魔王②
「……うっま」
レンゲを置き、一言、呟いた。
「だろー?」と、愉快そうな有村。こうして並んで食べているからよく見える、腹立たしいくらいに純粋な笑顔。
いや、至極の一杯……と、いう他ない。
どちらかというとこってり系なのだろうけど、しつこさがない。食べていて引っかかりがない、とでも言おうか。
それでいて、赤味噌のガツンとした風味も消えていないし、それらの要素を引き立てるトッピングたちは個性ありつつ、互いに干渉しない。
どうやって作ってるんだこれ??店主は何かとんでもない代償を払っていたりするのではないか???
そんなこんなで啜っていると食べ終わり、スープだけが残ってしまった。
もう、終わりか……と落胆しつつ、箸とレンゲを置いて手を合わせる───「白米は?」と有村。
……白米?
この男、何を言っている?これはラーメンだが?
そういう視線を向けていると、また彼は笑った。
「放り込むんだよ、白米を」
「……何言ってんの?」
彼はにやっとしてから、自身の横に置いてあったお椀の中身を、箸で支えながらラーメンの残り汁に落とした。
雫のまったく飛び散らない、唸りたくなるような手腕に圧倒される。
それからすかさずタレを手に取り、米とスープの混合物へひとまわし。ここでまた彼は笑った。
「見ろ、これが”ラーメンライス”だ」
「ら、ラーメンライス……?」
茶色いリゾットのような外見をしているそれは、さして美味しそうには見えないけれど……彼は、躊躇いなくそれをかっこむ。
表現するならば、というか表現方法は一つしかない。
飯を食らうという単純な動作。だが、極めて効率的で芸術的な動作。
しかし、しかしだ。
めっっっちゃうまそうに喰いやがる、この男!
ごく、と唾を飲んだ。
どうやら、ここではまだやるべきことがあるらしい。
メニュー表の裏、「ライス100円 おかわり無料!」。
その表記を見つけ、長き戦に思いを馳せた。
さて、そんなこんなで時間を過ごし、ラーメンを堪能したわけだけれども、すべてが終わって会計のとき、有村はこう耳打ちしてきた。
「先、外出てて。あと、少し待っててほしい」
聞いて、会計分の代金を渡そうとしたけれど、受け取りを拒否された。
なんだか知らないけれど、奢ってくれるらしい。謎に太っ腹だ。いいことでもあったのかな?
まあ、ここはお言葉に甘えて…ということで、すぐ外へ出た。「ごちそーさまでした」と店員さんに言うのも忘れずに。
ちゃらん、ちゃらん。やはりこの音、小気味いい。
うーん、おいしかった。さて、と足を進める。家、帰ろ。てくてく…てくてく…。
…………。
ちゃらちゃらん!だん!
なにやら音がする。交差点で後ろを振り向くと、そこには有村。怒りと悲しみに震えているという感じの形相。
なんかした?私。
きょとん、と顔を傾ける。聞こえるため息。
「無え、無えよ。おめー、あほか……?」
「……何さ?」
「何さ、じゃねーよ!……いや、こっちから言う事じゃねーのかもだけどさ」
なんだか容量を得ない。なんだこいつ?
「飯奢られて、そのまま帰るってどーよ……?世間話のひとつくらいさあ……」
「そんなもんなの?」
「そんなもんだよ!飯食うことしか考えてねーのか!?俺が奢った理由考えてみれよ!」
「だって、わかんないし。私にメシ食わせる事自体が目的だったんじゃなくて?」
「あほだ!おめー、あほだ!」
「だって、ほかに何か理由ある?」
「っ、あのさあ!!まわる、何かあったのかって聞きたかったんだよ!」
何かあったのか?
何か?あ、…もしかして…。
「昨日、家帰んなかったんだべ!?だからこー、心配で!」
「!! あれは……」
……うちの高校の情報通、といえば彼だった。
ラーメン店からクラスメートの恋愛事情まで、近所、コミュニティ、PTA等々から上手く描きた詰める。
「あれはちょっと、不良っぽいことしてみたかっただけ!」
「……ホントに?」
たぶん、だからバレる。というか、バレている。
あの少年との、いくつかの関係とも呼べない関係について。
でも、それを探る必要性は、彼には───。
「なら、いいけど」
あれ?
意外にあっさりと引く。
「けど、話は聞かせてくれよ……勘違いだったとしても、何か問題ありそうな友達を放っておくなんて、できないんだから」
友達、と心のなかで反芻した。
…うん、と頷く。
とりあえず今は、それだけで十分だった。
遅れましたー……ごめんなさい。




