4.明かされる最強ステータスと住むことになった愛の巣の守り方(後編)
既に変身している?
「多分、だけど、カイセイの思うイケメンになってるよ?」
「……え? マジ?」
「うん、ほら、手鏡」
マイから手鏡を渡されるとそこには俺とは似ても似つかないイケメンが映っていた。
ウソ、オレ、イマ、コンナスガタ!? と思わず脳内でカタコトになるくらいにびっくりした。
「……すげえええええっ! 【超変身】って何にでもなれるのか!? うわ、ちょっとダンディなオジサマにもなれるじゃん!」
手鏡を見ながら自分の顔をイメージすると、そこには立派な髭を生やしたダンディズム溢れる男性の姿が映っている。
「まあ、私はいつものカイセイが安心するけどね」
俺はマイの言葉に嬉しさが込み上げてきて、イケメンでもなくダンディでもなく、至って平凡な顔立ちのカイセイに戻った。この顔はどうやら「元に戻る」ことを意識するとなれるようだ。
「あ、ありがとう……」
「えーっと……そうだ! あれかな!」
そうして、俺が照れて俯いていると、マイも照れたのか照れ隠し気味に大きな声を出して拠点の下の方を指差していた。
マイの指差す先、そこには森の中でありながら石壁でできた迷路があり、俺にはさらに迷路の中にいくつかの模様が刻まれた円陣を見つける。
「あれは?」
「私たちの拠点を守る迷路なの。迷路以外の三方は出入りの難しい場所みたいで、迷路だけが私たちも含めて唯一の出入り口らしいの」
マイがそう言うので、俺はぐるっと拠点の周りを一周してみると、迷路以外の場所で思わずぞわぞわと心がざわついた。正直、「行ける行けない」とかより「とてもじゃないけど行きたいと思えない」という忌避感を覚えた。
なんだ? 何があるんだ?
分からないことはひとまず置いておくしかないか。さて、唯一の出入り口が迷路か。まあ、俺たちは迷路で迷わないようになっているのだろうけど、それでも侵入者を受け入れる場所でもあるってことが引っ掛かる。
「たしかに、迷路以外、あんまり入りたくない感じはたしかにあるな。でも、ただの迷路じゃ女神の力を狙う侵入者相手じゃ時間の問題じゃないか?」
俺がマイに同意を求めると、マイもそう思っているようでうんうんと頷き返してくれる。
「うん、だから、守護者がいるらしいの」
「守護者?」
おっと、また新しい要素だ。
迷路に守護者か。これはひょっとすると……。
「私とカイセイだけが指示できる神造人型兵器、ゴーレム」
「ゴーレム……」
マイか、それとも俺か、どちらかの言葉に呼応して、次の瞬間、魔法陣みたいな光る円陣が俺たちの目の前に現れた。その次には円陣から3体の色っぽい女性が現れる。
肩、胸当て、腰、肘、膝、膝下と限られた部位を守る赤い軽装鎧を着込み、赤い戦斧を豪快に振り回してから地面に置くように叩きつけ、赤いポニーテイルを少し振っている釣り目気味の力強い中性的な美しさを表す女性。
小柄な全身を中世の甲冑のような青い重装鎧で包み、自分の体躯よりも大きい盾を持ちながら四方八方からの攻撃を躱すような軽快な動きを見せて、兜を外すとその全身鎧の厳つさからはほど遠くて、流れる水のように青い長髪を広げる垂れ目気味のかわいらしさが目立つ女性。
機動力重視とばかりに緑色に着色された革風の軽装鎧にやはり緑色の矢避けのマントを翻して、弓に常に矢を番えている緑髪のセミロングにきりっとした目をしたこの中で一番大人の女性といった綺麗さを兼ね備えた女性。
いずれも美人だけど生命を感じられないと言うべきか、どこか熱の弱い印象が拭いきれなかった。ただし、ゴーレムが土砂や岩石でできていると思っていたイメージを払拭するように、肌はさっと見た感じ、露骨に岩石という感じもなく、弾力がありそうな……端的に言うとかなり色気のある雰囲気だ。
「なんで女の子の姿なのよ……」
「……かなり精巧に造られているな」
マイがなんだかやるせない感じの声を出して、ジロッと俺の方をジト目で見てきていることから、多分、俺のやらしいイメージで現れたと思っているのだろう。
根拠のない疑惑である。
いえ、すみません、はい、マイの大正解です。ほぼ俺のイメージ通りです。ゴーレムが特徴あって、しかも、かわいい子だったらいいなって思っていました。
「ふぅん……精巧に、ねえ? よくパっと見で精巧なんて分かるのね?」
「なるほど! タワーディフェンス系な感じがするぞ」
俺は今、マイの疑念から逃れるために必死だ。
正直、なんか怖い。
「タワーディフェンス?」
迷路と魔法陣であろう模様の入った円陣から出てくる守護者。
これはタワーディフェンスのお決まりだと確信する。
「要はこの拠点を守るために罠や仲間なんかを配置して侵入者を撃退するやつだよ」
「そうなんだ?」
マイの返事を聞いて、俺がマイの方をちらりと見ると、なんだか3体のゴーレムをじろじろと見つめてどこか不服そうな表情を浮かべている。
「マスター!」
「マスター♪」
「マスター」
「おわ、喋った!?」
「……マスター?」
それぞれが片膝を着き始めて、さらに俺のイメージに似合いの声で……というか、俺の好きな声優の声に似た声色で俺のことを「マスター」と呼んでくる。
うん、俺にとってはたまらなく幸せな感じだ。
マイは声色が低い。2オクターブくらい低い気がする。
「私はマスターであるカイ様に忠実なる者、破壊のエベナ」
赤い戦斧の力強い美人はエベナと名乗る。
「私はマスターであるカイ様に忠実なる者、堅牢のラピス」
青い大盾のかわいらしい美人はラピスと名乗る。
「私はマスターであるカイ様に忠実なる者、魔弾のリシア」
緑の弓矢の綺麗な美人はリシアと名乗る。
「俺に忠実? さっきのマイの説明だと、俺とマイにじゃないのか?」
俺の問いに、エベナ、ラピス、リシアが互いに顔を見合わせて、リシアがこくりと頷いた後に、エベナとラピスが頭をさらに深々と下げる。
「ここからは私、リシアが説明します。女神さまに忠実なマスター、そのマスターに忠実な我々です。そして、我々の下に意志なく手足となるゴーレムが無数に存在します」
「指揮系統的に俺の下になるってことか」
指揮系統がしっかりと定められているようで、このゴーレムたちは俺の直下のようだ。
いやあ、マイというパートナーに加えて、ゴーレムで人型兵器とはいえこんな美人たちとも一緒に過ごせるとか、役得もいいところだな。
俺がちょっと嬉しそうにしていると、真横からのマイの視線がさらに厳しくなる。
「あなたたち、私の言うことも聞くの?」
マイは険しい顔でゴーレムたちにそう訊ねていた。たしかに。マイの疑問はもっともだ。俺がいないところで自分が襲われるとなったら困ってしまうだろう。
「はい。ただし、原則として、マスターと女神さまがいる場合、マスターの指示を優先します。そのため、マスターがいない状況、もしくは、マスターが一時的に女神さまに指揮権を委譲した状況、そのほか、マスターが女神さまに反逆したと判断された状況に限って女神さまが我々を直接指揮できます」
リシアの答えにマイは多少納得したようで険しい顔が若干和らいでいた。いざとなれば、自分でも動かせると分かって安心したようだ。
マイは意外と慎重そうだ。酒を飲んで酔っていない限り安心だな。
しかし、俺がマイに反逆なんてしないと思うけどな。
まあ、万が一ってやつか。
「なるほど。ところで、あなたたちはカイに何ができるの?」
どんな質問?
「何でもできます。おはようからおやすみまでマスターのサポートを……いえ、必要があれば、おやすみからおはようまでのサポートも何でもします」
どんな回答!?
「ぶふっ!」
わぁ……さすが若干18禁の世界観だ。セリフがいちいちそっちの方面も意図されているな。
「なななっ! ダメだから! おやすみからおはようまでの何でもはしちゃダメ! 特にカイセイを誘惑しないこと! カイセイから言われても一緒に寝ちゃダメ! これは絶対! これは指揮系統がどうとかじゃない! カイセイとそんなことになったら、女神への反逆と見なします!」
言わずもがな、マイの圧が強い。
「……御意」
「……御意」
「……御意」
エベナ、ラピス、リシアはしっかりと頷いた。
ありがとう。これは俺も助かる。
「カイセイも! 分かってる!?」
「分かってるよ。俺はマイのパートナーだぞ」
うーん、なんだか、マイはゴーレム相手にものすごく警戒しているようだ。
まあ、あんな言葉言われちゃな……それに、こういう世界観じゃ仕方ないのか?
それと、若干、マイって嫉妬深いのかなと思い始めた。