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【全年齢版】放蕩者の第九王子は、呪われ王女の献身で愛を知る  作者: 逢坂とこ
第三章 呪われ王女の事情

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24. 呪われ王女の事情・2


「『愛するウィルヘルム──その守護精霊ルミナへ』」


 エリシアは、手紙の内容を読み上げた。


「『セレスティアの呪いを受けた姫君は、日に日に衰弱しています。医療担当の魔法使いによると、見た目同様の呪いが内側にまで影響しているのではないか、ということです。スヴェルダ王家には、呪いの成就により死んだものだけでなく、短命で死んだ王子や姫君も多い。それも呪いのせいだったのかもしれない、と彼は言っていました。ときは一刻を争うようです』」


 ウィルヘルム、とは誰だろう。ヴィオレッタの恋人だろうか。ヴィオレッタはなぜこの手紙を出さなかったのだろう。考える間にも、エリシアの声は続く。


「『呪いを解く方法はありません。呪いは世界との契約であり、外側からは決して手が出せないもの。故に、絶対に、正しい方法によってしか解除されない──『真実の愛』です。私が懐かしのスヴェルダに呼ばれたのは、この呪いから姫君を『守る』ことなら可能なのではないか、という見立てによるものでした。……この仮説は、ある意味では正しく、ある意味では間違っていました。それが『呪い』である限り、やはり、『真実の愛』以外に、対抗する方法はない』」


 ただし、と、エリシアは一度言葉を区切った。


「──『ただし、呪いではないものなら、話は別です。セレスティアは『愛を得られやすくする祝福』を掛けた。それが皮肉であったとしても、そちらは、『呪い』ではなく『祝福』──魔法であるのです。故にそちらには干渉できる──『全ての魔法を跳ね返す』ような、強力な『守護魔法』をかけることによって。肉体を変化させる『祝福』さえ弾いてしまえば、当面の衰弱は避けられ、王女の存在が見た目によって忌避されることもなくなります。彼女が『真実の愛』を得て、『呪い』が正しく解かれる可能性が生まれる、ということです。残る問題は』、……『どのようにして、その防護魔法の効果を永続させるか、ということ』」


 エリシアはそこで言葉を止めた。


「『ウィルヘルム、貴方を産んでから、私は随分変わりました。子どもを見ると、貴方を思い出してしまう。姫君を見ると、小さく生まれた貴方を心配した日々のことを思い出すのです。そして思うのです。すべての子どもに、健やかに育ってほしい、と』」


 ウィルヘルムは、彼女の子どもだったのか。恐らくはアーシャと年の近い子ども。


「『長い間、貴方を一人にしてごめんなさい。ルミナは貴方を愛してくれているでしょうか。貴方は元気でいるでしょうか? スヴェルダは閉鎖的な国で、帝国と親密とは言えません。だからこの手紙も、貴方に届けることができない。それを心苦しく思います』」

「帝国?」

「ヴィオレッタは、スヴェルダ魔法学院の出身だったけれど、そのときは帝国の魔法使いだったらしいわ。……続きを読むわね。『姫君にかける魔法が完成したら、必ず帰ります。もう少し待っていてください』……ヴィオレッタはこう書き残しているけれど、彼女が、この国を出た記録はない」

「……え?」


 アーシャには意味がわからなかった。問うように見上げた先で、エリシアは言った。


「強力な呪いから、貴女を永続的に守り続けるためには、代償が必要だった……『あれは一種の事故だったのだ』と、お父様は言っていたわ」

「お父様? ……どういうこと?」

「ヴィオレッタは守護魔法を完成させた。そして、それを貴方に掛けるとき、自身の魔力ではまるで足りないということに気がついて──とっさに、術式を『呪い』に組み替えた。そして、その契約で魔力を使い果たして、……亡くなった」

「……!」


 魔力の枯渇は、生命力の枯渇である。術式を中断するという選択肢も勿論あったはずで、けれどもヴィオレッタはそこで、術式を『呪い』に変更することを選んだ。それはつまり、死ぬことを選んだということだった。自らの死後も効力を持たせ続けることを。

 彼女は最後に何を思っただろうか。ぐっと胸が詰まるような心地とともに、夢のことを思い出す。なにかに、温かく包まれているような感覚──それは、『そばにいる』という感覚だった。

 ヴィオレッタは今、『呪い』へと姿を変えてアーシャを守り続けている。それはつまり、ヴィオレッタは、ウィルヘルムのもとに帰れなかったということだった。


「その……彼女の息子、ウィルヘルムという子は?」

「それも調べた……けど、我が国と帝国は、あまり親交がないから、詳しくはわからなかったの。ただ、彼の国には『ウィルヘルム』と言う名の第九王子がいて、彼の母親が『魔法使い』であったということはわかった」

「第九王子……」


 宮廷に仕える魔法使いが王族や貴族に見初められるのは、珍しい例ではない。王子であれば、生活に困るようなことはないだろうし、相応しい扱いを受けてもいるだろう。

 けれども、幼い子供が母親を失った悲しみは、他の何かで埋められるようなものではない。届かなかった手紙、母を待ち続けただろう王子を想って胸を痛めるアーシャの前で、「それより」とエリシアは言った。


「解けない『呪い』は成立しない。だから、これが『呪い』なら、必ず解けるの。……だから今、お父様に準備を進めてもらっているわ」

「……準備?」

「『真実の愛』」


 エリシアは真っ直ぐにアーシャを見た。強い眼差しで。


「貴方は、来年で十八歳になる。成年の歳よ。お父様は、貴方を盛大にお披露目し──我が国が誇る魔法学院の門戸を国外に開く、という名目で、国外からも若者を集めてくださると言っている」


 エリシアは言った。


「『真実の愛』を、手に入れるの。呪いを解くのよ」




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