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2. 女神代理になった幼馴染とパートナーでペットな俺

 目を閉じていても眩いばかりの光があると分かるくらいにまぶた越しに明るい。


 俺はその光に起こされるようにゆっくりと覚醒する。


「ん……」


 寝ている身体の目の前に広がるのは明るくてただただ真っ白で何も見当たらない空。ここまで真っ白な空を俺は見たことがない。


 次に、顔を横に向けてみるものの、壁も天井も少なくとも俺の目には映っているように見えない。あるのは白い地面というか、自分が横たわれる固い何かである。ということは外だろうか。しかし、ここまで真っ白な地面が延々と続くような場所などあるのだろうか。


 今までの知識を引っ張り出したところで、何も分からない。


 というか、俺、車に轢かれて死んだんじゃ? ってことは、死後の世界? いやいやいや、白いし、病院か? とか思い込みたくなる。


 しばらくして、目の次に耳が次第に覚醒してきたのか、自分の頭頂の方でわいわいがやがや、キャッキャウフフと騒いでいる2つの声が聞こえてくる。


 1つはどうやらマイっぽい。


 俺がようやく身体を起こせるようになって、声のする方向に顔を向けた。


 そこには予想通りのマイと、知らない美人が座って、コンビニで買ったつまみやら酒やらを広げて楽しそうに酒盛りをしていた。


 美人の方は同年代、いや、俺よりも少し若いか、顔立ちがどこか少し幼さを残しながらも精巧な人形のように整っており、服装がピタッとしたボディラインの強調されているきわどいものだからか、美しいプロポーションだと誰の目からも分かるだろう。


 澄んだ青い瞳と透き通った白い肌、長い金髪から察するに外国人か?


 しかし、その白い肌も顔が真っ赤に染まっていて、理由は分かりやすく、片手に持って離すことのない酒瓶がすべてを教えてくれている。


「あれ? カイくん、起きた? ひっく……うぃ……」


 美人が俺の名前を略しながら、こちらをとろんとした目で見つめてくる。こちらをぽーっとした表情で見つめてくるので、少し誤解しそうになるが、酒瓶……ワインの瓶をラッパ飲みしているあたりでただ酔っぱらっているだけだと分かる。


 つうか、ワインをラッパ飲みするな。もう1つの手でチーズをわしづかみして食うな。


「あれぇ? 起きちゃったのぉ? んくっ……ぷはぁ! 全部終わってから、私が優しく説明してあげようと思ったのにぃ」


 マイもまたとろんとした表情で俺を見てくる。だけど、なんか声は同じだけど、失礼かもだけど、さっき見たよりもなんだかキレイになってないか? あと、髪の毛の色、しっかりめの黒だったはずだけど、なんか桃色っぽいし、あと、なんか胸が露骨に大きくなってないか? シャツが不自然なくらいにぱっつんぱっつんなんだけど。


「いてて……マイ? と誰!? ってか、ここどこだよ!? 俺とマイは車に轢かれたよな!? え? 生きてるのか? 真っ白だから、病院? ってか、壁とか天井とかないけど、こんなだだっぴろい病院あるか!?」


 頭の中はやけに冷静だったが、いざ口に出してみるといっぱいいっぱいになっていたのだと自覚する。きょろきょろと周りを見渡して挙動不審この上ない醜態を晒してしまう。


 マイと美人が俺を見ながら、酒瓶をぐいっと持ち上げてぐびっと酒を(あお)っている。そんなに一気に飲むな。おいおい、ワインが半分もあったはずなのに、なんで空っぽにしてるんだ。ってか、投げ捨てるな! 何もないけど、投げ捨てるな!


「ふぃーっ! 混乱してるようだね……あ、これ、美味しいいいいいっ! みんなに持って帰りたい!」


 美人はまるで子どもが初めて美味しいものを食べたような満面の笑みを浮かべて、持ち帰ると言う言葉のとおりにごそごそっと端の方へと寄せて食べられないように分けていた。


 みんなって誰だよ、と思いながらも、つまり別の場所もあるのか、という結論に至り、少し落ち着く。


「でしょお? いいよ、持って帰って。もぐもぐ……んくっんくっ……ぷはあっ! いや、やっぱり酒盛りは最高よね! まさか、荷物も一緒に持ってこられたなんてねぇ」


 マイがヘラヘラと笑いながら、鮭とばを豪快に(かじ)り、日本酒を瓶でラッパ飲みしていた。


 だからなんで、四合瓶をラッパ飲みしてんだよ! 2人とも酒豪にもほどがあるだろ!


 いや、ツッコミどころが多すぎるけど、一番はそこじゃない!


「なに、呑気に酒飲んで、つまみを頬張ってるんだよ!?」


 マイが美人から何か聞いていて、何か知っているなら、まず俺に言ってくれよと思う。後で説明するつもりとかじゃなくて、今、俺は何もわからなくて不安なんだよ。知っているなら教えてほしいんだよ。


 だけど、そこまではカッコ悪いとか思って言えなくて、無難なツッコミをしただけだった。


「あのさぁ、死んだんだよ! 飲まなきゃやってられるかあ! それとも、カイセイが私のことを慰めてくれるのかあっ!?」


 マイは酒瓶をドンっと床に叩きつけて、再び鮭とばを齧りながら俺に怒りの声をぶつけてきた。


 目は酔っ払いのそれでしっかりと目が座ってらっしゃった。そう、一番相手にしたくない状況というか相手というかである。しかも、初恋の幼馴染の酔っ払い姿って、ちょいとエロく見えるのもあって、失望と希望と絶望とかが混ざりに混ざったパンドラの箱みたいな感じだ。


 いや、パンドラの箱に失礼か。


「え、はい、すみません……え? やっぱり、死んだの?」


 思わず謝ってしまうが、なんで、俺が怒られるの? だから、酔っ払いは苦手なんだよ……圧や押しが強いし、そうすれば通ると思っているっぽいから。


 ってか、やっぱり、俺とマイって死んだの?


 じゃあ、ここ、やっぱり死後の世界ってこと?


 うわあ、マジか。やっぱ死んだのか。


「マイちゃんったらあ、慰めるってどういう意味ぃ? んぐんぐっ……お酒で火照った身体を、ってコト!?」


 美人が別の酒に手を出しつつ、別の手にしっかりと0.01の箱を握りしめていた。


 おい、慰めるの意味をそれで示唆するのやめろ!


 さすがのマイも恥ずかしいのか、顔をさらに真っ赤にして、美人の手から0.01の箱をひったくっていた。


「えっ、やだぁ! 女神ちゃん、やらしい! それは、も、ち、ろ、ん、こっちの意味よ」


 おい、恥ずかしがっていたのはどこいったよ。


 マイはその0.01の箱を揺らしながらニマニマニマっと俺と美人を交互に見ている。


 挑発的だな。やるか? やるならやるぞ? 俺、そういうの初めてだけど、据え膳を喰わないほどじゃないからな!?


「きゃあああああっ! マイちゃん、大胆! んぐぐぐっ……ふぃーっ」


「きゃあきゃあっ! 言っちゃったぁ! ぐびぐびっ……ぷはぁっ!」


 酒の消費が恐ろしく早い。いや、もうなんかいろいろと終わってんな……これ。どうすんだよ、これ。


 俺、こういうとき、どうすればいいか分からない。


 ってか、今、気になる単語が聞こえてきた。


「なにこれ……酒盛りがやばいな……ってか、めがみ? めがみって、女の神って書くあれ?」


 俺が女神と言う言葉に反応したからか、マイが女神と呼んだ美人がゆっくりと立ち上がる。まあ、酒瓶は置いてくれる方がありがたいのだが、しっかりと握りしめられている。


「……では、改めて。私が女神だよ! ぐびっ」


 女神は俺にも分かりやすくするためか、なんと赤ら顔のまま自信ありげに宙へと浮遊し始めた。だが、飛び始めた驚きよりもふらふらと飛んで今にも墜落しそうな方が気になってしまい、自分が何に驚いて何が怖いのかとかがぐちゃぐちゃになって分からなくなってきた。


 もう整理する時間がない。


「千鳥足と言うか、千鳥飛び? ですが、大丈夫ですか?」


「問題ないよ!」


「問題しか感じられないんですが」


「細かい!」


「あ、はい、すみません」


 一旦、感情をセーブして、発言のフィルタも取っ払って、思ったことをそのまま質問するモードになった。質問だと物おじせずに聞けるようになったのは社会人としての成長を自分で感じる。まあ、ごり押しされると聞けなくなって終わるけど。


「えーっと、簡単に言うと、あ、待って、マイちゃん! それ、私が飲む!」


「えー? これ、私が買ったものだよぉ?」


「意地悪言わないでよぉ」


「しょうがないなあ」


 話し始めると思いきやマイと女神の酒の取り合いを聞かされる羽目になり、さすがに俺もそのお預けにはカチンときてしまう。


「早く話を進めてください……」


「あー、はいはい。えっと、2人とも異世界転生するよ、良いことあるよ、やったね、以上」


 説明終了。


 じゃないわ!


 お前は仕事丸投げ上司か!?


 なんで達成した感ありありで満足げな表情でまた酒盛りに戻るんだ!?


 一仕事終えてないから! なんなら、これからだよ!


「もっと詳しくお願いできますか!?」


「えー……マイちゃんに任せる……んくっんくっ……」


 女神は説明を放棄した。


 これがゲームのチュートリアルなら、とんだクソゲーだ。


 しかし、救いもあって、マイが仕方ないとばかりに俺の方を向いて、鮭とばを(くわ)えながら口の隙間に日本酒を流し込んだ後、鮭とばを噛みしめながら話しかけてくる。


「しょうがないなあ。えっと、ここにいる女神ちゃんがね。女神代理を探していたんだって……ぐびぐび……」


 また新しい単語が出てきた。


 女神代理ってなんだ?


「女神代理? ってか、一旦、飲み食いやめてくれ」


 俺の頼みに、マイが少し不機嫌そうな顔をして見せた後、渋々、日本酒と鮭とばを置いて説明を再開しようとする。


 そうか、手に持っていると口寂しくなるタイプなんだな、と余計な情報も得られた。


「仕方ないなあ。そうそう。なんか、女神ちゃんが3つ目だか4つ目だかの世界を任せられそうになって、でも、1つ目の世界で手一杯だから、任せられそうな人を探していたんだって。ちなみに、2つ目は別の方が管理を始めているらしいの」


「で、3番目の世界の女神代理とやらにマイが選ばれた、と?」


 とりあえず、これが有名な異世界転生の序盤なんだということが分かった。だから、車があり得ないスピードで突っ込んできたわけか。


 ってことは、あれ? 俺やマイが死んだのは目の前にいる女神のせいでは?


「そうそう。でね、カイセイ、ごめん、私の異世界転生に巻き込んじゃったみたい♪」


「あ、俺は、予定外?」


 あ、さらに俺は予定外なんだ。なおさら、微妙な立ち位置だな。なんだか悲しくなってきた。これが巻き込まれ系の異世界転生ってやつか?


 ってか、なんでマイは若干嬉しそうに言うんだ?


「うん。予定外だから、すべてが未定だったんだけど、女神代理の私がカイセイのこと決めちゃった♪」


 マイの言葉に耳を疑った。予定外で未定までは理解できたけど、俺のことをマイが決めた? つまり、現実世界で対等なパートナー、つまり、結婚という話があったけど、この時点で俺はマイの下になる。


「え? マイが決めた? 俺のこと? 俺の処遇ってこと?」


「うん」


「そ、そうか、ありがとう。よろしく。で俺はどんな役割?」


 まあ、いっか。しょせん、人間、誰かの下に付いてるもんだからな。それに、マイが女神代理ってことは俺もそこそこの立ち位置なんだろう。


「私のパートナー兼ペット」


 俺はパートナーという響きに結婚的なドキドキした後に、ペットという言葉で別の意味でドキドキし始めた。


 え? ペット? ペットって何!?


「パートナー……兼ペット!? ペットって何!?」


 俺の戸惑いに、マイは不思議そうにきょとんとした顔で首を傾げている。


 マイ、分かってなさそうだけど、逆の立場になってみたら、絶対に俺のようになると思うぞ。俺のペットって言われたらどう思うよ……。


「え? カイセイはカイという名前で転生するんだけど、私のことを守ってくれる王子様的なパートナーで、あと、私の言うことを何でも聞くペットなの。私、犬とか猫とか飼いたかったから」


「犬や猫って!? 本気でペット扱い!? もしかして、現実世界で30歳になって結婚してもそんな感じだった!?」


「いや、さすがにそれはないけど」


「よかった……って、違う。俺は人間だぞ!? 犬や猫なんかじゃ」


「あ、それはね」


「あ、ごめん、そろそろ時間だよ」


 女神の時間切れという言葉で説明がぶった切られた。


「え?」


「あ? そうなの?」


 まだ詳細の説明が終わってない。女神の顔に映る表情は申し訳なさそうに、しかし、それを待ってくれるような感じもなく、いつの間にか赤ら顔からキリっとした美人になっていた。


 マイは酒盛りを片付けずに立ち上がって、準備万端とばかりにサムズアップした。うん、俺は何の準備もできてないけどな。マイは度胸ありすぎだろ。


「うん、そういうことだから、また新しい世界でお話を続けてね。ちゃんとカイくんのことはマイちゃんに説明しておいたから。それと世界の管理をお願いね。仕事ぶりが認められたら、マイちゃんは正式にその世界だけだけど女神になれるし、カイくんにも良いことあるから」


 女神の淡々とした言葉の中から、引っ掛かった言葉をつい口にする。


「ん? 認められたら? ってことは、ダメだったら?」


 女神は俺の言葉にニコッと不自然な笑みで返す。その後、俺に近付いてきて俺にだけ聞こえるような小声でつぶやき始める。


「え? 聞いちゃう? まあ、世界とともに存在が完全に消滅するかなあ。もう転生もしないって感じ」


「え? それはマイも当然……」


「うん、まあ、マイちゃん、大丈夫だって言ってたよ。それにカイくんと一緒に消滅できるならそれでもいいって言ってたし」


「えぇ……」


 俺、そんなにマイに何かしてやれてたか?


「……カイくんもマイちゃんに押されっぱなしじゃなくてさ、ちゃんと対等なパートナーとして、自分の本音を主張できるように成長できるといいね」


「え?」


「それじゃあねえ。2人ならきっと大丈夫だから、行ってらっしゃい!」


 俺が女神のその言葉の真意を問いただす前に、俺の視界は真っ白な光に包まれていた。

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