第14話 次の目的地へ
翌朝、ルードの家を出ると村の入口までルードが見送りに付いてきた。
「もう少しファルエールに居てもらいたかったが、まーそちらさんの事情もあるだろうし、うちらは今日にでも村を出ることにするよ。これから村の総出で引っ越しの準備さ……」
残念そうにルードは苦笑いをした。
「お世話になりました。またフレア王国の首都で再会しましょう」
俺が別れの挨拶をすると、ルードは驚く。
「やっぱり……子供とは思えねー口のきき方をするなぁ。お前さんみたいな上品な子供を見ると、ラインハルトという共和国の街まで旅したときのことを思い出す」
「ラインハルト?」
「まだ王国と共和国が敵対していなかったころ、俺は冒険者でね、それなりに魔力で稼いでいたもんさ。その旅路に寄ったのがラインハルトでね、それは豊かで華やかな都だったさ。……今はどうなっているかわからないが、お前さんと話すとその時のことを不思議と思い出す」
話をしていると、ルードの家からネルが包帯を巻いたまま出てきた。
「ネル! まだ寝ていないとだめだろ!」
ルードが叱りつけるとネルは真っ青な顔を俺たちに向けた。
「……だってどうしても、言いたかったんだ。お父さんと俺を助けてくれて、ありがとうって……」
──どうやらネルも父親に似て、度胸のある男になりそうだ。
俺たちは別れを告げると、飛行艇を停めていた平原に向かった。
背丈のある草を払い、かき分けた先に、ジオラマのように置いてある飛行艇。中に入ると、スイッチも全てそのままで何も変わっていなかった。
「これからどうするの?」
後部座席から足を伸ばして、クロエが助手席に座った。
「とりあえず、王国から遠ざかろう。さっきルードが言っていたラインハルトを目指してみてもいい」
そう言って操縦かんを握ったとき、フウと後ろから風が吹いた。
ジーンが入ったのか?
そう思って振り向こうとすると、首筋に冷たいものが触れた。
「動くんじゃない」
聞き覚えのある声に、ぞっと鳥肌が立つ。
「ヘステイル……!」
「悪いが……動くとマジで頸動脈を掻っ切ることになるぜ」
──くそっ! 飛行艇は罠だったのか! 赤の傭兵が隠れているだなんて考えていなかった……!
まるで枯れ葉のような薄く軽いナイフの刃先が首に当てられ、クロエにも同じ銀色のナイフの切っ先が向けられていた。
見たことのない赤毛の女性が飛行艇のフロントガラスを横切った。騎士の鎧に赤いマントをつけ、脇には兜を抱えながらゆっくりと歩く。
そして、女の視線の先にはジーンが立っていた。
「竜人殿、フレア王国にお戻りください。私は、導師より遣わされたケレフィアという者です」
ケレフィアと名乗った女性は、柔和な笑みを見せた。
──前世の頃に散々見たビジネススマイルをここでも見るとは……。っと、そんな悠長に物思いに耽っている場合じゃないな……。
ジーンは、人質をとるヘステイルに視線を向けた。
「私を脅して王国に連れ戻すつもりか?」
ケレフィアは表情を崩さず、軽くうなずいた。
「ええ……私たちが戦って勝てる相手ではないですからね。ヘステイルから話は聞かせてもらいました」
「ふむ……私の背後にも戦闘員を配置しているな……随分と用意周到ではないか」
「はい。この任務を失敗させるわけにはいかないので」
ジーンは少し間を置いて考えると口を開いた。
「では、一旦お前たちの言う通り、フレア王国に戻ってもいいのだが……リオンがこの状況を未来視していないということは、まずリオンは死なないことが確定している」
「ん?」
意味がわからないといった様子で、ケレフィアは肩をすくめた。
「ゆえに、私はお前たちを一方的に排除してもいいのだが……」
「いったい、何を言っているのだ……?」
「賢き娘よ、アレはどうする?」
ジーンが言い淀みながら、上空を指差した。
その指先には、もう一機の飛行艇がホバリングして、俺たちを見下ろしているようだ。
──うん? 俺たちが奪った飛行艇に似ているが……。
考える間もなく、そこから黒い斑点が落ちてきた。
風を切る高音を鳴らし、鉛のような物体はみるみるうちに拳ほどの大きさになる。
地面に落ちた瞬間、赤黒い光が広がり、爆音が衝撃と一緒に飛行艇を揺らす。
ドドドドドッ!!
たくさんの爆弾が連なり、ジーンとケレフィアがいた場所は焼け野原になってしまった。




