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第12話 襲われた村

 ネルの父ルードは、ギルドとは名ばかりの村の幕舎で、いつも通り受付をしていた。


 ──ここのところ、腕の立ちそうな奴がどんどん少なくなってんな。


 木箱の上に足を置いて、半分眠りながらルードは物思いに耽る。


 さっきの子供連れの女は、なかなか良かった。度胸があって、物怖じしない。たぶん、戦闘経験がそこらの冒険者よりあるんだろう。ああいう冒険者が、この村に居着いてくれたら、うちも安泰なんだが……。


 ここ最近、国がやたらと兵士を募るから、辺鄙な村に立ち寄る冒険者も少なくなった。それに加えて、国境を守る兵士も割り当てを減らすと噂で聞いている。

 国はこんな田舎の村など、どうでもいいと考えているのだろうか……。


 そんな一抹の不安を感じていると、若者が見張りを放って、幕舎に駆け込んできた。


「大変だ! モンスターが……!」

「なっ! なんだって!?」


 すぐに飛び起きて道に出た。と、同時に村の女の声が響き渡った。


「キャアアーッ!」


 村の入り口から数匹の狼が入ってきて、村人を襲っていた。


「マズイ! モンスターか!」


 ルードはすぐに長剣を取りに幕舎に戻る。


「おい! 誰でもいい、モンスターを追い払うのを手伝ってくれ!」


 一見屈強そうに見える男たちは、急に目を伏せて背中を丸めた。


「……あのモンスターはワーウルフだろ? 群れで襲われたら勝ち目はない」

「俺たちはただの通りすがりの冒険者なんだ。なんの関係もない田舎村で、命を張ることはできないよ」

「おっさんも早く村を捨てて逃げた方がいいぜ」


 ──雑魚がっ!


 ルードはすぐに自分の息子がいないことに気づく。


「ネルっ!? ネルはどこだ!」


 叫びながら道に出た瞬間、ルードの頭上を何かが横切った。


「うっ!」


 ワーウルフかっ!


 前足の強靭な爪がルードの額を傷つけた。


 もうここまで来たのか、速い……!


 ワーウルフは着地すると鋭い牙を見せて、威嚇した。

 攻撃してきたワーウルフに注意を払いながら、道の反対側にも意識を向けるルード。彼は引退するまでは腕利きの冒険者であり、ワーウルフの狡猾な狩猟方法を知っていたのだ。


 ルードの後ろで微かに地面を蹴る音が聞こえると、躊躇なく剣を振り上げて振り返る。

 眼前に光る朱色の獣の口。

 剣を振り下ろすと、鮮血がルードの頬を濡らした。


「ギャウゥン!!」


 空中でワーウルフの真っ二つになる。


 すぐさまルードは囮役のもう一匹へ間合いを詰める。


「知ってんだよ、お前たちのやり方は!」


 ワーウルフは後ろへジャンプできない。狼種のモンスターは前方への攻撃に特化しすぎて、逃げる際に後ろを振り向くように体を反転させる癖があるのだ。そのため、逃げるのに手間取る。


 ルードはワーウルフが後ろを向いた僅かな隙を突く。


「おらっ!!」


 剣を叩き込もうとした瞬間、横から爆発音が響いた。


「な、なんだ!!」


 ギルドの向かいの家が破壊され、壁の石材がれきとなり頬に当たった。

 白煙の中から真っ赤な足が見える。黒褐色の胴体に、黄色い牙と触角。


「まさか……イグニスコル……」


 獰猛な大ムカデで複数の足で獣を掴み、毒のある牙で刺してくる。毒は猛毒で触れるだけでも麻痺してしまう。そして特に、鋼鉄のような黒色の大ムカデは、耐久力が高く、イグニスコルと冒険者から呼ばれ恐れられていた。


 そして、少し離れた場所でもイグニスコルが家を破壊する轟音が聞こえる。もう、村全体がモンスターの集団によって破壊されていたのだ。


 ──とても一人で敵う相手じゃない! 退くか……。

 

 と、その時、崩れた家の瓦礫の下にネルが気を失って倒れていることにルードは気づく。


「ネル!! 大丈夫かっ!!」


 ──くそっ! 逃げるわけにはいかない!


 イグニスコルは頭をゆっくりと左右に動かし、毒の牙をカチカチと鳴らした。

 不意に、ムチのようなしなりを利かせて、イグニスコルの尻尾がルードを襲う。ジャンプしてそれを飛び越えると、それを待っていたかのようにイグニスコルは毒牙で攻撃してくる。


「うっ!!」


 剣でガードして噛みついてきたイグニスコルを受け止めるルード。

 巨体の攻撃を受けたルードは、その威力でギルドに置いてあった木箱を激突して破壊した。


「うぐぐっ……!」


 ──肺を強打して息が……。


 剣を地面について起き上がろうとしていると、イグニスコルはその鋭い触角で近くに倒れていたネルに巻き付く。


「や、やめろ……」


 ネルは気を失っているのか、たくさんの足に絡め取られても起きようとしない。


 キシキシ……とイグニスコルは毒牙を鳴らして、ネルの頭から噛みつこうとする。


「やめろーーっ!!」


 肋を軋ませながら立ち上がった瞬間、黒い砲弾のようなものがイグニスコルの頭に当たった。


 ドオオォン!!


 ブシュー……っとイグニスコルの頭があったところから、紫色の血が噴出していた。

 その黒い砲弾は着地する。


「かわいそうじゃないか」


 そう言って、頭のないイグニスコルの足に捕らわれているネルを引き離した。


 ──いったい何が? 俺は幻覚をみているのか……?


 砲弾と思われたものは、先程ギルドにきた子連れの修道女だった。

 女はロングスカートを捲りあげて、白肌の太ももを晒した。そして地面をならして大跳躍をする。遠くで暴れていたもう一匹のイグニスコルが、いつの間にか噴水の置物のように、紫の血を吹き出していた。


「こりゃあ……いったいどういうことだ?」


 しかも、あの女性、スカートをめくったとき尻尾があったような……。やはり、俺は幻覚を視ているのか……?


 ファルエールの村は、モンスター集団から急襲を受けたが、たった一人の女性により救われたのだった。


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