第13話 招待
俺たちはファルエールでギルドを運営しているルードという男から招待を受けた。なんでも、ジーンに恩があるらしく、夕食と寝泊まりできる場所をぜひ提供したいということだったので俺とクロエも付いていくことにした。
正直なところ、かなりお腹は空いていたし、どこかで一晩明かすつもりではあったので、有り難かった。
テーブルにはシチュー、ステーキ、パン、そしてワインが並んでいた。住民が食材を持ち寄って来たところをみると、普段から食べられるような食事ではなさそうだった。
「本当に、ありがとうございます」
ルードは食卓につくと、また頭を下げた。
「ジーンさんがモンスターを退治してくださらなかったら、ファルエールの人たちはみんなやられていたでしょう。ネルもこうやって手当は受けられていませんし、なんとお礼を言ったらいいか……」
別の部屋にはネルが頭に包帯を巻いたまま寝ていた。瓦礫で頭を強打したらしく、意識はあるが安静にしておく必要があるらしい。
「べつに、私は女、子供がモンスターに喰われるのを見たくなかっただけだ」
モンスターと人間は対等に扱う、そんなことをジーンは言っていたが、内心どうしても弱いものに加担してしまうのだろう。
「やっぱり、ジーンは人の味方だよね!」
と、クロエが核心を突けば、ジーンはそっぽを向いた。
「そ、そんなことはない……」
「何か、ジーンなりに思うところがあるのだろうけど、俺はそういうところは好きだな」
まあ、モンスターの頭ごと吹き飛ばしたと聞いているから、どう考えてもジーンは人間寄りだろう。
「失礼ですが、ジーンさんは竜人ですよね? 戦っている最中に竜の尻尾が見えまして」
ルードはギルドの受付をやる前は冒険者だったらしく、竜人のことを知っていた。
「私が知っている竜人の噂は、どちらかというと人間の敵になるような話でした……あ、お気を悪くされたらすみません……」
「竜人と言っても、それぞれ考え方が違うだけだ。人間はよく一括りにしたがるが、竜人は個体数が少なく、人間より遥かに長生きだ。その噂の竜人が何者かも見当がつく」
「まさか、人間に味方する竜人がいるなんて……とても驚いたので……」
ジーンはふぅとため息をつくと、硬い口調になる。
「もう一度言うが、私は人間の味方ではない」
しかし、随分と凶悪なモンスターが村を襲ったと聞いているが、それがこの国では当たり前なのだろうか……。
「あの……ところで、モンスターの襲撃って頻繁に起きるものなのですか?」
俺はこれから先の旅のことも考えて、モンスターに詳しそうなルードに尋ねた。
「いや、イグニスコル級のモンスターが現れたのは初めてだ。しかも少なくとも2体同時に現れるなんて……ほかの村の話でも聞いたことがない」
「やっぱり、そうなんですね。ソケットの魔力を見ても、相当強いんだろうなと……」
ジーンが倒した大ムカデはイグニスコルというモンスターらしく、そのソウルをソケットに充填させてもらった。ちなみに、余った分はギルドに金貨2枚で買い取ってもらっている。
「おそらくは、この国の防衛線が中央に下がってしまっているんだろう」
「防衛線?」
「ああ、フレア王国の兵士が森より向こうの関所を守っているのだが、今フレア王国は共和国との戦いに必死でな。兵士を中央に集めていると聞く」
「ということは、もしかするとまた襲撃があるかも、ということですか?」
「まあ、イグニスコルみたいな強いモンスターが早々来るとは思えんが、可能性は高い」
ルードはテーブルに肘をつき、頭を抱えた。
「もうファルエールは無理かもしれない……。長い間、父や母もこの土地で生まれて、代々受け継がれてきた土地だが……防衛線内の町や中央部に移り住むしかなさそうだ……」
「……」
モンスターというのは災害みたいなものなのだろう。根絶は難しく、国の治安維持に期待するしかなさそうだ。
しかしながら、フレア王国はモンスターの襲撃に苦しむ民を見捨ててまで共和国との戦争を推し進めるのだろうか。
前世でもニュースなどを見てそんな疑問を思い浮かべていたのだが、やはりどの世界でも愚昧な為政者はいるようだ。
その日はルードの家に泊まらせてもらい、明日の朝に飛行艇で出発することにした。
「ねぇ、ジーンてさ、すっごい強いよね」
寝床でクロエが俺の耳元で囁いた。
「竜人だからな」
「あのさ、ジーンの力があったらフレア王国の王様をさ説得できるんじゃないかなと思って」
「それは……ジーンがやらないだろ。だって、そもそも人間の味方じゃないって言ってるんだから」
「うーん。そうかなぁ」
クロエは横に体を反転させた。
「うわっ!」
その反転した先に、ジーンの真っ黄色の瞳がバッチリ開いていた。
「私は人間に加担しない。おぬしが思っているような者ではないことを付け加えておく」
「……」
そう言ってジーンは目を閉じた。




