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第三話 ブライダル・ムービー②

 私はみじかのなんだかイヤな視線を感じながらも朝の用意を完了し、男女ごちゃまぜグループで談笑していた。

 決して感情を悟られてはならない。あくまでも息を潜ませながら、みじかの笑みの理由を探る…!

 ほら、みじかが口を開く…隙をっ隙を逃さない!私は確実にキルを取りに行く!てめーの腐った笑顔の理由、暴いてやるぜぇ!

「てか、有村の言ってたラーメン屋めちゃ美味しかったわ!教えてくれてありがと!」

「へへっ、ラーメンのことならなんでも聞きなっ!この俺、ラーメン魔王・有村に!」

 有村はやけにハイテンションで決めポーズを取った。途端にどっと笑いが起こる。

「魔王って、変なの!まわるもそー思うっしょ、有村、ばっかでー!」

 みじかは有村に突っつきながら、会話を回してきた。

「う、うん…有村ばかぁー」

 まるっきりクソみたいなリアクションしかできない私。

「まわるはともかく、みじかに言われたかねえよっ」

 みじかはいつもの豪快な笑いを見せる。

 楽しそうだ。純粋に楽しんでいる顔だ。

 ………。

 そうなんだよなぁ。

 みじかってこういうヤツなんだよなぁ。

 ムードメーカーで、男子特有のノリにしっかり乗れて、かつ女子とのコミュニケーションもなめらか。

 だいたいいっつもイベントの中心にいるのは、積極的で晴れやかな性格だから。誰とでも友達になれる性格だから。

 ルックスとか生まれとか何も関係なく、ただ人間として魅力的。

 だからコイツは一軍女子で、私は二軍女子なんだよなぁ。

 てかうん、認めるしかないっすよね。

 みじか、いいヤツなんだよなー…。

 この女が私を貶めるわけねーんだよなぁ。

 や、ホント何があったんすかみじかさん。あのイヤらしい笑みはなんだったんすか。教えてよね。

 そんな思考をぐるぐる繰り返していると、やがてチャイムが鳴った。

 皆が急いで席に着く。一部の男子はがっしゃーんとすごい音を立てて椅子に飛び込む。フリーダム加減が知れるネ゙。

 さて、チャイムが鳴り終わってもあちらこちらで声の聞こえる教室内。しかし教室前側の扉が動くと、少しの緊張感が生まれる。

 今日は誰だ───?基本的に、男子は落胆に備えてその問いを抱く。女子は期待を抱いてその問いを備える。

 ぴしゃんと勢いよく扉が開かれた。そしてその瞬間、ため息と黄色い声が交互に流れる。

 そう、今日来たのは───。

「田中先生が出張なので、今日のホームルームは俺がやります。じゃ、始めましょう」

 40年に1度の(みじか調べ)イケメンにして、学校一の優男───堀内先生!

 この先生が来ると、女子はこぞって言うのだ。「なんでうちのクラスの男子は堀内先生みたいにさあ」みたいな高望みを。

 どーやら、ってか想像に難くないけど、そういうところでは男子から煙たがられている先生。本人からしたら理不尽だろうけど、一番理不尽なのは女子なので仕方ない。受け入れてもらおう。

 …しっかしなんだ、凄い景色だ。女子は全員きびきびした声で出席確認に答えて、反対に男子は全員どんよりした声で答える。俯瞰して見ると笑えちゃうんだよな、これ。

 その後もそんな感じの空気が流れ続けたまま、ホームルームは終わりを迎えた。

 堀内先生は「今日も元気に頑張りましょう」と言ってホームルームを少し早めに切り上げた。

 先生のせいで男子の元気はもう失われているよ…と思ったが、堀内先生が教室から出た途端に騒ぎ出した。切り替え能力が半端ない。

 ちなみに女子はと言うと、まだ余韻に浸って堀内先生の話をしている。そんなにイケメンが好きかい、とツッコみたくなった。

 だが一人、女子の中でも特異な行動をしている人物がいた。

 言うまでもなく、みじかだ。やけにそわそわしながら時計を眺めている。友達と喋ることもなく、ただじっと。

 私が疑問に思っていると、ちょうどホームルーム終了のチャイムが鳴った。今から1限までに、教室を出入りできる10分間の小休憩が挟まる…のだけど、みじかはすぐ席を外して、扉を開け教室を出ていった。

 なんだなんだ、と興味を引かれる。ほかには誰も気づいてないらしいけど、今までみじかはあんな行動をしたことがない。

 もちろん私はあとをつけた。あのニヤニヤの理由、半ばどうでもよくなってきたけど気になることは気になる。そして私は気になることがわかるかもしれなかったら、割とどんな行動でもできるタイプなのだ。

 みじかは廊下を足早に歩いていき、やがて人気のない少人数教室へ入っていった。

 さすがに入ることはできないので、私は扉のガラス部分からちらちらと室内を覗く。中には誰もいない…と思う。何しに来たんだ?

「もういるよね、出てきて」

 ビクッてなった。肩とか、首とかが。え、バレた?こっ…これはアレか、自首案件か。てかみじか感鋭っ!?ストーキング力には自信があるつもりだったんだけど、浅はかだったか…。

 でも、どうやらその声は私に対するものではなかったらしい。だってみじか、すっごいもじもじしてるし。ストーカーを追いつめる時の態度じゃあ、明らかにない。

 じゃあ何だ…?と思っていると、予想外の来客がそこにはいた。

 堀内先生だ。堀内が教卓の下から顔を出し、みじかの後ろに立っている。私の頭の中に、一つの仮説が浮かび上がった。

 もしかして、決闘?と。2人の間には、尋常でなく張り詰めた空気があったのだ。見ていると心拍が上昇するような、そんな空気が。

 最初に動いたのは堀内先生。ゆらあっと体を動かし、無抵抗のみじかに襲いかかる。

 危ない、みじかーっ!よけろっカウンター決めろっ!心のなかでエールを送る。

 けれど。

 ぽす、といったかんじの、極めて柔らかそうな動きで、堀内先生の体はみじかの体を覆った。

 そして、みじかは頬を赤らめている。

 ん?となった。決闘はどこいった?

 そのまま少し時間が経ち、みじかと堀内先生の手は絡められる。2人の距離はより縮まった。

 みじかは顔を後ろに向けて、少し顎を上げた───堀内先生も、頷いて顔を近づけ

 あーっ!いけません!困ります困ります!みじかさん!?堀内先生!?困ります!あーっ!!!

 何がとは言わない。何がとは言わないけど、けっこう深かった。あと長かった。

 思い出す。あのみじかのイヤらしい笑みを。

 思い出す。みじかが「堀内先生かっこいーよねっ」なんて言って、適当にうんと答えたことを。

 そういうことかっ。おいそういうことかよ。

 お前、顔に出やすすぎだろっ!おい!


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