表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【全年齢版】放蕩者の第九王子は、呪われ王女の献身で愛を知る  作者: 逢坂とこ
第二章 放蕩者と駆け落ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/32

20. 放蕩者は見破られる

 また『寂しい』か。

 女はそのフレーズが好きすぎる、と内心で嘲笑ったのは、この時ばかりは明らかな虚勢だった。今までの女たちがウィルヘルムを称して言った『寂しい』と、彼女が今口にした『寂しい』との間に差などない、と思うには、彼女はウィルヘルムを知りすぎていた。ウィルヘルムの動揺には欠片も気づかず、微笑みながらアーシャは続ける。

「あとは……そう、瞳が素敵なのよ。ヘイゼルの瞳。見たことがありまして?」

 試したい、と思ったのは、何も、先刻の会話だけが──セレスティアという名の女神について、彼女が試した『愛』についての話だけが原因ではなかった。

 端的に言えば、ウィルヘルムは、アーシャの真意が知りたかったのだ。昨日のアーシャの『秘密』、イザベラを帰らせた何らかの『事情』は、やはり、知っておかなければならなかった。その問いは結局、たったひとつに収束する。我が身を投げ出してもウィルヘルムを守ろうとしたアーシャの『真意』。

 彼女は──本当に、ただ、ウィルヘルムを愛しているだけなのか?

 なにせ明日にはもう、『緑の魔女の森』に着いてしまう。アーシャは、ウィルヘルムと結婚してしまう。それでいいのか? 本当に? いや別に、結婚に愛が必要だなんて、そんな夢みたいなことを考えているわけではないのだが。そんな考えはおくびにも出さず、ウィルヘルムは軽く首を傾げる。

「……いや。特殊な色なのかい?」

「ええ。普段は、黄色がかった茶色に見えるのですけど……時折、色が変わるのです」

「そんなの、光の加減だろう。何が素敵?」

「光の加減……なのかも、しれませんけど」

 ふふ、と、思い出すようにアーシャは笑った。まるでなにか、可愛くてしかたがないもののことを思い起こすみたいに。

「でも……わかるのです。あの方の瞳は、嘘をつくときに、それが嘘であることが悲しいみたいに、淡い緑に揺らいで見える」

 息を飲む。

 それ以上の失態は、かろうじて、どうにか堪えた。──なんだって? なにを指摘された? 混乱するウィルヘルムの前で、アーシャは柔らかく目を細める。

「その正直さを、私は、とても可愛いと思うのです。……可愛らしくて、だから、放っておけない。抱きしめて頬ずりしたくなる。もう大丈夫だと言ってあげたくなる」

 もう何も言うな、とウィルヘルムは思った。自分からそう仕向けたくせに、もうこれ以上聞きたくないと強く思った。

 誰もがウィルヘルムの瞳を『不実』と言った。謎めいていて、何を考えているかわからない、神秘的な瞳だと。

 『正直』だなんて、ウィルヘルムから最も遠い言葉だ。

 なのに、それが彼女の口から出ると、まるでそちらのほうが真実のような気がしてしまう──真実であってほしいような気がしてしまう。それが恐ろしくて、ウィルヘルムはなにかに急かされるように口を開いた。

「……でも」

 悪あがきだ。

「貴方がそんなに愛する男は、今、ここにはいない……貴方を守ることもできていないじゃないですか」

 わかっていて、それでも言わずにはいられないのは、あるいは、彼女の口を塞いでやりたいという、それだけの衝動によるものかもしれなかった。ウィルヘルムは、アーシャの細い手首を掴んだ。アーシャが、驚いたように顔を上げる。

 顔を寄せる。

「……!?」

 アーシャが、咄嗟に、ウィルヘルムの胸を押しのけようとする──こんな細い手で、一体何ができるつもりなのだろう? ルミナを呼ぶことが思いつかないのは、彼女が守護精霊に慣れていないからだろうか(まあ、ルミナはウィルヘルムの守護精霊なので、ウィルヘルムから彼女を守ることはないわけなのだが)? ウィルヘルムはうっすらと笑った。

「……旅人が祭で何をしているかなんて、誰も興味はありませんよ。貴方の待ち人も、この夜のことを知るすべはない……どころか、まだここに来ないということは、貴方以外の誰かとこうしているのかも」

 顔を変えていても、表情の作り方に同じ変わりはない。ウィルヘルムは、誘惑のための表情の作り方というものをよく心得ていた。目を細め、アーシャの手首をくすぐるように撫で、甘やかすように微笑む。何もかもが許されるとでも言うように。

「そんな」

「あり得ない、と言い切れますか? ……別に、悪いことじゃありませんよ。『緑の魔女の森』に行く前に、少し、ほかの男のことを知っておいたっていいでしょう?」

「いや、ッ」

 アーシャは恐らく『離して』とでも言おうとしたのだろう。その小さな口を大きく開いて──それから、何かに気づいたようにはたと動きを止めた。

 大きな瞳が、さらに大きく、零れ落ちそうに見開かれる。


「…………ウィルヘルム様…………?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ