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第4話 竜人の娘

「ジーンはさ、どこから来たの?」

「ふむ。ここからずっと北の大陸から来た」

「あーじゃーやっぱり、外の国の人なんだね」


 クロエは石畳の上で胡座をかいて、ジーンという半人間も俺たちの正面に体育座りをする。


「ジーンはどうしてここに連れて来られたの?」

「『赤の傭兵』という騎士崩れに付いてきたのだ」

「たぶん同じ奴らだよね。あの乱暴者に僕らも誘拐されたんだ」

「クロエと言ったか。私は誘拐されたのではなく、興味本位で付いてきたのだ」

「え、興味本位で? ふーん。外に出たかったんだね。僕もね……」


 身を乗り出して話を聞くクロエは、ジーンのことを気に入っているようだ。砂漠では女性なんていなかったから、同性と出会えて嬉しいのかもしれない。


 しかし興味本位でついていくとか、どういう神経をしているんだろうか。赤の傭兵とジーンが出会った時の絵が、俺の想像力では描ききれない。


「あ、あの、割り込んで申し訳ないが……」


 と、手刀を切りながらおっさんみたいに二人の間に入る。まぁ中身はおっさんなんだが。


「魔法ってどうやって使えるんだ?」


 俺が口を開いた瞬間、ジーンは急に不穏な空気を醸し出してきた。無言で俺を見つめ、パタパタと裾から伸びた尻尾を左右に振るのだ。


 俺を品定めするかのような視線。麻痺で動けなかったときの雰囲気と同じだ……。


「ん? ジーンさん、何かお尻に……えっ!?」


 クロエはジーンの裾から伸びた尻尾にようやく気付く。

 さっとクロエの顔から血の気がみるみるうちに引いていき、青くなった。


「いやああああっ!! ヘビぃ! デカヘビがいるーーっ!」


 後方にジャンプして、牢屋の隅に逃げるクロエ。露出している腕や太もも全部から鳥肌が立っている。


 ──すごいジャンプ力だな、猫が未知の生物から攻撃されて飛んで逃げるみたいだ。


「クロエ、大丈夫だって……これはジーンの尻尾だから」

「尻尾!? なんで人間に尻尾があるの!?」


 そう言われると、クロエの反応が正常な人間の反応のように思える。

 まぁ、前世ではファンタジー系のゲームや漫画とかよく見てたから、俺には免疫があるのか。


「私は竜の一族の末裔。姿は人間に似ているが、体を流れるは竜の血だ。こちらの大陸では珍しい個体だが、おぬしこそ一体何者だ?」


 すっと俺を指差すジーン。


「おぬしからは2つの魂を感じる……一つは枯れ朽ちた老木、もう一つは生命みなぎる萌芽。その2つが混和して、奇妙な魂の形を成しているようだ。こんな魂の生き物には、今まで会ったことがない」

「……じつは、砂漠で遺物に触れたことで、前世の記憶が甦って……それだけじゃなく、危機的な状況になったときに少し先の未来が視えるんだ……たぶん」


 俺は前のめりになった。なんだか、やっと話が通じる人?に出会えた気がした。


「ふむ……それはとても興味深い……。おそらくは遺物の力だろうが、未来視や前世返りは、遺物が魂の何かに働きかけた結果なのだろう」

「魂……?」

「おぬしが聞きたいことと繋がったようだな。魂とは、魔力を持ってして魔法を生み出す変換器なのだよ」

「変換器……ってことは、俺やクロエも魂はあるわけだから、魔法が使えるってことか?」

「無論使えるが、魂の形により使える魔法は限られる。そして、人間には莫大な魔力が必要だ。普通の自然界では得られないほどの魔力がな……」

「俺たちを拐ったヘステイルやムアって奴らは魔法を使えていた……いったいどうやって魔力を?」


 ふとジーンの視線が途切れて、牢の外に向けられる。


「騎士崩れたちは、いにしえの大戦で使われた『ソケット』と呼ばれるもので、死者から魔力を抽出し、貯め込んでいるのだ」


 砂漠で商人を殺した男、へステイルの武器には試験管のようなものがあった。たぶんそれがソケットなのだろう。そしてムアという大男がソケットのために働いているような事も言っていた。


「なるほど……魔法を使うためにはまず『ソケット』が必要ということか」


 すると、ジーンはスッと立ち上がり牢の鉄格子を前にする。


「ここも飽きてきた。人間が魔法を使える方法も分かったからな……それよりも魔法を使ってみたいのだろう? ここにいても魔法は使えんぞ」

「え、えっ?」


 両手でぐぐっと鉄格子の間を拡げようとするジーン。

 数秒ほど何も起きなかったが、徐々に白い肌から鱗のような文様が浮き上がる。

 突然、鉄の棒がギギギッと音を立てて変形した。


「な……っ!」

「ジーン、すごい力だね!」


 文様が発光するほど綺麗に見える頃には、飴細工のように鉄格子を曲げていた。


 あっという間に人が通れるぐらいの隙間ができてしまった。


「ど、どうしてジーンさんは今まで捕まってたんですか!?」

「だから言っただろう、捕まったのではなく付いてきただけだ。出て行きたくなったから出ていくだけだ」

「……」


 ジーンはすたすたと素っ気ない顔で廊下に出て、歩いていく。


 俺とクロエは互いに目を合わせた後、すぐにジーンの後を追いかけた。

 


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