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第3話 一撃

 俺のショルダータックルは見事に赤い騎士の股ぐらの急所に命中する。


「がはっ!!」


 まぁ、男なら誰しも身悶えするほどの痛みであることは分かる。だからこそ、そこを狙った。

 赤い騎士は股間を押さえて、白目になって倒れる。


「クロエ!」


 俺は転がるように砂丘を降りて、倒れたクロエのもとに駆けつけた。

 顔を近づけると、まだ呼吸をしているのが分かる。


「ど、どうすれば……」


 クロエの手を取った瞬間、眼の前が真っ暗になった。


 ──体が動かない……!


 遠くで低い男の声が響く。

 体は動かせないが、意識はあった。


「ヘステイル……何をしている」

「く、くそっあのガキめ……ぶっころしてやる!」


 どうやら赤い騎士はヘステイルという名前らしい、そしてその仲間が現れたということか。


「やめろ。子供に隙を突かれたのはお前の落ち度だ。まったく……魔力を使い切って充填し忘れたのか」


 やっぱり、魔力切れだったのか。

 俺が視た少し先の未来は、魔力切れを起こして、魔法を使い損ねたヘステイルだったんだ。


「ムア! そこをどけよっ! ガキを殺してやる!」

「導師の研究対象だぞ。殺したら導師からの依頼が達成できない。ソケットをもらえない。いいのか」

「く、くそっ!」

「魔法が効かないわけではないらしい。俺の魔法で麻痺させている間に運ぶぞ」


 やっぱり、ムアという男に魔法で攻撃されたようだ。体が一切、言うことをきかない……。

 まるで重りをつけられているかのようだ。しかし完全に動かないというわけではない。瞼に意識を集中して、どうにか重い瞼をこじ開ける。


 眼の前には3メートルほどの大男が立ちはだかっていた。

 黒のヘッドギアをつけて、石像のようにクロエをじっと見下ろしている。全身がまるで筋肉の塊のようで、レスリング選手が着るような黒の釣りパンを一枚着ていた。


「こいつは捕獲対象外だろ、証拠隠滅のために消すか?」


 ヘステイルは、腰に帯刀していた剣を抜くとクロエに向ける。


「く、クロエっ……!」


 俺は腕や脚に力を込めるが、動かすことはできても手を伸ばすのがやっとだ。

 もがき苦しむ俺に気づいた赤の騎士が、ギザギザの歯を見せて笑う。


「はははっ! 見ろよ、マジで虫みたいだぜ!」

「まだ動けるのか、やはり遺物のパワー」


 二人が俺に顔を向けると、ムアという巨躯の男が手を突き出す。

 再び俺の全身から力が抜け、さらに深い睡魔が襲ってきた。



 分からないことが多すぎる──。

 この世界を生き抜くために最も重要なものは魔法だということは分かったが、それ関する知識が皆無だ。


 俺の前世にはなかったものだけに、これは早めにどうにかしないとマズイ。

 

 そして、そのカギとなりそうな奴がいる。

 今、俺の顔をじっと覗き込んでいる女だ。

 

 エルフのような整った顔に、鋭い右の犬歯だけが出て薄い下唇に掛かっている。異様につるつるした白い肌で、瞳は黄色く、髪は漆黒のように黒く長い。

 四肢は人間と一緒だが、1点だけ大きな違いがあり、おしりから大蛇のような尻尾が生えていた。

 

 俺の体を遠巻きに木の棒で小突いて、たぶん俺が意識を取り戻す前からそうしていたに違いない。


 始めは俺を喰うつもりなのかと恐怖でしかなかった。人間離れした美しさと表情の変化の無さは、砂漠にいた商人と違う人間らしさの欠如がある。

 しかし何もしてこないので、もしかして、コヤツが導師かとも思ったが、俺と同じように右足に足枷をつけていた。つまりは、俺と同じ囚われの身。


 ということは──俺が持つ遺物の力を恐れているのでは?

 麻痺で動けない間、色々考えているうちにそんな結論に達した。この女は俺に見えない遺物の力が見えて、正しく恐れている。


 ようやく口の感覚が戻ってきて、舌の痺れが取れてきた。


「あの、さっきから何をしているんですか……」

「……!」


 女はビクッと体を震わせ、棒をひっこめた。


 俺はふらつきながらもなんとか上体を起こす。俺のすぐ横にクロエが寝ていた。


「よかった……」


 体を動かせず、クロエがどこにいるのか分からず不安だった。ちょうど俺の背中の方で寝ていたようだ。

 しかし、ヘステイルとかいう奴の魔法で結構な高さから落とされたはず。砂漠の砂がクッションになったのだろうか?


 肩を動かしたりして、全身と手の感覚を取り戻した後、クロエの体を揺すってみる。


「クロエ! 大丈夫か!?」

「……ううっ……」


 起き上がったクロエは顔をしかめて頭を抱える。


「……うっ! 頭が痛い!」


 後頭部に大きなたんこぶができていたが、他に大きな怪我はなさそうだ。


「ここは……どこなの?」

「さあ……」


 視線を送った先から、先客の女囚人が暗がりから進み出る。


「ここは、ギンという魔法使いが住む塔だ」


 若い女性の声だった。

 体が動かせず全体像が分からなかったが、その女性は普通の成人女性ぐらいの背丈で、黒の貫頭衣を着ていた。


「ギン……赤い鎧を装備した奴らと関係があるのか?」

「然り。『赤い傭兵』の一味はギンの命令で研究対象をこの塔に集めている。ギンは自分のことを導師と呼び、魔法を生成しているようだな。で……おぬしたちはどこから連れてこられたのだ?」

「俺はリオン、そして……」

「僕はクロエ。リオンと砂漠から連れてこられたんだ……」


 同じ女性からなのか、クロエは幾分、ホッとした様子だ。


「そうか、私の名は人に伝える言葉がない。人は私のことを『リュー・ジーン』と呼ぶ」

「ああ、外の国の人か。じゃージーンって呼んでもいい?」

「かまわない」


 クロエの提案にジーンは無表情でうなずく。


 ──クロエはジーンが人間じゃないって分かってるのか……?


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