閑話② 灰色の職員室
窓から差し込む冷たい光が、僕の視界に映り込んでいる。もう、すっかり夜だ。
ちらっと見ると、時計は8時を示している。他の先生は多くが帰っていて、職員室には僕一人。
───しかし、僕にはここにいなければならない理由がある。
近路まわるという女生徒に、少し説教をする必要があるのだ。地域清掃中に近所の小学生に対してイタズラをしたとかいうクレームが来ているから。
こんな時間、近路が来るわけがない──しかし、僕には彼女を待ち続けるしかできない。
僕は、怖いのだ。失望されること、期待を裏切ってしまうこと。もっと言えば、誰かにとって不都合な存在になることが。
僕が帰ったあとに近路が来たら、きっと彼女は無駄なことをした、と思うだろう。あちらから呼び出したくせに、とも思うかも知れない。
僕の恐怖という感情は、そういう出来事にはたらく。学生時代のトラウマであるとか、親からの虐待であるとか。数え切れぬ多くの要因が重なり、そういう救えない性格になってしまった。
だから基本、僕は行動には予防策を作っておく。強迫観念はそれで和らぎ、いわゆる普通の生活を送ることができる。
けれど今回は、予防策がうまく機能しなかったらしい。みじかに連絡を入れるよう頼んだのに、彼女は忘れて帰ってしまった。結果、最善手として僕はここに残っている。
ふぅ、とため息をつく。
すべては僕が悪い。すべては僕が悪い。すべては僕が悪い。すべては僕が悪い。すべては僕が悪い。すべては僕が悪い。すべては僕が悪い。すべては僕が悪い。すべては僕が悪い。
自分のせいにすることも、また、逃げだ。誰かに頼って、それで自分の弱さを知られたくないから。
みじかは何度も、自分を頼ってくれと言ってくれた。2年前、温かな秋の教室で告白してくれたあの少女は、だからそういうところで本当に優しい人間なのだ。
けれどそもそも、彼女と付き合っていることもまた、彼女に嫌われたくない、と───自分の弱さから逃げるためにしている行動なのだから、根本から破綻している感が否めない。
ああ、終わってんなぁ、僕。
軽く、嘲る。
明日が来るのは避けられない。たとえ僕が死んでも、太陽系の運動は変わらない。
なら、僕がどうしたって明日は来るはずだろ、そうだろ────?
だから、たまには楽にしたっていいはずなんだ。
僕はゆっくり瞳をとじ、硬質で冷たいプラスチック天板に突っ伏して意識を閉じた。
寝よう。そして、明日の僕に死にたい気分になってもらおう。
今の僕は、死にそうなくらい死にたいのだ。今何かこれ以上考えれば、間違って死んでしまうかも知れない。
何をしたって死ぬのはいけない。
人の死は、たとえ誰の死であろうと、人間という生物の弱さを実感し、失望させるものなのだから。
つまりそれは、まったくもって僕の望むところではない。




