17. 造った最強キメラと創られた最強ペット(前編)
俺を貫通していた何かはずるりと元に戻るように俺の腹の方へと引っ込んだ後、俺の身体に風穴を残すように背中からそのまま抜けていく。
肩から、腹から、口から、血がドバドバと流れている。
痛い、痛いな……いや、マジで痛い……。
肩と腹に感じる嫌な熱さと痛みがじわじわと俺の身体を蝕んでいく。
まさしく、肩腹痛いわ、な感じ。いや、それは片腹か。ははっ。
「いやあああああっ! カイセイッ!」
「カイ様!?」
「カイ様!?」
「カイ様!?」
目の前にマイがいる。よかった、マイに攻撃は当たっていない。
あ、でも、俺を抱きしめ始めたから、マイの身体にべっとりと俺の血が付いちゃった。まあ、服じゃないから洗えば大丈夫か?
ふと、顔を横の方へと向けると、リシア、エベナ、ラピスが慌てて焦っている様子で、魔物を薙ぎ倒しつつもこちらへ来ようとしている。
ちょっと……想定外だな、これ。
「ごふっ……はあっ……」
俺は急いで止血した後、傷付いた臓器や筋肉を再生し、それから、風が吹くだけで痛む傷口をゆっくりとゆっくりと塞いでいく。疑似的に血は流しっぱなしにしておこう。すぐに回復した様子を見せてしまうと、レルドがまた攻撃を仕掛けてくる可能性がある。
「どうして、カイセイは最強のはず……なのに……」
あぁ、それはな、マイ。
俺は喋ろうと思ったが、やめて黙ることにした。
深刻なダメージを受けている雰囲気を出した方が今は良さそうだ。
「ははっ……女神さまは最強の意味を履き違えておられるようですね。というよりは、最強に2種類あることをご存じないようだ」
レルドは勝ちを確信したのか、変な声でも分かるくらいに上機嫌でマイと会話を始める。
「2種類?」
あぁ、マイ、いいぞ。
時間を掛けてくれ。
多分、俺の意図に気付いていないだろうけど、マイが上手いこと展開を運んでくれている。さすがはマイだ。
「1つは誰も超えられることのない最強、つまり、誰にも傷付けられることもなく、誰に圧倒されることもない強さを持つということ」
そう。つまり、パラメータのカンストみたいなもんだ。
仮に数値でたとえるなら、2番手が3,000だろうと5,000だろうと関係なく、俺は9,999みたいなもんだ。もっと言えば、9,999の敵が現れても同率で最強だから、最強には変わりない。
それが圧倒的な強さを持つ最強。
「最強ってのはそういうことじゃないの!? もう1つはなんだって言うのよ!」
「ふふっ……女神さまはお気付きになられていないようですね。もう1つは、その逆、超えることのできる最強。たとえば、当代最強という言葉がありますね。これはこの世の今の時点で最強という意味であり、つまり、今今2番手よりも少しでも上であることしか証明されていないわけですし、なんなら、新しい最強の前に屈する可能性さえもある」
そう、これが最強という曖昧な表現の落とし穴。
仮に数値でたとえるなら、2番手が3,000で、俺は3,500とか、とりあえず、周りから見て今の2番手よりも強いよね、という状態。
だから、4,000の敵でも出てきたら、最強じゃなくなる。
まあ、もう一つの可能性もあって、俺が自動的に最強になるように強化されるパターンだが、仮にそういう仕組みがあってもいつ反映されるかは不明だ。
しかし、助かった。だいぶ傷が癒えてきた。
不意打ちなんて姑息なことをしやがって……。
リシアやエベナ、ラピスが俺の周りに近付きつつ、魔物の相手をしてくれている。
「はあっ……はっ……だから、同じような力を持つ者が出てくれば肉薄もされるし、超える力なら最強ですらなくなることもある……」
「その通り! 私は今、自分自身を改造したことでカイと同じような力を得ることができている! いや、超えて頂点にすらいるかもしれない! その身に別の種族の力をすべて宿し、あらゆる場面に対応でき、この世の最強、頂点、神にも近付いたという頂に上り詰めたる力【頂変身】」
……ダセぇよ。同じ「ちょう」でも意味合いが全然違う。レルドの変身は頂であると言って常に競い合うことを前提にしている。俺の変身はマイが付けてくれた唯一無二の超だ。
想いも格もすべてが違う。
だから、負けるわけにはいかない。
「マイ、支えてくれててありがとうな」
俺は立ち上がって、レルドの方を向く。
レルドは少し驚いた様子で俺の腹を眺めて、すっかり癒えた俺の腹に2度目の驚きを見せてくる。
予想外はお互い様のようだ。
「おや、もう立ち上がれるとは……回復力も高いのですか。これは失敗しましたね。まだ私には真似ができないですね。ならば、カイの回復力を超える攻撃をし続けるまで!」
レルドは全身から触手のようなものを出して俺に向けて攻撃を繰り出す。
俺も応戦するため、同じように触手を出していく。
手数という意味では触手が便利だ。
お互いに金属のように硬い触手をぶつけているからか、カンカン、ガンガンと高い金属音が部屋中に広がっていく。
もはや、目で見て追うような速度ではなく、触手どうしが咄嗟に反応し合っているような様相だ。その証拠に、お互いに打ち合いもらした攻撃は自分の身体を動かして避けている。
「うおおおおおっ! リシアはマイを! エベナとラピスは援護を!」
俺の近くじゃ危ない。
そう思って、俺はリシアたちに命令する。
「御意」
「御意!」
「御意♪」
俺はレルドの攻撃に応ずるだけでせいいっぱいになっていて、まともに顔を見て命令できていない。
だが、後ろから頼もしい声が聞こえてくる。
「離して!」
「女神さま!」
見えていないから何とも言えないが、マイは拒否をしているようだ。
「私の防御力なら、あいつのカイセイへの攻撃だって防げ——」
「いい加減にしなさい! 女神さまはカイ様のお気持ちが分からないのですか!? そうやって、またカイ様に変なワガママを通すおつもりですか!?」
リシアのきつい一言。
俺がマイに反逆状態じゃなければ、リシアたちは俺の命令を優先する。
「うっ……カイセイ……」
変なワガママ、という言葉が効いているのか、それ以上、マイの声は聞こえてこなかった。ちらっと見るとリシアが少し離れた場所に避難していた。
まだ魔物が出てきているから、エベナやラピスともある程度連携できる距離だろうし、良い位置だろう。
「よそ見をする余裕があるとは! ふはははははっ!」
レルドの高笑いが響く。
特に先ほど風穴が開いた俺の腹に響いて、やられた痛みの怒りも込み上げてくる。
「笑われるほど圧倒はされてねえっ! うらあああああっ!」
「たしかに、ほぼ互角ですね」
「何をいけしゃあしゃあと!」
正直、反応速度や本数、威力がほぼ同等で決着がつかない。
俺はどうしてか力が抑えられているみたいで、どこか本気になれていないみたいでモヤモヤする。
世界から制限を受けている?
だとすると、体力勝負か? 持久戦なら負ける気もしないが、正直、後ろに守るべき者がいる状態で長丁場は勘弁してほしい。
「まあ、私とカイはね」
元々レルドの右手首があったところが黒く怪しく光る。
嫌な予感がして、振り返るとリシアとマイに天井の触手が捕まえるのではなく、叩き潰すような攻撃を仕掛けている。
「なっ!? リシア! マイ!」
俺はマイに振り下ろされる攻撃を斬り飛ばすも、レルドの攻撃もまだ続いていたこともあって、リシアに振り下ろされた攻撃まで同時に対処できなかった。
だから、俺は覆いかぶさってリシアを庇う形でリシアへの攻撃を防いだ。
「カイセイ……?」
「カイ……様……? なんで……? 私はゴーレム、またアイノスで復活できます」
俺は無理に笑う。
あぁ、リシアも泣くことあるんだな。
ごめん、ゴーレムって泣かないって思っていたよ。
「……悪い……マイも近くにいたからさ、咄嗟に動いてしまった……別にリシアを信用してないわけじゃないんだ……許してくれ……あとな、復活とか関係ない。リシアもエベナもラピスも俺の大事な仲間で……部下だろう? がっ!?」
「何を休んでいるんですか? 私が待つとでも?」
俺に加わるレルドの無慈悲な攻撃。
触手で咄嗟に壁を作っていたので耐え凌いだが、レルドの触手によるダメージはそこそこにひどい。
「ぐううううっ! うらあああああっ!」
俺は自分を発奮するようにひたすら大声で叫び、自分に突き刺さっていた触手を跳ね除ける。
分が悪い……。ダメージの蓄積加減は俺の方が上だ。
だけど、俺はマイが創ってくれた最強だ。
負けることは許されない。
俺は再び迫りくるレルドの猛攻に必死に耐える。
だけど、ちくしょう、ふらつくな……。
「カイセイ……誰か……助けて……独りは嫌だよ……」
祈るようなマイのその一言で、俺は記憶の奥底から完全に忘れ去っていた思い出を引っ張り出した。




