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第一章:はじまりの朝

高校受験を控えた息子の笑顔を守りたい。


そんなとき、私に告げられたのは

「乳がんです。両側。ステージ3。」という現実。


シングルマザーとして、母として、女性として。

不安でいっぱいだけど、息子のために笑顔で前を向く。


『高校生になったら、お弁当必要でしょ?

 ママは大丈夫よ!毎日お弁当作ってあげるからね!』


これは、愛と勇気を胸に、実体験をもとに描く、母の物語です。

「乳がんになりました」


テレビから流れた梅宮アンナさんの言葉。


左右の胸の大きさが

一目でわかるほど違っていたことで

変化に気づいたという彼女の話……。


私は(乳がんかぁ~)っと

深く考えずぼんやりとテレビを見て聞き流していた。


まさか、それが“私の未来の姿”になるなんて思ってもいなかった。


それから、ちょうど一週間後。

いつも通り、お風呂に入ろうとして服を脱いだときだった。。


鏡に映る自分の胸を見て、「あれ?」と声が漏れた。

左右の大きさが、明らかに違っていた。


(これって…もしかして…)


変形している胸に触れた瞬間、冷や汗がにじんだ……。

違和感が、確信に変わる感じ。


一週間前にテレビで見た光景が、まるで再生されるように思い出された。


「なんで、今まで気づかなかったんだろう…」


胸の奥がざわついた。不安と後悔が、いっぺんに押し寄せた。


いや……TVで見たばかりだったから、ただの気にしすぎかもしれない。

そう思うようにしていたけど、やはり不安になって

その日の夜、私は彼に胸の事を話した。


「胸、ちょっとおかしいかも。大きさが違ってて…」


彼はしばらく黙ってから、いつもの話し方のトーンで


「え、そう? 俺にはわかんないけどなぁ。でも、念のために病院行ってみよう。付き添うよ」


その言葉に、正直ほっとした。

一人じゃ、病院に行ける自信がなかったから。


私は、すぐに乳腺クリニックを予約。

異変を感じてから、数日で病院に来ることが出来た。


病院の待合室は、白い壁と、ピンク色のソファが並んでいる。


マンモグラフィーやエコー検査を行い

結果を聞くために待合室で待っていたが、

名前を呼ばれるまでの時間が、妙に長く感じた。


「診察室へどうぞ」


私は、ひとりで診察室に入っていくと先生が


「待合室に、パートナーがいらしてますよね?一緒に来て頂いていいですか?」


(えっ。なんで? 付き添いの人を呼ぶって、このドラマみたいな展開)


(なんか、いやな展開のパターンじゃない?)


そんな不安を抱きながら、彼を診察室に呼んで先生の話を聞く事となった。


「乳がんですね。しかも両側。ステージ3です」


医師の言葉に、体が震えた。


「癌が大きいので、治療は早い方がいいです。来週検査して、入院を・・・」


胸を全摘する必要があること、治療方針、入院の説明――。


自分の事を言われているのに……。

ちゃんと説明を聞かないとダメなのに……。

ポロポロ涙があふれて、先生の言葉が耳に届かなくなっていた。


「ステージ3……胸を、全摘……」


胸を失うことが、女として終わるような気がして。

それより何より、「がん=死」という言葉が脳裏に浮かび、恐怖に包まれた。


だって私はシングルマザー。

息子……息子を残して死ぬなんて、絶対にできない。


でも、どうしたらいいの……。

声を押し殺して泣くしか出来なかった……。


この日、彼が一緒にいてくれてよかった。


彼は先生の説明を静かに落ち着いて聞いてくれて

必要な手続き、話せなくなっている私の変わりに、私の母へ連絡し状況説明。


その時、必要な対応をすべてしてくれた。


「ありがとう……」


「いいんだよ。お腹すいただろ? 何か食べて帰ろうか」


そう言って連れて行ってくれたのは、私が好きなお寿司屋さんだった。

私の好物だと知っていて、少しでも元気づけたかったんだろう。


温かい湯呑みから立ちのぼる湯気。店内には笑顔で寿司を頬ばる人たち。


お腹は空いている…大好きなお寿司だし……。

周りの雰囲気につられて、お寿司が食べれるかな?と、お寿司を口に運んだ。


 ひとくち、ぽろぽろ。

 もうひとくち、ぽろぽろ。涙があふれた


「こんな時、ほんとに ごはんって食べられなくなるんだね……」


カウンターでうずくまって泣いてしまった。

 

彼は何も言わず、背中をさすってくれた。その温かさだけが現実だった。


帰り道、私は彼との関係を思った。


私たちは家族ではない。

恋人として支えてくれているけれど、これから治療が続けば彼にも負担がかかる。


こんな私、重いよね。迷惑だよね。そんな思いが頭をよぎる。

別れた方がいいのかもしれない――でも、怖かった。


一人になるのが、なによりも。


これまで一人で頑張ってきた。

癌を抱えて、これから1人で戦っていくのかと思うと怖くて……

別れようなんて言えなかった……。


そんな葛藤している私を、彼は感じ取っていたんだろう。


「大丈夫、そばにいるから。必ず治るから。治療しよう」


「ありがとう……」


家に帰ると、ちょうど息子が「ただいまー」と帰宅した。

いつもと変わらない元気な声。

いつもと違うのは私……。


(ちゃんと、説明しなくちゃ……)


私は息子に向き合い、震える声で伝えた。


「ママ、病気になっちゃった。乳がんって、言われたの」


一瞬、息子は固まった。

母親が、癌と言われたことに死への恐怖が頭をよぎったからだろう。


私は、癌の大きさ、ステージの進行状況。

治療方針説明、胸を全摘すること……。


子供に不安をあたえるから、涙なんか見せたくなかったのに

また不安と恐怖に包まれて、泣きながら震える私。


息子だって、子供ながらに母を失うかもしれないと言う恐怖の中

一緒に泣きたくなるくらい怖かったと思う。


でも、息子は泣かなかった。私の不安が大きくなることを理解していたからだ。


息子は、私の目をまっすぐ見てこう言った。


「ママ?世の中には、片腕も片足もなくても、生きてる人はいるんだよ。

 胸がなくたっていい。命が大事。生きてよ。俺のために生きて。生きるのが大事なんだよ」


その瞬間、私は何かに救われたような気がした。

息子の涙は見えなかった。でも、その言葉の奥には、泣いている息子がいたんだろうな。。


この時、息子は中学3年生。受験を控え、ピリピリしている毎日だったのに……。

そんな時に、こんなことになってしまって、ごめん。


そんな思いと同時に「生きたい」という気持ちがこみ上げた。


子供の成長を見たい。笑顔を見たい。

卒業式を見送りたい。高校の入学式をお祝いしてあげたい。


高校生になったら、お弁当生活がスタートする。。

毎日、私の手作り弁当を持たせてあげたい!!


それが私にできる、たったひとつの “いつも通り” の日常。

小さな日常を守ることが、私の生きる決意の目標。

お弁当作りのスタートラインに立つまでに、

胸を全摘した体の変化、抗がん剤治療で髪が抜けたこと、

パートナーとの衝突、そして、日常ががらりと変わったこと――。


どれも簡単じゃなかった。

でも私は、それを全部、書き残して生きたいと思った。


息子のために。

そして、あの日の私のように不安を抱える誰かのために。


次に書き記すのは――

最初の手術のこと。私の身体が「がん患者」になった日のことです。

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