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第2話 遺物の力

 翌日、俺たちは飛行艇の値段を商人に訊いた。


「二人乗りの飛行艇か……中古で金貨二百枚ぐらいだな」


 俺もクロエも驚いてしばらく言葉が出てこない。

 

 ──この砂漠でガラクタ集めをして2年間。最高額が金貨2枚ということは、あと百年働いても金貨百枚溜まるかどうか……。

 

 俺たちの事情をなんとなく感じ取った商人は、少し身を乗り出してきた。


「まあ、いっぱしの冒険者になりたいなら、王国まで飛行艇で送ってもいいぜ。ただし、一人当たり金貨2枚払ってもらう」


 ──商人の提案に乗るのが現実的だな。俺たちは砂漠に捨てられただけで、奴隷じゃない。王国に行けば何か別の仕事を探すことだってできるし、帰りの運賃も考えれば金貨8枚を溜めればいい。


「教えてくれてありがとう。もしかすると、世話になるかもしれない」


 商人は俺の言葉遣いに少し驚いて身を引く。


「どこでそんな言葉覚えたんだリオン」

「遺物のせいかな」


 砂漠には遺物を買い取る商人が数人いる。悪い奴もいるが、俺たちも馬鹿じゃない。根が優しい商人というのは俺もクロエも分かっている。飛行艇の値段を聞いた商人がそうだ。

 

 当面は遺物集めをひたすら継続するしかない。けれど、少し道が開けてきた気がする。

 俺たちは再び、あの遺物が取れた周辺に向かう。


「あの商人ならもっと安くしてくれるはず。俺たちの食料は銀貨1枚程度で、金貨一枚は銀貨の百枚分だろ? 定期輸送の物資の量を見てもかなり割高だと思うんだよね……半額ぐらいに交渉できないかな」

「……」


 俺の話を聞いていたクロエは深く頷いて腕を組む。


「……やっぱり、あの遺物はリオンに知恵を与えたんだな」

「知恵?」

「ほんの一日前は、ここから出るなんてずっと先の話だと思ってた。けれど、リオンと話していると明日にでも外にいるような気がする……」

「もしかして……俺、変?」

「ここじゃ、まともな奴いないよ! そんな事言うなんて、やっぱり変! あははっ!」


 ころころとクロエは笑う。


「クロエ、ここを出て外の世界に飛び込むのは怖い?」

「潜るよりはきっとずっといい」


 ──そうなんだよな。潜る怖さといったら、本当にいつ死んでもおかしくない危険な場所を進むのだから、自分の命をサイコロにしてスゴロクしてるような気分だ。

 

 あと2、3個の遺物が見つかれば、もう潜らなくても生きていける道が見つかる気がした。そう思うだけでも、一日がずっと楽になる。

 

 今日も今日とて、砂漠の割れ目を探しては、中を探索する。

 たまにジャンク漁りの先客がいたりしてギョッとすることもあるが、中は危険すぎて動物さえも巣にはしない。

 

 地盤沈下みたいに半径50メートルぐらいが流砂に吸い込まれたのを見たとき、俺のジャンク漁りは終了してしまった。

 

 ──遺物見つける前に死ぬな……これ。

 

 クロエにこのことを話すと、滅茶苦茶笑われて、泣き言を言うなと檄を飛ばされた。

 すでにクロエは新たな遺物を1つ見つけていて、金貨を1枚手に入れている。ここ1年で見つけたスポットに、意を決して入ってみたら遺物があったらしい。

 

 やる気がでてきたのはいいが、せっかちなところがあるからな。事故が起きなければいいが……。

 

 

 ひと月ほど経ったころ、見たことのない男が商人を引き連れて俺たちの作業現場に現れた。

 

 遠くからでも目立つ赤い髪で、まるで中世西洋の騎士のようなプレートメイルを装備し、腰には長剣を帯刀していた。剣の柄には見たことのない、試験管のような物が嵌められ、うっすらと発光している。

 

「クロエにリオンだったか……この方が先日発見した遺物の場所を知りたいと言ってな。案内してくれないか」


 汗だくの商人は落ち着かない様子だ。熱くて危険なガラクタの現場に商人が入ってくるなんて、今までに一度もなかった。

 

「ガキども、話は聞こえただろ? 俺は『赤の傭兵』って呼ばれてる王国の使いの者だ。さっさと案内しないとどうなるか分かるだろ?」


 男の後頭部の髪は逆立っていて、まるで炎のようだ。そして話すたびに削れたギザギザの前歯二本が見えた。

 

 ──こいつは何かやばそうな奴だ。

 

 従順にすべきと判断した俺とクロエは、男の指示通り、遺物を手に入れたダンジョンに繋がる地下の亀裂に案内した。


「嘘だろ、こんなとこ入れねぇな……ムアを呼んでくるか」

 

 亀裂を前に男は独り言を呟いて頭を掻きむしる。そして、何か思い出したかのようにくるりと振り返りニッコリ微笑んだ。

 

「そう言えば、ここから発掘された遺物を触った少年がいるって聞いたんだけど、二人とも触ったのかな?」


 ──本当に気味悪い奴だな。そして異様に背が高い。2メートルはあるんじゃないか。

 こんな熱い砂漠でもプレートメイルを装備して普通に歩けるなんて……。


 赤髪の騎士から少し離れつつ、クロエは首を振り、俺は頷く。

 正直に答えた後、かなり疲れた様子の商人が朦朧とした表情で横から入った。


「もう、私に用はないだろう。……頭がくらくらするんで、帰らせてもらう……」

「そうだな、もう用済みだ」


 ドン!

 不意に爆発音がする。

 商人の姿が消えて無くなった。


 赤髪の騎士が手を前にして、何か空気銃のようなものを撃ったように思えた。しかし、手には何の武器もない。

 伸ばした腕の延長線上を目で辿ると、はるか遠くに商人の体が転がっていた。

 

「うわっ! 魔法だっ! 逃げるぞ!」


 クロエが叫んだ。

 ──魔法。一瞬で人を吹き飛ばすほどの桁違いの風圧を掌から発射したんだ。あれが魔法か……!


 クロエがガラクタの亀裂に逃げ込もうとする。


「おいおい、面倒だな。虫かよ」


 再び男が手を広げて前方に押し出す。

 ガラクタが一気に上空へ吹き上げられ、クロエもろとも空中に飛びあがった。

 

「クロエっ!!」


 砂の上にバウンドして落ちる灰色のローブ。

 致命傷だというのはすぐに分かった。


 ──そんなっ!


「やっぱ、ガキの体はかりぃなー」

「この野郎!」


 突進する俺の体を赤い騎士はさらりと躱す。

 怒りに身を任せた俺の体が、砂の上を転がった。


「殺さない程度っていうのは難しいな」


 余裕の表情を向けた赤い騎士は、再び空気を繰り出す掌を突き出そうとする。


 すると俺の視界が急に狭まり、強烈な太陽の光が黒と緑に反転した。


 ──な、んだ。また魔法か!?


 赤い騎士は腕を突き出すが、そこからは何も発射されなかった。不思議なことに、手の中を不思議に見つめる赤い騎士が、まるで青写真に映し出されたかのように投影される。


 はっきりと線をなす人形は、ぴくりとも動いていないのに、心電図のような青い線だけがぼんやりと赤い騎士の輪郭を形作る。


 ──この感覚は、俺が前世の記憶を思い出したときと一緒だ。……まさか、これも遺物の……?


 突然、いつもの熱せられた砂の感覚が足から登ってくる。

 いましがた白昼夢を見ていたかのように、はっとして顔を上げる。


「殺さない程度っていうのは難しいな」


 赤い騎士が同じことを二度言った。


 ──これは、間違いない。


 リプレイのように掌を繰り出す赤い騎士。

 だが、俺は知っている──その掌から魔法は発せられないと。


「おりゃああああっーー!」


 俺は赤い騎士目掛けて、渾身のタックルをくらわせた。


 ──俺は、遺物の力で未来を見通せるんだ!



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