14. いなくなった女神代理と真価を発揮する最強ペット(後編)
「よかった……まだ……望みがある……」
俺は魔法による通信の存在に今さら気付いて試してみるもマイと繋がらない。届かないような場所があるのか? それとも、攫われたマイの身に何かが?
俺は立ち上がった。このとき、悲しみから怒りへと変わっていく。その怒りが熱となって俺自身を焦がしていく。
誰だ? 魔物は攫うなどと回りくどいことをしないだろう。
誰だ? どの種族だ? この場所を知っている者はまだそれほど多くないはず。
……マイを返せ。俺がどうでもよくなって世界のすべてを根絶やしにする前に早く返せ……。
「カイ様?」
俺の変化に気付いたリシアが近寄ってきた。
「誰が攫った? どうしてゴーレムたちはマイがいるわけもない場所を探している? どうしてマイを捜さないんだ?」
俺がマイを捜すために踵を返して外へと向かおうとすると、リシアが俺を引き留めるために真正面からぶつかってきた。
だが、その程度で俺が止まるわけがない。
「カイ様、落ち着いてください」
「落ち着け? 落ち着けると思うか!?」
リシアの言葉に、俺は激昂して右手でリシアの胸ぐらを掴み高々と持ち上げた。
軽い……軽すぎる……こんなのでマイを守れるのか? マイを取り戻したら、リシアたちを徹底的に訓練しないといけないな……。
「あぐっ……カイ様……」
俺の右手を掴んで腕の力だけでどうにかよじ登ろうとするリシアの苦しそうな顔が俺の目に焼き付く。
さらに、この状況に気付いたエベナとラピスが血の気の引いた顔をして俺に駆け寄ってくる。
「リシア! カイ様、その手をお放しください!」
「リシア! カイ様、その手をお放しください!」
あぁ……俺が悪いのか?
マイがいなくなったのも……俺のせいなのか……?
そうか、俺が悪いんだ……。
そう思うと、俺の右手どころか全身が脱力して、へなへなと座り込んで再びうずくまり、今度はリシアに俺が縋るように身体を預けた。
「リシア……マイがいないんだぞ? どうして落ち着ける? いい加減なことを言わないでくれ……俺のせいでマイが――」
「はあ……はあっ……いないからこそです! 何度でも言います! 落ち着いてください! 女神さまを助けられるのは冷静なカイ様だけです!」
「……ああ……ああっ……ううっ……」
情けない。リシアに八つ当たりして、本当に情けない。
俺が見上げるとリシアの優しい笑顔が見えた。
俺の失態などまるでなかったかのように、俺の頭を優しく抱きしめて、優しい声で俺を諭してくれている。
リシアの顔を見ていると安心してしまう。
「今、女神さまがどこの誰に攫われたのか……その痕跡をアイノス中くまなく探しているところでした」
「でした?」
「侵入者の痕跡が見つかったのです」
侵入者、つまり、マイを攫った犯人が見つかった。
その言葉に俺は一縷の望みを得る。
「言ってくれ。誰がマイを攫った?」
「……ヒト族のようです」
「ヒト……だと? くそがあああああっ!」
俺は再び湧き出した怒りを活力にして、力強く立ち上がる。
マイに何かしてみろ、どうなっても知らんぞ。
「お待ちください! どちらに行くのですか?」
「決まっている! ヒト族を――」
「滅ぼせば、すべてが終わります。女神さまとお話をされたいのでしょう?」
そうだ。歯がゆいが、俺とマイの目的にヒト族はいなきゃいけない……。
そんな大事なことさえ、また怒りで我を忘れて頭から吹き飛んでいた。
マイ絡みだとどうしても平常心を保てなくなる。
落ち着け……リシアに言われたばかりだろう。
冷静になれ、冷静に。
「……そうだな。それに、ヒト族だけじゃマイがどこに連れ去られたか分からない」
自分じゃ分からないが、俺の様子がガラリと変わったのだろう。その証拠に、リシアだけでなく、エベナやラピスも安堵の表情で俺を見つめている。
「はい、そこが問題です。ゴーレムたちをヒト族のいる所へしらみつぶしに捜させたとしても時間が掛かります。その間にも女神さまが篭絡されたり利用されたり、あるいは、殺されたりする可能性があります」
篭絡ということは俺以外の誰かのものになるってことか?
冗談じゃない。
利用されることも殺されることももちろん許せないが、マイは俺だけのものだ。
「やめろ、想像させてくれるな。どれも看過できない話だ」
「あ、すみません」
「いや、すまない。リシアは悪くないな。いろいろと考えてくれてありがとう」
先ほどのこともあってか、リシアが俺の言葉に過敏に反応している気がする。
後で何か償いをしてやらないとダメだな。
しかし、どうしたら、マイの居場所が分かるだろうか。
「あー、女神さまの【神視する玉座】が使えればな」
ラピスが砕けた感じでそう呟いている。
マイの【神視する玉座】か。たしかにそれなら、マイの居場所をすぐにでも割り出せるかもしれない。
「だけど、【神視する玉座】は女神さまだけのスキル。カイ様でさえ、発動権限がない女神さまだけの特権だからな」
そうだ。女神の能力には俺に使用権限を移譲してもらえるスキルともらえないスキルがある。だから、仮にマイが許可してもいいと思っても、【神視する玉座】は使えない。
それは既に確認済みだ。
「こんな時に女神さまがいてくれたらな」
「その女神さまを捜す話だろ」
そうマイなら使える。
マイなら……マイ……なら?
「マイなら……使える?」
俺はマイの言葉を思い出す。
——えっと、身体の中はカイセイ以外の誰にも侵されない……よ?
いや、違うわ! 俺は何を思い出しているんだよ! いや、今はそれも大事だけど! それのおかげで攫われてもしばらくは大丈夫だろうけど! その後だよ!
——カイセイには【超変身】ってスキルがあって、「何にでも」変身できるすごい能力でこの世界でも唯一無二の能力なんだよ?
……これって、もしかして、もしかする?
「カイ様?」
「カイ様?」
「カイ様?」
俺のハッとした顔に3人が揃って不思議そうな顔で凝視してくる。
「俺がマイになる」
「はい?」
「はい?」
「はい?」
3人がさらに不思議そうな顔をする。
その「とうとう頭がおかしくなったのか」みたいな表情で見るのはやめてほしい。
ちょっと辛い。
「いや、俺は何にでもなれるんだろ? だったら、まったくの同一人物になれてもおかしくはない」
俺はイメージする。
マイになるイメージ。
一部じゃなく、全部、自分という意識以外をすべてマイにするイメージ。
桃色の長い髪、俺よりもちょっと小さいくらいの身長、かわいくて綺麗な顔、透き通っているような白っぽくて酒ですぐに赤みを帯びる肌、どこも身体が柔らかくて、手足も細く、すらっと伸びていて、胸も転生ボーナスで盛って俺好みにかなりデカい。
イメージを詳細にしていくと、やがて身体に変化が生じる。
「カイ様が」
「女神さまに」
「本当に変身しはじめた……?」
身体が少し縮み、髪の毛が増えたような感じで、胸の辺りが重くなり、骨格さえも変えているから、いつものようにベキベキと鳴ってはいけない骨の音が鳴っている。今回は男性から女性になるから骨格の変化が大きい。
うっすらと目を開けてみると、リシアたちの顔がほぼ目の前にある。
マイと同じくらいの身長だ。
俺は今、マイになっている……はずだ。
「……どうだ?」
「完ぺきに女神さまですね」
「完ぺきに女神さまだ!」
「完ぺきに女神さまです♪」
3人が驚喜の顔を浮かべる。
俺は喜ぶよりも前に口を開いた。
「【神視する玉座】!」
マイの【神視する玉座】が発動する。
この世界が俺を今、マイだと誤認識している。
俺は【超変身】でこの世界を欺けている!
すぐさま、俺の脳裏にさまざまな映像が流れ込む。
だが、まだマイが見当たらない。
どこだ……どこだ……いた! マイだ!
「どうですか?」
リシアが恐る恐る訊ねてくる。
それもそのはずだ。
マイを見つけた直後……今の俺はマイの顔で怒りの表情を浮かべているだろう。
俺の脳裏には、薄暗い中で裸にされた上で拘束もされているマイの姿がはっきりと映像として見えている。
ところどころ擦りむいていて、マイの身体や地面が何かで濡れているようで、それだけか? 実際、この映像だけじゃ薄暗すぎて分からない。
だが、近くにヒト族もいるようで、そいつらがニヤニヤとしているようにも見える。
くそっ……マイの裸を見やがって……頭をガンガンぶつけて記憶を消してやろうか! まさか、触っていないだろうな!? そんなことしていてみろ……1人2人くらいならそのまま存在ごと消し去ってやる!
俺はすぐさまマイの居場所から映像を引いていくようなイメージで大まかな居場所を割り出す。
「……いたぞ……だが、俺は気が狂いそうだ。俺はその場に立った時、自分を制御できるか怪しい……だから、リシア、エベナ、ラピス。俺についてこい……俺の行く道を切り拓くため、俺の暴走を近くで止めるために」
「暴走を止めるため……ですか?」
「あぁ……さっきみたいにお願いできるか?」
俺がそう返すと、リシアがエベナやラピスとごにょごにょと小声で話しあう。
俺を目の前にこそこそ話? 最初はもっと固い感じがしたけど、だいぶ成長したというか緩くなったのだろうか。
「御意」
「御意!」
「御意♪」
こうして、俺は何かを話し終えた3人とともにマイの救出へと向かった。




