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6. 始める異世界探索と近隣の小競り合い(後編)

 やっぱ異世界の建造物って中世ヨーロッパ的なレンガや石、モルタル、木で作られている感じなのな。もっとプラスチックや強化ガラスでハイテクな感じでもいいと思うんだけど。


 まあ、ファンタジーってそんなもんなのかな?


「な、なんだ!?」


「魔人じゃないな? 獣人? 鳥人? いや、魚人? 竜?」


「いや、なんか変だぞ……ば、化け物か!?」


 俺の突然の来訪に兵士たちは驚きを隠せずにいたが、やがて、自分の仕事を思い出したかのように俺を取り囲んで警戒し始める。


 ヒト族はやっぱり元の世界の人間に近い。だからか、ほんのちょっとだけ安心する。この世界では魔力を持って魔法とか魔術とか言われるものを使えるらしいが、それ以外は変わらない気がする。


 今度、誰かとゆっくりと話をしてみたい。


 まあ、今のところ歓迎されている様子はないので、友だちはまた今度作ることにしよう。


「俺……私はこの世界に降臨せし女神の使いなり! 事前の連絡もせずに恐縮だが、王との謁見を望む。取り計らってもらえるだろうか!」


 俺はなんかそれっぽい言い回しで威圧的にならず、かつ、卑屈っぽさもない毅然とした態度で取り囲んできている兵士に言い放つ。


 その後、警戒している兵士たちをものともせずに、俺は魔力でマイの姿と声が聞こえるようなスクリーンを空中に展開する。魔力で電波での通信みたいなやり取りもできるから、魔力万能説あるな。


「女神さま!?」

「神さまが?」

「急に出てきた! 魔法だろうが、この力は……神の力か!」


「おい! 誰か、王の下へ! このことを!」


 慌ただしくなってきた兵士たちをよそに、マイは予め用意していた神々しい後光セットを背中に受けつつ、静かに、そして、笑顔で口を開き始める。


「この世界に生きるヒトたちよ、ごきげんよう」


「ふふっ……ごきげんようって……」


 かわいいけど、女神さまというよりお嬢様じゃないか、それ。


 あ、マズい。マイが俺の方をジッと見ている。


 これ以上は後でお説教をもらいそうだから何も言うまい。


「……こほん、私は女神。この世界に住むさまざまな種族の繁栄を願い顕現せし神なり」


「女神さま、すみませんが、王がもうすぐ参ります! そのため、今しばらくお待ちください! 私たちでは聞いても何もすることができません!」


「ええ……また最初から言うの?」


 いつまでも締まらない感じだ。


 結局、王が来るまで無言で待つという出鼻を挫かれた感じになったが、最終的に急いでやってきたこの国の王に対して、女神が降臨したことやその目的、目的に協力するように伝えて、王が了承とばかりに深々とお辞儀をしてくれたため、ひとまずのご挨拶が終了した。


「では、これからも良き隣人として」


 俺はスクリーンを閉じた後になんだかそれっぽいセリフを最後に伝えて、王や兵士たちが見守る中、次の居場所へ行くために再び空へと駆り出した。


 ドキドキと緊張しっ放しだったが、なんとかできたんじゃないかと自己評価。


 マイもがんばっていたし、今日の晩御飯は少し豪華にしよう。


 そんなこんなで、この後、別のヒト族の王国や魔人族の王国、鳥人族の住む森林や山々、妖精族の住む森林、竜族の住む険しい山、魚人族が住む海や湖などを飛び回った。


 特に俺が感心したのは魚人族の住処だ。魚人族は水生生物がメインのため、海や湖のようだ。特に海は事実上魚人族の支配下であり、海では色とりどりのサンゴ礁や海藻で快適そうな家が作られていた。ちょっと楽しんで眺めて、ふと横目で魚人が魚を食べているところを見たとき、まあ、やっぱり食物連鎖はあるよなとか改めて思い知らされた。


 話がズレてしまったな。


 ほかの種族の住むところの描写はまた今度にしよう。


 さて、目的を達成してきているわけだが、各種族の反応も大事だろう。実際に会ってみて見たり話したりした感覚で言うと、魚人族や妖精族、鳥人族は好意的に見えたし、ヒト族や魔人族は様子見もしくはまだ中立といった感じで、竜族に至っては敵対まではないけれど、正直、興味なさそうな感じで我関せずみたいな雰囲気さえ出していた。


 察するに、竜族はこの世界において特別な立ち位置を築いていて、ヒト族と魔人族が覇権争い的に割と周りに迷惑を掛けながら存在していて、残りの魚人族や鳥人族、妖精族はそのヒト族と魔人族の覇権争いに巻き込まれる形でいるから助けてくれるなら嬉しいという感じだろうか。


 ちなみに、妖精族がエルフやドワーフで俺はファンタジーな感じに興奮したのだが、どうやらマイはエルフの美人を見て俺が興奮したと勘違いしたようで「帰ったら……搾り取るからね?」と脅されてしまった。


 うん、普通ならいいんだけど、搾り取られるのはちょっとって思ってしまう。というか、今までも搾り取っているよな? いや、もしかして、まだ序の口だった?


 閑話休題。


 で、ここまでは挨拶としてまあ、無難に立ち回ったわけだが、獣人族の所へ赴いた際に問題が発生した。


 いや、正確には問題が発生していたのを見つけた、という方が正しいか。


 獣人族が住む大草原や森林の近くに大きな集団が見えたため、何事かとそちらの方へと行ってみると、草木もまともに生えていない荒野で肉食獣人たちと草食獣人たちが互いに睨み合っている現場に遭遇した。


 肉食獣人はざっと1万人、草食獣人はその10倍の10万人ほどいるように見える。


 この数で一触即発の雰囲気。


 確実に血を見る争いになるだろう。俺とマイの目的が種の繁栄である以上、戦いを避けなければならない。


「待て、待て、待てい! この状況! 女神の使いである私が預かる!」


 俺はこのままではマズいと思い、両者の間、荒野の真ん中でそのように叫んでから、俺は右腕を20倍ほどに膨れ上がらせる。


 さらに、手のひらを閉じてショベルのような形にしてから、先端を硬質化させて尖らせるとそのまま大地に線を引くように振り下ろして土を勢いよく(えぐ)り取った。


 100mほどの直線を大地に描き、その直線の深さは一番深いところでざっと5mほど。


 インパクトとしては十分すぎた。


「なっ!」

「なっ!」


 肉食獣人たちや草食獣人たちが驚きのあまり、口をあんぐりと開けたまま、目を真ん丸にして硬直していた。


「マズいな……こほん……双方の代表者よ! 女神の使いである私の下へ来るがいい!」


 訂正。インパクトとして、やりすぎた。


 自分でもびっくりするくらい大地を抉ってしまった。谷を作ったとか、山を作ったとか、そこまではいかなくとも獣人族から見て、異形の何かが力を見せつけたのだから恐怖でしかない。


 やってしまったもんは仕方ないので、俺はキョドっているのを悟られないように威厳がありそうな感じで低めの声を出していた。


 あと、「女神の使い」という言葉を何度も使って浸透させようと目論んでいる。


「なんだありゃ……草食の回し者か?」


「おいおい、肉食よりやべぇのが出てきたな」


「女神の使い?」


「神さまの使いならなんかしてくれるのか?」


「ちょっと、どうすんだよ」


「戦長たる族長の息子が話に行かないと」


 肉食獣人からも草食獣人からも戸惑いや恐怖の声色やセリフが聞こえてくる。俺、目もいいけど、耳もいいから地獄耳なんだよな。


 やっぱり、やりすぎちゃったか。


 まあ、これで争いが一旦止まるなら良しとするか。


 その後、俺の前におずおずといった様子で肉食獣人の代表と草食獣人の代表が現れた。

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