステラ「ややこしいんですか?」


ハル「うん。ミッツが、「長」の話に「短」が混ざるからって言ったとおりだ。でも、頑張って説明してみる」


ステラ「お願いします」


ショージ。体中から、「嫉妬」「うらやましい」「ステラ様に」などの文字が放出している。


ハル「有名な「ドミソ」の和音を見てみよう」鍵盤モノサシを机上に置く。ステラと、顔が近付く。


ハルとステラは、向かい合わせ。鍵盤モノサシは、黒鍵側がハル、白鍵側がステラになるように置かれている。ステラ側からは正しく、ハル側からは逆さまに見える向き。


ハル「両手を使ってもいいから、3本の指で、「ド」「ミ」「ソ」の場所を指していてね。動かさないように」


ステラ「はい」


ハル「ドからミまでは、ここに書いてある通り、長3度だよね。それから、ドからソまでは、完全5度。これも、鍵盤モノサシに書いてある、そのままだ」


ステラ「はい」


ハル「そこで、ヤッ子先生が、教えたらどうかと言ったのは、ミからソまでの距離は、長3度か、短3度か。どっちだと思う?」


ステラ「これは……、どっちでしょう?」


ハル「3度には、長3度と短3度以外にも、種類はあるけど、答えは鍵盤モノサシにあるよ。というのは、鍵盤モノサシは、入門用として、よく使うものが書かれているから」


ステラ「あのぉ、言いにくいんですが」


ハル「どうした?」


ステラ「あたしの、自分の指が邪魔なので、指を離して数えたいんですが」ステラ自身の指が、鍵盤の下の音程を示す文字を隠している。ステラの指を透かして、音程の文字が点滅して、これを見たいと視聴者に知らせる。


ハル。慌てる。「あっ、ごめん。いいよ、離して」


鍵盤モノサシの向きが逆の場合、ステラは「早坂さんの指が邪魔なので」のセリフになる。


ステラ。指を鍵盤モノサシから離して、半音を数える。「ドからミ」の長3度とは違う。「ラからド」までの短3度と同じことに気付く。


ステラ。笑顔で回答する。「短3度です。この鍵盤モノサシには、「3度」が2つあって、「ラからド」までの短3度と同じ距離です」


ハル「その通り。さすが。今は、有名な「ドミソ」の和音だったよね。これを含めて、全部の長和音は、「長3度」と「短3度」の組み合わせは「完全5度」なんだ」


ハル「音程では、「3+3=5」という計算になるのは……」


ステラ。ハルの言葉に被せるように。「2つの「3度」を繋げるから、「ミ」が「のりしろ」のように、重なるんですね」


背景に2本の紙テープを表示する。それぞれ「ド レ ミ」「ミ ファ ソ」と書かれている。2本を繋げて、長い1本にする。その時、「ミ」が重なる。


ハル「そう。「ミ」が重なるから、「3度+3度=5度」になるんだ」


ハル。黒板に書かれている、音符の玉の近くに移動する。


ハル「これ、これだよ。どんな長和音も、これなんだ」


ハル。黒板の長和音の玉の、根音から3度音までの左側の「長3度」を指す。根音から5度音までの右側の「完全5度」を指す。3度音から5度音までの左側に、「短3度」を書き足す。


ハル「この、長和音なら必ず「長3度」「短3度」「完全5度」に決まっているから、「犬が西向きゃ、尾は東」ってこと」


ステラ「そういうことですか」


ハル「ああーっ、疲れたーー」電池切れのように倒れる。ステラ、ミッツ、ヤッ子が、スマホの充電器や、自転車の空気入れを使って、ハルを復活させる。


ショージ「ステラちゃん、こっちを見て。ホラホラ、短和音は、こうなんだよ」さっきハルが書き足したように、黒板の下段の短和音にも、「長3度」を書き足す。


ステラ。ハルを介抱しながらなので、軽く言う。「あ、そうですか」


ヤッ子「もちろん、曲によっては途中から長調と短調が入れ替わったり、長調かと思えば、短調の特徴があったりするがな」


ヤッ子「人間が、必ずしも男女のどちらかに分類できるとは限らないように、音楽も、必ずしも長調か短調に分類できるとは限らない」


再度、背景に、音階の名が、いくつか飛び交う。「ブルーノート」「教会旋法」「全音音階」「五音音階( )ペンタトニック)」「琉球音階」「都節」などなど。


ヤッ子「だから、宇宙人向けの、かなり限定的な説明をした」


ステラ「エビは、一生のうちで雌雄が変わったりするし、ナメクジとかは雌雄同体。深海魚では、1匹の雌に何匹も雄がくっ付くのもいる」


ショージ「ヤッ子先生は、女ですか?」


ヤッ子「女だが、文句あるのか?」


ショージ「じゃあ、男が好きですか?」


ヤッ子「恋愛対象は男だが、その言い方は不本意だな」


ショージ「じゃあ、俺のことも好き?」


ヤッ子「あーあ、女教師はゴミ箱であれっていうから、覚悟はしていたが」


ヤッ子「少なくとも、私の恋愛相手になるには、「先生にすごいと思われたい」という自己中心的な考えや、私におもねるようじゃ、駄目だな」


ミッツ「ねえ、ショージの好きな女の子って、どんなタイプ?」


ショージ「それはもちろん、ステラ様、あなたですよ」


ステラ。困った顔。


ミッツ「じゃあさ、ステラちゃん、絵がうまいでしょ?」


ステラ「え? まあ、メルヘンが好きなので、それなりに」


ミッツ「じゃあさ、ショージの言う、好きな女の子のタイプを、絵に描いてくれない?」


ステラ「はい、わかりました」


ショージ。黒板に背を向けて、話し始める。ミュージカルのように、自分に酔って歩きながらでも良い。ステラが、ショージの言葉の通りに、黒板に描く。


ショージ「顔の輪郭は、逆さまの卵型」


ステラ。黒板に逆さまの卵型を描く。


ショージ「顎は小さく、知性をうかがわせる広い額。目は大きく、黒目が大きい円らな( )つぶらな)瞳。挑戦的な少し上がり目に、長いまつげ。鼻は申し訳程度に小さい。口は、小さな顎に見合って小さい」


ショージの空想が、吹き出しで表示される。吹き出しの中に、ショージの言葉の通りに、絵が描かれる。


ショージの空想は、言葉に従って書き足される表現でも良い。最初は中庸な女の子が、ぼんやりと表示されていて、ショージの言葉に従い、変形して行く表現でも良い。


ステラも黒板に絵を描いているが、ステラの絵は、画面に表示しない。


ショージ「肩幅は、思わず抱きしめたくなるように小さい。首も、肩幅に見合って細い。指は白魚のように細く長い」ショージの空想の絵が、完成する。


手の形は、ダビンチが多用した、人差し指を出す形。『最後の晩餐』では、イエスの右隣で、顔と手だけが見えて、人差し指を上に向けている。『洗礼者聖ヨハネ』、『岩窟の聖母』でも、この形の手が描かれている。


ショージ「どうだ、これが俺の理想の女の子だ」出来上がった、空想の絵を掲げる。


ステラの描いた黒板の絵は、宇宙人のグレイ。指は、細いが節くれだっている。まつげが不気味に長い。


いきなり、グレイだけを画面に表示すると、ステラが描いたとわかりにくいので、ショージが掲げた絵から、カメラの向きを変えて、チョークを持ったステラ、ステラとグレイ、グレイのアップのようにする。


ショージ。愕然とする。


ミッツ「髪の毛のことを、言ってなかったよね」


ミッツ。黒板のグレイの指( )ダビンチが多用した形)と、「E.T.」のように指先を合わせる。くっ付いた指先が、ハートマークで光る。


ショージの話と、ステラの絵の、両方に、まつ毛など、メルヘンだが、グレイなら不気味になるものがあっても良い。


▽ 場面変更 ● ── ●


休日。


ストリートピアノ。


音楽の先生が弾き終わる。


続けて、20歳くらいの若者が弾き始める。


客の一人が、音楽の先生に話し掛ける。音楽の先生は、短い応対をするものの、すぐに会話をやめる。


音楽の先生「演奏を聴きましょう」


若者は流行歌を演奏している。ボカロ曲やアニメソングが、ここでの話題に相応しそう。


演奏終了。


音楽の先生。拍手をしながら、演奏を終えた若者に話し掛ける。「お上手ですね」


次に演奏する人がいない。少し、歓談の時間になる。


若者「でも、楽譜は読めないんですよ。ネットの動画で、ピアノロールを見て練習しました」


若者。スマホでYoutubeの動画を見せる。アプリ「シンセシア」のような動画で、ゲーム「太鼓の達人」のように、画面下部の鍵盤に向かって、上からピアノロールのような長方形がおりて来る。


若者が、かつて非難された回想。または、この場で、周囲の客から非難される。ピアノロールなら、楽譜が読めなくなる。ピアノを弾いているとは言えない、自分で楽譜を読んで演奏するのが正しいという非難。


音楽の先生「そんなことはありません。目の見えない人が、聞いた音を頼りにピアノを演奏するのは良くて、見える人は楽譜を読む義務があるとは、おかしいことです」


なお、楽譜には点字の楽譜もある。


音楽の先生「楽譜は、「最も普及している伝達手段」であって、「唯一の正しい伝達手段」ではない」


音楽の先生「「楽譜を読めなくなる」ではなく、「今はまだ、楽譜を読めない」。楽譜は、いつか必要になってからでもいい」


音楽の先生「気紛れにピアノを楽しむのも良いですし、必要であれば、先生に就いて、楽典を学びながら、演奏も学ぶのも良いでしょう。ご本人の需要によります」


音楽の先生「誰にも迷惑ではないのですから、楽しむことを非難する理由は、ありません」


音楽の先生「楽譜が読めるようになるには、慣れることを含めて、期間も掛かります。譬えれば、自動車運転免許の取得といった、初期投資とも言えるでしょう。その後、楽譜をスラスラ読めるようになることは、運転技術の向上に譬えられます」


音楽の先生「自動車と異なり、ピアノ演奏では、楽譜を上手に読めなくても、危険はありません」


若者「わかります。自分で運転しなくても、タクシーを使う方法もありますよね」


音楽の先生「そうです。自分で運転するのが好きなのか、好きでもないが、時々は必要になるのかにもよります」


若者「外出するなら、自動車にこだわらなくても、自転車や歩きでもいいですし」


音楽の先生「それが、あなたがご利用なさっている、ピアノロールということです。タクシーで観光をするなら「ドライブ」とは呼ばないだけで、邪道ではありません」


中年男性が弾き始める。曲目は、1950年から1980年代の映画音楽で、ゆっくりしたもの。弾けてはいるが、上手ではない。


中年男性。弾き終わって、音楽の先生と、若者の会話に加わる。


次に演奏する人がいない。少し、歓談の時間になる。


中年男性。若者に向かって。「おたく、上手だねえ」


若者。あまり話したくないのか、少しの笑顔で、伏し目がちに首を振る。


中年男性「俺なんかよ、子供が独立してから弾き始めたから、指も動かねえし」


音楽の先生。中年男性に向かって、若者が楽譜を読めないことを話す。「こちらの方は、音楽教育を受けずに、見よう見まねで練習なさったそうですよ」


若者。音楽の先生に促されて、練習に使っていたスマホの画面を見せる。


中年男性「ほう、そうか、頑張ってるな。こんな方法も面白いな」


中年男性「ピアノが上手な人に対して、俺が思っていることは、2つあるんだ。1つは、練習できる時間が、潤沢にあって、羨ましいってこと。もう1つは、その時間を、きちんと丁寧に練習したんだなってことだ」


若者。中年男性に向かって話すが、目線は下を向いている。「はあ、まあ、ピアノが好きなんで」


中年男性「そうか、好きなことがあるって、幸せだな。好きなことができるのも幸せだ。おたくが普段、どんな生活をしているのかは知らないが、少なくとも、好きなピアノが弾けるってことは、嬉しいな」


音楽の先生「楽器演奏に限らず、様々な技術、これには、人付き合いも含まれて、骨( )コツ)を教わりたくなります。骨を教われば、暗中模索よりも短期間で技術向上できますが、その場ですぐに、できるようにはなりませんね」


若者「はい、練習しました」


中年男性「立派だ! ピアノも、人付き合いも、勉強や練習できる環境が大切だな。その前に、そもそも嫌いにならない環境が大切だな」


音楽の先生「そして、先程も仰ったように、その環境の中で、きちんと練習したのが、素晴らしいです」


若者「褒められ過ぎるのは、ちょっと」


中年男性「あっはっは、そうか」


若者「自分なんて、まだまだ下手です。足りないところもありますし」


音楽の先生「1曲の演奏で、万人に喜ばれるのは不可能です。若者向けのお店では、高齢者からの人気が低く、高齢者向けのお店では、若者からの人気が低いのと似ていますよ」


中年男性「「好みじゃない」って言われるのは、悪口じゃない。俺なんかは、家族から「うるさいから、やめろ」って言われるんだぜ。泣いちゃうよ」


誰かが、ピアノを弾き始めたので、3人は会話をやめる。若者は退席。


弾いているのは、若い女性。ラフマニノフか何か、大衆向けではないものにするか、未定。「芸術的には高度でも、大衆向けではない曲を好む人」への、ステレオタイプは避けたい。


弾き終わった若い女性は、音楽の先生と、中年男性の会話に加わった。


音楽の先生「ラフマニノフですか。確か、前奏曲の……」


若い女性。曲目を言う。


中年男性「音色が違うように聞こえたけど、同じピアノだから、弾き方かい?」


若い女性「ええ、和音の美しさが、はっきりと聞こえるように弾きました」


中年男性「いくつかのハンマーを、使い分けたように聞こえたな。金槌に種類があるって、知ってるかい?」


若い女性「いいえ」


中年男性「そうかい。叩く面が、四角いものと円形のもの。平たいものと、少し膨らんだものがあるんだ。聞いていて、平面になった、膨らんだのになった、なんて、聞きながら思った」


音楽の先生「音大出身ですか?」


若い女性「はい。現在は……」音楽普及の活動を行っていることを話す。


中年男性「さっき、おたくが弾いていた時に見てた楽譜、あまりメモを書いていないね」


若い女性。訝しい( )いぶかしい)顔で。「はい」


中年男性「俺の勘違いが訂正されて、良かったよ。クラシック音楽の人は、楽譜に、すごく書き込みをしているってのが、間違いだったんだな」


若い女性「子供の頃は、たくさんしていました」


音楽の先生「人によりますし、年齢や、専門や、目的によっても違うようです」


中年男性「あんなに、ごちゃごちゃした楽譜を、よく読めるなあって、それだけ頑張ったんだなって思う」


若い女性「あまり、こういうことは、言いたくないのですが、みんな泣きながら、勉強しています」


音楽の先生「大雑把に言えば、「楽典」と「音楽理論」のうち、音楽理論という便利な道具を、使いこなせるように、皆さんは努力しているのですね」


中年男性「俺は、そんな難しいことは、わからん」


音楽の先生「僕が若い頃、音楽を教えるのが下手で、「音楽は面倒だ、難しい」と思わせてしまったことを、今も申し訳なく思っています」


中年男性「ほほう」


音楽の先生「楽譜は、高い低いは見てわかりますので、「どれだけ高いか」と、右に進むのは見てわかりますので、「どのタイミングか」だけです」


音楽の先生「けれど、あんなにたくさんの音符を覚えるのは大変なので、グループ分けなどを知ると、覚えやすくなります」


中年男性「将棋の記譜も、デタラメに並んだ駒は覚えられなくても、対戦の途中をプロが見たら覚えられるのと、似ているんですか?」


音楽の先生「まさに、その通りです。それらが音楽理論で、「ド」と「ミ」が一緒に使われることが多いのは、どんな場合が、前後関係はといった分類があります」


中年男性「そんなの、面倒くさいな」


音楽の先生「ですから、既に先人が書籍にまとめてくれています。音楽理論は便利な道具なので、必要な時に、ちょっとだけ利用するのも良いですし、先に、道具を使いこなせるように頑張る人もいます」


音楽の先生「便利な道具を使いこなすのは大変なので、「使わない」という選択肢もあります。それなのに、使うことを強要するのは、余計なお世話だと思います」


若い女性「「道具」というのは、思ってもいませんでした」


中年男性。若い女性に向かって。「おたくは、それを全部、覚えてるんですか?」


若い女性「全部ではありませんが、いつでも需要に応えられるように、覚えて使いこなせるように、しています」


中年男性。感心する。


音楽の先生「子供は、話し言葉から、ひらがな、漢字を覚えたり、鉛筆やハサミといった道具の使い方を学びます。そこから、専門的なことを覚えるのに似ています」


中年男性「そっかあ。外国人から見たら、俺達が、ひらがな、カタカナ、漢字、数字、ローマ字、あれこれ、たくさんの文字を使うのが、不思議だって言うが、俺が音楽理論が面倒だっていうのと、似てるかも」


若い女性「確かに、私が子供の頃は、友達から「特別な教育を受けている」と言われましたが、私自身は、単にそれぞれの家庭の個性と思っていました」


若い女性「子供の頃から、家業の手伝いをしている友達も、すごいなと思っていました」


▼ CM明け。   ▼──   ──▼


CM明けの定型。他の登場人物は知らない、自宅などの場面。


ミッツ。自宅の部屋で練習。


「ぶんぶんぶん、はちがとぶ」と歌いながら、歌に合わせて、右手で机をトントン叩く。右手で歌うようなもので、「はちがとぶ」は細かく「トトトトトン」。


ミッツ「うん、できる。歌いながら、手で単調に叩くのはできるんだよね。問題はここからだ。両手でできるか」


次は、左手で、単純に拍を刻むように、机を叩く。指し棒で、左手には「単純に拍を刻む」を、右手には「メロディと同じに叩く」を表示する。


背景には、楽譜を表示する。歌の楽譜と、手拍子の楽譜の、2段セット。歌の楽譜は、歌詞付き。パート名として、歌の楽譜に「右手」、手拍子の楽譜に「左手」と書き、机を叩く演奏に合わせて、楽譜の玉が光って膨れる。


両手での演奏ができない。「はちがとぶ」が「はーがーぶ」になる。


ミッツ「ああん、難しい。どうして、両手ですると、できないんだろう」


ハル。自宅の部屋で練習。


『ぶんぶんぶん』ができて、『ドレミの歌』ができない。しかし、何回か練習すると、できるようになる。


ハル「よし、じゃあ、今度は左右を逆に」



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