20. 戻った日常と続く世界運営
アイノスの寝室。要は俺とマイのベッドルーム。
朝になると、どこからかいつもの小鳥が窓際までやってきてチュンチュンといつものように起こしに来てくれる。
本当に毎日来るが……情事の跡を見に来ているわけじゃないよな?
俺は朝になると人型の姿ではなく犬の姿になってベッドを抜けようとする。
今日はコリーだ。コリーっていいよね。昔、再放送のアニメで見たインドの飲み物みたいな名前のコリーの話が感動的でいつまでも覚えている。
とか思いながら抜け出そうとすると布団の中からすらっとした綺麗な手が伸びてきて俺の身体をがっしりと捕まえてくる。
「カイセイ、好き、好き」
マイだ。布団の中で全裸になっているマイが俺のことを捕まえて離さない。
あの日、カーユとサッソが散々にマイをからかって、俺に過度なスキンシップを見せつけてくれたおかげで、マイは今まで以上に露骨な愛情表現を示すようになった。
「俺もマイのことすっごく好きだよ」
「カイセイ、目移りしちゃダメだよ?」
最近では、家にいると離してくれない。というか、カーユとサッソを警戒してぴたりと引っ付いている。それを見たカーユとサッソが面白がって、俺にさらにくっついてくる。
マイからすると、カーユとサッソはもう天敵でしかない。その度に、マイが「ガルルルル……」と威嚇するので「犬かな」と思うことも増えた。まったく、どっちがペットやら……。
で、最終的に、リシア、エベナ、ラピスまで「ずるい」と言って、俺にくっついてくるので、もう俺はされるがまま流れに身を任せて過ごすことにした。
ただし、俺のダメだと指定した部位には触らないようにきつく言っているので、その命令だけは守ってもらっている。まあ、カーユとサッソはスレスレの所を触ってくるので「ずるい」と俺も思う。
とまあ、家にいると魔物が出ない限りゴーレムリーダーたちが非番なのでこうなってしまうので、最近は魔物が出てくれる方がありがたいとか思ってしまう始末だ。
「目移りなんかしないよ? 今までしたことないだろ?」
俺が身を捩って抜け出そうとしていると、急にゾクリと背筋が凍る。
ちらりとマイの方を見ると、光のない瞳で俺の方を見つめている。
「小学校の時のハルカちゃ——」
「それはもう許して。だいたい、それは誤解だって言わなかったっけ? あと、こっちの世界に来てからで判断して」
なんか何かある度に一生、サキトウ、スズマキ、タイナカ、タカラハシのことを言われそうな感じがする。そもそも、別にマイと付き合っていたわけじゃないんだから、そこまで言われる筋合いもないんだよな。
まあ、そんなこと言うとマイが発狂しそうだから言わないけど。だから、俺は話を逸らすくらいしかできない。
「まだこっちでは目移りも浮気もしてないけど、ゴーレムたちに色目を使っているし使われているよね?」
話が難しい。
「まだって……色目って……もっと俺を信頼してくれないと困るんだが……」
「信頼してるよ?」
「信頼してこの状況!?」
もう俺はツッコむしかない。というか、いい加減に離してほしい。
今日、俺、開拓に行かなきゃいけないんだけど。
「うん。だけど、女性関係だけは一切信じていないだけ」
「あー、そうなの……って、それは俺からすると信頼されていないことになるんだが……」
マイは俺の100%の愛を注がないと気が済まないらしい。
いや、俺、100%の愛を注いでいるはずなんだけどなあ。
「あのね、カイセイが私の代わりを欲しがらないように私がんばるから」
「……大丈夫だよ。その代わり、泣こうが喚こうが、マイには俺の相手をしてもらうからな?」
「うん、もちろん!」
ちょっと重たいくらいのことを言わないとマイは喜んでくれなくなった。
なんだか俺まで重い感じになるのってなあ。
「さて、じゃあ、そろそろご飯でも作るか」
俺はちょうど良さそうと思って話を切り上げ、改めて、マイの手から抜け出そうとすると、マイががっしりと俺の身体を掴んで引き寄せる。
マイはぱっちりお目目に潤んだ瞳で俺のことを見つめて、俺にご自慢の胸を押しつけて、犬の姿の俺にキスまで求めるように唇を「んっ」と突き出しているように見えた。
つまり、状況が悪化している。
「カイセイ、好き、好き」
「……うん、俺も好きだよ」
「目移りしちゃダメだよ?」
「目移りなんか……って、この短い間に無限ループみたいなことするのやめよう?」
最近は気を抜くと、8回くらいこの流れがループする。
「だって、心配なんだもん」
「ちゃんとカーユとサッソが説明していただろ?」
まあ、心配の種なのは分かる。でも、カーユもサッソもきちんとその後に理由を説明していた。
「ゴーレムリーダーは私がカイセイの性欲を受け止めきれないときの代わり……愛人だってね……そんなのやだよお……カイセイ……そんなのダメだよお……カイセイは私のなの……」
まあ、それも言っていたけど?
でも、それだけじゃないというか、それの理由はそれとして、いろいろと説明を受けたよな?
なんでも、俺の最強は発展途上らしい。
ラビリスのレベルとともに俺の力もアップし……それに伴って、性欲もアップするらしい。その欲求が女神代理であるマイ一人に負担が負わされないようにゴーレムたちが愛人として存在するらしい。
うーん、さすが、若干18禁の世界観だな。
誰だよ、こんな世界観で世界を創ったの。ってか、あの最初の女神もこんな世界をマイに任せようとするなよ……。
「……うん、それも言っていたけど、それ以外にもいろいろと説明していたよな? 俺、それ以外の方が大事だと思うけどな?」
そのほか、俺とマイの関係性からもゴーレムリーダーが関与してくる可能性があるらしい。ハネムーン期にエベナ、ラピスが現れ、ハネムーン期から安定期にリシアが現れ、安定期から倦怠期や停滞期にカーユとサッソが現れ……というように、迷宮のレベルだけでなく、俺とマイの関係性でもゴーレムリーダーが現れる可能性もあるらしい。
どういう仕組みだかさっぱりだが、そういうことらしい。つまり、最初から俺とマイは既に安定期に近かったということで、そろそろ倦怠期に差し掛かる頃ってことでカーユとサッソが現れたことにもなる……のか?
いや、俺とマイに倦怠期なんてないと思うけどな。
というか、早く熟年期になって、マイと落ち着きたいんだが。
「私にとってはそれが一番重要なの!」
ぎゅっとしてくる。
いつまでも離してくれない。
「なんだかなあ……何度でも言うけど、俺はマイ一筋だからさ」
俺はハーレムなんて求めていない。
俺はマイとのんびりと仲良く末永く暮らしたいだけなんだ。
俺の願いは誰が叶えてくれるのだろうか。
いや、自分で叶えるしかない。
「その私に似せたのがゴーレムリーダーなのよね?」
「うっ……いや、それは……」
以前にカーユが教えてくれたように、ゴーレムリーダーたちはそういう理由でどこかしらマイに似ているらしい。
マイからすれば、自分に似た人が好きな人に迫るのだからたまったもんじゃないのだろう。
まあ、それは分かる。
だけど、俺のことも信じてほしいなあ……。
「ごめん、さすがにこれはイジワルかな。ありがとう、私のことを好きでいてくれて」
「当たり前だろ? 俺はマイ一筋だから」
「んふふ……カイセイといるとね、心があったかい……」
お、これは、今日は早く抜け出せそうか?
「そっか、俺もだよ」
俺はコリーだから、マイを抱きしめ返す代わりにペロペロとマイの柔らかい頬を舐める。
俺はコリーだから。うん、俺は今、コリーだからな。
「んふふ……」
「さて、じゃあ、今度こそ——」
俺はちょうど良さそうと思って話を切り上げ、改めて、マイの手から抜け出そうとすると、マイががっしりと俺の身体を掴んで引き寄せる。
この表現、2回目。
「カイセイ、好き、好き」
「……俺も好きだよ?」
「目移りしちゃ——」
「ええい、終わらん! 俺はもう出るぞ!」
俺は業を煮やして強引にマイの手を振りほどく。
「ああん! もっと! もっと愛を確かめたいのおおおおおっ!」
「いや、これじゃ終わらんて……今日は開拓あるから……」
開拓は毎日から隔日へとペースを落とした。本当は毎日でもやって早く終わらせたいのだが、ついにマイが毎日いないのは辛いと泣きだしたので……隔日出勤になった。
まあ、ラビリスの防衛についてもいろいろと試したいことがあるから悪い話ではない。草食獣人たちも「今までが早すぎたくらい」と言ってくれたので問題なさそうだ。
それでも開拓はそこそこ進んでいて、「世界の繁栄」と「種族の繁栄」は順調に勧められていると思う。
まだまだ先は長い。
だからこそ、1日1日を大切にしていきたい。
さて、今日も1日がんばりますか!
最後までご覧いただきありがとうございました。




