4.明かされる最強ステータスと住むことになった愛の巣の守り方(前編)
俺とマイは「世界の繁栄」と「種族の繁栄」というゴールを見据えて、まずは家の外へ出てみることにした。
俺が意気揚々に扉を開けると、青々とした木々が見渡す限り一面に生えている大森林とその間を縫うように流れている大きな河が「これぞ雄大な自然」と言わんばかりに俺たちの目に飛び込んできた。
「うわあ」
「すごいな……」
俺もマイもその光景にすっかりと目を奪われていて、それからしばらくするとマイが俺に頭を預けるように寄りかかってきた。
きっと顔を赤くしているだろう俺はマイの肩に手を掛けるかどうかをさんざん悩んだ末にゆっくりと肩に手を掛けて、少し自分の方にマイの身体を引き寄せるように支えてみた。
「ここが私たちの新しい世界なんだね」
「そうみたいだな。自然が多くて、綺麗な所だな」
「……2人きりだね?」
「俺、マイを全力で守るよ」
マイの言う「2人きり」は良い雰囲気のアレだろうと思ったので、マイに喜んでもらえそうなセリフを一生懸命に考えてみたけれど、中々気の利いた言葉が思いつかなかったので、無難な言葉を使わざるを得なかった。
「うん!」
俺たちが少し小高い場所にいるからか、下の方で動き回る動物たちや空を舞うように飛ぶ鳥たちの姿がはっきりと見える。
……ん? いや、はっきりと見え過ぎじゃないか? 俺、こんなに視力良かったっけ? なんか目を凝らすとバードウォッチングの双眼鏡くらいに遠くの詳細が見えている気もする。つうか、はっきりと見えている。
能力の一端だろうか。早く能力を聞いておかないといけないな。
「ところで、マイ。そろそろ、俺のスペックというか能力をできるだけ教えてくれるか?」
俺がマイにそう問いかけると忘れていたと言わんばかりに舌をチロッと出してから、マイが人差し指を天に向かってピンと立てて「教えてしんぜよう」という雰囲気を出してくる。
「そうだったね! こほん! えっへん! 私の考えたカイセイはすごいよ?」
「マイの考えた……俺?」
「うん! 全パラメータ? 全ステータス? とにかく強い、って感じかな!」
おっと、その説明は分かりやすいようで分かりにくいぞ。
ステータス、パラメータというのはゲームで喩えるにしても、物理なら攻撃力や防御力、魔法なら魔法攻撃力や魔法防御力、動きなら素早さや回避力、運などの要素があったり、ほかにも属性強化や耐性なんかも存在したりする可能性もある。
そもそも、パラメータとステータスって厳密には……って、そんなこと、ゲームを知らなさそうなマイに言っても仕方ないな。
「そっか、最強か……ふふっ」
「ちょっと、カイセイ、なんで笑っているの? そんなおかしなこと言ってないよね?」
マイが最強、最強って連呼するもんだから……男子小学生の考えた設定と言われてもおかしくないぞ、なんて俺はちょっとクスリと笑ってしまう。
「ごめん、ごめん、全パラメータとかは後でどんなものがあるかを教えてもらうとして、ほかにはあるか?」
気にはなるし話もしやすいけど、まずは大枠で捉えないと。微に入り細を穿つと、重要なことを聞き逃す可能性が高くなるしな。
マイは人差し指を動かしてくるくると円を描きながら、しばらく「うーん」と少し唸っていた。やっぱり、酒を飲みながら聞いていい話じゃないんだよなあ……。
根気強く待っていると、マイがハッと何かを思い出した。
「そうだ、そうだ、うん、それに、だいたいの状態異常は受け付けないようにもできるよ?」
ん? 受け付けない……ようにもできる? どういうことだ? 条件があるのか? 状態異常ってのも何種類かありそうだな。
「受け付けないようにもできる? 普段からそうじゃないってことか……。ところで、マイもステータスはすごいのか?」
マイのことも知っておきたい。俺のことを全部聞いてからでもいいが、話題がズレると話がごちゃごちゃに混ざる可能性もある。
待てよ? でも、これだと逆に俺の話とマイの話がマイの中でごちゃごちゃになってしまう可能性があるのか?
普段会話をしていなかった人が相手だと傾向が分からないな。
「ううん、私はカイセイほどじゃないかな。でも、もちろん、女神代理だから弱いわけじゃないよ! ただ私は世界の管理運営が主な仕事だから戦闘力という意味では低いかな。防御力はむちゃくちゃに高いけど。特に頭と……えっと、身体の中はカイセイ以外の誰にも侵されない……よ?」
マイがもじもじと恥ずかしそうに顔を赤らめながら、口元や下腹部、お尻のあたりを示し始める。
俺は思わず吹いた。
「ぶふっ! なんでそれを今言った!?」
あまりの衝撃発言に、俺まで恥ずかしくなってきた。きっと俺も顔を真っ赤にしているに違いない。
マイは先ほどよりも顔をさらに真っ赤にして、両腕をぶんぶんと振りながら恥ずかしさをどうにか紛らそうとしている。
「先に言っておかないと心配するかと思って! 女神ちゃんが言っていたもん! 私たちがいた世界よりもいろんな種類がいるから、異世界にはいろんなやらしいことが多いって! だから、身体はパートナー……カイセイだけのものに絶対しとかないといけないって!」
世界観が18禁か? もしくは、ラッキースケベやハーレムがある系? いずれにしても、マイが貞操を守ってくれると言うのだから、これほどありがたいことはない。
だが、高らかに宣言するのはちょっと違う気がするぞ!
「ま、まあ、それはともかく……ってことは、俺は最強かつ戦闘向きってことか。あ、そうだ。スキルみたいなものはあるのか?」
俺も重要なことを忘れていた。スキルだ。だいたい、こういうのはスキルが超強くて、なんならスキルだけで、ほかのデバフをすべて帳消しみたいな流れもあるからな。
まあ、既にパラメータが最強らしいけど。
「うん、そう! スキル! カイセイには【超変身】ってスキルがあって、何にでも変身できるすごい能力でこの世界でも唯一無二の能力なんだよ?」
チートきたああああああああああああああああああああっ!
何にでもなれるとか、だいたいチートだろおおおおおおおおおおおおおおおっ!
「何にでもってすごいな!」
「で、私、犬とか猫とか飼いたかったから、カイセイになってもらおうと思って」
……あ、だからペットでもあるのか。このすごそうなスキルの発端が、マイのペット要員でしかないってのはちょっと何とも言えない気持ちになるな。つうか、やっぱり、ペットはペットなのか。ちょっと性的なイメージをしていた部分もあるけど、リアルなモフモフのペット要員だったか。
「俺に何役させるつもりだよ……普通にこの世界の犬猫みたいなの飼えばいいんじゃないか?」
「え、お世話大変じゃん?」
ペットを飼わない理由、世話が大変、ね。
うん、ペットを飼っていい性格じゃないな。絶対にお母さんに任せるタイプだ。それに、マイのお母さん、なんだかんだで世話焼きだったからなあ。
「飼いたい割にズボラか……まあいいや……それで、【超変身】ってどうするんだ?」
「強く念じればできるみたい。犬になりたいとか」
「念じるだけ?」
「うん、念じるだけ」
あ、「MPを消費します」とか「代償に云々」とかないのか? そういう概念があるかは知らないけど。変身にかかる時間とか、次の変身までのインターバルとか、何でもっていっても段階があるのか、みたいなものは手探りで理解していくしかないな。
「イメージか……いきなりは難しいな……」
「変身できてるよ?」
「へ?」
俺はマイの言葉に耳を疑った。