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二章 4

 教室の席に着くと、この場所が狭く感じた。

 大学や会社と比べて、閉鎖的な空間。

 だが、何かが満ち溢れている。

 

「なぁ隆二」

「ん?」

「俺って今高二だよな。」

「当たり前だなそりゃ。」


 普通の人間ならば、俺は未来から来たんだってことを言いたくなるだろう。

 でも俺はそうではなかった。

 まずは一人でこの時間を楽しみたかった。

 一人で新しい未来を創りたかった。


 あーこんな奴もいたな。


 改めてそれぞれを見ると、色々なことが分かる。


 男女隔てなく話すお調子者のそいつも。

 周りの目を気にしてただ笑ってるそいつも。

 ひたすらに真面目なその人も。

 一人の世界に入って、いや無理矢理入ろうとしている空気に馴染めていないその人も。


 こんなにも多種多様な人間が近くにいたんだな。


 ってか、何で俺はこんなところに来れたんだ。

 

 あー流れ星…… か。

 へー、意外と理屈のないことも起きるもんなんだな。


「お前そんなにじろじろ周り見てどうした?」

「あ、隆二、お前席どこだっけ」

「あ?何だ今更。そこだよそこ」

「そうだったね」

「いつも変だけど、より一層変だな今日は」

「うるさいよ」


 久しぶりに授業を受けた。

 癖の強い現代国語の教師をもう一度見るとは思ってもいなかった。


 せっかくの機会だと思い、俺はノートにやることリストを書いた。

 

 ・早めに勉強をする

 ・見た目に力を入れる

 ・文化祭でもっと面白い企画をやる

 ・免許をすぐに取る

 ・女子には優しくする

 ・高校メンバーで旅行に行く

 ・美琴を傷つけない


 きっと、戻ってくる前に考えていたら、もっと多くのことが思いついているはずだ。

 目の前に求めていた時代が現れた瞬間に、割と億劫になってしまうもんなんだな。


 俺はこの日から一週間、二週間と、二回目の青春を過ごした。

 久しぶりの体育。

 疲れて眠くなる社会の授業。

 チャイムと同時に走って行く購買。

 必要もないのに帰り道に寄るコンビニ。

 美琴や隆二、今でも少し交流のあるメンバーや、そうでもない奴ら。

 授業中でも放課後でも休みの日でも。

 願っていた時間を思いの分だけ過ごした。


 まぁ実際は、寝る前に考えることも多々あった。

 現代の自分はどうなっているんだろうって。

 現代の世界はどうなっているんだろうって。

 不安と少しの興味で眠れない日もあった。

 でも、それ以上に居心地が良い。


 退屈な日々を過ごすくらいなら、多少疲れが溜まろうが、こんな時間で良いなと改めて感じた。


 そして、一カ月が経つ頃、美琴に呼び出された。


「体育館の裏って……漫画かよ」

「早急に話したいことだったの」

「どうしたの?」

 このシチュエーションに見覚えが無いわけではないが、一応聞いた。


「彼氏が、隆二とのことで怒ってて……」

「俺と仲良いことに?」

「そう、彼氏がいるのにそれはあり得ないって」

「そういうことね……」


 当時の俺はこの時になんて伝えたのだろう。

 一緒に彼氏のことを怒ったんだっけな。

 鮮明に覚えてもいないし、思い出したくもなかった。


 でも、二つだけ覚えていることはある。

 俺のせいで彼氏と別れたこと。

 彼氏がグラウンドのベンチで泣いていたこと。


「美琴はさ、彼氏といて楽しい?」

「え、何急に?」

「どうなの」

「まぁそりゃ……うん。まだ付き合って3ヶ月とかだし、どこか行ったわけでも何かしたわけでもないけど…… でも、話してる時間は楽しいって、素直に思う。」


 楽しいか。


 この先の俺は、美琴を幸せにできていたのだろうか。

 心から俺との時間を楽しんでいたのだろうか。


「俺ら一回距離置こう」


「……」


 美琴はその時何を想ったのだろう。

 俺は正しい道に進んだのだろうか。


 きっと頭のどこかで、結局は俺たちが結ばれるはずだって思っていたし、一つの罪悪感から解放されて、清々しくなろうとしていただけに過ぎない。


 同じ大学に進んで、二人の時間を過ごして、最後は結ばれる運命だって、生温い確信をしていた。


 そして、その後数ヶ月が経っても、美琴が彼氏と別れることはなかった。


 その代わり、俺と美琴の間には確執が生まれ、二人で会話をすることは、数えるほどにもなかった。

 

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