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【全年齢版】放蕩者の第九王子は、呪われ王女の献身で愛を知る  作者: 逢坂とこ
第一章 放蕩者の出奔

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5. 放蕩者、企む

「王女様ぁ!?」

「こら。大きな声を出すなよ」


 あの後、ルミナと店で合流し、マダムの淹れてくれた紅茶を一杯楽しみ、アーシャに似合うネックレスを一点買い求めて──王女には当然不釣り合いな安物だったが、アーシャはそれを喜んで受け取ってくれた──王城まで送り届けた、その帰り道である。


「気付いてたから飛び出してったんじゃなかったのか?」

「違うよ。僕は……僕はなんだか、彼女が、知っている子のような気がして」

「はぁ? あの女と此処にいたころの知り合い……なわけはないか、あの年で。……なんだ、好みの女だったならそう言えよ。なるほど確かにお前の好きそうな無垢清楚系──」

「だから違うって! ウィルこそ、なんで王女様だって気付いたの? 王女様があんなところに一人でいるなんて、どう考えたっておかしいのに」

「それは……そうだな、言われてみれば」


 そういえば、『用は済んだ』と言われたきりで、アーシャが街にいた具体的な理由は聞かなかった。少しも興味がなかったからだ。じっとりとした目で見上げてくるルミナを「いいだろ、合ってたんだから」と切り捨てて、ウィルヘルムはぷいと視線を逸らして続ける。


「で、なんでわかったかって言えば、リストだよ、リスト」


 ウィルヘルムの留学先である魔法学院、そしてその付属の寮は、王城からほど近いところに建っている。時は夕暮れ、道にはもう人も疎らだ。胸ポケットの中のルミナと会話しながら、ウィルヘルムは軽く肩を竦めた。


「船の中で見ただろ。国を出る前に作ってきた、『領地持ちあるいは領地を継ぐ予定の、未婚の、性格のまともそうな女』のリスト。……アーシャ・スヴァルキアはこの国の第二王女で、国王は彼女を溺愛している。歳は、十八歳になったところだったかな。持参金には当然領地も含まれているだろうし、スヴェルダと帝国は──まださほど交易のない──友好国だ」


 人の(特に女の)プロフィールを覚えるのには慣れている。ウィルヘルムは滔々と言葉を続けた。


「スヴェルダとの関係を深めるメリットは十分にあるから、もし彼女との婚姻が持ち上がれば、レオンハルトも呑むしかないだろう。狙う価値は十分にある……まあ、本音を言えば、もっと立場の軽い女のほうがいいんだけどね」


 頭の軽さは申し分なさそうだったが、と、思い起こしてウィルヘルムは一人笑った。そんなウィルヘルムに、おずおずと、案じるようにルミナが尋ねる。


「……本気なの?」

「あ?」

「本気で、この国で婿入り先を探す……帝国には帰らないつもりなの?」


 土地持ちの女を誑しこみ、婿の座に収まることで、己の生活の基盤を作る──それが、船の中でウィルヘルムがルミナに語った計画だった。ウィルヘルムは目を眇める。


「……そういう案もあるってことさ。お前、『この国に来てみてほしかった』とか言ってただろ。帝国よりも、こっちのほうがいいんじゃないのか?」

「僕のことはどうでもいいんだよ。……レオンハルトは、『戻る場所は用意しておく』って言ってたじゃない」

「信じられるか、そんなの」


 ウィルヘルムが思わず吐き捨てると、ルミナは咎めるようにウィルヘルムを見た。ウィルヘルムが『他人を信用しない』スタンスを押し出すと、この守護精霊はとたんに不機嫌になる。仕方なく、言い訳のように付け加える。


「ああいや、あいつはもちろん、約束を守るつもりはあるだろうさ。俺に利用価値があるうちは。でもそれは、ずっとあいつの駒として生きるってことだ。あいつの駒として、女と寝ながら生きるってこと……お前だって、そういう生き方を、『女誑し』とか言って嫌がってただろ?」

「それはそうだけど……でも」


 ルミナは、迷うように一度言葉を止めた。


「でも、……だとしたら、何も変わらないじゃない。ここで女の人と結婚したって」

「……なんだって?」

「機嫌を取る相手が変わるだけだよ。ティーザ夫人からレオンハルトに、レオンハルトからその女の人に。それでいいの? そのひとが、レオンハルトより信用できる保証がどこにあるの」


 それは、あまりにも正鵠を得た言葉だった。なんなら、ルミナには珍しく、ウィルヘルムより打算的な考えであるとすら言える。ウィルヘルムは思わず顔をしかめた。


「…………じゃあ、お前は、どうしろって言うんだよ」

「……それは……」


 しゅん、と、ルミナは長い首を下げた。


「僕は……僕はただ、ウィルには、好きな人と結婚して欲しいってだけだよ。結婚相手を探すのはいい。でも、リストに従うのは違うだろ。ウィルが探すべきなのは『愛する人』だ。僕はウィルに、愛する人と幸せになってほしいんだよ」

「愛する人、ねえ」


 愛。また愛か。ウィルヘルムはそれを鼻で笑った。

 ウィルヘルムは、愛を信じない。



「じゃあ、あの女は──お前の元のご主人様は、そうやって俺を産んだっていうのか?」



 そんなわけはない。

 ウィルヘルムの父は好色なだけの国王で、数回の気まぐれに付き合わせられただけのヴィオレッタが、彼を愛したはずがない。だからヴィオレッタは、ウィルヘルムのことも愛さなかった……幼いウィルヘルムを置いて、どこかに行ってしまったのだろう。ウィルヘルムの問いにルミナは答えず──もう日も暮れようという時分、ウィルヘルムは目的地を見つけて立ち止まった。


 スヴェルダの誇る、魔法学院。


 今日からここが、ウィルヘルムの仮宿となる。そして、ここ魔法学院とスヴェルダの社交界とが、これからの、ウィルヘルムの狩場となるはずだった。



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