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第16話 逃げるに如かず

 ──仲間を使い捨てにするクソな奴らにどうして従っているのか……理由は色々あるんだろうが、もう長くはないぞ、お前たちの国。


「クロエ、ソケットの魔力は十分に溜まっているよな?」

「うん」

「隙を見て全速力で逃げよう」


 不毛な戦いに巻き込まれてたまるか。


「ジーンは遠くにいるけど、どうするの?」


 ジーンは悠長にケレフィアとおっさんの戦いを腕を組んで観戦していた。


「たぶんジーンなら超人的な力で、どうにか乗ってきてくれるはず」


 それよりも、発進できるかどうかだ。二人の戦いは目の前で行われており、起動すればすぐに気づかれ飛行艇ごと爆破されかねない。

 二人の注意が何かの拍子で逸れてくれたらいいのだが……。


 ケレフィアは重い甲冑をものともしない、機敏な動きで長剣と短剣を繰り出していた。それに対してドゴールは剣を手甲で受け止める。金属と金属のぶつかり合う音が何度も響いた。

 

 不意に、ドゴールは手を振ると耳をつんざく爆音が野原を飛び交う。


「ウウウッ……!」


 遠くに飛ばされたケレフィアは地面に突っ伏していた。一方、おっさんは甲羅のように手甲でガードしており、ほとんどダメージはない。


「見事な剣術だ。下民から成り上がり、魔法も使えない女であるお前は相当な努力をしたのだろう。その志に敬意を表する。わしの名はドゴール、フレア王国の中級騎士ミドルナイトで、お前の戦いに終わりをもたらす者だ」


 そう言いながらドゴールはケレフィアに近寄り、爆弾を生み出す手を伸ばした。

 顔を下に向けたグレートヘルムから血が滴り落ち、ケレフィアの体力は限界に達しているように思えた。


「約束しよう、痛みはほんの一瞬だ……」


 と、ドゴールがケレフィアの肩に手をやろうとした瞬間、ドゴールの体が硬直する。


「ん……?」


 眉間にしわを寄せたドゴールは、異変に気付く。

 

「麻痺の魔法か。初手の爆撃で消し炭にしたはずだったが」


 ドゴールの視線の先には、頭から血を流し這いつくばっているムアが、茂みから必死に手を伸ばしていた。


「……ケレフィア隊長……」


 野太かった大男の声は絶え絶えで、今にも消え入りそうだった。


 ──この戦いの場を支配しているドゴールというおっさんが、ムアの麻痺で動けなくなっている……!

 逃げるなら、今がチャンスだ!


 俺は飛行艇のスイッチをオンにして、起動させた。


 ケレフィアとドゴールは気づいていない。

 俺の視界の端で、二人は戦いを続ける。

 飛行艇が浮き始めてゆっくり上昇すると、ケレフィアが一歩を踏み出して、ドゴールに剣を振り上げた。

 

 麻痺にかかっていたはずのドゴールは、後ろに仰け反って、ケレフィアの攻撃を回避した。

 ドゴールの麻痺は解けていた。

 

 いつの間にかムアはもう一人の騎士によってとどめを刺されていた。

 青い髪の若い騎士だった。


「ドゴールさん、貸しですよ」

「計算のうちだ。貸しにはならない」


 そう言って、ドゴールは防御姿勢を突然とる。ケレフィアは何が起こるのか瞬時に判断し、ジャンプし空中で身を守るように丸くなった。

 空を裂く閃光が迸る。またしても爆弾がばら撒かれた。

 そしてケレフィアの丸い体が黒煙を引いて、こちらに飛んでくる。


 ケレフィアの計算だったのか、偶然なのか……爆風で吹き飛んだケレフィアが、俺の運転する飛行艇に飛び込んできた。

 

 バコッ! と開いたままの扉から入ってきて、片側の閉じたドアに激突するケレフィア。

 

「ウウウッ……」


 獣のような唸り声が聞こえる。


「うわ! 入ってきた!」

「もうこのまま逃げるしかない!」


 俺がスイッチを点けていき、全開にすると再び大きな揺れが。


「ジーンが入ってきた!」

「よし! 退避退避!」


 全速力で俺たちは騎士の追跡から逃げた。


──


 ミシューは大男から剣を抜き鞘に納めると、ドゴールに歩み寄る。


「すごい跳躍でしたね……二人とも」

「……」


 ドゴールは紙巻煙草を取り出し口に銜えた。


「なんで飛行艇を着陸させたんだ」

「え……いや、ドゴールさんが停めろって言ったんでしょ!?」

「早く飛行艇を持って来い」

「ええぇ……」


 ボンと小さく指先で爆発を起こして紙巻煙草に火をつけたドゴールは、片目でギロリとミシューを睨みつけた。


「はいはい……承知しました。上官殿」

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