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【全年齢版】放蕩者の第九王子は、呪われ王女の献身で愛を知る  作者: 逢坂とこ
第四章 放蕩者は愛を知る

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29. 放蕩者は叱られる


 言い訳になるが、と重々しく口を開いたスヴェルダ国王は、アーシャによく似た、思慮深さを宿した紫色の瞳をしていた。


「かつて、帝国と我が国の関係は、今よりずっと厳しいものだった。……帝国の寵姫である魔法使いがこちらの国のために死んだとなれば、賠償金その他の問題が発生することは明らかだった」


 ただの保身だ、と思ったけれど、ウィルヘルムはそれを口には出さなかった。ヴィオレッタは全く『寵姫』ではなかったが、ヴィオレッタの死を知ったなら、帝国が『寵姫』であったことにしてスヴェルダに好き勝手な要求をつきつけたであろうことは、火を見るよりも明らかだった。他国を食い物にして膨れ上がってきた国だ。ウィルヘルムは頷いた。


「事情は理解しています。……そして、今となっては納得もしている。スヴェルダが帝国に優先的に魔道具を流すようになったのは、『罪滅ぼし』にも土台が必要だったからですね。僕をスヴェルダに呼び寄せるための土台が」


 国王は、流石にはっきりとは頷かなかった。時間がかかりすぎたとでも思っているのだろう。アーシャの善良さが彼らによって育まれたことがよくわかる、とウィルヘルムは内心で笑った。例えばこれがレオンハルトであれば、ヴィオレッタが死んだのを幸いとして、全てを闇に葬っただろう。ウィルヘルムのことも、復讐の可能性は摘む必要がある、ぐらいにしか考えなかったに違いない。ウィルヘルムは柔らかく微笑んだ。


「……お詫びをして頂く必要はありませんよ。何もかもが今更ですし。ただ」


 ウィルヘルムは、己の隣へ視線を流した。まっすぐに両親を見つめているアーシャの細い腰を、見せつけるように軽く抱き寄せる。


「罪悪感が少しでもお有りなら、僕のような詐欺師と彼女との結婚を、よもや受け入れないなどということはない……と、そう考えても」

「ウィルヘルム様!」

「うわっ」


 ぺちん、と突然頬を軽く叩かれて、ウィルヘルムは流石に言葉を止めた。視線を下ろすと、アーシャが『怒っています』の顔で眦を吊り上げているのが見える。そうしてアーシャは真っ直ぐウィルヘルムを見上げ、叱りつけるような口調で言った。


「なんですか、その露悪的な物言いは! ウィルヘルム様は私の命を救ってくれたのです、お父様方が反対などするはずがないでしょう!?」

「いや、それは……」


 結果としてそうなったが、ウィルヘルムの素行不良と、それを理由に国王夫妻が結婚に難色を示した(からアーシャが駆け落ちという強硬手段に出た)という事実は変わらない。だから、ウィルヘルムの脅迫じみた物言いは、双方にとって都合の良い落としどころを引き出すための駆け引きであって……というのを先にアーシャに言い含めておくべきだったな、と後悔するウィルヘルムを、強い眼差しでアーシャは見上げた。


「ウィルヘルム様」


 わかっている、という声だった。ウィルヘルムの身に染み付いた自虐と露悪、それを前提とした思考をこそ叱るようにアーシャは言う。


「結婚の承諾に必要なのは、そういう『条件』ではないでしょう」

「……あのな」


 ウィルヘルムは思わず呻いた。


「君、俺に何回それを言わせるんだ?」

「あら」


 アーシャがぱちりと目を瞬いて、それから、拗ねたような顔で唇を尖らせる。


「言うほど言っていただいていませんわ。昨日だって、散々ねだってやっと」

「親の前で何を言い出すんだ君は!?」


 アーシャとウィルヘルムはまだ『婚約』にも至っていない間柄だが、アーシャは堂々とウィルヘルムを自室に招くので、その関係はほぼ公認となっていると言っていい。そしてアーシャは、お目付け役の侍女がいようと構わずに、ウィルヘルムに愛の言葉を強請るのだ──今まで湯水のごとくそれを口にしてきたウィルヘルムが、どうしてかアーシャの前では上手くそれが口に出せないのがわかっているかのように。ウィルヘルムは国王夫妻の前であることも忘れて舌を打ち、それから、改めて国王夫妻へと向き直った。

 ともあれ、アーシャが正しかった。彼女はいつだって正しいのだ。婚姻の申込みの作法に、通常、脅迫は含まれない。ウィルヘルムはアーシャの腰から手を離し、代わりに、その小さな手をそっと握った。そして言った。



「……彼女を、愛しているんです」



 『緑の魔女の森』では求められなかった、愛してるとか結婚したいとか、通常求められるだろうそういう言葉が。


「そして彼女も、どうやら、僕のようなものを愛してくれているようなので。……僕の人生をかけて、幸せにすると誓います。どうか」


 結婚をお許しください、と。

 そう口にしたことで、どうやら自分は、それらを言いたかったらしいことがわかった。

 彼らに思うところが無いわけではなく、けれども過去は取り返せない。そしてウィルヘルムは、少なくとも、アーシャの両親としての彼らのことは、信じられると思ったのだった。王は静かに頷いた。「娘を頼む」と形ばかりは王らしく厳かに言った彼の言葉は、けれどもたしかに娘を嫁に出す男親の寂寥に満ちていて、ウィルヘルムはほんのすこしだけ──なんというか、溜飲が下がるような思いがしたのだった。





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