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第五話 ブライダル・ムービー④

今朝も通った歩道橋の上に、手紙をくれた内藤くん───いつか有村が言っていた言葉に即すなら「ゼロ軍男子」が立っていた。有村のセンスはどうかと思うけど、その言葉は案外よく内藤くんのことを表していた。

 髭が少しも生えていない顔とか、服の上からも分かる、筋肉質な体とか…何より一番に、顔立ちがすこぶる整っているし。

 有り体に言って、すごくモテそう。それでもって、モテるからって男子から僻まれないタイプの人に見えた。いつも男子と絡んでいて、けれど女子から憧れの目を向けられているような稀有な人。そういう独特な雰囲気を感じたんだ。

 そんな内藤くんが、なぜ私に手紙を?私が覚えている限りでは、彼との接点はない。実際にここにいるのだから、誰か第三者のイタズラでもないはずだし。

 そういう疑問を持つ私に気づかないみたいに、内藤くんは話す。

「今日は、大事なことを伝えたくて来てもらったんだ。ごめん、急で。よく聞いてほしい」

 頭をすっと傾けるような動作をして、内藤くんは続ける。

「前から、魅力的な人だなって思ってたんだ。…明るくて、楽しげな人」

「回りくどくなっちゃったかな。まっすぐに言うよ」

「好きです、付き合って下さい」

 彼は表情をすこしも歪めることなく、私にまっすぐな告白をした。

 そのことはやっぱり嬉しくって、自分の胸が少しどきりとするのも分かった。

 でも…それ以上に困惑を隠せないんだ。

 内藤くんには他にもっといいヒトがいるよなって思うし、彼も言っているけど急すぎる。

 その困惑は内藤くんに読み取られたらしい。

「正直、一目惚れみたいなもんだ」とあとから付け足してくれた。

 でも告白って、やっぱり段階を踏んでするもので。そんなすぐにはイエスは言えない。

 けれど、と思い出す。

 今朝の私は、何もかもすっとばしていた。段階とか何とかを、一切無視していた。

 あのときの私は、やっぱりどうかしていたのだろう。そして「あのとき」と言ったって、あれから半日も過ぎていない。

 誤魔化すようにプロポーズを受けた私が、彼の告白を誤魔化すように断るのは…なんとなく不誠実な気がする。

 だから私は頭の中で言葉を紡ぎ、それを慎重に伝えることを選んだ。

「内藤くんの告白、すごくうれしい」

 彼の表情は依然として変わらない。その表情に陰りを落とさないようにと、次の言葉を丁寧に考える。

「あなたが私を大切に思っていることはよく伝わったよ───でも」

 でも。その言葉に彼はどんな反応を示しただろうか。驚愕?落胆?…それとも、平常?

 注意深く観察する…けれど、何も見えない。不透明な感覚だけがあった。それに呆気にとられて、次の言葉を見失ってしまう。

 考えろ。彼に恥じない言葉を。自分に恥じない言葉を。

 考え───

「でも、まだ私たちはお互いのことをよく知らない」

 絡まった思考とは関係なく、私の口からは自然に紡がれた言葉が出ていた。

「だから、できたら友達から始めたいなって」

 それは私の本心からの言葉だったんだろう。

 そのときようやく、内藤くんの感情がわかった気がする。

 彼は笑っていた。心底楽しそうに。

「まわる、もうちょっと言い方考えろよ…ああ、おかしい」

「おかしいって、何が」

 こっちは自分でも分かりやすく怪訝な声だった。

「『友達から』って、はっ。ま、いいや…これから仲良くしようか、まわる」

 えらく立ち直りの早い男だった。これもゼロ軍男子たる所以か?

 私もふっと笑って答えた。

「よろしく、内藤くん」

 彼はまたぶっと吹き出す。

「…友達って、ホントにかよ…」

「何か言った?」

 そう聞き返すと、顔を横に振られた。なんだか誤魔化された気がする。

「じゃあ、また」

 そう言って内藤くんはすたすたと歩きその場をあとにした。私も軽く「また」と言って、彼を見送った。

 台風のような人だった。別に激しい性格という意味じゃなく、いろいろ行動が早いという意味で。

 ほっと一息つく。最初は嫌な予感がしたけど、何かの勘違いだったんだろう。

 さて、時計を見ると四時半。まだまだ空は明るい。

 私はもう少しそこで、あの少年を待ってみることにした……と、そのときみじかからメッセージが来た。ポコンという着信音がそれを知らせてくれた。

『まわる、内藤くんから手紙もらってたよね』

 手紙は下駄箱の中にあったので、誰でもその存在に気づけるようにはなっていたが、みじかは差出人を見たらしい。これはあとで説教だ…と思っていると、続けて着信が来た。

『有村に聞いたんだよね。最近、内藤くん友達と妙な遊びしてるってさ』

『罰ゲームでウソ告するってやつなんだけど』

 …腰を抜かした。あとスマホも落とした。

 あの男。感情の読めなかった、やけに立ち直りの早いゼロ軍男子。

 だからか!と、急速に彼の不自然な行動が思い出される。

 どうやら私は、最善策を連続で選び取ったらしい。その代わり、ちょっと気に入られてしまったみたいだけど。

 私は一人でにっと笑う。

 最低なやつだった。まさしく、数字のゼロにふさわしい。


私生活でいろいろありまして、更新が2〜3日に1回になります。最低保証として週1では投稿しますので、どうぞこれからもよしなに。

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