第6話 飛行艇
脱出して飛行艇もゲットできたはいいが、操作盤の赤いランプが点いたままだった。
中央の目立つ位置で存在感も抜群だな……これは絶対にダメなヤツ。
「クロエ、この赤く光っているランプなんだけど、なんて書いてあるか分かる?」
「分かるわけないじゃん」
そうだよな……。おっさんの知識は別世界の文字しか読めないし、クロエも俺も文字に触れる機会さえなかったからな。多少の文字は読めるが……。
「それは、燃料だな」
後部座席にいたジーンが操作盤を覗き込む。
「すごい! ジーンは文字も読めるんだね!」
「人界を調査するために識字は必須だからな」
調査か……。俺は脱出前から気になっていたことを尋ねてみる。
「……ジーンさんは、どうしてわざと捕まったり、人のことを調査したりしてるんだ?」
「うむ。それは、私の厄介な好奇心が一つあるな。それと、もう一つの理由については、まだ言える段階ではない」
「ふーん。なんかミステリアスな女性って感じだね。でもリオン、僕たちを助けてくれたから、悪人じゃないよ」
たしかに、無表情で何を考えているか分からないが、『赤の傭兵』から守ってくれた。
そしてクロエも身を挺して俺を……。
「というか、クロエは無茶をし過ぎだよ。ジーンが間に入ってくれなかったら、クロエまで斬られていた」
「だって……気づいたら体が動いていたんだから、しょうがないよ」
俺は軽くため息をついた。
でも、これは言っとかないと。
「……ありがとう。そうしてまで俺を助けようとしてくれたこと」
「なんだよ、いまさらだよ、そんなこと」
ぷいとクロエはそっぽを向いた。
俺も正面に顔を戻した瞬間、風景の色彩が反転した。
「んあっ?」
これは突然の『未来視』か。
へステイルの時のように、木々や山の稜線の輪郭だけが青色になって動く。俺の体は止まったままだというのに……。
未来の俺はしばらく飛び続けていると、突然天地が逆転して、地面がものすごい勢いで迫ってくる。ガラスの破片が四方八方に飛び散り、入り込んできた土くれに俺は頭を強打……。
「何か視えたのか……?」
はっと目を覚せば、ジーンの黄色い瞳がじっと俺を見つめていた。
「飛行艇が急に制御不能になって、地面に激突する未来が視えた……やばい、すぐに着陸しよう!」
「着陸って、どうすればいいいのよ!」
「とりあえず、噴射口を切り替えよう!」
離陸したときに操作したスイッチを大きく切り替えると、進行方向と逆に噴出することができるみたいだ。
次第に減速し、今度は噴射口を真下に向ける。
出力レバーで徐々に排出する空気を弱めて、なんとか平原の上に着陸した。
「ふーっ……割と簡単な操作でよかった……」
「うわー心臓がバクバクしてる……」
助手席で身を丸くしていたクロエは、ふらふらしながら立ち上がる。俺もエンジンを切って外へ出た。
緊急着陸した場所は、背丈のある草木に囲まれた平原のど真ん中だった。
「湿原地帯かな。ちょうどいい具合に飛空艇が隠れる」
「しかし、まだフレア王国からそこまで離れていないようだな」
ジーンは森と逆のほうを指差した。茂みの向こうにレンガが積まれた壁が見える。どうやら小さな町があるようだ。
「フレア王国って?」
「私が聞いた話では、この大陸を治める2つの国のうちの一つだ。ギンという魔法使いは、フレア王国がもう一つの国を滅ぼすために兵器を作っている。そして『赤の傭兵』を使って遺物を集めているらしい」
どうやら、塔があった大きな街は王都のようで、目の前にある町は、外れにある農村のようだ。
クロエは飛行艇を一周して見て回り、ニヤニヤしながら感慨にふける。
「かっこいいなーっ。ねぇ、燃料ってどこに売ってるの?」
クロエの質問に、ジーンは首を傾げるばかりで何も答えてくれない。
右に左に……首を傾けて、なんだか急に幼子みたいに見えて、少し可愛く見える。
分からないときに分からないと言えないタイプなのか……?
「まぁ、とりあえず町に行ってみよう」
俺たちはとりあえず町に入って色々聞いてみることにした。




