18. 謝る2人と深まる絆
俺とマイはアイノスのリビングでソファに向かい合うようにして深々と座り、その周りをリシアやエベナ、ラピスが囲むように立っている。
帰った後、いろいろと今までのごちゃっと過ぎ去ってしまったできごとを一度清算しようということで、俺とマイがお互いに謝り合うことになったのだ。
その見届け人として、リシア、エベナ、ラピスの3人が同席することになった。
俺とマイが見つめ合っている。
どちらからともなく、頭をお互いに下げる。
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
まずはお互いに謝り合う。
だが、これで終わりではない。
「では、まずはカイ様から」
そう、次の段階として、お互いに事細かに何を謝りたいのかを告げる。
リシアに促されて、俺はもう一度軽く頭を下げた後に口をゆっくりと開く。
「まず、小さい頃の約束を忘れていてごめんなさい。無理って言葉は俺の使い方だとそうじゃなかったんだけど、変な勘違いをさせてごめんなさい。俺ばかり外に出て、プレゼントもらって、不安にさせてごめんなさい」
俺はやっぱり昔の約束を忘れてしまったことが大きいと思う。それがマイを長年不安にさせて、ヤンデレっぽくさせた原因だと思うし。何よりも、いくら幼稚園の頃の約束だとしても、約束を忘れること自体良くないからだ。
マイは俺の言葉を1つ1つ噛みしめるようにうんうんと頷いてからしっかりと俺を見つめる。
「ううん、私の方こそごめんね」
なんか忘れている気もするが、まあ、思い出したらその時に考えよう。
「はい、次は女神さま」
リシアは次にマイを促し始める。
マイもまた一度ゆっくりと静かに頭を下げてから、再び顔を上げておもむろに口を開ける。
「約束を忘れたって怒ってごめんなさい。メ……人からもらった贈り物を壊しちゃってごめんなさい。【束縛する愛の左手】で無理やり監禁してごめんなさい。監禁して変なことしてごめんなさい。何も考えずにラビリスアイノスを危険なことに巻き込んでごめんなさい」
一瞬、メスガキって言おうとしたな……。まあ、言い直したからセーフとしよう。
「いや、俺の方こそ、ごめん。マイ、あとリシアたちにも謝ることあるだろ?」
それ以外はまあ、いろいろとあるが、お互いにじっくりとルールを作ったりフォローしたりしながら進めて行こう。
それよりも、マイにはリシアたちにもぜひ詫びを入れてほしいので、そう促した。
マイがリシアやエベナ、ラピスを一度しっかりと見る。
「うん。リシア、エベナ、ラピス……名前で呼ばなくてごめんなさい。変なことさせてごめんなさい」
うん。ちゃんと謝れて偉い。
「いえ、私たちはいいのです」
リシアたちは恐れ多いとばかりに跪く。
今度は俺が口を開く。
「いや、そういうわけにはいかない。たしかに俺たちは上下関係があるのかもしれないけれど、やっぱり、お互いに仲間なんだ。だから、お互いに尊重し合うようにしないといけないだろうし、俺は女神だからって偉ぶるマイも、ゴーレムだからって卑下するリシアたちも見たくない。ごめん、これは俺のワガママだ」
俺の言葉が終わり、一旦静まり返るリビング。
「うん、分かった」
やがて、口火を切ったのはマイだ。
「御意」
「御意!」
「御意♪」
続いて、リシアたちが跪いたまま、俺の言葉を受け取る。
「さて、次は」
「お互いに気を付けることだよね?」
俺はマイの言葉にこくりと頷く。
お互いに気を付けることを宣言しておいた方がこれからの注意にも繋がるだろうと思ったからだ。
「ああ、まずは俺から。女の子と何か接触があったらちゃんとマイに伝えるよ。もちろん、俺はこれからもマイと以外しないから」
正直、面倒でしかないけど、接触を完全にダメにしないように、接触したことを俺から伝えることでマイの不安を取り除いていくしかない。
つうか、女性との接触禁止にされたら、基本、何もできんからな。
「うん、分かった。私は、無理やりカイセイの嫌がることをしない。ちゃんと話し合うようにがんばる……【神視する玉座】も……ずっとは使わないようにする……」
なんか【神視する玉座】だけ、すごく名残惜しそうにしているな。まあ、俺も四六時中、【神視する玉座】で監視されるのはちょっとなあ、と思っていたから、そう言ってくれるのはありがたいんだけど。
なんか、マイの不安を増長させてしまう気もするな……。あと、【束縛する愛の左手】もできれば、使わないでほしいんだけど、そこは一度に要求すると反発喰らうか……。
まあ、今後の運用は今後考えるか。
とりあえず、お互いに一旦了承して完了だ。
「マイ、ありがとう」
「ふえっ?」
「マイ、愛しているよ」
すべてが終わったので俺はソファから立ち上がって、マイの前まで行き、ちょっとびっくりした顔のマイを抱きしめてからその言葉を耳元に語り掛けた。
「…………」
「マイ?」
マイからの反応がまったくなかったために俺はマイを呼んでみるもやはり反応はなかった。
「女神さまは感激のあまり気絶しておられるようですね」
リシアの言葉を聞いて、ああ、以前も同じことがあったな、とか思い出してしまう。
あれ? でも、洞窟でも「愛している」って言ったよな? まあ、あの時も一緒にするのも違うか。
俺は力なく寄りかかってくるマイをお姫様抱っこのように抱き上げて立ち上がる。
「このままじゃあれだし、寝かしてくるか……」
俺はベッドルームに運ぶことにして歩き始める。
「お供します」
「お供します!」
「お供します♪」
なぜかリシアたちがついてくることになったが、特に問題があるわけでもないので、そのまま何も言わずに歩いていると後ろをひょこひょことついてきている気配がある。
しかし、何故だろう。ガチャガチャと鎧の音がいつもより大きい気がするんだよな。
まあ、あまり気にしても仕方ないと思い、ベッドルームまで辿り着いてマイをベッドに寝かせた。
「よいしょっと……おわっ!? ど、どうした!? 3人とも鎧を脱いで」
俺がマイを寝かしたと同時に、後ろから衝撃が加わり、そのままうつ伏せになることを避けるためにくるりと反転する。
すると、リシアたちが肌着姿で俺にべったりとくっついてきていた。
「ご褒美ください」
「ご褒美ください!」
「ご褒美ください♪」
待て、待て、待て!
ご褒美って何!? あ、最近、いろいろとしてもらったから、それのご褒美ってことか!? いや、でも、この姿でご褒美って……ダメだぞ!?
俺はマイだけだ!
「ご、ご褒美!? いや、俺はさっきも宣言したように、マイだけだぞ」
「はい、なので、そういう直接的なことはお願いしません」
あ、そう?
……なんで、俺はちょっと残念がっているんだろうか。
後できちんと自分で反省しよう。
「な、なら……いろいろとしてくれたし、最大限、俺もがんばろう」
俺の言葉を聞いて、まず手を上げたのはエベナだ。
「頭を撫でてほしい!」
直球だな。まあ、これくらいなら許されるだろう。
「ぎゅっと抱きしめてほしいな♪」
う、うーん……つまり、ハグだよな? まあ、抱きしめるくらいならスキンシップの範囲だろうか。
「ラピス、それはずるくないか?」
「言ったもん勝ちだよ♪」
「それだったら、私だって!」
エベナとラピスが言い合いを始めるので、俺は両手を軽く突き出すようにして手首を振って、2人ともを落ち着かせる。
「エベナもラピスも2人とも落ち着け。2人ともぎゅってして頭を撫でるから、それでいいだろ?」
エベナとラピスの顔が満面の笑みを浮かべる。
「はい!」
「はい♪」
よし、解決した。
あとは、リシアか。リシアには一番いろいろと迷惑も掛けたしな……。正直、よほどのことじゃなければ、言うことを聞かざるを得ないかな。
「よし、2人は決まったな……えっと、リシアは?」
「あの、その……」
なんだかリシアの歯切れが悪い。
直接的なことはお願いしないと言っていたし、まずは話すように促してみるか。
「ん? なんだ? 言ってみてくれ」
「あの、その、首を絞めてほしいのですが……」
まさか、この前のあれで、なんか新たな癖を目覚めさせてしまった!?
「ぶふっ!? それはアウトオオオオオッ!」
「ええっ!?」
結局、3人とも抱きしめながら頭を撫でてあげるということで今回のいろいろのご褒美とした。
なお、マイには「抱きしめるのはやりすぎっ!」ということでそこそこ長めのお説教をもらった。
あ、ハグもダメなんですね。




