閑話 歩道橋の泥沼電子合戦
息抜き的なお話です。
件名:まわるちゃんへ
たった今スマホを没収されたので、PC室からメールをお送りしているであります。
内藤くんからのウソ告の件、ワタクシみじかからは哀悼の意を表するばかりであります。
まわる殿に限ってそんなことはないかとは思いますが、もし告白をOKしてしまったのでありましたら、うん、おつかれ。
あの男は趣味が悪いからなぁなどと隣の有村も申しております。なぜもう少し早く言わなかったのかと彼に問い詰めましたが、「面白そうだったから」とのことです。ワタクシもそれに関しては全面的に同意見です。
さて歩道橋から学校に今さっき帰ってきた内藤くんですが、非常に愉快そうです。今までに見たことのないほどの笑顔で、見ていて面白いであります。
彼の笑顔から察するに、やはりまわる殿は何か残念な感じ(笑)になったのかと思われますが、実際のところどうなんでございましょうか。
早急な返答を求めます。
追伸
まわる殿が二ヶ月前参加しました地域清掃につきまして、どうやら近隣住民からクレームがあったとのことです。はよ対応を願います。
この件の担当である堀内先生は現在、バスケ部の買い出しで外出中です。帰ってきたら連絡しますので、そんときに学校に来てください。
べ、別に今来たっていいんだからねっ//
…なにこれ。私がコケにされている。内藤くんからの告白は誠心誠意断ったはずなのだが。
けれどなんだ、確かに彼が振られる姿というのは想像できない…さっき目の前で見たはずなのに、なぜか想像できない。
彼女らの中では、ウソ告を信じた哀れなまわるちゃんと女を誑かすゼロ軍男子の悲劇的ストーリが展開されているのだろう。
そういう意味では、傷心中の友達を元気づけるため、あえてからかいのメールを送ってきたのかも知れない。だがいかんせん内容と文体がひどいので、大分気遣いが空回りしている感が否めない。
本当に告白をOKしてたら、このメール見てワンチャン泣いてるんじゃねーかな、私…そんな風に思いながら、事実の訂正は早急にする必要があるので、以下のメールを送った。
件名:みじかちゃんへ
なんだか深刻な勘違いをしているらしいね。
言っとくけど、私は内藤くん振ったから。嘘に思うかもしれないけど、実際に内藤くんに聞いてみればわかると思うよ。
あと地域清掃の件は普通に教えてくれてありがと。そこだけは感謝するであります。
ポン、と送信ボタンを押した。まったくこんなメールを送るのは面倒くさかったけど、やむを得ない。
しばらくスマホをぽちぽちいじり、みじかからの返信を待っていると、十分ほどですぐメールが来た。
やけに早いなと思って見ると、どうやら件名からすでにだいぶ嫌な予感を漂わせている。
件名:まわるちゃ〜ん♡
も〜強がっちゃって、本当は泣きそうなくせに。内藤くん言ってたよ、「あの子顔真っ赤にして恥ずかしがってたなぁ」なんて♡
ショージキ性格を疑うけど、まー気持ちはわかるよ?でも、事実を偽っちゃうのは悪手だよね〜。
このっ、いじり倒してやるぞ♡
このっ、このっ♡
読んでいて実に気持ちが悪い文章だった。吐き気がする。
騙されるみじかも馬鹿だが、それよりあの内藤とかいう男、やはり天性のクズである。あんな野郎とはお友達にすらなりたくない。
吐き捨てるように「クズめ」という件名、本文なしのメールを送りつけてスマホの電源を切った。
学校での説教祭りを、楽しみにしておこう。