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5. 楽しむ異世界生活と仲間の意外な一面(後編)

 うん、まあまあ、俺からしても気まずい。


 ゴーレムって聞いて無機質なロボットみたいなイメージを持っていたし、魔弾や破壊、堅牢なんて物々しい2つ名があるから堅くて厳ついかなと思っていたのだが、案外中身はちょっとエッチなことに興味があるおマセな思春期くらいな雰囲気だ。


「おはよう。ちょうどいい。朝飯前の訓練でもするか」


 気まずそうに焦っている3人に対して、俺は何も見なかったことにして朝練の誘いを掛けた。


「カイ様、おはようございます。ぜひとも早朝訓練をお願いします」


 一番早くに気を取り直したのはリシアだ。やはり、リシアが3人の中でもリーダーポジションのようで、とっさの反応や判断力が一番良い。


 ちなみに、3人からの呼び方を「カイ」にしてもらった。まあ、正確には様付けされて「カイ様」だけど。理由としては、マスターってなんだかバーの店長っぽいなって思ったからだ。


「さて……今日はどうしようかな」


 俺と3人は外に出て、アイノスの入り口間近、つまり、ラビリスの入り口から見て最奥にあるかなり広い広場へと向かう。


 そこは俺が守護するラビリスの最後の砦だ。


 侵入者を撃退する際、俺がラビリス内をうろちょろすればいいのかと思いきや、俺の力が強すぎてラビリス内で力を振るってしまうと壁が容易に崩れてしまい、復旧に時間が掛かってしまうらしい。かと言って、ラビリス外で撃退するとラビリスへの経験値がなくなってしまう。


 それ故に俺はこの広場で待ち構えることしかできない。


「こちらは準備できました!」


 リシアではなく、声の通るエベナが俺に向かって声と合図を出す。


 俺はゆっくり頷いてから口を大きく開ける。


「今日もよろしく頼む……かかってこい!」


 俺は考えた末に、ゴールデンレトリーバーから2足歩行の犬系というか俺のイメージで銀色の毛並みをした狼系の獣人へと姿を変えていった。元の姿、つまり、ヒト族のような姿でもよかったが、俺もいろいろな姿での戦闘方法を学びたいこともあって毎回のように姿を変えている。


 ちなみに、スライム姿で3人をヌトヌトした感じで撃退したとき、マイにしこたま怒られた。おそらく、触手で相手しても怒られるだろう。マイの性的なモノに対する評価は中高生くらいに過敏である。


 えっと、閑話休題。


 朝練はどうやら侵入者が来たときを想定しているようで、俺はいつも広場の中央に立ち、3人がラビリスの入り口側、つまり侵入者が来るであろう出入り口の方から武器を構えながら歩いてくる。


 で、先ほどの俺の言葉「かかってこい!」が朝練開始の合図だ。


「サウザンドスプレッド!」


 破壊のエベナと堅牢のラピスが並んで飛び出すようにこちらへ勢いよく駆けてくる間に、魔弾の2つ名を持つリシアが凛とした声で技名を叫び、リシアから放たれた矢が頭上、遥か上空へと飛び去っていく。


 技名を叫ぶのかっこいいな。


 リシアの矢は実弾ではなく魔力でできた矢のため、数回の弓を引く動作で散弾のように一度に無数の矢を降り注がせることもできる。


 そのため、キラキラとした構造色をしてさまざまな色を映す矢が視界いっぱいに広がる光景は、まるでオーロラのようでその美しさに見惚れてしまうほどだ。


 って、そんな場合じゃない!


 ほとんど避ける隙間のない矢の雨に、俺は本能的に顔を腕で隠し、毛並みを硬質化させた上で防御体勢を取る。何本かの矢が俺の身体に突き刺さろうと勢いよく降ってくるが、魔力で硬質化させた毛に大した傷をつけることなく地面へと落ちていった。


 地面が抉れるほどの威力であっても、自分は何事もなく無傷なために自分で驚いてしまう。


「終わったか」


「うおおおおおっ! サンダーボルトストライク!」


 矢が降り注ぎ終わってホッと安心したのもつかの間で、豪快でハスキーなエベナの叫び声が聞こえてくる。


 俺は声のする方向へと目を向けるとそこには誰もおらず、ふと気付けば破壊のエベナが太陽を背にするように跳躍していて、軽々と振り回している超重量級の赤い戦斧が技名とともに凄まじい勢いと速度で大上段から俺に向かって振り下ろされている。


 雷の名を冠するに相応しい強力そうな一撃。


 勝ち誇ったかのようなエベナの嬉しそうな笑顔。


 しかし、俺もむざむざと攻撃を受けて喜ばせるわけではない。咄嗟に2歩ほど後ろに下がると、エベナの正確すぎる攻撃が俺のマズルの先をわずかに掠めるだけでその後に地面へと激突した。


 獣人は身体能力が高くてヒトと同じくらいに器用さがある一方、魔力の使い方があまり上手くないようで、一言で言えば、ヒトよりも肉体的な強さがウリのようだ。


「なっ! 外し――」


「呆けている場合かな?」


「ハードシールド!」


 技の反動か、エベナの動きが止まっている。


 チャンスとばかりに、俺はエベナの戦斧を叩き壊さんばかりに蹴り上げようとするが、その動きを読んでいた堅牢のラピスが俺とエベナの間に割り込み、自慢の大盾の一部を地面にめり込ませて固定する。


 何回かの訓練で自分だけの力では堪えきれないと知っているからこその応用だ。


 だが、俺の力はその程度では止められない。放った蹴りが大盾にぶつかった瞬間、俺は押すようにさらに力を込めた。


「うおおおおおっ!」

「ぐうううううっ!」


 さすがに大盾を破壊するまでには至らなかったが、地面に長い直線を描くように大盾を思いきり後退させ、それとともにエベナとラピスをも後退させる。


「どうした? もう終わりか?」


「まだ終わっていませんよ!」

「まだまだいくぜ!」

「これからだよ!」


 俺の挑発に乗って、3人の連携攻撃が続いていく。動き回って的確に嫌な所を突いてくるリシアの遠距離牽制、隙あらば戦斧以外の武器も顕現させて俺に一撃を浴びせようと烈火のごとく攻め立てるエベナの近接攻撃、エベナの硬直時間を見計らって俺との位置取りをしながら大きな被害を確実に防いでいくラピスの支援防御、いずれも3人の互いへの信頼や理解がなせる連携攻撃だ。


 結論を言うと、当たり前だが、俺よりも3人の方が戦闘技術は圧倒的に上だ。


 ただし、それを凌駕(りょうが)するほどの最強パラメータによって、俺は脳筋ごり押し戦闘で押し通せてしまっていた。


 この3人ならまだしも、さらにその下の意志なきゴーレム相手だと比較しようとしても比較できないほどに俺が圧倒的に強いらしく、かすり傷や薄皮一枚、血が滲むくらいのケガはするものの、致命傷どころかまともなダメージも受けない上に、俺の一撃はまさしく一撃必殺の威力のようだった。


 まあ、まだゴーレムのレベルが全体的に低く、今はまだヒト族の一般兵よりも少し強いくらいという条件もある。


「もう終わりか? 俺ならまだまだできるぞ?」


 しばらくして、俺は広場の壁際にボロボロの3人を追い込み、へたり込む3人に少しからかい気味に話しかける。


「あの……カイ様……優しくお願いします」


 うん、リシアの艶っぽい声とボロボロで少し乱れた服装が合わさって、なんかちょっとエッチな響きに聞こえる。


「優しくお願いします!」

「優しくお願いします♪」


 エベナやラピスも自分を抱きしめるように身を捩ってもじもじしながら、こちらをうるうるっとした瞳で見つめてくる。声だけは明るく元気でいいのだが、なんかちょっと艶も出しているのがいただけない。


 ちょっと興奮してしまう。っていうか、優しくするの意味が変わってないか?


 さらに傍から見ると、壁際にまともに動けない女性たちを追い込む狼男。


 あぁ、これはマズい。こんなところをマイに見つかりでもしたら……。


「カァァァァァイ、セェェェェェイッ!」


 思った通り、怒りのツノを生やしたマイが怒涛(どとう)の勢いでやってきて、俺にドロップキックをかました後に正座をさせられて説教が始まってしまった。ついでに3人も「カイセイを誘惑した(とが)」ということで一緒にお説教を受けている。


 なんか、朝練を勘違いしてないか?


 結局、マイの怒りが収まるまで説教が続いた後、そろそろほかの種族に挨拶をしようという話になって支度をすることになった。

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