二章 2
美琴と最後に会ってから四日が過ぎた。
俺の二十三の誕生日はお互いが職場で過ごした。
仕事が始まるってこういうことなのだろうと、しみじみ思う。
帰宅して、ふと思い出した。
「二十三歳の誕生日に流れ星を見ると、何でも願いが叶うんだってさ」
自然と身体が動き、ベランダへ向かう。
今日一度も見上げていなかった空に、いくつもの輝きが見える。
こんなにも綺麗なのか。と、改めて思った。
「あ……」
偶然なのか。
運命なのか。
数秒見上げた夜空の奥で、一つの輝きが流れた。
考える間も無く願う。
もう一度あの頃に戻って……
ただただ、楽しい時間をやり直せたら。
その日は何を考えるわけでもなく、すぐに眠りについた。
温もりのある光を浴びて、目が覚める。
懐かしい声と音が聞こえる。
疲れ。悩み。不安。
全てが乗っかっている身体が何故か軽く感じる。
「お兄ちゃん、はよ降りてき!」
部屋の外から聞こえた怒声は、数年前から聞かなくなった妹の声。
寝すぎたか。
過去への想いに浸っていた弊害なのか。
こんな夢も今更見るもんなんだな。
高校時代の部屋のよう。
壁には当時好きだったボーカルグループのポスターが無造作に貼られ、いつからか集めなくなった漫画の数々が部屋を荒らしている。
綺麗に畳まれた制服に視線が向いた。
「俺の記憶って意外と綿密なんだな」
こんなにも当時の様子を具現化できるもんなのかと、自分の記憶力に得意げになる。
「遅刻するってば!」
これ以上怒鳴られるのは勘弁だと、勝手に身体が動く。
「ギシッ」
上から三段目の音が鳴る階段。
こんなものもあったな…………
降りていくにつれ聞こえるテレビの音。
目が光に慣れ、玄関横に見えてくる使わなくなったバット。
優しい朝食の匂い。
リビングの扉に手をかける。
そして開くと同時に気付いた。
「ん、これって……」




